命の質屋

たかつき

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天恵の儀

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 夕陽で水平線の彼方まであかに染まっている。
 停泊する漁船、橋の彫像。
 かもめが遠くの空で鳴いている。

 死へのカウントダウンが十分を切っている状態でも、人は感動する事が出来ると、初めて知った。

 海外含めて旅行も数え切れないほど行ったのに、日本国内にもまだ、これほど美しい場所があったなんて驚きだ。
 思い起こすと、探そうともしていなかった。
 力を手に入れてからは、金儲けや遊ぶ事ばかりに気がいって、景色なんて見てなかったもんな。
 ああ、本当に綺麗だ。これが、君が二人で見たいと言ってくれた場所なんだね。

 残された時間は残り僅か。地獄が僕を待っている。
 もう会えないのが心残りだけど、これで良い。

 ―――――

 ――――
 
 ―――

 ――

 ―

 八年前。
 
 垢抜あかぬけるのが苦手で、良く言えば真面目そう、悪く言えばモブ男って感じの僕
 【中西なかにし とおる】と、
 金髪ピアスで桃色の色眼鏡までかけてるTHE陽キャって感じの友人
 【坂上さかがみ 涼太りょうた】は、
 大学の卒業プチ旅行で訪れた千葉県君津きみつ市にある濃溝のうみぞの滝(亀岩の洞窟)に居た。
 今回二人旅をするにあたり、涼太が彼女にチクチクと怒られた話は置いといて、濃溝の滝に来れたのは素直に嬉しい。

 そこで、僕はせっかく来たんだからと【天恵てんけい】を受ける事にした。
 まぁ、せっかく来たんだからってのは建前で、僕は初めからその儀式を行うのが目的だった。
 涼太は知らなかっただろうけど、予約も必要だしね。

 二〇三五年以降に初認定された天恵と呼ばれる超能力。
 日本で神の降臨が確認されたのは、以前から絶景スポットとして名高い濃溝の滝・亀岩の洞窟だけであり、実際に天恵の儀により超能力を授かった者も数人いる。

 儀式は、市に委託された僧侶同伴の下、光の射す直前の時間に、用意された専用の和服に着替え、濃溝の滝付近、亀岩の洞窟と呼ばれる江戸時代に造られた人工の洞窟に入る。
 岩盤を流れる階段状の穏やかな滝を越え、洞窟の向こう側に辿り着いたら腰を落とし、聖杯に少しの水をすくう。
 神に祈りを捧げた後、その水を飲み干し、また祈りを捧げて儀式を終える。そんな流れになっていた。

 国は超能力を授かる確率は約十億分の一と発表した。
 無論、あくまで濃溝の滝での儀式で超能力を授かる確率は――という事なのだろうが。
 そもそもおおやけに発表される事がないので、実際はどうなのか、まさに神のみぞ知るというやつだ。
 加えて、儀式の費用が前払い限定での五万円という高額であることから、共に旅行に行った友人から『馬鹿! そんな無駄なこと、止めとけ!』と、猛反対された。

 その反対を、今こうして聖杯に水を摂り、神に祈りを捧げている。夏真っ只中だが、早朝ということもあり、水は驚くほど冷たい。

「では、飲んでください」

「はい」

 この瞬間の事はあまり覚えていないけど――
 
 これで五万円かぁ。超能力が授かるなんてこれっぽっちも思ってないけど、体験としてはやる価値あったよな。
 今後社会に出た後も何かと話題にしやすいし、無駄にはならないだろ。涼太、ちゃんと撮れてるかな。

 ――そんな事を考えていた気がする。

 僕が聖杯の水をごくりと飲み干すと、出来すぎたタイミングで、眩しさに目を開けていられないくらいの朝日が射し込んだ。

 その時だった。

『【命の質屋】を授ける』

 頭の奥に声が響き、僕は超能力を授かった。
 
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