【クラフト小学校】消えた水着写真と爆破予告【ぬいぐるみグループ】

弓屋 晶都

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第四話 夜の学校と爆弾 (3/4)

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「いや待て。誰の声だよ。樹生さん一人じゃなかったのか?」
千山くんがキョロキョロしてる。
「彼は何をしているんだい?」
セオルがたずねた時、職員室からプシュッと小さい音が聞こえた。
この音、さっきも聞いたよね?
私はそーっと職員室の中をのぞく。
「ペットボトル?……を、立ててるのかな?」
「ふむ……」
セオルが丸いあごに手を当てて、何か考えるような仕草をする。
不審者はスマホを光源にしているのか、暗い職員室の中で不審者の手元だけがぼんやりと光っているが、ここからでは何をしているのかまでは見えない。

カチャカチャとかすかな金属の音がして、また静かになる。
不審者は大きな箱からゴソゴソと荷物を取り出して……あれは新しいペットボトル?
少し場所を移動して、またプシュッと音がした。

「何やってんだ? あいつ……」
千山くんがいつもよりはずっと小さな声で呟く。それでも結構大きいけど。
もしかして千山くんはそれが気になってこんなとこにずっと居たのかな。
さっさと出てきてくれたらいいのに。
そうだ。早く千山くんを連れ出して、ここを離れなきゃ。

その時また甘い匂いがした。
「あ、これコーラの匂いだ」
私の呟きに、千山くんが思い出したように口を開く。
「そういや、コーラにメントス入れると噴き出すらし……」
重なるように、セオルが言った。
「あれは爆弾のようだね」
「爆弾!?」
ぞうさんの声に、もがもがという千山くんのうめきが重なる。
千山くんの口は私がギリギリ塞いだ。だって絶対叫ぶと思ったもん。
「けれど心配はいらないよ、他に人はいないようだし、被害はせいぜい職員室がコーラまみれになるくらいだから。ボクたちも早急にここを離れよう。窓ガラスが割れると危ない」
「はぁ!? そんなの見過ごせねーだろ!?」
ガバッと千山くんが立ち上がる。
ちょっ、声が大きいって!

今まで静かだった職員室では次々にシャカシャカと派手な音が聞こえて、不審者が慌てたように反対の出入り口……階段に近い方へと走り出す。
入れ替わるように千山くんが職員室に駆け込んだ。
「ちやまくんっ!? どうするつもりなの!?」
職員室の真ん中の通路には、等間隔でコーラのペットボトルらしきものが並んでいる。
「わ、おっきい」
いつも店で見かけるサイズよりも大きなコーラのボトル。
二リットルはありそうだ。
ガララッと窓を開ける音に顔をあげると、千山くんが職員室の窓を開け放っていた。
「こーすんだよっ!」
「窓から捨てる気なのか。確かに、あの下は校庭だし被害はかなり抑えられるね」
セオルが納得してペットボトルを持ち上げようとする。けど小さなぬいぐるみでは二リットルのボトルは持ち上がらなくて当然だ。
私は急いでボトルを持ち上げると、窓の外に投げた。
「樹生さん! 危ねーから外出てろ!」
千山くんはボトルを二本抱えて窓から捨てながら叫ぶ。
「わ、わたしだって帰りたいけど! ちやまくんが帰んないからっ!!」
私はやけくそで叫び返した。
ボトルの間を走り回っていたセオルが「向こうの端から順に破裂する!」と階段の反対側をステッキで指す。
「こっちだって、ちやまくんっ」
「わかった!」
「残りのボトルは中央の廊下に二本ずつ五箇所、部屋の四隅に二本ずつだよ!」
ってそんなにまとまってたっけ? もうちょっとバラバラじゃなかった?
よく見れば、部屋の隅のボトルがズズ、ズズズともう一本のボトルに近づいている。
そっか。ぞうさんがまとめてくれてるんだ。

「これを捨てたら、あと四本……っ!」
ボトルを落として窓に背を向けた瞬間、バァン! と大きな音がして、学校が揺れた。
え……。
こんな……。こ、こんなに、激しく、爆発するものなの……???

そういえばさっきセオル窓ガラスが割れるとか言ってなかった??

続いて、バァン! ともう一つ窓の外から破裂音。
その衝撃に心臓がギュッと掴まれるみたいに苦しくなる。

「そろそろ時間がなくなってきたよ!」
セオルの声にも焦りが浮かぶ。

そうだ。早く捨てないと……。

私の方が近かったのに、千山くんが、ボトルを二本抱えてまた窓へ走る。

あと……、あと二本……。

頭ではわかってるのに、あの音を聞いてから足も手もガタガタ震えて、ボトルに近づくのが怖くてたまらない。
握っている時に、あんな風に破裂したら、私はどうなるんだろう。
ケガくらいでは済まないんじゃ……。

「仕方ない、最後の二本は諦めよう! 全員廊下に退避だ!」

セオルの指示で、全員が廊下に出る。
「このくらい距離を取れば十分だろう」
セオルが言うあたりで私たちは柱の影に隠れて、最後の二本が爆発するのを待った。
「くそ、もうちょいだったのに!」
千山くんは悔しそうだ。
あの時私が、怖くて立ち止まってしまったから……。
罪悪感が胸いっぱいに広がる。
「みこと、気にすることないよ。みことは十分頑張っていたよ」
ぞうさんがやさしく言ってくれたけど、私はそう思えなくて、黙ってぞうさんを抱きしめた。
窓の外では、バァン! と大きな破裂音が途切れ途切れに続いている。 
セオルは廊下側の窓から外をじっと見ていた。
「警察が来てくれたようだね」
セオルの言葉の後で、ひらひら動く赤い光が窓から入って校舎内を照らす。
パトカーのランプかな。サイレンは鳴らさないで来たんだね。
セオルはまだ窓の外を見続けている。
私も窓の外を見ようと立ち上がりかけると、セオルは「まだそこに隠れていて、マイレディ」と言った。

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