【完結】ふわこい【全十話】

たかつき

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名前で呼んでも良い?

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 一週間後。
 食後の皿を洗いながらふと思い立ち、私は振り返った。

「ねえ、本田さんってさ――」
「あ、はい!」

 ソファに正座していた本田さんが、背筋をぴんと伸ばす。
 その反応が少し可笑しくて、私は笑みを堪えられずに、ニヤけたまま話を続けた。

「“さん”付け、なんか変じゃない? 本当の歳も分かんないし……名前で呼んでもいい?」

 本田さんは驚いた顔をして、照れくさそうに俯いた。

「……はい。呼んでもらえたら……嬉しいです」

 とは言ったものの、呼び慣れたら情が湧きそう。
 でも……いいか。
 どうせこの人(……じゃなくて幽霊)は、そのうち成仏するんだし。
 いや、成仏させられるなら苦労はないんだけどね。
 少し複雑な気持ちが胸の奥でチリチリしたけど、私はブンブンと首を振り、コップをすすぎ終える。

「じゃあ……あ、明彦。今日からよろしくね!」

 本田さん――いや、明彦は、恥ずかしそうに、それでもどこか嬉しそうに、しっかりと頷いた。

「はい。宜しくお願いします。咲希さん」
「咲希。“さん”は要らない」
「えっ……と、宜しくお願いします。咲希」
「うん!」

 ◇◇◇

 ◇◇

 ◇

 ――幾日後。
 
 玄関の扉を開けると、ずっと静かだった家に誰かの気配がある。それが最近の私の日常になっていた。

「ただいま、明彦」

 靴を脱ぎながら声をかけると、リビングのソファからひょこっと明彦が顔を出す。

「咲希、おかえり。今日は、学校どうだった?」
「うーん……数学の小テストが壊滅だった。誰かが答え教えてくれればよかったのにさ」
「……何となく、僕も学校に行ってた気がするんだけど、何を習ってたか、ぜんっぜん思い出せないんだよね」

 明彦は申し訳なさそうに頭をかく。
 その仕草があまりに人間らしくて、つい微笑んでしまう。

 ――ああ。
 怖がってた頃が懐かしい。
 なんだろう、この感覚。
 家に帰ったら誰かが待ってるって、嬉しいな。
 両親ふたりが家に居た頃は、当たり前だったはずの温かさなのに。

「じゃあさ、今度教えてあげよっか?」
「え、僕が教わる側……?」
「当然でしょ。成仏の前に、少しは勉強しときなよ」

 まただ。冗談を言っただけなのに、胸の奥で何かがチリチリ回っている。ふわりとした温もりと、チクリとした痛みが混ざった何かが。
 
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