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第二章 選別の船
四対四対一
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オオミ
アオチさんがいぶかし気に僕を見ている。無理もない。僕がいきなり「僕たちは四対四対一なんです」なんて言ったからだ。
「何言ってんだよ」
やっぱりお人好しなアオチさんは気がついていない。
「ですから、僕たちは戦わなければならないんです。アオチさんと僕、無言ちゃんとウルウの四人、オゼさんとローヌさん、カオリさんとマモルくんの四人、回収人さんは中立です」
アオチさんが顔を押さえて頭を振る。
「俺、何時間寝てたんだ? 一体何があった」
発端はオゼさんだった。僕が温かいシャワーを浴び終え、ベッドに座りぼんやりしていると、ノックとほぼ同時にドアが開いた。
「ちょと、返事してから開けてくださいよ」
半裸で座っていた僕はあたふたして取りあえずベッドの上のタオルケットを肩から身体にまいた。
「だったら鍵をかけておけよ。そんなに恥ずかしがるな、こっちが気まずくなる」
オゼさんがどうでも良さそうに僕から目を逸らして、正面の椅子に座った。
「何か用ですか」
「大事な話があるんだ」
「僕にだけですか?」
部屋にまで入ってくるくらいだ。内緒の話なのか。
「実は先にアオチの部屋にも行ったんだ。……ぐっすり眠っていたからこっちに来た。そう言えば、あいつの部屋も鍵がかかってなかった。お前ら揃って無防備過ぎるぞ」
座って下を向いたままオゼさんが言う。
「すみません」
反射的に謝って次の言葉を待つ。
「…………」
どうして何も話さないんだ、急に乗り込んできておいて。
「――オゼさん?」
「ごめん、言いにくいことなんだ。俺は明日、新しい世界に行くことが決まっている。アオチはここに残る。お前はまだ決まっていない」
オゼさんが責任を果たしたというように、ふっと息をついて肩を降ろした。
「どういう意味ですか。何でオゼさんがそんな事、言い切れるんです」
「ローヌに聞いたんだよ」
「ローヌさんは向こうの回収人でしょ! 僕たちには関係ないじゃないですか!」
我を忘れて大きな声を上げてしまった。アオチさんが置いてかれるってどういうことだ?
「落ち着いてくれよ。俺はお前に……新しい世界に一緒に来て欲しいだけなんだから」
もう黙ってくれ、オゼさんを嫌いになりたくないのに! 乱れる呼吸を自覚しながら何とか答える。
「嫌です。僕もこっちの世界に残ります。それよりオゼさんとアオチさんを分けるものは何なんですか。僕が決まっていないって意味もわからない」
しばらく沈黙があった。この船に乗ってから一番波の揺れを感じていた。雷雨の時よりずっと。僕らの方がこんなに静かになったのが初めてだった。
ピクリとも動かず、次のオゼさんの言葉を待つ。
「――ごめん、言えない」
「……出て行ってください」
自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。オゼさんが新しい世界に行くことは勘づいていた。それはいいんだ、でもアオチさんがこっちに残るのが決定しているなんて知らなかった。到底受け入れられない。
「オオミ、聞いてくれ――」
取り繕うとするオゼさんの腕を取ってドアまで引っ張った。広い部屋ではないから、ほんの一歩半くらいだったけど、僕よりずっと背の高いオゼさんが驚いた顔で言う。
「お前、すごい力だな。なあ、もう少し話を聞いてくれよ、ショックだと思うけど、わかってもらえると思う」
「聞きたくないんです!」
どうして僕は無駄に勘が良いんだろう。オゼさんの言おうとしている事が全部わかる訳じゃない。でもその風景の欠片が浮かんで、思い出したくないことまで思い出してしまう。今、外が嵐ならば良かったのに、こんなこと考えずに済んだかも知れないのに。
「お願いだから……」
すがるようなオゼさんの声が僕の耳を殴る。聞いていられなくて、そのまま勢い良くドアを閉めた。
オゼさんはしばらくそこに居たみたいだ。気配を感じていた。
ドアにもたれて呆然としていると、背中に控え目な振動が響いた。
オゼさんでないのはわかったので、振り返り、そっと扉を開ける。
そこにいたのが無言ちゃんだった。
「そこで無言ちゃんに睡眠はイコール自殺と聞いたんです。それで、無我夢中でアオチさんを起こしに来たんです」
アオチさんが珍しく無表情だ。形の良い唇が何か言いかけの彫刻のように見える。
「それで、無言ちゃんはどこに行った?」
「……僕だけ慌ててここに来ちゃって。ドアの前で別れたきりで、わかりません」
「じゃあオゼはどうした」
アオチさんの声が向こうの船の中みたく無機質に響いた。いや、僕の後ろめたさのせいでそう聞こえるだけかも知れない。
「オゼさんなら……向こうの船にいます」
「どうして?」
平坦な口調がやっぱり僕を責めているように感じる。
「……無言ちゃんが教えてくれたことがもう一つあって、僕たちは違う船の中にいる間は自分から生える刃に殺されることはないんです。実際、無言ちゃんはこっちの船に来てからぐっすり眠ってしまったのに、何も起こらなかったんです。なので、オゼさんは向こうの船に行ったんじゃないか、と言ってました。今頃、気持ち良く眠りの世界かも知れませんね」
最後のセリフは嫌味に聞こえたよな、僕はどんどんアオチさんに嫌われていく。恐る恐るアオチさんの表情を探る。
――やっぱり僕への疑いの色が滲んでいた。
「アオチさん、僕はただ――」
「四対四対一、どうしてそうなった?」
静かにそう聞かれて、また穏やかな夜の始まりの海を恨んだ。
耐えられなくなって立ち上がり、窓の外を見る。
ここからは海しか見えない。気持ちが揺らいでしまう。あっちの船を見て気持ちをしっかり持たないと。
「アオチさん、食堂に行きませんか。僕、お腹が空きました」
アオチさんがいぶかし気に僕を見ている。無理もない。僕がいきなり「僕たちは四対四対一なんです」なんて言ったからだ。
「何言ってんだよ」
やっぱりお人好しなアオチさんは気がついていない。
「ですから、僕たちは戦わなければならないんです。アオチさんと僕、無言ちゃんとウルウの四人、オゼさんとローヌさん、カオリさんとマモルくんの四人、回収人さんは中立です」
アオチさんが顔を押さえて頭を振る。
「俺、何時間寝てたんだ? 一体何があった」
発端はオゼさんだった。僕が温かいシャワーを浴び終え、ベッドに座りぼんやりしていると、ノックとほぼ同時にドアが開いた。
「ちょと、返事してから開けてくださいよ」
半裸で座っていた僕はあたふたして取りあえずベッドの上のタオルケットを肩から身体にまいた。
「だったら鍵をかけておけよ。そんなに恥ずかしがるな、こっちが気まずくなる」
オゼさんがどうでも良さそうに僕から目を逸らして、正面の椅子に座った。
「何か用ですか」
「大事な話があるんだ」
「僕にだけですか?」
部屋にまで入ってくるくらいだ。内緒の話なのか。
「実は先にアオチの部屋にも行ったんだ。……ぐっすり眠っていたからこっちに来た。そう言えば、あいつの部屋も鍵がかかってなかった。お前ら揃って無防備過ぎるぞ」
座って下を向いたままオゼさんが言う。
「すみません」
反射的に謝って次の言葉を待つ。
「…………」
どうして何も話さないんだ、急に乗り込んできておいて。
「――オゼさん?」
「ごめん、言いにくいことなんだ。俺は明日、新しい世界に行くことが決まっている。アオチはここに残る。お前はまだ決まっていない」
オゼさんが責任を果たしたというように、ふっと息をついて肩を降ろした。
「どういう意味ですか。何でオゼさんがそんな事、言い切れるんです」
「ローヌに聞いたんだよ」
「ローヌさんは向こうの回収人でしょ! 僕たちには関係ないじゃないですか!」
我を忘れて大きな声を上げてしまった。アオチさんが置いてかれるってどういうことだ?
「落ち着いてくれよ。俺はお前に……新しい世界に一緒に来て欲しいだけなんだから」
もう黙ってくれ、オゼさんを嫌いになりたくないのに! 乱れる呼吸を自覚しながら何とか答える。
「嫌です。僕もこっちの世界に残ります。それよりオゼさんとアオチさんを分けるものは何なんですか。僕が決まっていないって意味もわからない」
しばらく沈黙があった。この船に乗ってから一番波の揺れを感じていた。雷雨の時よりずっと。僕らの方がこんなに静かになったのが初めてだった。
ピクリとも動かず、次のオゼさんの言葉を待つ。
「――ごめん、言えない」
「……出て行ってください」
自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。オゼさんが新しい世界に行くことは勘づいていた。それはいいんだ、でもアオチさんがこっちに残るのが決定しているなんて知らなかった。到底受け入れられない。
「オオミ、聞いてくれ――」
取り繕うとするオゼさんの腕を取ってドアまで引っ張った。広い部屋ではないから、ほんの一歩半くらいだったけど、僕よりずっと背の高いオゼさんが驚いた顔で言う。
「お前、すごい力だな。なあ、もう少し話を聞いてくれよ、ショックだと思うけど、わかってもらえると思う」
「聞きたくないんです!」
どうして僕は無駄に勘が良いんだろう。オゼさんの言おうとしている事が全部わかる訳じゃない。でもその風景の欠片が浮かんで、思い出したくないことまで思い出してしまう。今、外が嵐ならば良かったのに、こんなこと考えずに済んだかも知れないのに。
「お願いだから……」
すがるようなオゼさんの声が僕の耳を殴る。聞いていられなくて、そのまま勢い良くドアを閉めた。
オゼさんはしばらくそこに居たみたいだ。気配を感じていた。
ドアにもたれて呆然としていると、背中に控え目な振動が響いた。
オゼさんでないのはわかったので、振り返り、そっと扉を開ける。
そこにいたのが無言ちゃんだった。
「そこで無言ちゃんに睡眠はイコール自殺と聞いたんです。それで、無我夢中でアオチさんを起こしに来たんです」
アオチさんが珍しく無表情だ。形の良い唇が何か言いかけの彫刻のように見える。
「それで、無言ちゃんはどこに行った?」
「……僕だけ慌ててここに来ちゃって。ドアの前で別れたきりで、わかりません」
「じゃあオゼはどうした」
アオチさんの声が向こうの船の中みたく無機質に響いた。いや、僕の後ろめたさのせいでそう聞こえるだけかも知れない。
「オゼさんなら……向こうの船にいます」
「どうして?」
平坦な口調がやっぱり僕を責めているように感じる。
「……無言ちゃんが教えてくれたことがもう一つあって、僕たちは違う船の中にいる間は自分から生える刃に殺されることはないんです。実際、無言ちゃんはこっちの船に来てからぐっすり眠ってしまったのに、何も起こらなかったんです。なので、オゼさんは向こうの船に行ったんじゃないか、と言ってました。今頃、気持ち良く眠りの世界かも知れませんね」
最後のセリフは嫌味に聞こえたよな、僕はどんどんアオチさんに嫌われていく。恐る恐るアオチさんの表情を探る。
――やっぱり僕への疑いの色が滲んでいた。
「アオチさん、僕はただ――」
「四対四対一、どうしてそうなった?」
静かにそう聞かれて、また穏やかな夜の始まりの海を恨んだ。
耐えられなくなって立ち上がり、窓の外を見る。
ここからは海しか見えない。気持ちが揺らいでしまう。あっちの船を見て気持ちをしっかり持たないと。
「アオチさん、食堂に行きませんか。僕、お腹が空きました」
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