🍵毒にも薬にもならない、短いお話

弓屋 晶都

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母の宿題 - 今年の夏休みも、私は毎日子ども達に宿題をさせている。

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子供の頃『宿題』は『忘れましたごめんなさい』とセットだった。

毎日の宿題も、夏休みの宿題だって、毎日「忘れましたごめんなさい」と繰り返せば、そのうち先生だって諦める。
黒板の端に書かれた未提出者の名前が、一人、二人と減っていき自分だけになる。
先生によっては、このままで済ますものかと毎日名前を上からなぞってくれたりするのだが、それでも、そのうち大掃除だとか授業参観だとかそんなタイミングで消されて終わる。

地域の中学は、体育会系の気風が強いスポーツ強豪校で、平成の初めの頃は、まだ体罰がまかり通っており、竹刀やら木刀やら長い竹定規を持ち歩いている先生がいた。
そんなわけで、中学からは宿題を忘れれば数発殴られるようになった。
それでも、数発殴られる時間と家で宿題を解く時間を比較すれば、やはり殴られる方が早く済む。
私はそこでも、宿題をしない選択をしていた。

高校ではもう宿題は出なくなった。
出してもやるような生徒がいないのだろう。
中途退学者の多い学校で、授業も教室の半分以上生徒が埋まっていれば良い方だった。
卒業前に最後に受けた数学のテストはピクチャークロスワードだった。
先生が「これさえ出してくれたら、卒業にしてあげるから!」と生徒達に訴えかけていたのを、まだ覚えている。


そんなこんなで、私はここまで、宿題をやらずに生きてきた。


宿題を出さなくてはならなくなったのは、子どもが宿題を持ち帰るようになってからだった。

「別に宿題なんて、やりたくなきゃやらなくていいんだよ?」
私は宿題を面倒くさがる子ども達に、いつも言う。
けれど、子どもたちは、自分からは宿題をやらないくせに
「宿題できてないから学校行かない」とか
「先生に怒られるから学校行かない」とか言って
登校拒否をしてくれるのだ。

どうしてだろう。
やりなさいと言われたことをやらずに行くなら、相応に叱られるべきだと思う。
反省するしないかはともかく、宿題をやらない生徒に指導をするのは先生の仕事なのだから。
私の頃は殴られたり立たされたりしたものだが、今の学校ではそういう事もないらしいのに、なぜ嫌がるのか……。

「叱られる覚悟がないなら、宿題をやればいいんじゃないの?」と言えば「でもやりたくない」と言う。

そのくせ、登校は拒否するとはどういう了見だ。

学校へは行ってくれ。
授業を真面目に受ける受けないは個人の自由だけれど、給食を食べて帰ってきてくれ。
私は、お前達に昼ご飯を作るのが、めちゃくちゃ面倒臭い。

学校で嫌な目に遭ってるとか、そういう意味での登校拒否なら構わないが、お前達のそれは宿題さえやれば解決する。

そんなわけで、私は毎日宿題をさせるようになった。

夏休みにもなれば、子どもの持ち帰った書類の束をチェックして、何を何日までにさせれば間に合うのかと計画を立てて。
毎日、午前中のうちにドリルに向かわせて……。
今までやったことのない事をしているなと、我ながら思う。

けれど宿題をさせる手間と、学校を休ませるための各所連絡に昼ご飯の支度をする手間を天秤にかけて、私は人生で初めて宿題を選んだ。

そうして、この夏も私は宿題をさせている。
毎日毎日。
子どもは三人、各三歳差で私は十二年間は小学生の母親をする予定だ。

十二年、三人分の宿題は、もしかしたら私が今までやってこなかった宿題のツケなのかも知れない。

そんな事を考えながら、私は吐いたため息の倍空気を吸い込んで、今日も叫ぶ。
「ほーーらっ、動画見る前に宿題するよーーーっ!!」
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