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第33話 人間じゃないっぽい その1
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ルドが語ってくれたこの話は、彼の一族に語り継がれる話で、実話なのだという。となると、話に出てくる男は、ルドの祖先ということだ。確かに、ルドの髪も緑色をしている。だけど、そんなに重要なことを、どうしてずっと忘れていたのだろう。
「俺は、エタと同じように、物心ついたときには、孤児院にいた。ウィルに渡したペンダントは、母の形見だと聞いていたが、俺に母の記憶はなかった。孤児院の環境が合わず、十歳になる頃には、孤児院を出て、路地裏で一人で暮らすようになっていた」
「一人で!?」
「ああ。一人と言っても、路地裏には、俺と同じように、住む家のない者たちがたくさん集まっていた。その中でも俺は最年少だったから、今思えば、そこに住んでいる大人たちに、よく面倒を見てもらっていたと思う。だがある日、俺たちの住む路地裏に、城からの視察団が来ることになったんだ。視察と言っても、それは表向きのことで、本当は、国の評判を貶める原因になりかねない俺たちを排除するために来るのだと、誰もがわかっていた。綺麗な服を身に纏って、俺たちのことを蔑んだ目で見つめる奴らに我慢ができず、周りの制止を振り切って、持っていた短刀で、切りかかったんだ。そのとき俺が切りかかった相手が、ディアーク陛下だった」
「え!?」
嘘だろ。だって、ルドは、ディアーク陛下に命じられて、僕の護衛になったはず。そんな過去があったなら、ルドを護衛にした理由がわからない。
「ディアーク陛下は、当時、即位されたばかりだった。本来であれば、浮浪者が住み着く路地裏に、王が来るなんてことはあり得ない。だが陛下は、自分の目で見て、国のことをもっとよくお知りになりたいと考えられた。そこで、浮浪者の住む路地裏の視察に、同行されていたんだ。普通だったら、王に刃を向けた者など、即処刑だ。だが、ディアーク陛下は、そうなさらなかった。俺がまだ子供だったこともあり、恩赦を与えてくださった。そればかりか、俺の剣の腕を認めて、騎士団に入団させてくれたんだ。路地裏でに住んでいた者たちにも、それぞれ住む場所を無償で提供し、彼らが職に就けるよう、色々と配慮してくださった。俺は、その恩に報いるため、がむしゃらに剣の腕を磨いた。そのおかげで、騎士団に入団して数年後には、俺の剣は、国一番と言われるまでになっていた。だが、他の騎士団の連中は面白くなかっただろう。なんせ、自分よりも遥かに年下の若造に、剣で適わないんだ。いろんな嫌がらせを受けた。俺は、やっと見つけたと思っていた自分の居場所でも、孤立してしまっていた。そんなとき、再び、ディアーク陛下が、俺に声をかけてくださった」
「それって、もしかして」
「ああ、ウィルの護衛だ。当時、俺は、第一騎士団の団長になることが決まっていた。それと同時に、嫌がらせもどんどん酷くなっていた。陛下と国のためにこの身を捧げることを誓ったが、この嫌がらせに耐える意味はあるのかと、当時の俺はどこかそう思っていた。だから、ウィルの護衛の話は、俺にとって、ある種の救いだった。そんな理由で護衛になったことをすまないと思っている」
「そんな、僕はルドが護衛になってくれてたから、今まで生きて来れたって本気で思ってる。護衛になった経緯とか、そんなの気にしないよ」
「……ありがとう。俺は、物心ついた時から、家族はおらず、母の形見と言われて渡されたペンダントとこの身一つで生きてきた。だが、ウィルの歌を聴いて思い出したんだ」
「一族に伝わるさっきの伝承?」
「ああ。俺が記憶を失っていたのは、母がかけた魔法によるものだ。俺の一族は、いわゆる、『魔族』なんだ。」
「は? マゾク?」
ちょっと待て、ちょっと待て。エルフとかがいる世界だから今更魔族がいたって驚かないけどさ、それにしても、ルドが魔族となると、話が違う。驚く。凄く驚く!
だって、ルドは魔法が苦手だったよね? え? 僕が思っている魔族って、もしかして、ルドが言ってる魔族と違うの? 魔族って言ったら、めっちゃ魔力持ってて、めっちゃ魔法得意そうじゃない?
「ああ、魔族だ。ウィルは、さっきの伝承を聞いてどう思った?」
「どうって……」
なんか、どこかで聞いたことのある話だな~とは思ったけど――そうか! ハインツさんが話していた、エルフ族に伝わる伝承と似ているんだ。それに、ハインツさんが話していた伝承は、僕がリヒトリーベで教わった伝承とも似ている部分があった。
「もしかして、僕が知っていた伝承も、エルフ族の伝承も、全部同じ話なの……?」
「ああ、恐らくそうだ。伝承というのは、長い年月をかけて、その内容を変えていくのが普通だ。俺たちの先祖は、その昔、安らぎを司る神と言われる存在だった。だが、歌姫の力を持つ妖精と生命力を共有したことで、その力を失った。それでもなお、強い闇の力を持っていたため、魔族と呼ばれるようになった。その事実が、語り手や年月を経ることに変わっていき、いつしか、愛する者を失った結果、力を暴走させた闇の神が、悪魔になったとされたのだろう。だが、事実は違う。二人の関係は認められていたし、世界が闇に覆われたのは、力の暴走ではなく、天変地異だった。女が死んだのも、力を使い果たしたせいではなく、欲をかいた人間のせいだ。だから、人間の世界に伝わる伝承は、闇の神が女を殺したことになっているのだろう。そして、エルフ族は、妖精族と近い種族だ。その歌姫の力を崇めるあまり、その力のことが強調された内容になっているのだと思う」
「なるほど……あ、あれ? ってことは、ルドって、人間族じゃないの!?」
「ああ、そうだ」
「俺は、エタと同じように、物心ついたときには、孤児院にいた。ウィルに渡したペンダントは、母の形見だと聞いていたが、俺に母の記憶はなかった。孤児院の環境が合わず、十歳になる頃には、孤児院を出て、路地裏で一人で暮らすようになっていた」
「一人で!?」
「ああ。一人と言っても、路地裏には、俺と同じように、住む家のない者たちがたくさん集まっていた。その中でも俺は最年少だったから、今思えば、そこに住んでいる大人たちに、よく面倒を見てもらっていたと思う。だがある日、俺たちの住む路地裏に、城からの視察団が来ることになったんだ。視察と言っても、それは表向きのことで、本当は、国の評判を貶める原因になりかねない俺たちを排除するために来るのだと、誰もがわかっていた。綺麗な服を身に纏って、俺たちのことを蔑んだ目で見つめる奴らに我慢ができず、周りの制止を振り切って、持っていた短刀で、切りかかったんだ。そのとき俺が切りかかった相手が、ディアーク陛下だった」
「え!?」
嘘だろ。だって、ルドは、ディアーク陛下に命じられて、僕の護衛になったはず。そんな過去があったなら、ルドを護衛にした理由がわからない。
「ディアーク陛下は、当時、即位されたばかりだった。本来であれば、浮浪者が住み着く路地裏に、王が来るなんてことはあり得ない。だが陛下は、自分の目で見て、国のことをもっとよくお知りになりたいと考えられた。そこで、浮浪者の住む路地裏の視察に、同行されていたんだ。普通だったら、王に刃を向けた者など、即処刑だ。だが、ディアーク陛下は、そうなさらなかった。俺がまだ子供だったこともあり、恩赦を与えてくださった。そればかりか、俺の剣の腕を認めて、騎士団に入団させてくれたんだ。路地裏でに住んでいた者たちにも、それぞれ住む場所を無償で提供し、彼らが職に就けるよう、色々と配慮してくださった。俺は、その恩に報いるため、がむしゃらに剣の腕を磨いた。そのおかげで、騎士団に入団して数年後には、俺の剣は、国一番と言われるまでになっていた。だが、他の騎士団の連中は面白くなかっただろう。なんせ、自分よりも遥かに年下の若造に、剣で適わないんだ。いろんな嫌がらせを受けた。俺は、やっと見つけたと思っていた自分の居場所でも、孤立してしまっていた。そんなとき、再び、ディアーク陛下が、俺に声をかけてくださった」
「それって、もしかして」
「ああ、ウィルの護衛だ。当時、俺は、第一騎士団の団長になることが決まっていた。それと同時に、嫌がらせもどんどん酷くなっていた。陛下と国のためにこの身を捧げることを誓ったが、この嫌がらせに耐える意味はあるのかと、当時の俺はどこかそう思っていた。だから、ウィルの護衛の話は、俺にとって、ある種の救いだった。そんな理由で護衛になったことをすまないと思っている」
「そんな、僕はルドが護衛になってくれてたから、今まで生きて来れたって本気で思ってる。護衛になった経緯とか、そんなの気にしないよ」
「……ありがとう。俺は、物心ついた時から、家族はおらず、母の形見と言われて渡されたペンダントとこの身一つで生きてきた。だが、ウィルの歌を聴いて思い出したんだ」
「一族に伝わるさっきの伝承?」
「ああ。俺が記憶を失っていたのは、母がかけた魔法によるものだ。俺の一族は、いわゆる、『魔族』なんだ。」
「は? マゾク?」
ちょっと待て、ちょっと待て。エルフとかがいる世界だから今更魔族がいたって驚かないけどさ、それにしても、ルドが魔族となると、話が違う。驚く。凄く驚く!
だって、ルドは魔法が苦手だったよね? え? 僕が思っている魔族って、もしかして、ルドが言ってる魔族と違うの? 魔族って言ったら、めっちゃ魔力持ってて、めっちゃ魔法得意そうじゃない?
「ああ、魔族だ。ウィルは、さっきの伝承を聞いてどう思った?」
「どうって……」
なんか、どこかで聞いたことのある話だな~とは思ったけど――そうか! ハインツさんが話していた、エルフ族に伝わる伝承と似ているんだ。それに、ハインツさんが話していた伝承は、僕がリヒトリーベで教わった伝承とも似ている部分があった。
「もしかして、僕が知っていた伝承も、エルフ族の伝承も、全部同じ話なの……?」
「ああ、恐らくそうだ。伝承というのは、長い年月をかけて、その内容を変えていくのが普通だ。俺たちの先祖は、その昔、安らぎを司る神と言われる存在だった。だが、歌姫の力を持つ妖精と生命力を共有したことで、その力を失った。それでもなお、強い闇の力を持っていたため、魔族と呼ばれるようになった。その事実が、語り手や年月を経ることに変わっていき、いつしか、愛する者を失った結果、力を暴走させた闇の神が、悪魔になったとされたのだろう。だが、事実は違う。二人の関係は認められていたし、世界が闇に覆われたのは、力の暴走ではなく、天変地異だった。女が死んだのも、力を使い果たしたせいではなく、欲をかいた人間のせいだ。だから、人間の世界に伝わる伝承は、闇の神が女を殺したことになっているのだろう。そして、エルフ族は、妖精族と近い種族だ。その歌姫の力を崇めるあまり、その力のことが強調された内容になっているのだと思う」
「なるほど……あ、あれ? ってことは、ルドって、人間族じゃないの!?」
「ああ、そうだ」
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