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第五章 はじまりの森
しおりを挟むそして数年後。
あちこちから噴き出る水。
バケツで畑に水をまく人。
村の真ん中にある噴水ではしゃぐ人たち。
村はすっかり様変わりしていた。
石垣に座り、町の様子を見るあたしたち。
「すごいね。もうこんなに。」
荒地だった村には畑。
最近は牧畜も始めたらしい。
「ねっ。女神様みてみてー!」
あの時より少しだけ大きくなったイブちゃんが畑で取れた野菜をかごいっぱいにして持ってきていた。
野菜はつやつやとしてとてもおいしそう。
「これ、イブちゃんが?」
「うん。」
「はいっ。女神様、にもあげる。」
「あはは、おいしそうなナス。ありがとねイブちゃん。」
「うん。」
あれから何年たったのかな。
イブちゃんの頭をなでるマリアを見ながら思うあたし。
ひいふうみい…。
もうわかんない。
でも天界とこっちは時間違うっていうし。
イブちゃんもそんなに成長してるように見えないし。
案外そんなに経ってないのかも…。
それにこっちの生活も楽しいしね。
「ねっ、イブちゃん次はどんな野菜育てるの?」
「うーん。おナスやトマトは作っちゃったし。」
うーんと考え込むイブちゃん。
「あっ。女神様。」
何かを思い出したかのようにぱっと笑顔になるイブちゃん。
「あのね、あのね。うちの倉庫でね。大きな種見つけたの‼」
☆☆☆
「ここだよ。」
イブちゃん家の倉庫はとっても広かった。
古い時代のものや本がいっぱい。
「あのね、友達とかくれんぼしてる時に見つけたんだけど…。」
と、重そうな扉を開け、さらに中へと進む。
「ほらっ、これっ。」
「とっても大きいでしょ。」
そこには古びたガラスの戸棚にしまわれた大きな種があった。
緑色で。
両手でないと持てないぐらいの…種。
これって…。
もしかして…。
アリアと目が合うあたし。
「ね、これはどこでみつけたの?」
「う~ん。それがね。わからなかったの。」
「おじいちゃんに聞いても、村の人に聞いても…。」
「でも、おじいちゃんのその前のまたその前の代ぐらいのかもって言ってたから、とっても古いと思うよ。」
「ね、イブちゃん。私たちのお願い聞いてくれる?」
「うん、いいよ。女神様。」
「でも、私のお願いも聞いてほしいな。」
☆☆☆
「えっ?パーティ?」
「うん、ちょうど女神さまが村を助けてくれてから一周年なんだって。」
「ほらこっちこっち。」
村に新たに作られた噴水の前にはたくさんテーブル。
その上にはたくさんのフルーツと料理。
「たくさん、食べてってね。」
お酒を飲み、わいわい騒ぐ村の人たち。
あっという間に、楽しい夜は過ぎ、外は真っ暗に。
宴会場のあちこちからはいびきが。
そっと、その場から立ち去る私たち。
「女神様もういっちゃうの?」
後ろからイブちゃんの声。
「うん。」
「そっか。」
「天界の仲間もしんぱいしてるだろうし。」
「また、戻ってくるよね?」
ちょっぴり涙目になるイブちゃん。
「うん、必ず。」
「うん、絶対だよっ。やくそくっ。」
☆☆☆
再び、古い神殿に戻ってきた私たち。
地面を掘り、大きな種を埋める。
そしてマリアが村から持ってきたジョウロでお水を上げる。
「こんなので、ほんとに、向こうに帰れるのかな?」
「もうー。忘れちゃったの?」
「先生が授業で言ってたでしょ。」
「伝説では地上から天にまで届いたって。」
「ここは地上よ。何があっても不思議じゃないわ。」
「ほらっ。」
ちょこんと地面から顔を出す双葉。
そして、本葉。
そしてどんどん、伸びていくツル。
どんどん、ねじれて、幹のようにどんどん伸びていく。
そしてあっという間に私たちが昇れるくらいの大きさに。
「ほら早く乗って。」
葉っぱの上に乗り、マリアに手を伸ばす。
「うん。」
あっという間に伸びていくツル。
あっという間に森の木の高さを超え、ぐんぐん上へと伸びていく。
もう神殿ははるか下。
そして、昇ってくる太陽。
真っ暗だった大地が明るい光で照らされていく。
ゆっくりと回る風車に。
金色に輝く、畑。
今日はどんな野菜が取れるのかな。
イブちゃん家の畑には人影。
心なしか、手を振っているように見える。
「またねー。」
手を振り返すあたしたち。
そして次第に見えてくる広大な大地。
緑色の草原、砂漠、雪の積もる山、海、そして、雲海。
だんだん遠くなっていく地上。
葉っぱの上に座りながら眺めるあたしたち。
やがて、雲の中に入っていくツタ。
そしてツタの成長が止まった。
ここからは登るしかないか。
重い腰を上げ、幹をよじ登っていく。
そして…。
キーンコーンカーンコーン。
授業の始まりの鐘がなった。
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