幸福からくる世界

林 業

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パーティーは賑やかに

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おつまみを口にする。
そしてお酒を一口。
思わず声を洩らしてしまう。
「相変わらず良い味覚ですね。ルドルフ国王」
「相変わらずというか、貴様が王子の私に有れやこれやと教授してきただけだ」
「貴方のご子息の店主に言われるがまま選んできたお酒よりは十分美味しく存じます」
「相変わらずお前たちにちょっかいをかけているのか。それでは面倒だからとお前たちを夫婦にしたというのに」
「子供のいたずらを容認するのも大人の仕事。でも」
サジタリスの目が細められ、ルーンティルは微笑みを浮かべる。
「おいたが過ぎればお説教」
グラスを置いてから、告げる。
「一応最近は大人しくなってこっちに突っかかることは無くなったけれども、もし、次手出しをすればどうなるか、理解して貰えると助かります」
「そうだな。そうしよう」
やれやれと一言告げる。
「ところでルーンティル。お前の弟子はどうなんだ?」
ルーンティルはグラスを再び手に取り、嬉しそうに笑う。
「すっごくいい子!賢くて、優しくて。甘えん坊さん。でも可愛いんだよねぇ。わかるかな。師父。って懐いてくれるの。ほんっと可愛くて可愛くてぇ」
「いや。そうじゃなくて。いや。毎度同じことを言っている気もするが」
「すでに魔道具師の見習いとしてお手伝いしてくれてるんだ」
「見習い、ではなかったのか?」
「あぁ。まず、弟子を取ったとき、修行中なんだ。その後見習いとして師匠の仕事を手伝ってもらって、その道具を出せる。そこからしばらくしてから初めて一人前として発明品や名前を世に出せるんだよ」
「じゃあ発明品を見習いで作ったらどうするんだ?」
「師匠と共同って形で名前が出る。といっても、師匠のアイデアを改良したとか、見習いが一から作ったとかでも色々とあるけど、まぁ、僕の場合は、できる限り弟子のアイデアや手が入ったものは彼らの名を入れるようにするけどね」
サジタリスはルーンティルを不思議そうに見る。
「共同者としてほんのわずかだけどお金を渡せる」
「あぁ。なるほど。横取りはしないのか」
「しないね。むしろ全額あげたいぐらいだけど、それは弟子や子の成長にならないからね。僕が関わっていない場合は権利は弟子に発生させているけれどね。名前貸さないと甘く見られるからさ」
「そうか」
「まぁ、今回は初めて一人前の魔導具師になれそうだよ。孫弟子も育ててくれそうだし。あと僕も弟子としては二人ほど育てたいなぁ」
サジタリスが甘いものを食べながら頷く。
「俺は五十人ぐらい子供を養いたい。でも親元で幸せに暮らしてほしいと思う部分もある」
「贅沢だな」
「そうか」
「そんな贅沢なサジが好き」
「我儘聞いてくれるルーが好きだ」
二人がいちゃつく姿には王は飽きれてため息を零す。
「おい。惚気るな。酔っぱらい」
「ミリアーナちゃん、連れてこればいいでしょう」
「妃をちゃん付けするな。後お兄様に会うって張り切って、パーティ準備を頑張って結果寝た」
「相変わらずだな。ちゃんづけは本人が望んでるし、公の場ではちゃんとするよ。コイバナしに教会来てたあの可愛い子が今じゃあ、三児の母かぁ」
「時間の流れを感じる」
うんうんと二人が頷き合う。
今も定期的に顔を出す教会で、当時近所から遊び来たという少女。
どこからどう見ても貴族の格好だった彼女に、古着を着せて教会の子たちと遊ばせたり、婚約者の話し、主に愚痴を聞いたりしていた。
その頃一平兵だったサジタリスから聞く王子とその婚約者と話に合致したのが結婚式すると聞かされたときだった。
「私としては当時話題だった魔導具師からミリアーナへ結婚のお祝いの魔導具が届いたことが驚きだったまずは、王族だろう。普通届けるなら」
「当時、知らない人だしね」
「知らない人から届いたら嫌だろう?」
「嫌というか、警戒はするな」
その魔導具もミリアーナから信頼するお兄様として出席してほしいと言われたのだが、表舞台に立つことを良しとしない性格と事情があり、変わりに魔道具を贈ると申告したのだ。
とが言え、お祝いなのでミリアーナ王妃へと贈ったわけだが。
当時、知らない王子などお祝いとして送る名分のついでのついででしかなった。
ミリアーナ子供に懐かれて嬉しくないわけはない。
が、一応既婚になってからミリアーナだけで会うことはない。
基本ミリアーナの父や、夫である王と一緒にいる。
最初は敵対していた彼も大分、朗らかになった気がする。

「あ、そうそう。君が好むかと思って持ってきたんだ」
鞄からワインボトルを取り出す。
「ちゃっかり入れて持ってくるのやめませんか」
まぁまぁと笑いながら早速開けて新たなグラスに注ぐ。
「美味しいな。それに冷たい」
「でしょう。これが理由」
取り出したボトルに付いているシーリングスタンプを示す。
「なんだ。それは」
「こっちの印籠を押すことによって」
スタンプを示す。
「冷えるんだ。まぁ、買った直後から使ってもいいけど、おすすめは飲む一時間から二時間前かな。その頃には魔力が纏ってそう簡単には温くならない」
「夏にはいいな」
「子供たちが夏場は冷たいの。ってフィーアに冷やしてもらったところから発想したんだけどようやく完成。んで、これがそのスタンプ」
箱を取り出して渡す。
「まずまずの出来栄え」
「きちんと研究はしていたのか」
「続きをしているだけだけどね。今度は何を作ろうかな」
微笑みに、そうかと王は告げる。


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