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素質
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しおりを挟む「逃げずに来たな。」
「逃げないよ……何言ってるの?」
「う、うるさい!」
馬車から下りれば待ち構えるようにしてタイチが仁王立ちしていた。リッカを見るなり高圧的に声をかけてくるものだから、リッカもついあたりが強くなってしまう。いや、そうでなくともリッカのタイチに対する態度は他の人に対するものよりきついものであるが。
集まっている人々は馬車から下りてきたセイイチに目を向け、そしてリッカを見た。ざわざわとしているのはまともにリッカを見たのが初めてというのもあるのだろうが、大半が好奇心によるものだろう。神獣たちも大して気にしていないようなので、リッカも気にしないことにしている。
「あと半刻もすればお前の従魔の弱さ、証明してやるからな。」
「瞬殺されて泣きわめかないでよ?」
「……生意気なんだよ、お前。」
吐き捨てるようにタイチは言い、踵を返して行ってしまった。なんだったんだとリッカが首を傾げていれば、タイミングよくヒイラギが現れるが、えらくにこにこした様子の彼に、リッカはじとーっと目を細めてしまう。セイイチに関してはすでに苦笑いをしてしまっている。
それに、頼りの神獣たちは人が多いこともあって黙ってしまっていた。
「リッカ、今日は頑張るんだよ。」
「はい、領主さま。」
「それと、今日はいつもと違った服を着ているね、よく似合っている。」
「父様が。母様との激闘の末、父様に着せられました。」
『すごかったよー!ふたりとも!』
リッカと白虎はねー、と同調するように顔を見合わせ笑う。朱雀も玄武も青龍もそれを思い出したのか、くすくすと笑っている。セイイチはというと、居た堪れないような顔をしていた。図星である。
そうこうしているうちに時刻は近づいていた。ヒイラギと話しているうちにサクラも到着していたのか後ろからリッカをぎゅっと抱きしめてきた。外でにこにことしているサクラはどうにも雰囲気が変わっていて怖いような何とも言えない気が湧き上がってくる。まるで、絶対勝ちなさい、とでも言わんばかりのプレッシャーのようなものを感じる。
ぞわり、と身震いがリッカを襲う。早々にここを離れてしまおうとリッカは軽くサクラとセイイチ、ヒイラギを躱してその場を後にした。
「リッカ様」
後にして、控室として与えられた部屋のような場所で待っていたのは獣人族の執事長、クロスだった。クロスは手に櫛を持っていて、リッカを椅子に座るように促した。もちろん、クロスの前の椅子である。
「クロス......どうしたの?」
「リッカ様の最後の仕上げをしようかと思いまして。」
「最後の仕上げ……?」
「衣装がそのように整っているのですから、御髪も整えないと。」
するりと適当にまとめていた髪結い紐をほどかれ、数回櫛を通される。まだ背中にも届かないが、普通の男児よりも長いそれはうっとおしく思うも黄龍の言いつけで切ることができないため、そのままなのだ。今まで無造作に放っておいたせいで結い方すらままならない。
けれど、クロスの手つきに迷いはなく、ひょいひょいと結んでいっていた。
「……慣れてるね。」
「私も以前は髪が長かったのでね。」
「そうなんだ……あ、そう言えば、いろいろ話聞かせてくれるって言ったよね?」
「それは、また今度ゆっくり、ということではいけないでしょうか?」
「いいけど……ま、いっぱい聞きたいしいっか……」
リッカがもんもんとしているうちに、”最後の仕上げ”とやらは終わったらしい。渡された鏡を見れば綺麗に結われ、それなりに見れる髪型になった自分がいた。これだけしっかりやられれば、気合も入る。少し気になって、四方から眺めていると、出番を呼ぶ者が扉をノックして知らせてくれた。
「じゃあ、行ってくるね。」
「ご存分に。じいも見ておりますので。」
「うん。」
扉を開ければすでにタイチと審判のヒイラギが広場内で待機している。白虎はもちろんのこと、他の神獣たちも気合十分だ。リッカは気を引き締めて、その一歩を踏み出した。
「行くよ、シロくん。」
『がってんしょうち!』
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