悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０２－１７．

　したくもないことを強要され、それが正しいのだと言われ続けた日々を思い出す。

　……違う。

　アレンのSubとして生きようとしているディーンを見た父親は、ディーンの存在そのものを否定するだろう。

　侯爵家の次男として相応しくない振る舞いだと激怒するだろう。

　脳裏に描いてしまった父親の不機嫌な時の振る舞いは、ディーンを恐怖に陥れる。

　……父上は、怒るだろう。

　否定するだろう。

　拒絶するだろう。

　……アレンも、怒るのだろうか。

　Subであることを望んだのはアレンである。

　頭の中では理解をしているのにもかかわらず、物心つく前から心に刻まれてきた恐怖心は抜けない。

　……怖い。

　ディーンは、視線をアレンから逸らした。

　Subとして抱いていた幸福感をかき消してしまうほどに、父親に恐怖心を抱いていることをアレンに悟られてしまいそうな気がしたのだ。

　……嫌われたくない。

　望まれない振る舞いをした時の父親の不機嫌な様子を思い出し、身体を震わせた。

「【目を逸らすなLook】」

　アレンは目を逸らすことを許さなかった。

　先ほどまでとは違い、冷たい声で発せられたコマンド聞き、体を震わせる。

「ディーン。【目を逸らすなLook】」

　もう一度、同じコマンドを繰り返す。

　今度はその言葉に逆らえなかった。

「俺といるのに、誰のことを考えていたんだ」

　アレンは不機嫌そうに問いかけた。

「俺のことだけを考えればいい。他人のことは考えるな」

　嫉妬だろうか。

　自分だけを見ていろと言わんばかりの言葉を告げられ、ディーンは困ったような顔をした。