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弓屋 晶都

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第2話 赤いリボン (9/9)

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「!?」

カタナはタゲを取っていた木のお化けを速やかに斬り倒す。
背後に跳ぶようにして一瞬で私の前に来ると、私を背に庇った。

「何だ……!? マップ内の背景が……倒れるなんて……」
ごくり。とカタナが喉を鳴らす音が小さく聞こえる。

ええと……、危なくなったらログアウト。だよね?
夢の中でもできるかどうかは分かんないけど……。

バラバラと木の破片を浴びながら木の葉の合間から姿を現したのは、昨日と同じ黒いロボットのようなモンスターだった。

「またか! ――っ、こっちだ!!」
カタナは私の手を引いて走り出す。
走りながら、カタナは誰かにメッセージを送る。
私達は敵が侵入しないはずの大樹のマップに逃げ込む。

けれど、それはそこへも侵入してきた。
「くそ……ダメか……」
ジリジリと睨み合いつつ黒いモンスターとの距離を取るカタナが、その額にじわりと汗を滲ませる。

ええと、その……手……。手を繋がれてるんだけど……??
私は別のことで頭がいっぱいになっていた。
あったかい。
カタナの手が、あったかいよ??

カタナがまたメッセージを送る。と、次の瞬間、空から真っ赤な影が降ってきた。

それは燃える炎のような赤い髪の少年だった。
私たちと黒いモンスターの間に降り立った彼は、大きなゴーグルをぐいと頭上にずらして、ちらりと私たちに視線を投げて言う。
「バグ報告ありがとう! もう大丈夫だよ!」

……バグ?

戸惑う私に、カタナが昨日のあれからの話をする。
昨日のあの黒いモンスターは、バグだったそうだ。
そして、今後またバグに遭遇した時は連絡するように、と連絡先を教えてもらっていたカタナが早急に報告したところらしい。
「座標添えてもらえて助かったよ、すぐ駆けつけられた」
言いながら少年は真っ赤な炎でバグを焼く。
黒いモンスターは炎の中で苦しげにもがいていた。

ふと、きなこもちが私の後ろに隠れて震えているのに気付く。
昨日もそうだったよね。炎が怖いのかな……?
「ケースに戻る?」
そっと尋ねると必死で頷かれて、私はきなこもちをケースに戻した。

少年は、バグが完全に燃え尽きたのを確認して、私たちに向き直った。
「君たちは、昨日もバグに遭遇してた子たちだね」
「はい」
とカタナが答える。
「二日続けてなんて不運だったね。バグはDtD全体で一日に1~2匹は湧くもんだけど、同じサーバに続けて……しかも同じプレイヤーが遭遇するなんて……」
赤い髪の少年は、緑色の大きな瞳をきらりと揺らして私たちを見つめる。

ええと……、なんだろう。
もしかして私達、何か疑われてるのかな……?

「カタナ君とは昨日も話したんだけど、そっちのキミは途中で落ちちゃったから話をするのは初めてだね」
赤い髪の少年はニコッと笑うと元気いっぱいに右手を差し出してきた。
あ、握手、なのかな? 私はおずおずと手を握り返す。
すると少年はもう片方の手で私の手を挟むように握って、ぶんぶんと上下に振った。
「初めまして! 僕はバグ退治が専門のGM(ゲームマスター)、GM908ラゴだよ。ラゴって呼んでくれたらいいよ」
「は、はあ……。ラゴさん、初めまして……」
私が彼の圧に押されつつなんとか答えると、ラゴはにっこり笑って尋ねた。
「今日も、バグがどこからどんな風に発生したのか君たちのわかる限り事を教えてもらいたいんだけどいいかい?」
「はい」と答えたカタナが、スラスラといつもの早口で状況を順に説明してゆく。

モンスターの侵入不可マップに逃げ込んだけれど、侵入されてしまった事などの説明を一通り終わらせると、ラゴは「なるほど……」と何やら考え込む仕草をした。
ふ、と緑の大きな瞳が私を見る。
緑の大きな瞳は奥深くまでキラキラしていて、なんだか宝石みたいだ。
「みさみささんは、何かおかしなことに気付いたりしなかった?」
尋ねられて私は反射的に首を振る。
おかしなことなんて、何も………………。

あ。でも、きなこもちがなんか拾って食べてたような……。
いやそれはバグには関係ないか。

「そっか。何か分かったことがあれば、いつでもGMホットラインまで連絡してね。あ、バグのことなら僕に直接でもいいよ」
そう言ってラゴは私にフレンド登録を求めてきた。
そうして、DtDでの私のフレンドは今日、0人から2人になった。
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