後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第三話 賢妃の才能は底知れない

08-2.

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* * *


 雲嵐の死から五日が経った。

 故郷である年中雪山の氷叡山とは違い、四季の移り変わりのある麒麟省では秋を迎えようとしていた。玄武宮に植えてある木犀の木々に花が咲き、独特の甘い香りを漂わせている。

 香月が後宮に来てから一か月が経とうとしていた。

 五日経っても雲嵐の死を受け入れられない香月はぼんやりとした顔つきで木犀の木を眺める。

 ……約束をしたのに。

 二度と守られることがないのだとわかっていた。

 雲嵐が後宮に来た時点で約束は破棄されたのも同然だった。

 しかし、それでも約束に縋っていたかった。

 ……雲嵐。

 木犀の木の下で眠りたい。

 そうすれば、幼い頃のようになにも考えずに雲嵐と遊んでいられた日々が帰ってくるような気がしてしかたがなかった。

 香月は木犀の木の下に座り込む。

 そして、そのまま、寝転がった。侍女たちに見つけられてしまえば怒られるだろう。それまでの短い間、木犀の香りに包まれていたかった。

 ……ごめん。私が弱いせいで。

 そっと目を閉じる。

 涙が頬を伝る。

「香月」

「……陛下」

「起きなくてもいい。俺も隣に座ろう」

 いつの間にか、玄武宮を訪ねていた俊熙の声に反応を示したものの、俊熙の言葉に甘えて横になったまま、頷いた。

「香月。君は泣き始めると長いのだな」

 俊熙は香月の髪を触る。

 責めるわけではない。

 ただ、そこまで香月に思ってもらえている雲嵐が羨ましかった。

「王雲嵐とは幼い頃からの友人だそうだな」

 俊熙は侍女たちから話を聞いていた。

 香月を慰められるのは夫である俊熙しかいないと判断したのだろう。

「……弟のような存在でした」

 香月は涙を拭い、答えた。
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