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第24話
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スクリーンに映し出されたのは赤い巨神。リーゼよりもガッチリとした躰と、ハルバード、盾、銃の装備により、リーゼよりも防御性能が高いことが予想できる。
リーゼの場合、盾を展開するには大剣を変形させる必要が出るため、相手の方が防御性能は高い。
ただ、目を見張ったのはそれではない。
阿賀野はその数少ない戦闘情報から、赤色の巨兵に一言、感想を漏らした。
「強いな……」
つり上がる口を隠すつもりもない。
この強さは松野では死んでしまうのは仕方ない。そもそもにして、この赤い巨兵自体のスペックは不明だが、それに乗り込んでいる者は紛れもない強さを誇っている。
ハルバードが突き刺さったことにより、映像は中断される。
「……松野が死んだのは、この赤い巨兵が原因だ。我々はこの敵機を“ロッソ”と呼ぶことにした」
ロッソとはマルテアの言葉で赤を意味する。
それはこの赤い巨神を指し示す上で、ピッタリの名前と言える。
ただ、これは陽の国、マルテア、グランツ帝国の同盟間でのみの共通名称である。正式名称はタイタンと別にある。
「コイツが……」
阿賀野は食い入るようにタイタンを見ていた。いや、タイタンというよりも奥にいるパイロットを見ていた。
「今回、リーゼの破損が起きたがグランツ帝国から一機、支援されることとなった。次に起こると予想される、アスタゴとの戦争に於いても三機を投入することは可能だ」
教卓の上で顔を伏せて坂平が淡々と告げる。その姿は機械のように見えて、ひどく冷たいものに感じてしまう。
「アスタゴとの戦争はより大規模なものとなる。三人目のパイロットしてーー」
顔を上げて、坂平は間磯を見た。
「ーー間磯巧。お前を指名する」
彼の言葉が一瞬、間磯には理解できなかったのか一瞬、ポカンと呆気に取られたような顔を見せたが、すぐに表情を直す。
「はい」
間磯はハッキリとそう返事を返す。
「やった……。僕がパイロットに……」
喜びを感じ、間磯は小さく拳を握りしめた。彼の抱いた感覚が他の誰かには理解できないものであったのは確かだ。
「アスタゴとの戦争に向けて、戦争準備期間を無駄にしない事だ。自主的に訓練に励むと良い。死ぬつもりがないというのなら」
戦争準備期間に何をするか。ただ、そこまで長くもない期間で、あのタイタンに迫ることは不可能なはずだ。
阿賀野にはそんな予測ができていた。
「話は以上だ」
無表情のまま教壇を降りた坂平は教室を出て行った。阿賀野にはその顔が何かを隠しているように思えたのだ。
「よう、二人とも」
阿賀野は訓練施設の玄関で偶然にも山本と飯島に出会した。
「阿賀野か、久しぶりだな」
「そんなに久しぶりでもねぇよ」
「そうだったか……」
山本は受け答えをするが、飯島は黙ったまま何も返すことはない。戦争での出来事が予想以上に精神的なダメージを与えたのか、何もできなかった自分を責めているのか。
「お前は……」
ポツリと彼は突然に話し始めた。
「あ?」
「お前は分かってたのかよ……」
松野が死ぬと言うことが。
そう飯島が言えば、阿賀野は溜息を吐いた。
「知るかよ、んな事。でもな、戦争で誰かが死ぬなんて普通だ。それで松野が死んだだけだ」
松野が死ぬのは仕方なかったのかもしれない。そう思って受け入れるべきなのだ。
「……見たんだろ。やったんだろ」
彼は確かめるようにそう言うが、その言葉を放った阿賀野は、結局のところそうであると言う確信を持っていた。
「人が死んでいくところを。人を殺したんだろ」
阿賀野は飯島の腕を力強く掴んで目を見て、続きを言う。
「その目で、この手で」
阿賀野の言葉によって、この場所の雰囲気は重苦しいものになる。
「まあ、お前じゃなくて良かったな」
それは阿賀野が飯島が最も死にやすいと考えていたから。励ましの言葉でも何でもなく、単純にそう告げた。
パッと手を離して、阿賀野は飯島から距離を取る。
「ああ、松野の次に行くやつは決まった。間磯が次からは行く事になった」
「次って……」
何を言っているのか。
飯島は考えないようにしていたのかもしれない。初めから決まっていたはずの事であったと言うのに。
「おいおい、今回の戦争の最初の目的忘れたのかよ。リーゼの試験的導入だっただろ。すぐにアスタゴとの戦争が始まるぞ。今回以上に人が死ぬ」
阿賀野の指摘に、山本も飯島も言葉を失った。
絶望的な状況だと言うのに、阿賀野はこの状況を全く絶望だとは思っていないようだ。
「ーーそれと、飯島。生き残りたいなら非情になれよ。そのまんまじゃお前、次こそ死ぬぞ」
戦争に行ったという癖に、阿賀野以上に、飯島は戦場というものを理解できていないように思える。情というものを持つからか、彼は壊れやすく、脆く、危険なのだ。
「次の戦場は今回以上にヤバい事になるみたいだからな」
陽の国、マルテア、グランツ帝国のリーゼと同等のタイタンの存在が明らかになったからだ。
「そういやお前ら、ロッソは見たか?」
阿賀野がそう尋ねれば、山本は首を捻った。
「ロッソ?」
「アスタゴの機体だ」
阿賀野が短く簡潔に返すと、どうやら二人ともタイタンの姿は見ていないようで、山本が首を横に振った。
「そうか。見てないのか……」
山本達と話す事もなくなったのか、阿賀野は会話を打ち切りトレーニングルームへと向かって歩き始めた。
リーゼの場合、盾を展開するには大剣を変形させる必要が出るため、相手の方が防御性能は高い。
ただ、目を見張ったのはそれではない。
阿賀野はその数少ない戦闘情報から、赤色の巨兵に一言、感想を漏らした。
「強いな……」
つり上がる口を隠すつもりもない。
この強さは松野では死んでしまうのは仕方ない。そもそもにして、この赤い巨兵自体のスペックは不明だが、それに乗り込んでいる者は紛れもない強さを誇っている。
ハルバードが突き刺さったことにより、映像は中断される。
「……松野が死んだのは、この赤い巨兵が原因だ。我々はこの敵機を“ロッソ”と呼ぶことにした」
ロッソとはマルテアの言葉で赤を意味する。
それはこの赤い巨神を指し示す上で、ピッタリの名前と言える。
ただ、これは陽の国、マルテア、グランツ帝国の同盟間でのみの共通名称である。正式名称はタイタンと別にある。
「コイツが……」
阿賀野は食い入るようにタイタンを見ていた。いや、タイタンというよりも奥にいるパイロットを見ていた。
「今回、リーゼの破損が起きたがグランツ帝国から一機、支援されることとなった。次に起こると予想される、アスタゴとの戦争に於いても三機を投入することは可能だ」
教卓の上で顔を伏せて坂平が淡々と告げる。その姿は機械のように見えて、ひどく冷たいものに感じてしまう。
「アスタゴとの戦争はより大規模なものとなる。三人目のパイロットしてーー」
顔を上げて、坂平は間磯を見た。
「ーー間磯巧。お前を指名する」
彼の言葉が一瞬、間磯には理解できなかったのか一瞬、ポカンと呆気に取られたような顔を見せたが、すぐに表情を直す。
「はい」
間磯はハッキリとそう返事を返す。
「やった……。僕がパイロットに……」
喜びを感じ、間磯は小さく拳を握りしめた。彼の抱いた感覚が他の誰かには理解できないものであったのは確かだ。
「アスタゴとの戦争に向けて、戦争準備期間を無駄にしない事だ。自主的に訓練に励むと良い。死ぬつもりがないというのなら」
戦争準備期間に何をするか。ただ、そこまで長くもない期間で、あのタイタンに迫ることは不可能なはずだ。
阿賀野にはそんな予測ができていた。
「話は以上だ」
無表情のまま教壇を降りた坂平は教室を出て行った。阿賀野にはその顔が何かを隠しているように思えたのだ。
「よう、二人とも」
阿賀野は訓練施設の玄関で偶然にも山本と飯島に出会した。
「阿賀野か、久しぶりだな」
「そんなに久しぶりでもねぇよ」
「そうだったか……」
山本は受け答えをするが、飯島は黙ったまま何も返すことはない。戦争での出来事が予想以上に精神的なダメージを与えたのか、何もできなかった自分を責めているのか。
「お前は……」
ポツリと彼は突然に話し始めた。
「あ?」
「お前は分かってたのかよ……」
松野が死ぬと言うことが。
そう飯島が言えば、阿賀野は溜息を吐いた。
「知るかよ、んな事。でもな、戦争で誰かが死ぬなんて普通だ。それで松野が死んだだけだ」
松野が死ぬのは仕方なかったのかもしれない。そう思って受け入れるべきなのだ。
「……見たんだろ。やったんだろ」
彼は確かめるようにそう言うが、その言葉を放った阿賀野は、結局のところそうであると言う確信を持っていた。
「人が死んでいくところを。人を殺したんだろ」
阿賀野は飯島の腕を力強く掴んで目を見て、続きを言う。
「その目で、この手で」
阿賀野の言葉によって、この場所の雰囲気は重苦しいものになる。
「まあ、お前じゃなくて良かったな」
それは阿賀野が飯島が最も死にやすいと考えていたから。励ましの言葉でも何でもなく、単純にそう告げた。
パッと手を離して、阿賀野は飯島から距離を取る。
「ああ、松野の次に行くやつは決まった。間磯が次からは行く事になった」
「次って……」
何を言っているのか。
飯島は考えないようにしていたのかもしれない。初めから決まっていたはずの事であったと言うのに。
「おいおい、今回の戦争の最初の目的忘れたのかよ。リーゼの試験的導入だっただろ。すぐにアスタゴとの戦争が始まるぞ。今回以上に人が死ぬ」
阿賀野の指摘に、山本も飯島も言葉を失った。
絶望的な状況だと言うのに、阿賀野はこの状況を全く絶望だとは思っていないようだ。
「ーーそれと、飯島。生き残りたいなら非情になれよ。そのまんまじゃお前、次こそ死ぬぞ」
戦争に行ったという癖に、阿賀野以上に、飯島は戦場というものを理解できていないように思える。情というものを持つからか、彼は壊れやすく、脆く、危険なのだ。
「次の戦場は今回以上にヤバい事になるみたいだからな」
陽の国、マルテア、グランツ帝国のリーゼと同等のタイタンの存在が明らかになったからだ。
「そういやお前ら、ロッソは見たか?」
阿賀野がそう尋ねれば、山本は首を捻った。
「ロッソ?」
「アスタゴの機体だ」
阿賀野が短く簡潔に返すと、どうやら二人ともタイタンの姿は見ていないようで、山本が首を横に振った。
「そうか。見てないのか……」
山本達と話す事もなくなったのか、阿賀野は会話を打ち切りトレーニングルームへと向かって歩き始めた。
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