愛鳩屋烏

林 業

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社会人

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タナカの朝は早い。
朝の五時に目を覚ます。
仕事がある日は出勤の準備をする。
顔を洗って歯磨きして髭を沿って、トイレ行ってご飯を食べて、また歯磨きする。
休みの日でも活動を開始するのだが、今日はカラスに抱きつかれて動けないでいる。
普段のカラスもまた付き合って五時頃に起きる。
歯磨きだけ済ませると朝ご飯を作って待ってくれる。
髭は薄いので終わってから済ましても目立たないという。
羨ましい。
だが一緒に寝て休日であると抱きしめたまま動かない。
「カラス。起きろ」
「八時に起こして」

寝ぼけ声でそう告げると再び眠ってしまう。
そう思うなら腕を外せと叩くが外れそうにない。

まぁいいかとカラスの顔を見る。

相変わらず顔がいいのが悔しい。
日本人顔の特に目立った特徴のない自分とは大違いだと見つめる。
そういえばカラスのことあまり知らないと思い直す。
惚れた弱みでほとんど何も聞いていない。
仕事も在宅とだけしか答えてくれない。
年齢も、経歴も、名前すらろくに教えてもらっていない。
タバコを吸うのだって、眼鏡をかけていたのだって。

自分が秘密を持つ男についつい惹かれるからか、逆にそれを知られているからこそ、聞かれるまで黙っているのか。

今度きちんと教えてもらおう。





昔の夢と理解できる。
病院から退院して、学校裏で彼を待つ。

彼に会いたくて、何度か病院を抜け出そうとしたが親に止められた。
医師たちに即刻見つかてしまった。

だから彼が来るのを待つ。
学年は変わってしまったがいつも此処で会っていた。
記憶の大半を失って、彼の顔も名前もよく覚えていない。

けれど彼に会いたくて。



「オオカミさん」

ずっと、卒業するまでそこに通った。

「おおかみさーん八時だよ」


飛び起きる。



カラスが覗き込み、相変わらずかっこいいと眺める。
そして徐々に夢の内容を思い出して、咄嗟に失うことが怖くなる。
「おはよー」
思わず手を伸ばして、抱き締める。

「大胆。どうしたの?」
珍しいと言わんばかりに聞かれ、確かに自分でも珍しいとは思う。
それでもあんな夢を見てしまった。
見たくない覚えていたくないのでしばらく抱きしめて、カラスの匂いを嗅いで落ち着くことにする。
「ちょっとだけこうしていたい」
「いいよ」
今度はカラスがされるがままになる。


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