傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第20話

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 その日は雨が降っていた。
 普段以上に暗い空の下で、銃声と断末魔が視界の悪い世界に響き渡る。
「ちっ! 構わず殺せ!」
 本間の指示が戦場にいる全ての人間に伝達される。
 戦法は変わらず、リーゼを盾にして歩兵たちは安全を確保して戦う。
 相手も木陰や、建物の陰に姿を隠して攻撃を続ける。
「雨のせいで、ちょっと見づらいな……」
 文句を言いながらも的確に銃弾で顔を見せた敵兵を撃ち抜く。
 現在、戦場に投入されているリーゼは三機。依然として優位は崩れない。
 中距離砲が構えられ、トリガープルが弾かれて、弾が発射される。
 発射された銃弾は木々を吹き飛ばす。建物を倒壊させる。そして、慌てた敵兵たちを冷静に冷徹に撃ち抜く。
「本間上官、敵兵の撤退を確認しました」
 本間の近くに芝浦がやってきて、そう伝えた。
「そうかそうか。なら、相手が居なくなるまで殺し尽くせ」
 逃げる兵の背中を撃ち抜く。
「了解です」
 本間の言葉に短く返答して、銃を構えて再び殺戮にその身を投じる。
「松野、大丈夫か?」
 いつもよりも少しだけ動きの鈍い松野に山本は心配して、リーゼ内で通信をつなげた。
 音声のみの通話である、それには松野の荒い息が聞こえてくる。
「大丈夫、問題、ないっ」
 松野は顔を前に向ける。女だからなどとは言っていられない。辛いからなどとは言っていられない。
 三人は仲間だ。辛い今も一緒に戦うと決めた仲間なのだ。だから、一人此処で挫けるわけにはいかない。
「…………」
 ガチャリと中距離砲の銃口を構えて、敵兵に向けて発射する。
「松野、切るぞ」
 山本は松野との通信を切ってから、
「飯島はどうだ?」
 と、尋ねる。
 最も巨神の名に恥じぬ戦いをしている飯島に聞くのもどうかとは思ったが、すぐに答えが返ってくる。
「問題ねぇよ。そっちは?」
 尋ね返された山本は大剣で中栄国の兵士の体を横に薙ぎ払いながら答える。
 山本の目にはまるで強風に運ばれるゴミのように人体が赤い液体を撒き散らしながら吹き飛んでいく様が映る。
「こっちも問題なし、だ」
「そうか」
 そこで山本は通信を切る。
 これ以上のやり取りは無用。どうせ、今行われている作戦が終了すればまた艦内で話すこともできる。
『良い調子だな、パイロット諸君』
 三人のヘッドギアに一方的な通信が入れられる。
『本日の作戦は終了だ。船まで戻れ』
 ブツッと通信が切れた。その声に飯島は少しばかりの苛立ちを感じてしまう。それでも従わざるを得ないのだから、より一層、怒りを覚えるのだ。
 ただ、松野と山本のことを思い出して、大きく息を吐いて、怒りを鎮める。
 陽の国の兵士が移動し始めたのを確認して、三機のリーゼも移動を開始する。
「今日も三人全員、助かったな……」
 飯島は通信を繋げることなく、一人リーゼ内で呟いた。







『本日も食糧補給につき、リーゼ一機を護衛に回す。連絡は以上だ』
 ヘッドギアから聞こえてきたのは岩松の声。ここまで毎日のように聞くことになれば、流石に慣れてしまう。
 三人は未だリーゼから降りておらず、こうなる事も予測できていた。誰が行くのかを決める前に降りては態々、乗る手間というものが増えてしまう。そのためリーゼから降りる事なく三人は船に乗らずに待機していたのだ。
 リーゼが立ち上がるのにもかなりの力がいる。
「誰が行く?」
 岩松からの連絡が切れたのを確認して、山本が二人に通信を繋ぐ。
 質問に答えたのは飯島である。
『俺か松野が行くから、山本は休んでてくれ』
 声は聞こえないが松野も文句はないのだろう。
 前回は飯島が向かったため、その負担を考えて今回は彼を選択から外す事にした。
「いや、俺は良いが……」
 大丈夫なのか。
 確認を取る様に山本が口にしようとすると、松野が遮った。
『山本も疲れてるでしょ?今日は休んでていいよ』
 通信の向こう側で彼女は笑った。
『そうだ。仲間なんだから気にすんなよ』
 二人は少しばかり無理をしている様な気もするが、それは山本も変わらない。誰もが少し無理をしている。
 頼り合い、協力し合う。彼らの関係はそんなものになっている。いつの間にか信じて戦うことができる関係に変わっていた。
「……そうか、じゃあ頼んだ」
 疲れていたのも事実。今回は、山本は二人に護衛を任せる事にした。
 二人の話し合いの末に、今日、護衛として付いて行くのは松野に決まった。
『頼んだ、松野。次行く時は、俺が行くからな』
『分かったよ、じゃあ行ってくる』
 そうして通信が切れて、松野が乗り込んだ一機のリーゼが雨の中をゆっくりと進んでいく。すぐ近くにはあの二人がいるのだろう。
「……戻るか」
 彼女の乗り込んだリーゼの背中をしばらく見てから、船の方へと視線を移して、再び動き始める。
 山本が動かすと同時に、飯島もリーゼを動かす。すぐ目の前にある、巨大な船の上へと向かって歩いて行く。
 飯島と山本はリーゼから降りると急いで艦内へと入り、ヘッドギアを頭から外した。
「ふぅ……」
 かなりの疲労感が二人の体を襲う。
「ああ、疲れたな……」
 飯島は息を吐きながら呟いた。
 飯島は精神的な痛みは慣れてきたのか、初めての時ほどの辛さはなくなりつつあった。それでも、リーゼを動かすことによる肉体への負荷は変わらず、身体の節々が痛む。
 ゆっくりとリーゼ搭乗者に与えられた待機室に向かい、歩き始める。
「松野、大丈夫なのか……?」
 山本が飯島に尋ねれば、飯島は山本の隣を歩きながら答える。
「大丈夫だろ……」
 自分にも言い聞かせる様な声だった。山本も気にし過ぎてはダメだと考えてか、それ以上のことは何も言わなかった。
 何故だか、気持ちがモヤモヤする。
 降り頻る雨がどこか、彼らの心を曇らせてしまっていたのかもしれない。
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