傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第31話

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「アスタゴめ……」
 画面に映し出されたのは六機の黒い機体と、一機の赤い機体。
 その強さは驚異的、圧倒的。
「東からの攻撃は不可能か……」
 岩松が答えを出すのは早かった。このタイタンを排除するだけの戦力を到底、準備出来るとは思えなかったからだ。
 ただ、そのせいで初めの作戦は無駄に終わった。つまりは間磯の死はただの犬死にになってしまったと言うことだ。
「ちっ、捨て駒ではあったが、こんな事になるとはな……」
 破壊されたリーゼの資材回収もままならない現状、まだ国内で集めた素材と、中栄国との戦争によって手に入れ賠償によってリーゼを作って送っている。
 極力、回収すべきだと言われてはいるが、不可能なものは不可能なのだ。
 彼の目の前にある受話器が通信を伝えるようにジリジリと鳴り響く。
 その受話器を取るのを岩松は一瞬躊躇ったが、仕方がないと言うように手に取った。
『岩松君』
 声の主はすぐにわかった。
 元帥の声だ。
「はい、元帥殿」
 岩松は緊張を覚える。
 この後に言及される事は理解していたからだ。
『今回の戦い。何の成果もなかったようであるが。勝算はあるのかね?』
 問われたところで、あのタイタンを攻略できなければ、勝算などあるはずもない。しかし、ここで分からない、勝算はない、などと答えて仕舞えば、受話器の向こう側にいる元帥の機嫌を損ねる事になるのは理解できた。
「ええ、勿論です。この岩松にお任せください」
 岩松の答えが正解だったのか、どうか。元帥は戦争が始まる前とは全く違った調子の声音で「期待している」と言ってから、通信を切った。
「どうすれば良い……。一先ずはあのロッソに関しては無視をした方が良いのか……」
 あれは東海岸の守りに専念しているはずだ。ならば多少の被害を考えて挟撃に出るべきか。しかし、それでは余りにも損耗が大きすぎる。
 東海岸からの攻撃は頭の中から除外するべきだ。ならば西海岸。しかし、西も最初の攻撃によって守りは固まっているはずだ。
 東海岸のあのタイタン以外であれば、一点集中で攻略できるかもしれない。証拠に間磯はタイタンを一機、仕留めている。
「何よりも先に、兵士を送ることを考えるべきか……」
 次の瞬間に扉を叩く音が響いた。
「入りたまえ」
 岩松が返答をすると、ガチャリと扉が開かれた。入ってきたのは、やはり坂平である。
「その様子では誰を送るか決まったようだな」
 岩松は精神を落ち着けて、坂平の顔を見て尋ねる。
「私は、川中を送るべきかと……」
 若干、顔を歪めながら坂平が提言した。
「ふむ、ならば川中と竹崎を戦場へ送ろう……」
 そう呟くと、坂平は目を見開きながら大声で岩松に尋ねる。
「待ってください! 一人ではないのですか!」
 船の往復をわざわざ続けるよりも二人を同時に送り込んでしまった方が早い。
 同時に二人が死んだ場合でも巻き返しはできるはずだ。
 そんな考えではあったが、現状、予想外にも、もう一人が死んでしまった。
「山本君が死んだ……」
 そう伝えれば、坂平は渋々ではあったが引き下がる。戦力補充の意味合いとして、岩松の考えはどこにも間違いはない。
「そう、ですか……」
 納得しようとして坂平は呟く。
「退室しなさい」
 岩松の言葉に従って坂平は、部屋を出て行った。
 窓の外は憎らしいほどに晴れ渡っている。






 時刻は昼を少し過ぎたばかり。候補者達は教室に集められた。
 教壇の上に立った坂平は教卓の上に手をついたが、正面を向くことができない。
「川中、竹崎。お前達には戦場に行ってもらう」
 それでも、決定事項だけは連絡する。その時の教室はとても静かなものだった。
 そこにいる候補者達の呼吸音が聞こえそうなほどに静かだった。
 誰かの命を背負う。
 一人だけでも重たいというのに。何人もの命がのしかかって、潰れてしまいそうなほどだ。
 人が背負うことができる命など、結局自分のものだけのはずだというのに。
 それだけしか言うことができなかった坂平は、逃げ出すように教壇を降りて、教室から出て行ってしまった。
 ゾロゾロと竹崎と川中を残して、教室には誰もいなくなってしまった。
「…………」
 つい最近まで引き籠り続けていた竹崎は川中が手を引くことでようやく、部屋の外に出ることが出来るようになった。
 相変わらず、心はここにないようで、川中の存在が竹崎の心を現世に留める楔になっているように思える。
「真衣……」
 隣に座っていた川中は優しく、柔らかく、それでもその肌の感覚が伝わるように、竹崎の左手を握りしめた。
 竹崎の手に触れたのは、少しばかり冷たい手だった。
 竹崎がその手を見る。
「美祐に、会えるかな」
 そうして浮かべた笑みが、悲しそうに見えて目を合わせるのも辛かった。
 それでも逸らすわけにはいかなかった。
「それはっ……」
 答えられない。
 だって分からないのだから。会うことが出来るのだとしたら、その時はきっと何もかもが終わっている。
「会いたいんだ。……一緒に、街を歩いてみたかったんだ」
 窓の外を見ながら、竹崎が呟いた。
「一緒に歩いて……」
 叶わないはずだ。
「一緒に買い物をして……」
 分かり切っているだろう。
「可愛いねって言って……」
 そんな未来はあり得ない。
「そして、一緒の部屋に泊まって……」
 笑顔を浮かべた彼女の喉がひくついて、彼女の声が嗚咽混じりの声になる。
「夜更かしをして……」
 言葉にするほどに夢のような光景を思い浮かべて、現実の苦しさと比較してしまう。
「そんな幸せが、欲しかった……!」
 この世界に竹崎は奪われてばかりで、何も得ることができない。
「川中は、ーーーー」
 ダメだ。
 この言葉を言ってはいけない。
「ごめん。迷惑だったよね……」
 独りになりたくない。
 そんな我儘を、口にはできない。
「迷惑なんかじゃないよ」
 川中の声は震えている。
 怖かったのだ。竹崎が今にも壊れてしまいそうなほどに儚く見えて。
「迷惑なんかじゃ、ない……」
 子供に言い聞かせるように川中は口にした。
「私は……」
「優しいんだね、川中は」
 それは何気ない呟きだった。
「え……」
 川中はドキリとする。
 川中の胸の奥で心臓が激しく拍動する。それは、恐怖を感じて。
 脳裏には思い出が浮かび上がる。
 
 ーー川中は優しいもんね。
 
 ーーだって、いつも私を助けてくれる。
 
 ーーねえ、川中なら、助けてくれるよね。
 
『こんな時だって』
 そんな声が川中には聞こえた気がした。いるはずも無いのに。
「はっ……、はぁ、はぁ」
 浅い呼吸を吐く。
 嫌な汗がじんわりと川中の額を伝う。
 川中がここにいる理由。ここにいなければならない理由。その正体が、その原因がずっと背後に居るような気がする。
「川中……?」
 心配そうに首を傾げる竹崎が。
『川中が殺したんだ』
 あの日の少女に見えた気がした。
 重なる。
「違、う……」
 殺したのは自分じゃ無い。
「違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う! 違う!! 違う!!!」
 否定を重ねていく。否定は積み重なる度に大きな声になっていく。
「違うっ!!!!」
 最後は最早、言語とも思えないような叫びだった。
 違う。
 違うのだ。
『川中が殺したんだ』
 殺人の偽造。
 それを川中は押しつけられた。
 
 ーー川中は優しいから、私を助けてくれるよね?
 
 その顔はどんなだったか。思い出せない。思い出したく無い。それでも、その少女は笑っていたような気がした。
「川中!」
 竹崎は川中の肩を掴んで揺さぶる。
 そこで漸く、竹崎は正気に戻る。
「あ……」
「ごめん」
 負担をかけさせてしまった。
 やはり、独りにしないで、などと言う我儘を口にするべきでは無いのだろう。
 竹崎は謝罪を述べることしかできなかった。
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