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第2話 赤いリボン (7/9)
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深い森の木々の間を、木漏れ日が淡く揺れて彩る。
美しく、どこか神聖な気配すらする森の中には、小さく輝く精霊達が飛んでいた。
「きれい……」
思わず漏らした私の呟きに、カタナは満足そうに頷いて言った。
「そうだろう。俺もこのワールドは好きなんだ。遺跡も多くていい」
レベル20から入れるというこのワールドは、初心者向けのワールドよりももっと広そうだ。
「遺跡……?」
「こっちだ」
カタナの後ろをついて歩く。
森の中は今までの平坦なワールドと違って足元にも起伏があって、しょっちゅう段差につまづきながらも、私たちは時々出てくる草の塊のようなモンスターと木のお化けのようなモンスターを倒しながら進んだ。
カタナのくれた火矢は森のモンスター達にいつもの矢の倍以上のダメージが出て、私はカタナがタゲを取ってくれる敵をありがたく後ろから射させてもらって、レベルもひとつ上がった。
その先に、森の中でも少しひらけた場所があった。
まるでギリシャ神話にでも出てきそうな、真っ白な石柱。
けれどそれはところどころが折れて、蔦に絡まれ、朽ちかけていた。
「神殿……?」
「ああ、神殿の遺跡だな。昔、暗闇の使徒を打ち払った光の大龍が祀られていたらしい」
言いながら、カタナは神殿の中へと進む。
「ほら、このマーク、DtDのタイトルロゴの後ろの紋章に似てるだろ?」
カタナの足元には、崩れて落ちた神殿のエンブレムのようなものがあった。
「DtDの起源に近い話なんじゃないかと俺は思ってる」
へぇ……。
きなこもちは、そのエンブレムに興味があるのかコツンコツンと頭突きしている。
視界の端に動くものの気配があって、カタナがタゲを取りに行く。
ころん。とエンブレムから七色に輝く小さな石が外れた。
「ちょっと、きなこもち、壊しちゃダメだよ」
いくら朽ちた神殿って言っても……。
私が内心で焦っている間に、きなこもちはその小さな石をパクッと食べてしまった。
「ぇええ!?」
「どうした?」
思わずあげた私の声に、カタナが慌てて戻ってくる。
「え……と、きなこもちが……」
カタナの後ろには、銀色の大きなオオカミがついてきていた。
「っ、と、悪い、先にこれ倒してもらえるか? 俺もちょっと叩くから」
カタナは、4~5回に一度ほどダメージを喰らっている。
その数字は700を超えていた。
慌てて矢を射始めるが、ダメージの表示は20そこらしか出ない。
「矢を鉄の矢に戻して、スキルも使って」
カタナに言われる通りにすると、通常で40ほど、スキルで200ほどのダメージが出る。
敵のHPはそれでもまだまだある。
カタナは両手の籠手から生えたような剣を握り締めると、目にも止まらないくらいのスピードで敵を斬りつけた。
「うわぁ……攻撃早いね」
「俺なんかまだまだだよ」
「カタナってレベルいくつなの?」
聞いてから、相手のプロフィールかパーティーのメンバー一覧を見れば良かったんだと気付いたけれど、カタナは気にせず答えてくれた。
「60」
うーーーん。近いのか遠いのかよくわかんないなぁ。
私は今23になったとこだけど、昨日始めたばっかりだし。
意外とすぐ追いつけるものなのか、それともここから先はならなか上がらないのか……?
私の疑問に気づいたのか、カタナは叩くのをやめて敵に背を向け私を見て話す。
「40越えると、少しずつレベル上げが大変になるな。60くらいまでくれば中級者って感じで、80超えると上級者ってとこだろう」
時々ダメージを喰らいながら、時々ポーションを飲みながら。
敵のHPは残り1/3ほどにはなっていたけれど、私の攻撃だけではそこから先が中々進まない。
カタナは私がもう面倒になったらあとは倒すから言ってくれ。と地面に座り込んだ。
時々、攻撃を喰らうと立ち上がる。その度に座っている姿がなんだかちょっとおかしい。
座っていれば時々緑色の数字が出て、多少は回復してるんだというのが分かった。
なんとか倒し切ると、レベルがもう一つ上がる。
「ひとつしか上がらなかったか。俺がもうちょっと叩きすぎないようにしておけば良かったな」
反省するカタナに笑って返しながら、その後ろを歩いていくと、今度は少しだけ開けた場所に何かの跡だけが残った土地があった。
「あの神殿を祀っていた集落は、ここにあったんだろうな。おそらく木造家屋だったから、基礎や井戸の跡くらいしか残ってないんだ」
「確かにこのワールドは木ばっかりだもんね。でも、それならあの神殿の材料は……」
「この向こうに大きな鍾乳洞がある。多分そこから切り出したんだろうな」
「へぇー……鍾乳洞……」
私の発言に、カタナが慌てて言葉を足す。
「鍾乳洞の敵は強いから、レベルが30超えてからな」
「あはは、残念」
「まあ、今日中に25まではいけるだろう」
言いながら、カタナは地面に半分ほど埋まっている何かの建物の跡を撫でる。
「様々な街にいるNPCの発言を繋ぎ合わせて、この世界の歴史を辿るのが楽しいんだ」
「へえー。そんな楽しみ方もあるんだね」
ゲームって、なんかレベルを上げたりアイテムを集めたりするだけのイメージだったけど、それ以外にも色んな楽しみ方をする人がいるんだなぁ……。
個人商店でポーションをいつも売ってるって人も、それはその人なりの楽しみ方なんだなぁと私はぼんやり思う。
後から知った事だけど、DtDには武器を作るのに命をかけてる人もいれば、謎解きイベントをやったり、ゲームの中でお芝居をしたり、料理に全力だったりと、本当に人それぞれの楽しみ方があった。
美しく、どこか神聖な気配すらする森の中には、小さく輝く精霊達が飛んでいた。
「きれい……」
思わず漏らした私の呟きに、カタナは満足そうに頷いて言った。
「そうだろう。俺もこのワールドは好きなんだ。遺跡も多くていい」
レベル20から入れるというこのワールドは、初心者向けのワールドよりももっと広そうだ。
「遺跡……?」
「こっちだ」
カタナの後ろをついて歩く。
森の中は今までの平坦なワールドと違って足元にも起伏があって、しょっちゅう段差につまづきながらも、私たちは時々出てくる草の塊のようなモンスターと木のお化けのようなモンスターを倒しながら進んだ。
カタナのくれた火矢は森のモンスター達にいつもの矢の倍以上のダメージが出て、私はカタナがタゲを取ってくれる敵をありがたく後ろから射させてもらって、レベルもひとつ上がった。
その先に、森の中でも少しひらけた場所があった。
まるでギリシャ神話にでも出てきそうな、真っ白な石柱。
けれどそれはところどころが折れて、蔦に絡まれ、朽ちかけていた。
「神殿……?」
「ああ、神殿の遺跡だな。昔、暗闇の使徒を打ち払った光の大龍が祀られていたらしい」
言いながら、カタナは神殿の中へと進む。
「ほら、このマーク、DtDのタイトルロゴの後ろの紋章に似てるだろ?」
カタナの足元には、崩れて落ちた神殿のエンブレムのようなものがあった。
「DtDの起源に近い話なんじゃないかと俺は思ってる」
へぇ……。
きなこもちは、そのエンブレムに興味があるのかコツンコツンと頭突きしている。
視界の端に動くものの気配があって、カタナがタゲを取りに行く。
ころん。とエンブレムから七色に輝く小さな石が外れた。
「ちょっと、きなこもち、壊しちゃダメだよ」
いくら朽ちた神殿って言っても……。
私が内心で焦っている間に、きなこもちはその小さな石をパクッと食べてしまった。
「ぇええ!?」
「どうした?」
思わずあげた私の声に、カタナが慌てて戻ってくる。
「え……と、きなこもちが……」
カタナの後ろには、銀色の大きなオオカミがついてきていた。
「っ、と、悪い、先にこれ倒してもらえるか? 俺もちょっと叩くから」
カタナは、4~5回に一度ほどダメージを喰らっている。
その数字は700を超えていた。
慌てて矢を射始めるが、ダメージの表示は20そこらしか出ない。
「矢を鉄の矢に戻して、スキルも使って」
カタナに言われる通りにすると、通常で40ほど、スキルで200ほどのダメージが出る。
敵のHPはそれでもまだまだある。
カタナは両手の籠手から生えたような剣を握り締めると、目にも止まらないくらいのスピードで敵を斬りつけた。
「うわぁ……攻撃早いね」
「俺なんかまだまだだよ」
「カタナってレベルいくつなの?」
聞いてから、相手のプロフィールかパーティーのメンバー一覧を見れば良かったんだと気付いたけれど、カタナは気にせず答えてくれた。
「60」
うーーーん。近いのか遠いのかよくわかんないなぁ。
私は今23になったとこだけど、昨日始めたばっかりだし。
意外とすぐ追いつけるものなのか、それともここから先はならなか上がらないのか……?
私の疑問に気づいたのか、カタナは叩くのをやめて敵に背を向け私を見て話す。
「40越えると、少しずつレベル上げが大変になるな。60くらいまでくれば中級者って感じで、80超えると上級者ってとこだろう」
時々ダメージを喰らいながら、時々ポーションを飲みながら。
敵のHPは残り1/3ほどにはなっていたけれど、私の攻撃だけではそこから先が中々進まない。
カタナは私がもう面倒になったらあとは倒すから言ってくれ。と地面に座り込んだ。
時々、攻撃を喰らうと立ち上がる。その度に座っている姿がなんだかちょっとおかしい。
座っていれば時々緑色の数字が出て、多少は回復してるんだというのが分かった。
なんとか倒し切ると、レベルがもう一つ上がる。
「ひとつしか上がらなかったか。俺がもうちょっと叩きすぎないようにしておけば良かったな」
反省するカタナに笑って返しながら、その後ろを歩いていくと、今度は少しだけ開けた場所に何かの跡だけが残った土地があった。
「あの神殿を祀っていた集落は、ここにあったんだろうな。おそらく木造家屋だったから、基礎や井戸の跡くらいしか残ってないんだ」
「確かにこのワールドは木ばっかりだもんね。でも、それならあの神殿の材料は……」
「この向こうに大きな鍾乳洞がある。多分そこから切り出したんだろうな」
「へぇー……鍾乳洞……」
私の発言に、カタナが慌てて言葉を足す。
「鍾乳洞の敵は強いから、レベルが30超えてからな」
「あはは、残念」
「まあ、今日中に25まではいけるだろう」
言いながら、カタナは地面に半分ほど埋まっている何かの建物の跡を撫でる。
「様々な街にいるNPCの発言を繋ぎ合わせて、この世界の歴史を辿るのが楽しいんだ」
「へえー。そんな楽しみ方もあるんだね」
ゲームって、なんかレベルを上げたりアイテムを集めたりするだけのイメージだったけど、それ以外にも色んな楽しみ方をする人がいるんだなぁ……。
個人商店でポーションをいつも売ってるって人も、それはその人なりの楽しみ方なんだなぁと私はぼんやり思う。
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