幸福からくる世界

林 業

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パーティーは賑やかに

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貴族との会食の中。
会食と言っても立食パーティであり、それぞれ好き好きに話し合ったり、挨拶したりと。
王族ももう後ほどくるらしい。

その中でも一人見知らぬ男を見る。
「オウラン王国、ハオシンと言います」
笑顔を返され、しばらく眺めてから微笑み返す。
オウラン国はオーランの出身地だと思い出す。
「始めまして。魔導具技師が一人、ルーンティル、ヴェルタと申します。ルーンティルとお呼びください」
「今日はルーンの護衛できたサジタリス、フォン」
サジタリスはそう告げるが途中で遮られる。
「なるほど。魔導具技師様も少し前まで誘拐されていた。と伺っています。体調はよろしいのですかな?」
「えぇ。お陰様で。まだ走るなどはできませんが日常生活程度であれば問題ありません」
微笑みを返す。
「そういえば、ハルシオ。という子供を知りませんかね」
「ハルシオ。といいますと?」
「いえ。出来の悪い息子でしてね。魔法の魔もわかっていない愚息なんです。ですが数年前家出をしまして、何処かで亡くなったのかと心をもんでいたのですが、少し前に、彼に施していた封印が溶けた気配をこちらから感じた次第です。さすがに迷惑をかけるわけにはいかないので連れ戻そうかと」
「封印ですか。我が子に?」
「えぇ。膨大な魔力を抱えていれば体に負担がかかりますからね。我が子を思ってですよ」
「なるほど。残念ながら魔法に精通していない愚か者ハルシオ。という子供は存じませんね」
「そうですか。それは残念です」
彼が去った後でサジタリスが見下ろしてくる。
「うちの子たちはみーんな、優秀な子だもの。彼が言う特徴には当てはまらないと思うんだけど、どうかな」
「たしかにな。甘えん坊だが優秀な子だからな」
空になったグラスを置いて近くにあった赤ワインを手に取り、口に運ぶルーンティル。
「後魔法を知らないって言うけど知識は十分あったしね。同名だよ」
「だな」
もちろん、本気でそう信じているわけではないが。
せめて成人して自分の道を自分で決めれるまではあんな親の元へ返す理由などない。
というか、ハルシオ出生についてはほとんど聞いていない。
「あー。久しぶりのお酒。美味しぃ。子供を育ててると飲めないからなぁ」
未成年の子どもが誤って口にしないように育児中は家に料理酒以外は置かないようにしてある。
養い子が成人して改めて共に飲むのが我が家の成人の祝であり一人前の証である。
「苦いだけだ」
「苦くても、なくても飲めない体質でしょう」
「文句あるか?」
「そんなサジも好きに決まってるじゃんか」
サジタリスがならいいとそっぽを向く。
ちなみにルーンティル。
ザルである。
サジタリスの分を奪ったの如く、いや。それ以上にお酒を水のように飲み干す。
「程々にしとけ。夜も飲むんだろう」
「そうだね。あんまり飲むと美味しいお酒の味がわからなくなるから。あ、そのカクテル頂きたい」
給仕から空になったグラスを返してカクテルを受け取る。

「言ったそばから城のお酒を飲み干すつもりか」

サジタリスが呆れながら次の人物と挨拶を交わす。

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