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第4話 緑の丘 : 私をいつも励ましてくれる、緑の丘と、クジラのバンダナ。
5.サンドイッチ(2/2)
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ああ、フォルテがいてくれてよかった……。
心の底からそう思う。
フローラさんは、机の向こう側に大人しく座り込んでいる……ように見える。
ボウルをかぶったまま。
フォルテの持って来てくれた箒で、周囲の破片をざっと避けて、机の向こうに回りこむ。
へたり込んでいるフローラさんのボウルを外してみると、案の定、彼女は頭を机にぶつけた衝撃で目を回していた。
「やっぱり……。あのフローラさんが、じっとしてくれてるなんて、おかしいと思った」
ため息とともに呟くと、フォルテが心配そうにこちらを見上げていた。
「フローラおばさん……大丈夫……?」
「うん、多分大丈夫だよ。とりあえず、今のうちにお片付けして、お弁当作ってしまおうか」
「……フローラおばさんは?」
ラズベリー色の大きな瞳が不安そうに揺れる。
私の額に、一筋の汗が伝う。
「こ、このままにしとこう? とりあえず、ね」
フローラさんごめんなさい。
心の底から、フローラさんに謝る。
本当は、ソファーか何かに寝かせてあげる方が良いだろうとは思うのだけれど、私とフォルテでは、頭と足を持って移動することになってしまうだろうし、その拍子に目を覚まされてしまっては、また同じことの繰り返しになりそうな予感がヒシヒシする。
いや、もうこれは、予感というよりも、確信に近かった。
ちょうど、サンドイッチを大きなバスケットに詰め終えると同時に、フローラさんが意識を取り戻した。
「まぁ、これは……。ベトベトだわ~……」
一応、フローラさんが頭からかぶっていたサラダはそうっと除けたり拭いたりしておいたが、
それでも服はドレッシングまみれだし、一度シャワーを浴びてくるしかないだろう。
「フローラさんっ、ど、どこか痛いところはありませんか?」
慌てて駆け寄る。もちろん、バスケットに蓋をして、部屋の隅に寄せてから、だけど。
「痛いところ?」
ペタペタと自分の体をあちこち触ってみてから、フローラさんがふんわりとした笑顔で答える。
「無いわよ~♪」
な、無いことは無い気がするんだけど……。
「あの、頭とか……ぶつけていませんか?」
言われて、頭を擦ってみるフローラさん。
「大丈夫~♪」
しかし、答えは変わらなかった。
きょろきょろと辺りを見回して、フローラさんが言う。
「あらぁ……? 私、もしかしてちょっと寝てたかしら……」
寝ていたというか。伸びていたわけだが。
部屋に飛び散った様々な物も、ほとんど片付け終わっていた。
「ほんとに、どこも、痛くないの……?」
フローラさんの脇に屈んでいたフォルテが、瞳をうるうるさせながら尋ねている。
色々と痛みを想像しているのだろう。
しかし、フローラさんには、何かを我慢するような様子もなく、うんうん頷きながら「痛くないわよ~」とフォルテの頭をふわふわと撫でて
「ちょっとシャワー浴びてくるわね~」
と台所を出て行ってしまった。
すたすたと、確かな足取りで。
それを二人でぼんやり見送っていると、隣のフォルテがこちらを見上げる。
「ラズぅ……フローラおばさんは、どうして痛いとこ無いの……?」
どうしてと問われても困るが……。
フォルテの質問からは、既に心配というよりも、理解できない事が恐ろしいという雰囲気を感じ取れた。
「うーん……フローラさんは、頑丈だからね」
同じく、頑丈さには定評のあるスカイだが、彼の人並みはずれたタフさは、タフさが売りの聖騎士であるクロスさんから受け継いだというよりも、このフローラさんから継いだ物であるような気がしてならない。
あれだけ年中何かしらひっくり返したり、被ってみたり、壊してみたりしているわりに、フローラさんの体に傷ひとつ残っていないのは、本人に治癒術が出来るからだけではないようだった。
年中吹っ飛ばされたり、燃やされかけたり、変な薬を飲まされたりしているスカイが、未だに死に直面するほどの怪我を負ったことが無いのも、全てはフローラさん譲りのタフさがあるからこそではないだろうか。
首の辺りがむずむずする。
指で触れると、若干不快にべたつく感触がある。
そういえば、さっき牛乳をかぶってそのままだっけ。
もちろんふき取りはしたけれど、このままでは臭ってきそうな予感がする。
「私も、ピクニックの前にシャワー浴びて来るね」
「うんー……」
しきりに首を捻りながら、上の空で返事をするフォルテに、
「あのバスケットをお願いね」
と念を押しておく。
「あっ、うんっっ!!」
言わんとすることが分かってか、慌てて真剣な眼差しでこちらに向き直るフォルテ。
つまりフォルテは、私がシャワーから出て身支度を整える間、あのバスケットをフローラさんから死守しなければならなかった。
「すぐ出てくるからね」
「うんっ」
フローラさんのお風呂は驚くほど早い。
いつもふわふわとスローペースで動いているように見えるフローラさんだけに、それはとても意外に思える。
フローラさんが出次第入れるように、私は部屋へ服を取りに向かった。
心の底からそう思う。
フローラさんは、机の向こう側に大人しく座り込んでいる……ように見える。
ボウルをかぶったまま。
フォルテの持って来てくれた箒で、周囲の破片をざっと避けて、机の向こうに回りこむ。
へたり込んでいるフローラさんのボウルを外してみると、案の定、彼女は頭を机にぶつけた衝撃で目を回していた。
「やっぱり……。あのフローラさんが、じっとしてくれてるなんて、おかしいと思った」
ため息とともに呟くと、フォルテが心配そうにこちらを見上げていた。
「フローラおばさん……大丈夫……?」
「うん、多分大丈夫だよ。とりあえず、今のうちにお片付けして、お弁当作ってしまおうか」
「……フローラおばさんは?」
ラズベリー色の大きな瞳が不安そうに揺れる。
私の額に、一筋の汗が伝う。
「こ、このままにしとこう? とりあえず、ね」
フローラさんごめんなさい。
心の底から、フローラさんに謝る。
本当は、ソファーか何かに寝かせてあげる方が良いだろうとは思うのだけれど、私とフォルテでは、頭と足を持って移動することになってしまうだろうし、その拍子に目を覚まされてしまっては、また同じことの繰り返しになりそうな予感がヒシヒシする。
いや、もうこれは、予感というよりも、確信に近かった。
ちょうど、サンドイッチを大きなバスケットに詰め終えると同時に、フローラさんが意識を取り戻した。
「まぁ、これは……。ベトベトだわ~……」
一応、フローラさんが頭からかぶっていたサラダはそうっと除けたり拭いたりしておいたが、
それでも服はドレッシングまみれだし、一度シャワーを浴びてくるしかないだろう。
「フローラさんっ、ど、どこか痛いところはありませんか?」
慌てて駆け寄る。もちろん、バスケットに蓋をして、部屋の隅に寄せてから、だけど。
「痛いところ?」
ペタペタと自分の体をあちこち触ってみてから、フローラさんがふんわりとした笑顔で答える。
「無いわよ~♪」
な、無いことは無い気がするんだけど……。
「あの、頭とか……ぶつけていませんか?」
言われて、頭を擦ってみるフローラさん。
「大丈夫~♪」
しかし、答えは変わらなかった。
きょろきょろと辺りを見回して、フローラさんが言う。
「あらぁ……? 私、もしかしてちょっと寝てたかしら……」
寝ていたというか。伸びていたわけだが。
部屋に飛び散った様々な物も、ほとんど片付け終わっていた。
「ほんとに、どこも、痛くないの……?」
フローラさんの脇に屈んでいたフォルテが、瞳をうるうるさせながら尋ねている。
色々と痛みを想像しているのだろう。
しかし、フローラさんには、何かを我慢するような様子もなく、うんうん頷きながら「痛くないわよ~」とフォルテの頭をふわふわと撫でて
「ちょっとシャワー浴びてくるわね~」
と台所を出て行ってしまった。
すたすたと、確かな足取りで。
それを二人でぼんやり見送っていると、隣のフォルテがこちらを見上げる。
「ラズぅ……フローラおばさんは、どうして痛いとこ無いの……?」
どうしてと問われても困るが……。
フォルテの質問からは、既に心配というよりも、理解できない事が恐ろしいという雰囲気を感じ取れた。
「うーん……フローラさんは、頑丈だからね」
同じく、頑丈さには定評のあるスカイだが、彼の人並みはずれたタフさは、タフさが売りの聖騎士であるクロスさんから受け継いだというよりも、このフローラさんから継いだ物であるような気がしてならない。
あれだけ年中何かしらひっくり返したり、被ってみたり、壊してみたりしているわりに、フローラさんの体に傷ひとつ残っていないのは、本人に治癒術が出来るからだけではないようだった。
年中吹っ飛ばされたり、燃やされかけたり、変な薬を飲まされたりしているスカイが、未だに死に直面するほどの怪我を負ったことが無いのも、全てはフローラさん譲りのタフさがあるからこそではないだろうか。
首の辺りがむずむずする。
指で触れると、若干不快にべたつく感触がある。
そういえば、さっき牛乳をかぶってそのままだっけ。
もちろんふき取りはしたけれど、このままでは臭ってきそうな予感がする。
「私も、ピクニックの前にシャワー浴びて来るね」
「うんー……」
しきりに首を捻りながら、上の空で返事をするフォルテに、
「あのバスケットをお願いね」
と念を押しておく。
「あっ、うんっっ!!」
言わんとすることが分かってか、慌てて真剣な眼差しでこちらに向き直るフォルテ。
つまりフォルテは、私がシャワーから出て身支度を整える間、あのバスケットをフローラさんから死守しなければならなかった。
「すぐ出てくるからね」
「うんっ」
フローラさんのお風呂は驚くほど早い。
いつもふわふわとスローペースで動いているように見えるフローラさんだけに、それはとても意外に思える。
フローラさんが出次第入れるように、私は部屋へ服を取りに向かった。
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