後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第三話 賢妃の才能は底知れない

01-14.

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「申し訳ありません、陛下。嫉妬というものがよくわかりません」

 香月は軽く頭を下げて謝罪をする。

 ……経験のないものは未知の世界だ。

 いつの日か、嫉妬心を抱くようになるだろうか。

「黄藍洙のように感情的な振る舞いもできないでしょう」

 香月は嫉妬と言われて連想したのは、亡くなった藍洙の振る舞いだった。

 愛する俊熙の妃にふさわしくないと一方的な判断をすれば、攻撃的な振る舞いをする姿は嫉妬からくるものだったのかもしれない。

「ご期待に沿えず申し訳ございません」

 香月は淡々とした口調で謝る。

 それに対し、俊熙は困ったような顔をした。

「すまない。困らせるつもりはなかった」

「皇帝陛下は謝ってはなりません」

「香月とは対等でいたいのだ。それでもいけないか?」

 俊熙は眉を下げて問いかけた。

 ……本心だろう。

 俊熙は隠し事が下手だった。

 皇帝としてふさわしくなるようにと帝王学を学んだわけではなく、他にその席に座る者がいないというだけで座らされたお飾りにすぎない。それを側近たちが望んでいると知っているからこそ、俊熙は素直であり続けた。

 今のところは治世は上手くいっている。

 しかし、守護結界の修復が間に合わなければ、李帝国はあやかしに襲われることになるだろう。

「いけません」

 香月は厳しい言葉を口にする。

「誰の耳があるかわからない場所です。陛下。これは陛下を守る為のことなのです。どうか、ご理解くださいませ」

 香月は賢妃として忠告をする。

 その言葉の意味をわからないほどに、俊熙は愚かではない。

「……そうだな」

 俊熙は香月の髪に触れながら、ため息を吐いた。

「君との出会いが市街だったのならば、俺は俺として口説けたのだろうか」

 俊熙の言葉に対し、香月はすぐに返事ができなかった。

 麒麟省の市街は華々しい町だ。すぐ近くに花街があるのも影響しているのだろう。活気ある町というのは香月には親しみがない場所だった。
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