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第一章 落とし物
しおりを挟むぴかぴかと光る太陽。
校舎からでて真っ白な雲の上に降り立つ私たち。
ガラス張りの建物の中に作られた花壇にひとつづつ植えていく。
今日はジャイアントマメマメの木の課外実習。
「みなさん、種は持ちましたか?」
イオ先生の声。
「伝説によればこの豆は地上から宙まで届いたといわれています。毎日水をあげていればそのくらいまで届くかもしれませんね。」
「さて、それでは皆さん。黒い部分を下にして、土をやさしくかけて下さい。」
「つるつる滑るので気を付けてくださいね。」
まずは黒い部分を下にして。
重たい種を両手で抱えながら…土の上に…。
「うわっ。」
すっぽーんと土の上に置こうとしたあたしの手をすり抜けていく種。
パリーンとガラスを割って、飛んでいき、雲の下へ。
唖然とするあたし。
種はぽっと小さな雲のかけらを生み出し、消えていった。
「あーもう、アリアがさつなんだから。」
すぐ隣から声をかけてきたのは幼馴染のマリア。
緑のツインテールがとってもかわいい。
成績は学年トップだから、あたしとはま反対。
「はいっこれ。私の予備の分あげる。アリアのよりはちょっと小さいけど。」
マリアの手の中には真新しい、ジャイアントマメマメの種。
「ううっ~ん。ありがとー。」
ひとまわり小さい種を受け取る私。
今度は落っこちないようにそーっと植えて、土をかける。
「はーい、皆さん、できましたか?」
「それでは大きく育つように、最後に水やりをしましょう。」
「大きくなりますように…☆」
☆☆☆
コツコツコツ。
先生が黒板にチョークで書く音。
「ジャイアントマ…。」
眠気に襲われ、羽ペンでぐじゅぐじゅの線が描かれる。
キンコーンカーンコーン、キンコーンカーンコーン。
授業の終わりを告げる教会の鐘。
鐘が鳴れば昼休み。
階段を下り、西洋式の庭園を目指す。
最近は庭園にある東屋でお弁当を食べるのが私たちのトレンドなのだ。
ちなみにマリアはとなりのクラスだからここで合流☆
「アリアー。おまたせー。」
石のテーブルにお弁当を並べる私たち。
「じゃじゃーん。きょうはサンドイッチ作ってみました。」
たっぷりたまごの入ったたまごサンドを見せびらかす。
対するマリアはハンバーグ弁当。
ソースがとってもおいしそう。
「アリア、こういうの好きそうだと思って。」
「はい、ひとくちあげる。」
「んっ。」
スプーンにすくって口の中に突っ込まれるハンバーグ。
ふわふわしてて、とってもおいしい。
「はいこれお返し。」
サンドイッチを代わりにちぎって突っ込むあたし。
とっても嬉しそうな顔をするマリア。
「ありがと☆」
☆☆☆
「あ、そういえばさ、知ってる?」
「学校の裏の滝の噂…。」
こちらへ顔を近づけ、ひそひそ声で話してくるマリア。
「なにそれ?」
「誰かが、見たらしいの。よく晴れた日の朝。」
一息つくマリア。
「その子が言うにはね。」
「地上が見えたって言うの。」
「地上?」
「地上って、…あの?地上?」
うきうきした気持ちで答えるあたし。
地上と言えば、おとぎ話の代表。
確か、火を吹く車に空飛ぶ列車だとか、なんとか、すんごいものがいっぱいあるのだとか。
「えっ、それってもしかして、飛び込めば地上に行ちゃうってこと⁉︎」
「うーん。でも天使が地上に降りたなんて話聞いたことないよ…。」
「それにそんなに簡単に行けるならおとぎ話にはならないんじゃないかな。」
「そっか。確かにそうかも。」
「あっでも、見たって子、知り合いだし、もしかしたらなにか知ってるかも?」
☆☆☆
放課後、木製の階段を上る私たち。
「この時間帯なら、ここにいるはずっ…。」
重厚な扉にたどり着くとそっ~と開けるマリア。
中は薄暗く、天井まで本が積み上げられている。
扉には天界大図書館の文字。
あたり一面、難しそうな本でいっぱい。
「ラジエルいるー?」
小声で声をかけるマリア。
「なぁに?」
頭上から声。
上を見上げると本を手に持ったまま上からパタパタと降りてくる金色の髪の女の子。
「私に何か用?」
☆☆☆
「えっなんだ。そんなこと。」
おなかを抱えて笑うラジエル。
「ええ、確かに見たわよ。よく晴れた朝の日。」
「かすかに緑の木々がね。」
「でも飛び込むのはやめておいた方がいいと思うわ。」
クスクス笑いながら答えるラジエル。
「少なくともぺしゃんこね。」
そばにあった紙をぐしゃっとつぶして見せるラジエル。
「だってさ。アリア。」
「でも、ひとつだけ方法があるわよ。」
「えぇ。ほらこれ、大昔の伝説なんだけど。」
そういって、手にずっと抱えていた本をどさっと机に置くラジエル。
「えええっと、あったあった。」
ペラペラとページをめくるラジエル。
一枚の絵を指し示し、本を見せる。
「ほら、ここを見て。」
そこに描かれていたのは、大地に降り立つ天使の絵。
すんごく古いのかな。
貫頭衣?みたいなものを着ている。
いつもと違うのは…。
「肩に何かかけてる…?」
「そ、私たちの羽だけだと、ぺしゃんこになるだけだから、使っているのでしょうね。」
「でもこんなの学校には…。」
「ふふん。」
「ちょっと待っててね。」
マジックバッグに手を入れると、どこからか、羽衣を取り出すラジエル。
「はいこれ、二人分。」
「いつか、行ってみようと思って、作ってやつ。これ、あげるわ。」
「え、イイの?」
「あなたたちに託してみたいの。」
「ただし、研究中だから取扱に十分注意することっ。壊れた時の補償はしないよっ。」
「それと…。感想教えてね。」
☆☆☆
とある日の雲一つないよく晴れた朝。
重たいリュックを背中にしょい、滝をのぞき込む私たち。
上は晴れているけど、下はいまいち。
薄雲がかかっていてまだ、地上は見えない。
「天候はいまいちだね。で、ほんとに行く気?」
うん、と勢いよくうなずくあたし。
「じゃ、私には止められないか。そういうときのアリアはマジだから。」
「ということで、私もついてくから。」
「羽衣も二つもらったし、それにアリア、私いないと料理できないでしょ。」
と、リュックから、フライパンを取り出してみせるマリア。
「てへへっ。」
「そろそろかな。」
徐々に切れ始める薄雲。
その先にはかすかに緑が見え始める。
リュックからラジエルからもらった、羽衣を取り出す私たち。
「じゃ、せーのっでっ。いくよっ。」
『せーのっ。』
「うおおぉぉっー。」
地面から離れる足。
通り過ぎていくたくさんの雲。
「アリアー。」
すごいスピードで落ちていく中、両手をつなぎ、降下していく私たち。
ラジエルが羽衣が開くまでは時間がかかると言っていたので、それだろう。
「ね、見て、ほらあれ。地上…じゃないかな。」
時折雲の下にかすかに見え始める緑の大地。
ぱっと開く羽衣。
真下にはたくさんの雲。
私たちは羽衣で落ちていくスピードを調整し、雲の間を抜けていった。
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