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第四章 地上の森2
しおりを挟むガタンごトン、ガタンごトン。
石や、木の根っこを乗り越え、進んでいく馬車。
そのため、座り心地は最悪。
お尻が痛い。
さっきの女の子はどうやって来たんだろ?
というか、なんで、あんなところまで?
「ね、見て。」
マリアの声。
窓の外を見ると、緑の木々とは打って変わってあたり一面、赤茶色の大地。
遠くには大きな風車が見える。
あれが村なのだろうか。
あたりには、荒涼とした景色が広がっていた。
☆☆☆
馬車から降りるとものすごい熱気。
地面はひび割れ。
木は幹だけ。
葉っぱはない。
空っぽになった井戸。
干からびてひび割れた泉。
砂にまみれた石畳。
「数年前は、緑あふれる土地だったのですが…。今はこの通り、草も生えないのです。」
「どうか、この村をお救いくださいませ。」
☆☆☆
干からびた井戸の底。
水はなく、そこにあるのは、サラサラした砂。
ここ数日の日照りで最後の井戸も枯れてしまったらしい。
手ですくうと指の間を通り抜けていく。
「あっ、女神さまだ。」
頭上から聞こえる可愛い声。
「よっと。」
梯子を器用に下りてくる女の子。
確かイブちゃんだったかな。
森で出会った初めての人間の女の子。
「こんなところでどうしたの?」
事情を説明する私たち。
「そっか。」
「えっ、でも雨降らせればいいんじゃないの。」
「ほらっ女神様なら魔法で、えいって☆。」
「いや、私たち。天気の神様じゃないからね?」
「そういうのは神様の仕事なのよっ。」
「村の井戸は全部こんな感じなの?」
「うん。だから、最近は森に食料を取りに行ってるんだ。」
「雨は降ってないの?」
「もうずっとこんな感じだよ。食べ物もないから…。森の中まで取りに行ってるの。」
「だから、森の奥まで…。」
「あっでも、隣の村の井戸はまだ枯れてないかも。森に近いし」
「ただ、暑すぎて、持ってくるまでにほとんどなくなっちゃうんだよ。」
「川でもあればいいんだけど…な。」
☆☆☆
村から飛び立ち東の村を目指すあたしたち。
太陽の光がまぶしい。
「あっあれじゃない?」
双眼鏡で確認するマリア。
村の東、森に近いエリアに広がる村。
砂地の中に、ポツンと広がる石畳。
上空から見てすでに家はなく、骨組みだけ。
「ドラゴンにでも襲われたのかな…。がおーって。」
「いや、地上にドラゴンはいないでしょ…。」
「というよりは戦じゃない?」
マリアの言う通り、家の骨組みは真っ黒に焦げ、広場には朽ちた剣。
戦争だろうか。
しばらく歩くと水路が見えた。
しかし、水はない。
そして近くに石造りの井戸。
「この井戸のことかな?」
試しに近くにあった石を投げてみる。
カーンカーンカーンと甲高い音の後、ぴちょんというう音。
今度は近くにあるバケツにロープをつないで放り込む。
「なんだ、あるじゃん。」
引き上げると、そこには、バケツいっぱいの水。
「でも、取りに来ないってことは…。」
「とりあえず、入ってみましょ。結構水ありそうだし。」
「じゃ、わたしから。」
中はだいぶ深そう。
その辺の棒にロープを引っかけてゆっくりと降りていくマリア。
「オッケーっー。ついたよー。」
しばらくすると、井戸の中から声。
「アリアー、いいわよー。」
「よっ。」
あたしは井戸のふちを乗り越えると、真っ暗な井戸の中へと飛び込んだ。
☆☆☆
じゃぼん。
足が水につかる音。
跳ね返った水で服はびしょぬれ。
とりあえず、火打石でトーチに火をつけるあたしたち。
ぱっと明るくなる井戸の中。
でもそこは井戸にしてはとても広かった。
井戸というより、水路?
壁もトンネルみたいだし…。
大昔の人たちが作ったのにあとから井戸をつけたのかな?
「でも、これなら村の方まで水を引けるわ。」
方位磁石で村の方向を確かめるマリア。
「このあたりかな。」
「まかせてっ。えいっ。」
思いっきりその辺にあった剣でガコンと岩壁を叩いてみるあたし。
ぽろぽろと刃こぼれしてしまう剣。
真っ赤になる手。
「いてててっ。」
「さすがにちょっと固いかもっ…。」
「ならこれは?」
朽ちた剣を壁の割れた部分に何本も突っ込んでいくマリア。
剣と剣の間に走っていくヒビ。
ピシっピシッと音を立てる壁。
最後の一本を打ち込むと…。
ガラガラ大きな音を立て、崩れていく、固い、灰色の壁。
中を見るとそこには普通の土。
剣でツンツンしただけで、崩れていく。
「あとは、村の人たちに任せましょうか。」
☆☆☆
パンパンパン、宙に上がる空砲。
色とりどりの旗が掲げられ、そこかしこに仮設のテントが組まれ、筋肉自慢の男たちが井戸の中へ入っていく。
あれから、少し時間がたち、あともう少しで、村というところまできた。
今日は水路の開通記念というわけ。
鍬を使って、水路を村の方へと掘り進めていく。
そして…。
「え~いっ。」
思いっきり、岩盤を剣でガコンとたたくあたし。
大きな音を立て、最後の岩壁が崩れ落ちた。
水路内に入り込む砂と暑い日差し。
そして、その砂を覆うように流れ込む大量の水。
湧き上がる歓声。
噴き上がる水。
水の中に飛び込む村人。
それをあわててバケツですくう人。
天に祈る人。
乾いた大地はあっという間に緑に覆われていった。
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