【完結】ふわこい【全十話】

たかつき

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奇妙な同居生活の始まり

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 とりあえず落ち着け!
 そう、自分に言い聞かせる。
 深呼吸をして、私は椅子に腰を下ろした。
 幽霊は、玄関の隅っこに正座している。

 怖い。けど、なぜか殺気とか、悪意とか、悪寒とか、そういうものは感じない。

「ねぇ……あんたって、襲ってきたり……しないよね?」

 幽霊は慌てて首を横に振った。

「ま、まさか! 僕、人見知りだし、人前で喋るのも苦手だし、喧嘩も弱いし……お化けだって怖いし……」

 その言葉に私は吹き出してしまった。
 幽霊が『お化け怖い』って、なにそれ。

「ごめん、笑っちゃって。でも、ちょっと安心したかも」
「……大丈夫です。自分でもおかしいよなっていう、自覚はあるんで……」
「あのさ、聞きにくいんだけど……なんで幽霊になっちゃったの?」

 しばらくの沈黙のあと、幽霊はポツリと呟いた。

「分からないんです。何も思い出せなくて。ただ、本田ほんだ 明彦あきひこっていう名前だけ、覚えてます」
「へぇ、本田 明彦って言うんだ。何も覚えてないのに、人見知りで緊張しやすくて、喧嘩が弱くてお化けが怖いことは覚えてるの?」
「……確かに。咄嗟に口から出たのですが、言われてみると変ですよね。でも、あれは本当の事だと思います」
「……ふぅん。私は中島なかじま 咲希さき。親は二人とも海外で仕事してるからさ、今は一人暮らしなんだよね」
「中島 咲希さん……若そうなのに、一人暮らし、立派です……」
「はぁ、もう良いや。私、寝るから、ここから動かないでね。あ、外に出られるなら出てっても良いけど、これ以上中には入ってこないでよ?」
「はい……おやすみなさい……」

 ◇◇◇

 ◇◇

 ◇

 翌朝。いつもなら土曜日はもっとゆっくり起きるのに、今日の私は早起きだ。
 起床と同時に玄関を確認する。
 居た。大人しく玄関の隅っこで正座している。
 幽霊だから、足が痺れたりしないのかな。
 
「おはよう」
「おはよう……ございます……」

 まぁ、悪い人……悪い幽霊では無さそうかな。

「あのさ、家の中、少し自由にしても良いよ。当たり前だけど、覗きとかしたら、すぐおはらいしてもらうからね?」
「え……と、ありがとう……ございます。なんて言いますか、勝手に居座ってごめんなさい」
「……まあ、仕方ないってやつでしょ? 幽霊のさがとか言ってたし」

 私はわざとらしく、肩をすくめて見せた。
 幽霊と当たり前に会話してるなんて非現実的すぎるけど、なんだか妙に落ち着いている。
 ちょっと透けてるだけで、結構ちゃんと見えてるからなのかな。
 
「はい……すみません」
「大切な事だからもう一回言うけど、勝手にお風呂とか覗いたら即成仏そくじょうぶつだからね」

「は、はいっ、誓います!」

 幽霊は手を合わせてぺこぺこと頭を下げた。
 まさかこんな形で、誰かと一緒に暮らすことになるなんて。これって、親に知られたら怒られる?

 こうして、女子高生の私【中島 咲希】と幽霊の【本田 明彦】の、ちょっと奇妙な同居生活が始まった。
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