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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

01-14.

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 それは、人間のように自我を発信する力を持ちながらも、百数年しか生きることが出来ない存在には、厳しい理想論である。

 しかし、旭と鬼である春博は違う。

 人間とは比べようにもならない時を生きる。

 その時の終りは、本人たちすら知る術はない。

(荒魂であるのならば、恨み続けねばならん)

 その定められた時以上の生を手にする者は少ない。

 本来ならば、決められていた時を越えることが出来る者は、神や怨霊として畏れを抱かれている者たちである。

 それ以外は、己の生を全うして黄泉の世界へと消えていく。

(俺の言葉一つで己の価値を失うのならば、荒魂ですらない)

 与えられた時は、人間よりも長い。

 しかし、ただ時を全うするだけならば、いずれ死が訪れる。

 何もせずにそれ以上の生を望むことは許されない。

 それが、この世に生きる者に平等に与えられている生死に関わる権利なのだ。

 誰にも平等に与えられた生と死を覆す為には、それなりの価値を見出さなければならない。

(荒魂にも神にも成れぬ鬼ならば、それまでの価値でしかない)

 それを知っているのだ。

 同じ母から生まれた兄妹たちは、それ以上の価値を認められることがなかったからこそ、旭を残したまま、黄泉の世界へと消えていった。

 白狐としての寿命を全うして旅立っていた両親や兄妹たちは、高天原(たかまのはら)に住まう神々に価値を認められずに、この世に生きる存在として命を終わらせた。

 それを知っている旭だからこそ、それ以上の価値を見出す苦悩を知っている。

 誰もが手に居られるわけでは無い。

 手に入れることが出来るのは、少ないだろう。

 それは、他人に執着心を見せない旭だからこその考えなのだろうか。

 それとも、生粋のあやかしは、皆、このような考えを抱くものなのだろうか。

 旭の言葉を待つことしか出来ない春博は、零れ落ちそうな涙を堪えながら、旭を見つめていた。

(手放すのには少々情が移りすぎてしまったな)

 それに気づきながらも、優しい言葉を掛けない。
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