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第四章 鳥像の門
鏡の悪魔2
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「ただいま」
バタバタと塵一つないわたしの空間に埃を立てそうな勢いで二人が戻ってきた。
楽しかったかい? とか気の利いたことを言いたいのに、喉が乾燥して言葉が出てこない。
シロキの姿を見て、思わずわたしの神様が手の届く場所にいるような、そんな錯覚がして、床にこつんと膝をつく。
「おかえり」
口から勝手に出たのはそれだけだった。
シロキの性格だから「どうしちゃったの?」とあたふたされるかと思ったが、わたしの間違えだった。 ただ肩を包みわたしを覗き込む目は生命の神様のもの。「何も言わないで、わかってる」そうきれいな目が伝えてくれる。
「――会ってくれるかい? わたしの初めて造った悪魔と」
「悪魔も寝るの?」
まず、口を開いたのはカドだった。
「寝ているわけではないよ。お前もシロキも完成した直後はこんなだった。こいつは少し時間がかかってるだけよ」
「きれいな顔、早く目を開けてくれないかな」
悪魔の顔をつんつん突くカドから少し離れて、複雑な表情をしているシロキが心配だ。
何を考えているんだろう。
「シロキさんもこっちに来なよ。あんなに楽しみにしてたじゃない」
「うん……なんだか怖い」
「え?」
「怖いというのが正しいのかわからない。なんとなく、この変がおかしい」
胸の辺りを押さえながら、恥ずかしそうに笑うシロキを見て、わたしは今度こそはっきり恐怖を感じた。
やっぱりだ。何度初めて会ったって関係なく惹かれるんだ。
シロキがいつもの半分の歩幅でもぞもぞと悪魔に近づいていく。
怖い。シロキの間抜けな歩みに反して、深刻に怖い。
シロキが悪魔の前で屈みこむ。
だめだ、触れないで。
「――きれいだ」
そう言ってそっと青白い悪魔の頬に手をべったりつけ、撫でまわし始めた。
――おい、気持ち悪い触り方をするなよ。
びくっと悪魔の身体が動き、今まで目を閉じていたのが嘘のような俊敏さで、シロキの手を払った。
――あの男と同じ凍えた目。氷のような目でシロキを見ている。
拒絶されたかわいそうなシロキが涙を浮かべている。
「ごめん、僕……」
言葉に詰まって、自分の手を叱るようにぎゅっと握っている様子が見ていられない。
カドもおろおろとシロキと悪魔を交互に見ている。
悪魔がシロキから視線をそらした。これも全くあっけないそらし方だ。……こいつ性懲りもなく、何度もわたしの神様を……
今度はカドをじっと見つめている。
その冷たいだけだった目に柔らかい光がさし、優しく微笑んだ。
カドが照れ笑いを浮かべて悪魔に抱きついた。悪魔はされるがままで、少しも嫌そうではない。いや、正直に言うと嬉しそうだ。
おい、シロキを見ろよ、すっかり下を向いて肩を落としているじゃないか。
悪魔がカドの肩を軽く叩いて、静かに立ち上がった。
シロキももちろん気がついているが、緊張しているのか斜め下を見つめたまま動けないでいる。
悪魔が目の前に立つが、まだ顔をあげられない。そんな事は気にとめる様子もなく、悪魔が当然のようにシロキの頭に手を置いた。
シロキ、どうして今日は寝ぐせを直して来なかったんだ。悪魔に会いたくて慌てていたのか?
悪魔の手が柔らかい髪に触れて、寝ぐせを撫でた。わたしはもう駄目かもしれない。心が自分から離れそうで、痛い。せっかくもらったこの身体を捨てて鳥の門をくぐってしまいたい。
悪魔が小さく形の良い唇を動かした。
嫌だ、言わないで。それはわたしの—―
「俺の神様――」
その瞬間、わたしの心から何かが飛び立った音がした。
バタバタと塵一つないわたしの空間に埃を立てそうな勢いで二人が戻ってきた。
楽しかったかい? とか気の利いたことを言いたいのに、喉が乾燥して言葉が出てこない。
シロキの姿を見て、思わずわたしの神様が手の届く場所にいるような、そんな錯覚がして、床にこつんと膝をつく。
「おかえり」
口から勝手に出たのはそれだけだった。
シロキの性格だから「どうしちゃったの?」とあたふたされるかと思ったが、わたしの間違えだった。 ただ肩を包みわたしを覗き込む目は生命の神様のもの。「何も言わないで、わかってる」そうきれいな目が伝えてくれる。
「――会ってくれるかい? わたしの初めて造った悪魔と」
「悪魔も寝るの?」
まず、口を開いたのはカドだった。
「寝ているわけではないよ。お前もシロキも完成した直後はこんなだった。こいつは少し時間がかかってるだけよ」
「きれいな顔、早く目を開けてくれないかな」
悪魔の顔をつんつん突くカドから少し離れて、複雑な表情をしているシロキが心配だ。
何を考えているんだろう。
「シロキさんもこっちに来なよ。あんなに楽しみにしてたじゃない」
「うん……なんだか怖い」
「え?」
「怖いというのが正しいのかわからない。なんとなく、この変がおかしい」
胸の辺りを押さえながら、恥ずかしそうに笑うシロキを見て、わたしは今度こそはっきり恐怖を感じた。
やっぱりだ。何度初めて会ったって関係なく惹かれるんだ。
シロキがいつもの半分の歩幅でもぞもぞと悪魔に近づいていく。
怖い。シロキの間抜けな歩みに反して、深刻に怖い。
シロキが悪魔の前で屈みこむ。
だめだ、触れないで。
「――きれいだ」
そう言ってそっと青白い悪魔の頬に手をべったりつけ、撫でまわし始めた。
――おい、気持ち悪い触り方をするなよ。
びくっと悪魔の身体が動き、今まで目を閉じていたのが嘘のような俊敏さで、シロキの手を払った。
――あの男と同じ凍えた目。氷のような目でシロキを見ている。
拒絶されたかわいそうなシロキが涙を浮かべている。
「ごめん、僕……」
言葉に詰まって、自分の手を叱るようにぎゅっと握っている様子が見ていられない。
カドもおろおろとシロキと悪魔を交互に見ている。
悪魔がシロキから視線をそらした。これも全くあっけないそらし方だ。……こいつ性懲りもなく、何度もわたしの神様を……
今度はカドをじっと見つめている。
その冷たいだけだった目に柔らかい光がさし、優しく微笑んだ。
カドが照れ笑いを浮かべて悪魔に抱きついた。悪魔はされるがままで、少しも嫌そうではない。いや、正直に言うと嬉しそうだ。
おい、シロキを見ろよ、すっかり下を向いて肩を落としているじゃないか。
悪魔がカドの肩を軽く叩いて、静かに立ち上がった。
シロキももちろん気がついているが、緊張しているのか斜め下を見つめたまま動けないでいる。
悪魔が目の前に立つが、まだ顔をあげられない。そんな事は気にとめる様子もなく、悪魔が当然のようにシロキの頭に手を置いた。
シロキ、どうして今日は寝ぐせを直して来なかったんだ。悪魔に会いたくて慌てていたのか?
悪魔の手が柔らかい髪に触れて、寝ぐせを撫でた。わたしはもう駄目かもしれない。心が自分から離れそうで、痛い。せっかくもらったこの身体を捨てて鳥の門をくぐってしまいたい。
悪魔が小さく形の良い唇を動かした。
嫌だ、言わないで。それはわたしの—―
「俺の神様――」
その瞬間、わたしの心から何かが飛び立った音がした。
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