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第23話
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松野が死亡して数日。
中栄国は降伏を申し出た。
死亡人数に関してはそこまででもないものの、被害がこれ以上になる前に戦争を終わらせることは判断としては間違っていなかったのかもしれない。
それでも中栄国の一部からは反感を買うことも予想ができていた。
ガン、とテーブルが力強く叩かれた。
「くそっ!」
飯島は怒りを隠そうともしない。
松野が死んでから、岩松の言っていたアスタゴの兵器を探してみたが、結局のところその姿は見つからなかった。
そうして、陽の国への帰還が指示された。
自爆をさせた岩松も気に食わなかったが、自爆させるまでに追い込み松野を殺したアスタゴにも飯島は怒りを覚えずにはいられなかった。
「…………」
それに何と言えばいいのか。
山本はかける言葉も見つからずに黙って飯島を見ていることしかできなかった。
「俺が悪いのか……」
飯島は自分を責めるような言葉を吐いた。
飯島は訓練施設での自分勝手によって、松野が死んでしまったと考えたからだ。
思い出したのは九郎の言葉。
ーー今日の君の行動は、未来の誰かを殺す。
そんな言葉が松野が死んでから、何度も飯島の脳裏を過るのだ。
「俺が、勝手なことして……。松野が、松野が……!」
「違う」
山本の口からは否定の言葉が出ていた。それは思わずと言ったものだ。
感情が混線したような瞳が山本の目を見つめる。
「ーーずっとだ。ずっと俺は間違えてばっかりで……」
それでも、飯島は語り続ける。自分の過ちを、自嘲するように。
「いい加減にしろよ……」
山本は彼の弱々しい態度に腹を立てて飯島の頬を叩いた。
何が起きたのか一瞬、飯島には理解できなかった。ようやく叩かれたことを理解した飯島は、何故と言いたげに山本を見上げる。
その瞬間に、山本は叫んだ。
「ナヨナヨしてばっかりで、悩んでばっかりで、それで満足か!」
何度、この男が挫けたか。
何度、飯島の弱さを見せられたか。
「お前が悪い! そう言ったら、お前は満足して立ち直れるのか」
「…………」
出来るわけがない。
何を求めているのか。どんな言葉をかけて欲しいのか。
「そうやって感情的になって、酔っ払って」
山本は飯島の胸ぐらを掴み、立たせる。
目の前に顔を寄せて、山本は鋭い目で飯島の目を見る。
山本の目を見るのが怖くて、飯島は目を逸らそうとするが、許されない。
ぐい、と目を合わせるように力強く引き寄せられ、さらに顔が近づいた。
「悲劇のヒーローを気取るな。いつから、お前だけが苦しんでるって思ってた」
山本は飯島を突き飛ばす。
山本だって、松野が死んだことに責任を感じていた。仲間で苦しさを共有しようとして、少しでも負担を軽くしようとしていた。
ただ、山本は勝手に一人で苦しんでいる不幸者を気取った飯島が、見ていられなくて腹を立てた。
「……俺たちは仲間なんだよ。お前一人が辛いわけないだろ」
胸に苦しさを感じながら、山本は飯島を残して部屋を出た。
時刻は夕方、五時に差し掛かり、トレーニングルームには赤い光が差し込んでいる。夕日の光はどこか不気味さを感じさせる。
「阿賀野」
「ん、ああ。間磯か」
トレーニングルームで阿賀野がいつも通りにトレーニングをしていると、間磯が入ってきて話しかけてくる。
呼びかける声に顔を向けることもなく、阿賀野はトレーニングを続ける。
「松野が死んだらしい」
「そうか」
間磯の言葉には興味も何もない。そんなことを聞いたところで、阿賀野にはどうでも良いことで、彼にとってはトレーニングをすることの方が重大なのだ。
「何でそれを俺に?」
「だって、さっき教室に居なかっただろ?」
「ああ、そう言えば」
「まあ、一応伝えておくべきかなって」
教室に来た坂平が間磯達に戦争が終了したことや戦争による被害などを教えてくれたのだが、その場に阿賀野が居なかった。
どうしてか。
それはこの通り、トレーニングをしていたからだ。
「……死んだか」
阿賀野は無感動に呟いた。
「この後、松野が死んだ理由を知れるらしいから、教室に来た方が良いんじゃないか?」
阿賀野はトレーニングを止めて、ベンチプレス台から起き上がった。
「そりゃあ興味があるな……」
何が松野を殺したのか。
「そう言えば、竹崎は引き篭もっちゃったみたいだ」
どうでも良さげに間磯が告げると、阿賀野もどうでも良さげに「そうか」と、相槌を打った。
「それなら、川中がどうにかするだろ」
「そうだね」
川中という少女は優しくて、竹崎を放っておくことはできないだろうから。
「先戻ってろ」
「一緒に行かないのか?」
「お前と戻る必要はないからな」
阿賀野は器材を片付けながら答えると、間磯は待つつもりは無くなったようで、扉を開けたまま、トレーニングルームを出て行った。
「ーーへぇ、飯島が生き残ったか……」
正直な話、阿賀野は今回の戦争で誰かが死ぬ可能性があると考えていた。ただ、それは相当に低い可能性ではあった。
その中でも阿賀野は飯島が最も死ぬ可能性が高いと思っていたのだ。反対に死ぬ可能性が一番低いと予想していたのは山本であった。
実力では飯島が最も上ではあったが、感情的になりやすいという性質は戦争では死に繋がりやすいと考えていた。
成る程な。
一つ息を吐く。
「やっぱり、戦場は運がなけりゃ生き残れないってか。まあ、そんなの俺には関係ないんだけどな」
阿賀野はへらりと笑った。
陽の国にとっては一人で済んで良かったのか。それとも誰かが死ぬと言うこと自体が予想外だったのか。
「にしても、何があったんだか」
リーゼパイロットが死ぬと言う可能性自体は本来、低いものであったのだ。
「……何が見れるんだろうな」
好奇心が湧き上がる。
鼻歌が聞こえてきそうなほど、楽しげな雰囲気を醸し出しながら、ワイシャツと赤いジャージを右手で持ち上げてトレーニングルームを出て行った。
中栄国は降伏を申し出た。
死亡人数に関してはそこまででもないものの、被害がこれ以上になる前に戦争を終わらせることは判断としては間違っていなかったのかもしれない。
それでも中栄国の一部からは反感を買うことも予想ができていた。
ガン、とテーブルが力強く叩かれた。
「くそっ!」
飯島は怒りを隠そうともしない。
松野が死んでから、岩松の言っていたアスタゴの兵器を探してみたが、結局のところその姿は見つからなかった。
そうして、陽の国への帰還が指示された。
自爆をさせた岩松も気に食わなかったが、自爆させるまでに追い込み松野を殺したアスタゴにも飯島は怒りを覚えずにはいられなかった。
「…………」
それに何と言えばいいのか。
山本はかける言葉も見つからずに黙って飯島を見ていることしかできなかった。
「俺が悪いのか……」
飯島は自分を責めるような言葉を吐いた。
飯島は訓練施設での自分勝手によって、松野が死んでしまったと考えたからだ。
思い出したのは九郎の言葉。
ーー今日の君の行動は、未来の誰かを殺す。
そんな言葉が松野が死んでから、何度も飯島の脳裏を過るのだ。
「俺が、勝手なことして……。松野が、松野が……!」
「違う」
山本の口からは否定の言葉が出ていた。それは思わずと言ったものだ。
感情が混線したような瞳が山本の目を見つめる。
「ーーずっとだ。ずっと俺は間違えてばっかりで……」
それでも、飯島は語り続ける。自分の過ちを、自嘲するように。
「いい加減にしろよ……」
山本は彼の弱々しい態度に腹を立てて飯島の頬を叩いた。
何が起きたのか一瞬、飯島には理解できなかった。ようやく叩かれたことを理解した飯島は、何故と言いたげに山本を見上げる。
その瞬間に、山本は叫んだ。
「ナヨナヨしてばっかりで、悩んでばっかりで、それで満足か!」
何度、この男が挫けたか。
何度、飯島の弱さを見せられたか。
「お前が悪い! そう言ったら、お前は満足して立ち直れるのか」
「…………」
出来るわけがない。
何を求めているのか。どんな言葉をかけて欲しいのか。
「そうやって感情的になって、酔っ払って」
山本は飯島の胸ぐらを掴み、立たせる。
目の前に顔を寄せて、山本は鋭い目で飯島の目を見る。
山本の目を見るのが怖くて、飯島は目を逸らそうとするが、許されない。
ぐい、と目を合わせるように力強く引き寄せられ、さらに顔が近づいた。
「悲劇のヒーローを気取るな。いつから、お前だけが苦しんでるって思ってた」
山本は飯島を突き飛ばす。
山本だって、松野が死んだことに責任を感じていた。仲間で苦しさを共有しようとして、少しでも負担を軽くしようとしていた。
ただ、山本は勝手に一人で苦しんでいる不幸者を気取った飯島が、見ていられなくて腹を立てた。
「……俺たちは仲間なんだよ。お前一人が辛いわけないだろ」
胸に苦しさを感じながら、山本は飯島を残して部屋を出た。
時刻は夕方、五時に差し掛かり、トレーニングルームには赤い光が差し込んでいる。夕日の光はどこか不気味さを感じさせる。
「阿賀野」
「ん、ああ。間磯か」
トレーニングルームで阿賀野がいつも通りにトレーニングをしていると、間磯が入ってきて話しかけてくる。
呼びかける声に顔を向けることもなく、阿賀野はトレーニングを続ける。
「松野が死んだらしい」
「そうか」
間磯の言葉には興味も何もない。そんなことを聞いたところで、阿賀野にはどうでも良いことで、彼にとってはトレーニングをすることの方が重大なのだ。
「何でそれを俺に?」
「だって、さっき教室に居なかっただろ?」
「ああ、そう言えば」
「まあ、一応伝えておくべきかなって」
教室に来た坂平が間磯達に戦争が終了したことや戦争による被害などを教えてくれたのだが、その場に阿賀野が居なかった。
どうしてか。
それはこの通り、トレーニングをしていたからだ。
「……死んだか」
阿賀野は無感動に呟いた。
「この後、松野が死んだ理由を知れるらしいから、教室に来た方が良いんじゃないか?」
阿賀野はトレーニングを止めて、ベンチプレス台から起き上がった。
「そりゃあ興味があるな……」
何が松野を殺したのか。
「そう言えば、竹崎は引き篭もっちゃったみたいだ」
どうでも良さげに間磯が告げると、阿賀野もどうでも良さげに「そうか」と、相槌を打った。
「それなら、川中がどうにかするだろ」
「そうだね」
川中という少女は優しくて、竹崎を放っておくことはできないだろうから。
「先戻ってろ」
「一緒に行かないのか?」
「お前と戻る必要はないからな」
阿賀野は器材を片付けながら答えると、間磯は待つつもりは無くなったようで、扉を開けたまま、トレーニングルームを出て行った。
「ーーへぇ、飯島が生き残ったか……」
正直な話、阿賀野は今回の戦争で誰かが死ぬ可能性があると考えていた。ただ、それは相当に低い可能性ではあった。
その中でも阿賀野は飯島が最も死ぬ可能性が高いと思っていたのだ。反対に死ぬ可能性が一番低いと予想していたのは山本であった。
実力では飯島が最も上ではあったが、感情的になりやすいという性質は戦争では死に繋がりやすいと考えていた。
成る程な。
一つ息を吐く。
「やっぱり、戦場は運がなけりゃ生き残れないってか。まあ、そんなの俺には関係ないんだけどな」
阿賀野はへらりと笑った。
陽の国にとっては一人で済んで良かったのか。それとも誰かが死ぬと言うこと自体が予想外だったのか。
「にしても、何があったんだか」
リーゼパイロットが死ぬと言う可能性自体は本来、低いものであったのだ。
「……何が見れるんだろうな」
好奇心が湧き上がる。
鼻歌が聞こえてきそうなほど、楽しげな雰囲気を醸し出しながら、ワイシャツと赤いジャージを右手で持ち上げてトレーニングルームを出て行った。
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