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第36話
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「何で!」
責め立てるように叫んで川中は隠された顔を怒りに染め上げる。
「マルテアァア!」
幾ら叫んでも、彼の叫びに答えは返ってこない。既に、マルテアとの通信は途切れてしまっていた。
「答えろ!」
普段の川中からは考えられない程に声を荒げる。優しさを感じさせない、憎悪の滲む声で求める。
『ぐっ……! 陽の国の! 落ち着け!』
ルイスとの戦闘中にも関わらず、ディートヘルムは川中に指示を出す。
しかし、彼の声を聞いたとしても、川中は冷静になることはできそうにもなかった。
「答えろぉおお!!!!」
問い詰める様に叫びながら川中は銃を撃ち放った。
しかし、この攻撃がマルテアのリーゼにダメージを与えることはない。
「くそ! くそっ!」
大剣を持って、カルロスなど無視してクラウディアに向かって突っ込んでいく。
あり得るはずがない。
あれだけの事をして、ただの同士討ちだなどと考えられない。
『うぁぁああああああああああああああああああああああああ!!』
通信機から聞こえてくる飯島の叫びに呼応するように川中も叫ぶ。
戦況が完全にアスタゴ有利になりつつある。唯一、冷静であるディートヘルムはルイスの対応に手一杯で、フォローすることは不可能だ。
『チッーー!』
ディートヘルムの舌打ちが響く。
クラウディアは敵として最悪な手を取ってきたのだ。
「お前は殺す。絶対に」
川中は涙を流しながらにクラウディアの乗るマルテア国旗の描かれた、黒色の巨人を睨む。
我を失ってクラウディアに特攻する川中は誰がどう見ても隙だらけで、カルロスが見過ごす訳がない。
自身に向くハルバードの矛先に注意が向かなかった。
カルロスのハルバードが川中のコックピットを背後から破壊した。
血で染まっていくリーゼの中、川中の殺意は収まらない。
ギチギチとリーゼは活動を続けて、死んだと思い油断をしていたクラウディアは迫り来る大剣が避けられない。
「死ね! 死ね!」
血を吐きながら、最後の瞬間まで怨嗟を吐き続け、大剣を深く深く突き刺していく。
「地獄に、落ちろォ!!」
最後に川中は獣の如く吼えて、喀血しながら意識が落ちていく。
沈み込む。
そして、リーゼはそんな意識と共にか、クラウディアの乗るリーゼと共に大地に向けてその体を投げ出した。
リーゼが倒れ込んだ事により、地響きが起きる。
戦場が揺れた。
ここで一つの戦いが終了する。
「ごめ、ん……ね。竹、崎……」
謝罪が川中の口から出た。
この言葉が、謝罪が紡がれたのは、自分が竹崎から助けられたことに対する罪悪感からだった。
自分勝手だ。
川中も竹崎も。
勝手に人を助けて、自分だけ満足した気になるのだから。
そして、また一つ、叫びが上がる。
そこは戦場だ。
そして、そこは地獄であった。
斃れた鋼と、砂塵を巻き上げ駆ける巨神。黒と紅が交差して、青い空、海を背景に戦っている。
また一つ、黒が斃れて、雄叫びが上がる。
それは雄叫びと言っていい物だったのだろうか。それとも、絶叫と言うべきなのか。戦場に上がった声は、理性をかなぐり捨てた獣の咆哮のようであった。
通信機を通して聞こえた叫びは、耳を塞ぎたくなるほどの悲痛を感じさせる。
痛ましい雄叫びは戦闘を続けるディートヘルムの心を締め付けられるほどに。
『冷静に、……れ!』
雄叫びを上げた飯島にディートヘルムの声は届かない。
飯島の脳内には怨嗟が響き、心を狂わせる一つの曲と成り果てていた。
絶望が。
怒りが。
悲しみが。
憎しみが。
自分の全てを怨み、殺意に燃える。
身を焦がすほどの憤怒が、溢れ出る。
恐怖と綯交ぜになった、混沌とした感情は止めることなど出来るわけがない。
それは破壊衝動として身体の外に出た。
つまりは八つ当たりじみた戦闘行動とも言えた。
「死ぬなぁっ……! 俺が! 俺は。お前のせいで俺を殺して、俺は死にたくない!」
狂ったように叫ぶ、彼の声には脈絡もない。正気を失っている。
「俺は誰を殺したんだ? 覚えてる、松野、間磯、山本、竹崎、川中、テオ……。俺は皆んな、皆んなを殺したんだ。ごめんなさい……。だから、今から、俺が出来ることが、許して」
狂って狂って、止まりようもなく自責を続けて、責め立てる幻聴に謝罪することしかできず、彼は癇癪を起こした子供のように剣を振るった。
「ああああああああああああああああああああああああ!!」
握り締める剣は目の前にいるアメリアによって軽々と受け流されるはずだ。アメリア自身がそう考えていた。
振るわれた大剣は恐ろしいほどの速度でアメリアに迫る。
ガギィイイイン!
彼女は慌てて右腕に付いた盾を挟み込むが、構えた盾をも怒りによって力も速度も増した飯島の大剣は切り裂いた。
「あ、ああ! ああああああああああ!!」
追撃が止まらない。
今まで以上の力を飯島は発揮していた。
怒りを原動力として、最大限の力を発揮している飯島は今、この戦場で最強であった。
目の前の敵を倒すことに執着し、銃を乱射し、剣を振るう。
荒ぶる巨神の姿にアメリアは恐怖を覚える。
迫り来る巨体は鬼のように思えた。
「俺を、許して……」
彼の苦しげな呟きなどアメリアには聞こえるはずがない。
「俺を許してくれよぉおお!!」
飯島がどれほど願って叫んでも、追ってくる怨念が彼の首を絞める。足を掴み、肩を掴み、振り払う事は不可能だ。
『死ね』 『死ね』
『死ね』
『殺せ』
『殺せ』
『何でお前が』
『許すわけがない』
重なって、重なって、段々と背負えるものではなくなっていく。暗く、深い闇が飯島の脳を侵していく。
もう、飯島は逃げられない。
責め立てるように叫んで川中は隠された顔を怒りに染め上げる。
「マルテアァア!」
幾ら叫んでも、彼の叫びに答えは返ってこない。既に、マルテアとの通信は途切れてしまっていた。
「答えろ!」
普段の川中からは考えられない程に声を荒げる。優しさを感じさせない、憎悪の滲む声で求める。
『ぐっ……! 陽の国の! 落ち着け!』
ルイスとの戦闘中にも関わらず、ディートヘルムは川中に指示を出す。
しかし、彼の声を聞いたとしても、川中は冷静になることはできそうにもなかった。
「答えろぉおお!!!!」
問い詰める様に叫びながら川中は銃を撃ち放った。
しかし、この攻撃がマルテアのリーゼにダメージを与えることはない。
「くそ! くそっ!」
大剣を持って、カルロスなど無視してクラウディアに向かって突っ込んでいく。
あり得るはずがない。
あれだけの事をして、ただの同士討ちだなどと考えられない。
『うぁぁああああああああああああああああああああああああ!!』
通信機から聞こえてくる飯島の叫びに呼応するように川中も叫ぶ。
戦況が完全にアスタゴ有利になりつつある。唯一、冷静であるディートヘルムはルイスの対応に手一杯で、フォローすることは不可能だ。
『チッーー!』
ディートヘルムの舌打ちが響く。
クラウディアは敵として最悪な手を取ってきたのだ。
「お前は殺す。絶対に」
川中は涙を流しながらにクラウディアの乗るマルテア国旗の描かれた、黒色の巨人を睨む。
我を失ってクラウディアに特攻する川中は誰がどう見ても隙だらけで、カルロスが見過ごす訳がない。
自身に向くハルバードの矛先に注意が向かなかった。
カルロスのハルバードが川中のコックピットを背後から破壊した。
血で染まっていくリーゼの中、川中の殺意は収まらない。
ギチギチとリーゼは活動を続けて、死んだと思い油断をしていたクラウディアは迫り来る大剣が避けられない。
「死ね! 死ね!」
血を吐きながら、最後の瞬間まで怨嗟を吐き続け、大剣を深く深く突き刺していく。
「地獄に、落ちろォ!!」
最後に川中は獣の如く吼えて、喀血しながら意識が落ちていく。
沈み込む。
そして、リーゼはそんな意識と共にか、クラウディアの乗るリーゼと共に大地に向けてその体を投げ出した。
リーゼが倒れ込んだ事により、地響きが起きる。
戦場が揺れた。
ここで一つの戦いが終了する。
「ごめ、ん……ね。竹、崎……」
謝罪が川中の口から出た。
この言葉が、謝罪が紡がれたのは、自分が竹崎から助けられたことに対する罪悪感からだった。
自分勝手だ。
川中も竹崎も。
勝手に人を助けて、自分だけ満足した気になるのだから。
そして、また一つ、叫びが上がる。
そこは戦場だ。
そして、そこは地獄であった。
斃れた鋼と、砂塵を巻き上げ駆ける巨神。黒と紅が交差して、青い空、海を背景に戦っている。
また一つ、黒が斃れて、雄叫びが上がる。
それは雄叫びと言っていい物だったのだろうか。それとも、絶叫と言うべきなのか。戦場に上がった声は、理性をかなぐり捨てた獣の咆哮のようであった。
通信機を通して聞こえた叫びは、耳を塞ぎたくなるほどの悲痛を感じさせる。
痛ましい雄叫びは戦闘を続けるディートヘルムの心を締め付けられるほどに。
『冷静に、……れ!』
雄叫びを上げた飯島にディートヘルムの声は届かない。
飯島の脳内には怨嗟が響き、心を狂わせる一つの曲と成り果てていた。
絶望が。
怒りが。
悲しみが。
憎しみが。
自分の全てを怨み、殺意に燃える。
身を焦がすほどの憤怒が、溢れ出る。
恐怖と綯交ぜになった、混沌とした感情は止めることなど出来るわけがない。
それは破壊衝動として身体の外に出た。
つまりは八つ当たりじみた戦闘行動とも言えた。
「死ぬなぁっ……! 俺が! 俺は。お前のせいで俺を殺して、俺は死にたくない!」
狂ったように叫ぶ、彼の声には脈絡もない。正気を失っている。
「俺は誰を殺したんだ? 覚えてる、松野、間磯、山本、竹崎、川中、テオ……。俺は皆んな、皆んなを殺したんだ。ごめんなさい……。だから、今から、俺が出来ることが、許して」
狂って狂って、止まりようもなく自責を続けて、責め立てる幻聴に謝罪することしかできず、彼は癇癪を起こした子供のように剣を振るった。
「ああああああああああああああああああああああああ!!」
握り締める剣は目の前にいるアメリアによって軽々と受け流されるはずだ。アメリア自身がそう考えていた。
振るわれた大剣は恐ろしいほどの速度でアメリアに迫る。
ガギィイイイン!
彼女は慌てて右腕に付いた盾を挟み込むが、構えた盾をも怒りによって力も速度も増した飯島の大剣は切り裂いた。
「あ、ああ! ああああああああああ!!」
追撃が止まらない。
今まで以上の力を飯島は発揮していた。
怒りを原動力として、最大限の力を発揮している飯島は今、この戦場で最強であった。
目の前の敵を倒すことに執着し、銃を乱射し、剣を振るう。
荒ぶる巨神の姿にアメリアは恐怖を覚える。
迫り来る巨体は鬼のように思えた。
「俺を、許して……」
彼の苦しげな呟きなどアメリアには聞こえるはずがない。
「俺を許してくれよぉおお!!」
飯島がどれほど願って叫んでも、追ってくる怨念が彼の首を絞める。足を掴み、肩を掴み、振り払う事は不可能だ。
『死ね』 『死ね』
『死ね』
『殺せ』
『殺せ』
『何でお前が』
『許すわけがない』
重なって、重なって、段々と背負えるものではなくなっていく。暗く、深い闇が飯島の脳を侵していく。
もう、飯島は逃げられない。
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