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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる
07-22.
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「羽織を脱げ。旭様の力を帯びていては、本来の力が発揮できないだろう」
春博にも正解はわからない。
祠の修繕など、一度も見たことがなかった。
境界を守る祠を維持することは狐塚稲荷神社の神主たちの役目であり、その血族である香織ならばやり方を知っていると思い込んでいたのだ。
(父親ならばやり方の一つ、教えておくべきだろう)
何度もやり取りをしている香織の父親のことを思い浮かべ、春博は盛大に舌打ちをした。
「はっ、はいっ! ぬ、脱ぎます!」
香織は自分が舌打ちをされたと思ったのだろうか。
慌てて、旭の羽織を脱ぎ、慣れた手つきで畳んでいく。
「羽織は僕が預かろう」
旭の愛用している羽織を地面に置くわけにはいかない。
春博は当然のように羽織を受け取ろうとしたのだが、香織は困ったような顔をしたまま、渡そうとはしなかった。
「あ、あの……」
言いづらそうな顔をする香織に対し、春博は何も言わなかった。
「な、なにか、あった時に、た、大変じゃないですか……?」
「何が言いたい」
春博は眉を顰めたままだ。
その表情が恐ろしいのだろうか。
香織は怯え切ったような表情を浮かべながら、俯いた。
「えっと。その。ごめんなさい」
「謝るな。言いたいことをはっきりと言え」
反射的に謝ってしまう香織に対し、春博はいつも通りに接する。
「……霊視の力が阻害されるってことは。その、春博さんの妖力も、影響を受けるのではないですか……?」
香織は言いにくそうに呟いた。
かき消されてしまいそうなか細い声で告げられた言葉に対し、春博は言い返すことができなかった。
香織の考えは正しい。
妖力に恵まれていない春博では、羽織を抱えながら動くのは難しくなる。
春博にも正解はわからない。
祠の修繕など、一度も見たことがなかった。
境界を守る祠を維持することは狐塚稲荷神社の神主たちの役目であり、その血族である香織ならばやり方を知っていると思い込んでいたのだ。
(父親ならばやり方の一つ、教えておくべきだろう)
何度もやり取りをしている香織の父親のことを思い浮かべ、春博は盛大に舌打ちをした。
「はっ、はいっ! ぬ、脱ぎます!」
香織は自分が舌打ちをされたと思ったのだろうか。
慌てて、旭の羽織を脱ぎ、慣れた手つきで畳んでいく。
「羽織は僕が預かろう」
旭の愛用している羽織を地面に置くわけにはいかない。
春博は当然のように羽織を受け取ろうとしたのだが、香織は困ったような顔をしたまま、渡そうとはしなかった。
「あ、あの……」
言いづらそうな顔をする香織に対し、春博は何も言わなかった。
「な、なにか、あった時に、た、大変じゃないですか……?」
「何が言いたい」
春博は眉を顰めたままだ。
その表情が恐ろしいのだろうか。
香織は怯え切ったような表情を浮かべながら、俯いた。
「えっと。その。ごめんなさい」
「謝るな。言いたいことをはっきりと言え」
反射的に謝ってしまう香織に対し、春博はいつも通りに接する。
「……霊視の力が阻害されるってことは。その、春博さんの妖力も、影響を受けるのではないですか……?」
香織は言いにくそうに呟いた。
かき消されてしまいそうなか細い声で告げられた言葉に対し、春博は言い返すことができなかった。
香織の考えは正しい。
妖力に恵まれていない春博では、羽織を抱えながら動くのは難しくなる。
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