傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第44話

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 浜を抜ければ、目の前にはアスファルトの大地が広がっている。
 普段であれば人通りの多いであろうビルの立ち並ぶ街中も、戦時という事もあってかひどく閑散としたものだ。
『随分と、静かだね』
 九郎は警戒をして、銃を構えながら辺りを見回す。浜とは違い、巨大な建造物が身を隠す盾にもなり得る。
『軍人は……』
 居たとしても身を潜めているだろう。人間がリーゼに勝てる道理などどこにもない。
 ならば、大人しくタイタンの到着を待ち、援護に加わるだけでも構わない。いや、それが最も賢い選択のはずだ。
 四十五メートルの巨体は隠すことはできない。地面を大きく揺らしながら、二機のタイタンが近づく。
 隠密行動など、タイタンもリーゼも想定されていない。彼らが行えるのは、超高出力による破壊行動のみだ。
 赤色の巨体が二機、確認できた瞬間に阿賀野は走り出していた。大剣を構えたまま。
 迫るリーゼを迎撃しようとタイタンは構えた銃のトリガーを弾く。
 遅い。
 阿賀野が乗り込む。
 不完全な巨神は最低限の動きでタイタンの攻撃全てを避ける。
 阿賀野の突撃を支援するように、彼の背後から九郎と美空は強烈な銃撃を連続で浴びせる。
 だから、目の前に迫る阿賀野の攻撃に対応することができない。
「おおらぁっ!!」
 ミシリミシリと阿賀野が搭乗するリーゼは右腕から音を鳴らしながら、右に立つタイタンに向けて右上から左下に向けて斜めに、力任せに大剣を振るった。
 構えられた盾、斬撃の間にあったハルバードの持ち手も関係なく切り裂く。勿論、タイタンの機体からだもだ。
 大剣が鋼を断つ。
「弱ぇな、おい」
 阿賀野は左手に持つ中距離砲を左に垂直に構えて、撃ち放つ。放たれた弾丸は吸い込まれるようにしてタイタンの胸の中央を食い破る。
 とどめを刺すように、リーゼは正面を向き数発の弾丸をタイタンに打ち込んだ。
「本当、大したことねぇな」
 阿賀野が見たあのタイタンはこんなものではなかった。ここまで、鈍間ではなかった。これ以上の速度と判断力があった。
『四島、先に行く』
 美空からの通信が入って、阿賀野もうなずく。
 この先に行けば、阿賀野の求める最強があるかもしれないから。
 壊れた二つのタイタンは街の道路の真ん中で並んで、倒れていた。
 月光が照らす世界で、今は二機。
 いや、二人きりか。
 二機の内の片方に乗るジョージは、こんな鋼がなければ良かったと憎々しげに舌を打つ。
『エレ、ノア……』
 こんな邪魔な鉄さえなければ、きっと後悔することなんてなかったはずだ。死に行く体。左肩より先のなくなった彼は溢れ出る血と共に、言葉を溢す。
『こん、……なことなら、誤魔化さなきゃ良かっ、た』
 思い残すことは多い。
 想いも届かない。
 顔も見えない。
 答えなど、聞くことができない。
『エレノア、俺は……』
 言葉は続かない。
 掠れるような息が漏れただけ。既に生命活動が停止したエレノアの後を追うように、ジョージは息を引き取った。
 冷たく、巨大な棺桶ロボットの中で。






 リーゼは戦場をく。
 視認可能範囲には人っこ一人いない。静寂に鉄の足が地を揺らす音だけが響いた。
 軍人はやはり出てこない。
 勝ち目がない戦い、そこで数を削っても無意味。
 リーゼが彼らを攻撃することも、また無意味である。戦闘意欲のないもののために体力を浪費するのは勿体ない。
 本部基地の存在する都市まで距離はまだまだ有るものの、そこまで進軍を続ければ良いだけの話。
『にしても、敵が全く居ない……』
 九郎が呟く。
 どうぞ、進んでくださいと言いたげにも感じるほど、彼らの歩みを止めようとする影がない。
 対戦車用地雷があったとしてもリーゼやタイタンに対する有効手段とはなり得ない。
 つまるところは、タイタン以上のリーゼへの対抗手段は皆無という事になる。
 アスタゴ上陸から二時間ほど。空は未だに夜の暗さを保つ。もう二、三時間ほど経つと朝日も見え始めるだろう。この二時間と言う時間で陽の国とアスタゴ間におけるタイタンの破壊された数は五機。異常な速度とも言えるだろう。
『ロッソが居ないなら、それで良い』
 美空はどうでも良いと感じているようで、リーゼを動かす。
『それもそうだね』
 彼女の言葉に九郎も納得を示す。
「つまんねぇ……」
 阿賀野は溜息と共に小声を漏らした。
 彼の言葉が何かの引き金だったのか、ビル群の向こう側から暗い闇に包まれた紅が迫る。
『よかったね』
 九郎の言葉は皮肉混じり。
 この短い言葉には面倒な事になったと言う色が見える。
「ああ?」
 興味もなさげに阿賀野は銃を撃ち放つ。無慈悲にタイタンの銃を持つ左腕を撃ち抜く。
 アスタゴの銃が大地に落ちる。
 まるでそれが合図だったかの様に走り出した阿賀野はリーゼの機動力を利用し、背後にまで回って力強く切り裂いた。
 リーゼの足からはミシリと音が響く。
「んだよ、クソ弱え」
 求めるのはこんな物ではない。
「コイツも、あのロッソとは別物だ」
 比べるのもおこがましい、あの赤い巨神とは。これではただの人型の鉄屑だ。
 弱すぎて、脆すぎて、話にもならない。思わず長い息を吐く。
 だがしかし、少し考えてみたら直ぐにわかる話だ。これは阿賀野であるが故に起きた圧倒的勝利なのである。
 もし、これが別のパイロットであれば苦戦は必至であったはずだ。更にボロボロの機体であるという制限を設ければ、他の者では勝つことは不可能だっただろう。
 もしかしたらの話をするのは無粋なのかもしれないが。
『そうか……』
 九郎の脳裏に、自らの雇い主である佐藤の言葉がよぎった。
 特別。
 阿賀野を表す上で、間違いなどではなかったのかもしれない。だが、それを九郎は認めたくなどなかった。
 特別など、この世界には居ないのだと。九郎は自らに言い聞かせる。
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