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第35話
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一つの戦場で起きる、三つの戦闘はどれも勝ちを譲らない物ばかり。
ディートヘルムの剣撃に、負けじと応戦するルイス。どちらも巧みな技術で競り合っている。
いや、僅かにディートヘルムが有利だろうか。
二対一の戦いを迫られるカルロスは、二機の技術の甘さを突く形で渡り合う。
アメリアは相変わらず、苦戦を強いられる。
「川中!」
竹崎が叫べば、呼ばれた川中はその隙をフォローするように立ち回る。
この攻防、長引けばカルロスはさらに苦戦する。徐々に、竹崎と川中は戦闘に慣れていっているのだ。
ハルバードでカルロスが攻撃をするも、それは前に出たどちらかの盾により、弾かれる。銃も同じだ。
『はぁっ!』
ハルバードを勢いよく盾で弾かれたカルロスの乗るタイタンは後ろに仰反る。
そこに川中は追撃を喰らわせていく。
バランスを崩したものの、カルロスも適応する。
迫る剣撃を右腕の盾でいなす。
『ーーっ』
深追いは不味い。
川中は慌てて大剣を引っ込めて、後ろに下がる。
「ふっ」
カルロスの乗るタイタンは銃撃を放つ。
一発、二発、三発。
弾丸は盾に当たり、あるいはリーゼの肩を掠めるばかりで、有効打になりはしない。
相対するカルロスの脳内にはやはり、疑問があった。
先程から、全く戦闘に参加しようとしないマルテアの機体のことだ。
何を考えているのか。
どんな行動を起こすのか。少しばかり怖くもあった。
この疑問は先程から脳の中をちらついていた。
動かぬリーゼに気を向けてばかりいては戦場では無残な死を遂げるだろう。
『ーーわかりました』
そんな声が通信に響いて、ブツッ、と何かが切れるような音がした。
不動であったマルテアのリーゼが遂に動き出した。
駆け出したのはカルロスのいる方向。
拙い。
カルロスは危機感を覚えた。
三対一ではどう考えても勝つことはできない。
「川中!」
名前を叫び、竹崎は川中を押し飛ばす。
何故、このようなことをしたのか。
『真衣……!?』
突然のことに川中の思考が追いつかない。
ただ、直ぐに現状が理解できた。
自らを突き飛ばしたリーゼの胸には、大剣が深々と突き刺さっている。
突き刺したのは、同じ色の巨神。
クラウディアの搭乗するリーゼであった。
『どういう、こと……?』
疑問が自然と川中の口から漏れた。
だが、既に彼女らとクラウディアとの通信は繋がっていない。
「川、な、か……」
竹崎の口から、か細い声が出た。
もはや死に体。もう長くない。
温かい赤に彼女の体は浸っていく。
先ほどの自分を呼ぶ声に川中は気がつかされる。もう、竹崎は助からないのだと。
だから。
だから。
『ーーまってよ……』
呼び止める声に意味はないはずなのに、それでも待ってくれと人は言う。理不尽は待ちもせずに、何もかもを奪っていく。
『ねぇ。……何で?』
庇わなければ死んでいたのは川中だった。何故、竹崎が死ぬ必要があったのだろうか。川中で良かったはずなのだ。
でも、竹崎は認めない。
「良か、った……。今度は、私が守、れぁ……よ」
嬉しそうな声色で、顔も見ることのできない彼女は満足したように、最後にそう告げた。
竹崎は守られてばかりだった。
暗いどん底の世界で、それでも生きていられたのは今は亡き彼女の姉のお陰であっただろう。
『真衣は絶対にお姉ちゃんが守るから。ごほっ、げほっ……』
弱り切っていた姉は無理に笑って、最後まで妹を守って、そして死んでしまった。
地獄のような生活を超えて、きっと少しでも良い生活が。苦しみに満ちた世界から、この世界に来ることで彼女は救われる。
彼女は救われた気になっていたのだ。
岩松に呼びかけられ、彼女の少しでもマシな生活が始まった。軍の人間として教育され、それでも今は幸せなのだと言い聞かせていた。
訓練に励む中で、竹崎は松野と出会った。
一緒にいる時間は楽しかった。他愛のない話ができた。仲の良かった彼女は戦争に行って、呆気なく死んでしまった。
初めて友達になれたのに。
漸く、友達ができたと言うのに。
『これで、独りじゃないでしょ?』
孤独から逃れられたと思っていたのに。
尋ねるような、この言葉は自分に語り聞かせていたものだった。姉のいない孤独を、頼れる人間を探して埋めたかった。
けれど、結局、また一人だ。
皆んなは竹崎を残して死んでしまうのだ。彼女をたった一人を残して。
松野が死んだという絶望の中で再び、彼女は光を見る。
この光こそが川中詩水という少女だった。
何よりも優しい少女だった。誰よりも優しい人だった。三つ目の光だった。
彼女に救われた。
まだ、生きてみよう。
そう思った。
彼女は死んではいけない人だ。
そう考えた。
守られてばかりだった。
失ってばかりだった。
喪ってばかりだった。
だから、今度は自分が守るのだと心に誓った。今度は自分が誰かを助ける番だと。守られてばかりでは嫌なのだと。何もかもを失うのは、耐えられないから。
最後に見える光景は血溜まりと、どんな顔をしているかもわからない黒い鉄ばかり。隠してしまうことが少しばかり憎く感じる。
ーーこれで、私の命には価値があったって言えるのかな……。
そんな彼女の疑問に答える声はなく、何処か遠くで呼びかける声が聞こえた。
悲痛の声だった。
呼ぶ声に竹崎は振り向くことができない。瞳を開ける力すらも残っていない。
だというのに、彼女の心は誰かの命を救えたという満足で一杯だった。こんな自分でも誰かを救うことはできた。守られているだけではないのだと。
誰に言うでもなく、彼女は心の中で自慢をする。
ゆっくりと目蓋を閉じて、竹崎真衣は冷たい鉄の中で深い眠りについた。
ーーありがとう、……詩水。
鉄の体を、彼女の体を無残に破壊した巨大な剣は、黒い巨人の手により、ゆっくりと引き抜かれた。
ディートヘルムの剣撃に、負けじと応戦するルイス。どちらも巧みな技術で競り合っている。
いや、僅かにディートヘルムが有利だろうか。
二対一の戦いを迫られるカルロスは、二機の技術の甘さを突く形で渡り合う。
アメリアは相変わらず、苦戦を強いられる。
「川中!」
竹崎が叫べば、呼ばれた川中はその隙をフォローするように立ち回る。
この攻防、長引けばカルロスはさらに苦戦する。徐々に、竹崎と川中は戦闘に慣れていっているのだ。
ハルバードでカルロスが攻撃をするも、それは前に出たどちらかの盾により、弾かれる。銃も同じだ。
『はぁっ!』
ハルバードを勢いよく盾で弾かれたカルロスの乗るタイタンは後ろに仰反る。
そこに川中は追撃を喰らわせていく。
バランスを崩したものの、カルロスも適応する。
迫る剣撃を右腕の盾でいなす。
『ーーっ』
深追いは不味い。
川中は慌てて大剣を引っ込めて、後ろに下がる。
「ふっ」
カルロスの乗るタイタンは銃撃を放つ。
一発、二発、三発。
弾丸は盾に当たり、あるいはリーゼの肩を掠めるばかりで、有効打になりはしない。
相対するカルロスの脳内にはやはり、疑問があった。
先程から、全く戦闘に参加しようとしないマルテアの機体のことだ。
何を考えているのか。
どんな行動を起こすのか。少しばかり怖くもあった。
この疑問は先程から脳の中をちらついていた。
動かぬリーゼに気を向けてばかりいては戦場では無残な死を遂げるだろう。
『ーーわかりました』
そんな声が通信に響いて、ブツッ、と何かが切れるような音がした。
不動であったマルテアのリーゼが遂に動き出した。
駆け出したのはカルロスのいる方向。
拙い。
カルロスは危機感を覚えた。
三対一ではどう考えても勝つことはできない。
「川中!」
名前を叫び、竹崎は川中を押し飛ばす。
何故、このようなことをしたのか。
『真衣……!?』
突然のことに川中の思考が追いつかない。
ただ、直ぐに現状が理解できた。
自らを突き飛ばしたリーゼの胸には、大剣が深々と突き刺さっている。
突き刺したのは、同じ色の巨神。
クラウディアの搭乗するリーゼであった。
『どういう、こと……?』
疑問が自然と川中の口から漏れた。
だが、既に彼女らとクラウディアとの通信は繋がっていない。
「川、な、か……」
竹崎の口から、か細い声が出た。
もはや死に体。もう長くない。
温かい赤に彼女の体は浸っていく。
先ほどの自分を呼ぶ声に川中は気がつかされる。もう、竹崎は助からないのだと。
だから。
だから。
『ーーまってよ……』
呼び止める声に意味はないはずなのに、それでも待ってくれと人は言う。理不尽は待ちもせずに、何もかもを奪っていく。
『ねぇ。……何で?』
庇わなければ死んでいたのは川中だった。何故、竹崎が死ぬ必要があったのだろうか。川中で良かったはずなのだ。
でも、竹崎は認めない。
「良か、った……。今度は、私が守、れぁ……よ」
嬉しそうな声色で、顔も見ることのできない彼女は満足したように、最後にそう告げた。
竹崎は守られてばかりだった。
暗いどん底の世界で、それでも生きていられたのは今は亡き彼女の姉のお陰であっただろう。
『真衣は絶対にお姉ちゃんが守るから。ごほっ、げほっ……』
弱り切っていた姉は無理に笑って、最後まで妹を守って、そして死んでしまった。
地獄のような生活を超えて、きっと少しでも良い生活が。苦しみに満ちた世界から、この世界に来ることで彼女は救われる。
彼女は救われた気になっていたのだ。
岩松に呼びかけられ、彼女の少しでもマシな生活が始まった。軍の人間として教育され、それでも今は幸せなのだと言い聞かせていた。
訓練に励む中で、竹崎は松野と出会った。
一緒にいる時間は楽しかった。他愛のない話ができた。仲の良かった彼女は戦争に行って、呆気なく死んでしまった。
初めて友達になれたのに。
漸く、友達ができたと言うのに。
『これで、独りじゃないでしょ?』
孤独から逃れられたと思っていたのに。
尋ねるような、この言葉は自分に語り聞かせていたものだった。姉のいない孤独を、頼れる人間を探して埋めたかった。
けれど、結局、また一人だ。
皆んなは竹崎を残して死んでしまうのだ。彼女をたった一人を残して。
松野が死んだという絶望の中で再び、彼女は光を見る。
この光こそが川中詩水という少女だった。
何よりも優しい少女だった。誰よりも優しい人だった。三つ目の光だった。
彼女に救われた。
まだ、生きてみよう。
そう思った。
彼女は死んではいけない人だ。
そう考えた。
守られてばかりだった。
失ってばかりだった。
喪ってばかりだった。
だから、今度は自分が守るのだと心に誓った。今度は自分が誰かを助ける番だと。守られてばかりでは嫌なのだと。何もかもを失うのは、耐えられないから。
最後に見える光景は血溜まりと、どんな顔をしているかもわからない黒い鉄ばかり。隠してしまうことが少しばかり憎く感じる。
ーーこれで、私の命には価値があったって言えるのかな……。
そんな彼女の疑問に答える声はなく、何処か遠くで呼びかける声が聞こえた。
悲痛の声だった。
呼ぶ声に竹崎は振り向くことができない。瞳を開ける力すらも残っていない。
だというのに、彼女の心は誰かの命を救えたという満足で一杯だった。こんな自分でも誰かを救うことはできた。守られているだけではないのだと。
誰に言うでもなく、彼女は心の中で自慢をする。
ゆっくりと目蓋を閉じて、竹崎真衣は冷たい鉄の中で深い眠りについた。
ーーありがとう、……詩水。
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