空のおとしもの

stardom64

文字の大きさ
10 / 14

 第四章 地上の森2 

しおりを挟む
 

 ガタンごトン、ガタンごトン。

 石や、木の根っこを乗り越え、進んでいく馬車。

 そのため、座り心地は最悪。

 お尻が痛い。

 さっきの女の子はどうやって来たんだろ?

 というか、なんで、あんなところまで?



「ね、見て。」

 マリアの声。

 窓の外を見ると、緑の木々とは打って変わってあたり一面、赤茶色の大地。

 遠くには大きな風車が見える。

 あれが村なのだろうか。

 あたりには、荒涼とした景色が広がっていた。



 ☆☆☆



 馬車から降りるとものすごい熱気。

 地面はひび割れ。

 木は幹だけ。

 葉っぱはない。

 空っぽになった井戸。

 干からびてひび割れた泉。

 砂にまみれた石畳。



「数年前は、緑あふれる土地だったのですが…。今はこの通り、草も生えないのです。」





「どうか、この村をお救いくださいませ。」



 ☆☆☆



 干からびた井戸の底。

 水はなく、そこにあるのは、サラサラした砂。

 ここ数日の日照りで最後の井戸も枯れてしまったらしい。

 手ですくうと指の間を通り抜けていく。

「あっ、女神さまだ。」

 頭上から聞こえる可愛い声。

「よっと。」

 梯子を器用に下りてくる女の子。

 確かイブちゃんだったかな。

 森で出会った初めての人間の女の子。



「こんなところでどうしたの?」

 事情を説明する私たち。

「そっか。」

「えっ、でも雨降らせればいいんじゃないの。」

「ほらっ女神様なら魔法で、えいって☆。」



「いや、私たち。天気の神様じゃないからね?」

「そういうのは神様の仕事なのよっ。」



「村の井戸は全部こんな感じなの?」

「うん。だから、最近は森に食料を取りに行ってるんだ。」

「雨は降ってないの?」

「もうずっとこんな感じだよ。食べ物もないから…。森の中まで取りに行ってるの。」

「だから、森の奥まで…。」

「あっでも、隣の村の井戸はまだ枯れてないかも。森に近いし」

「ただ、暑すぎて、持ってくるまでにほとんどなくなっちゃうんだよ。」



「川でもあればいいんだけど…な。」



 ☆☆☆



 村から飛び立ち東の村を目指すあたしたち。

 太陽の光がまぶしい。

「あっあれじゃない?」

 双眼鏡で確認するマリア。



 村の東、森に近いエリアに広がる村。

 砂地の中に、ポツンと広がる石畳。

 上空から見てすでに家はなく、骨組みだけ。

「ドラゴンにでも襲われたのかな…。がおーって。」

「いや、地上にドラゴンはいないでしょ…。」

「というよりは戦じゃない?」

 マリアの言う通り、家の骨組みは真っ黒に焦げ、広場には朽ちた剣。

 戦争だろうか。



 しばらく歩くと水路が見えた。

 しかし、水はない。

 そして近くに石造りの井戸。

「この井戸のことかな?」

 試しに近くにあった石を投げてみる。

 カーンカーンカーンと甲高い音の後、ぴちょんというう音。

 今度は近くにあるバケツにロープをつないで放り込む。

「なんだ、あるじゃん。」

 引き上げると、そこには、バケツいっぱいの水。

「でも、取りに来ないってことは…。」

「とりあえず、入ってみましょ。結構水ありそうだし。」



「じゃ、わたしから。」

 中はだいぶ深そう。

 その辺の棒にロープを引っかけてゆっくりと降りていくマリア。

「オッケーっー。ついたよー。」

 しばらくすると、井戸の中から声。

「アリアー、いいわよー。」

「よっ。」

 あたしは井戸のふちを乗り越えると、真っ暗な井戸の中へと飛び込んだ。



 ☆☆☆



 じゃぼん。

 足が水につかる音。

 跳ね返った水で服はびしょぬれ。

 とりあえず、火打石でトーチに火をつけるあたしたち。

 ぱっと明るくなる井戸の中。



 でもそこは井戸にしてはとても広かった。

 井戸というより、水路?

 壁もトンネルみたいだし…。

 大昔の人たちが作ったのにあとから井戸をつけたのかな?

「でも、これなら村の方まで水を引けるわ。」



 方位磁石で村の方向を確かめるマリア。

「このあたりかな。」

「まかせてっ。えいっ。」

 思いっきりその辺にあった剣でガコンと岩壁を叩いてみるあたし。

 ぽろぽろと刃こぼれしてしまう剣。

 真っ赤になる手。

「いてててっ。」

「さすがにちょっと固いかもっ…。」

「ならこれは?」

 朽ちた剣を壁の割れた部分に何本も突っ込んでいくマリア。

 剣と剣の間に走っていくヒビ。

 ピシっピシッと音を立てる壁。

 最後の一本を打ち込むと…。

 ガラガラ大きな音を立て、崩れていく、固い、灰色の壁。

 中を見るとそこには普通の土。

 剣でツンツンしただけで、崩れていく。



「あとは、村の人たちに任せましょうか。」



 ☆☆☆



 パンパンパン、宙に上がる空砲。

 色とりどりの旗が掲げられ、そこかしこに仮設のテントが組まれ、筋肉自慢の男たちが井戸の中へ入っていく。

 あれから、少し時間がたち、あともう少しで、村というところまできた。

 今日は水路の開通記念というわけ。

 鍬を使って、水路を村の方へと掘り進めていく。

 そして…。



「え~いっ。」

 思いっきり、岩盤を剣でガコンとたたくあたし。

 大きな音を立て、最後の岩壁が崩れ落ちた。



 水路内に入り込む砂と暑い日差し。

 そして、その砂を覆うように流れ込む大量の水。

 湧き上がる歓声。

 噴き上がる水。

 水の中に飛び込む村人。

 それをあわててバケツですくう人。

 天に祈る人。



 乾いた大地はあっという間に緑に覆われていった。











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...