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第45話
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特別。
九郎がその言葉が嫌いになったのは最近というほどの話でもなかった。
九郎。
今はそう名乗っている。
彼は陽の国内に存在する、傭兵部隊の一員である。この傭兵部隊は若い子供達で構成される。陽の国非公式の少年兵団の様なものだ。
金に応じて彼らは働く。彼らには、それなりの信頼というものがあった。
実態は、昔で言う忍の様なもの、と考えれば良いのだろうか。
ある日、九郎を含む複数人のメンバーが仕事を請け負った。
仕事はとある戦場で敵を殺すというだけの極めて、単純な仕事だった。
誰か仲間が名前を叫んだ。
『久遠!』
この時はそう名乗っていた。
戦場は墓場だ。誰も彼もが理不尽に死んでいく。地雷によって足を吹き飛ばされ、身動きの取れない所を殺される。
銃弾により頭を撃ち抜かれる。体を撃ち抜かれて失血死。
様々な死因があった。
九郎と共に戦場へ向かったほぼ全てのメンバーは死に絶えた。それこそ、さまざまな要因によって。最終的に戦場で生き残ったのは九郎だけであった。
『西川が殺られた!』
消えていく命。残酷にも命は軽薄に奪われていく。今、九郎の目の前でまた一つ。鮮血を上げながら仲間が倒れていく。
敵を殺す。
この一つだけが思考を支配した。自らの命も顧みない殺戮マシーンと成り果てたのだ。
『落ち着け、久遠!』
仲間の声が。
『冷静に対処しろ』
ただ、彼らの声は届かない。
『久遠! 前に出過ぎるな! くそ、こっちに数が……!』
対処不可能な数が彼らに殺到した。九郎には見えていなかった。思考能力が奪われる。
背後では仲間が死ぬ。自分の手で目の前の敵を殺す。前に、前にと前のめりの殺意を抱く。しかし、背後にいた仲間は九郎ほどの強さはなかった。
九郎は仲間を信じていたのか、ただ怒りに目を眩まされたのか。そんなものは論ずるまでもなく、後者であった。
死んで、殺して、死んで、殺して。相討ちもあったのだろう。
敵も仲間も減っていく。
九郎は全ての敵を殺した。
そうして、この戦いの全てが終わった後、地獄の果てに生き残ったのは九郎だけだった。
周りには血溜まりと骸の山が築かれている。
何故、誰も生きていないのか。
『く、おん……』
そんな声が、九郎の直ぐ近くから聞こえる。足下にいた仲間の声。倒れていたのは少女だった。血を垂れ流し、その失血量からもう長くないことは明らかだった。
『ぁ……』
頭に上っていた血が一気に下がったような感覚だ。
理性的な頭が、責任を追求する。
誰のせいだ。
答えは直ぐに出る。
自分のせいだ。
怒りに飲まれたから仲間が死んだ。怒りに囚われて仲間を殺した。
自分は特別だと思っていた。誰かを守れるくらいには強いと思っていた。誰かの苦しさを背負えるくらいに、肩代わり出来るくらいの強さがあると信じていた。
そんなことはなかった。
特別などではなかった。
特別なら、九郎はきっと仲間を死なせることなどなかった。
何のせいだ。
驕りがすぎたのだ。感情を抑えられなかったからだ。
最強など、特別など認められない。自分がなれなかったそれを、誰かが名乗ることに怒りを覚えたのか。
特別と言う存在を認める事が、どうしようもなく九郎には許せなかった。
『特別なんていない』
九郎は期待などしてはならないと、自らを戒める。
暗い夜、雲が月を僅かに隠す。月光がほのかに赤を照らしている。
「あー、アダムさんさ」
戦況は理解している。
だからこそ、東海岸にいたミカエルは通信を入れて一つの提案をした。
「こちら敵影なしだそうで、西海岸の方に援助に向かった方がいいかな?」
リーゼを乗せた巨大な戦艦など、ステルス機能を積んでいたとしても発見されるだろう。何より、戦略的に集中させた方が攻める側としては成功率の高い方法だ。
『…………』
「迷う時間は無いと思うけど?」
『そう、だな』
「そもそも、こっちの防衛に関しては完全に俺一人ってわけでも無いんだし」
先の戦いで彼は一人で迎撃を行ったわけだが、別にアスタゴ東海岸の防衛基地に無防備に彼一人だけを設置しているわけではなかった。
ただ、単純な話、彼一人で戦力が事足りると言うだけの話だったのだ。
「街の方にも入ったみたいだからね」
なら、出来る限り早く撃退した方が良いに決まっている。
『ーーっ、分かった。ミカエル、シャドウへの対処にあたってくれ』
「了解」
直ぐにズシンと地面を揺らす音が響いた。
『おい、ミカエル! さては最初からそのつもりだったな!』
タイタンが動いた事で起きた地響きの音で、通信機の向こうにいるアダムも気がついたのか、少しばかり声を荒げた。慌てている様に感じるが、仕方がないというような感覚もある。
アダムの推測通り、ミカエルは既に乗り込んでおり、タイタンを起動させていた。
「というか、あの戦いから全然こっち側から攻められてないんだよね」
三機のリーゼを逃すこととなったあの戦い以来、東海岸からの攻撃は無くなり、ミカエルは退屈に耐えかねていたのだ。
戦争において、ミカエルというアスタゴ合衆国最強の戦力を使わないのは勿体ないとも思える。
「それに、ちょっとは楽しめそうだ」
敵国のリーゼの上げた戦果。それが今まで以上の高揚感を覚えさせる。
もしかしたら、自分を楽しませてくれる好敵手がいるやもしれない。そんな理想が彼の頭の中に湧き上がる。
『はあ……、全く最強は頼りになるな。それで勝率はどうなんだ?』
楽しませてくれるかもしれない。
だが、その果てでも自分には及ばない。彼の思考に変化などない。その未来は揺るがない。そうであることを彼は信じている。
「百パーセント。俺が負けるビジョンなんて一切見えないよ」
傲慢とも取れるミカエルの発言に、人は何を思うのだろうか。
ただ、彼の言葉を聞くアダムは、ミカエルに全幅の信頼を置いている。彼が言うのだから間違いはない。アダムはミカエルの強さを知る人間の一人であるから。
『そうか、頼んだぞ』
アダムに言われるまでもない。
最強が大きな一歩を進める。紅の巨神はもう一人の最強に近づいていく。
九郎がその言葉が嫌いになったのは最近というほどの話でもなかった。
九郎。
今はそう名乗っている。
彼は陽の国内に存在する、傭兵部隊の一員である。この傭兵部隊は若い子供達で構成される。陽の国非公式の少年兵団の様なものだ。
金に応じて彼らは働く。彼らには、それなりの信頼というものがあった。
実態は、昔で言う忍の様なもの、と考えれば良いのだろうか。
ある日、九郎を含む複数人のメンバーが仕事を請け負った。
仕事はとある戦場で敵を殺すというだけの極めて、単純な仕事だった。
誰か仲間が名前を叫んだ。
『久遠!』
この時はそう名乗っていた。
戦場は墓場だ。誰も彼もが理不尽に死んでいく。地雷によって足を吹き飛ばされ、身動きの取れない所を殺される。
銃弾により頭を撃ち抜かれる。体を撃ち抜かれて失血死。
様々な死因があった。
九郎と共に戦場へ向かったほぼ全てのメンバーは死に絶えた。それこそ、さまざまな要因によって。最終的に戦場で生き残ったのは九郎だけであった。
『西川が殺られた!』
消えていく命。残酷にも命は軽薄に奪われていく。今、九郎の目の前でまた一つ。鮮血を上げながら仲間が倒れていく。
敵を殺す。
この一つだけが思考を支配した。自らの命も顧みない殺戮マシーンと成り果てたのだ。
『落ち着け、久遠!』
仲間の声が。
『冷静に対処しろ』
ただ、彼らの声は届かない。
『久遠! 前に出過ぎるな! くそ、こっちに数が……!』
対処不可能な数が彼らに殺到した。九郎には見えていなかった。思考能力が奪われる。
背後では仲間が死ぬ。自分の手で目の前の敵を殺す。前に、前にと前のめりの殺意を抱く。しかし、背後にいた仲間は九郎ほどの強さはなかった。
九郎は仲間を信じていたのか、ただ怒りに目を眩まされたのか。そんなものは論ずるまでもなく、後者であった。
死んで、殺して、死んで、殺して。相討ちもあったのだろう。
敵も仲間も減っていく。
九郎は全ての敵を殺した。
そうして、この戦いの全てが終わった後、地獄の果てに生き残ったのは九郎だけだった。
周りには血溜まりと骸の山が築かれている。
何故、誰も生きていないのか。
『く、おん……』
そんな声が、九郎の直ぐ近くから聞こえる。足下にいた仲間の声。倒れていたのは少女だった。血を垂れ流し、その失血量からもう長くないことは明らかだった。
『ぁ……』
頭に上っていた血が一気に下がったような感覚だ。
理性的な頭が、責任を追求する。
誰のせいだ。
答えは直ぐに出る。
自分のせいだ。
怒りに飲まれたから仲間が死んだ。怒りに囚われて仲間を殺した。
自分は特別だと思っていた。誰かを守れるくらいには強いと思っていた。誰かの苦しさを背負えるくらいに、肩代わり出来るくらいの強さがあると信じていた。
そんなことはなかった。
特別などではなかった。
特別なら、九郎はきっと仲間を死なせることなどなかった。
何のせいだ。
驕りがすぎたのだ。感情を抑えられなかったからだ。
最強など、特別など認められない。自分がなれなかったそれを、誰かが名乗ることに怒りを覚えたのか。
特別と言う存在を認める事が、どうしようもなく九郎には許せなかった。
『特別なんていない』
九郎は期待などしてはならないと、自らを戒める。
暗い夜、雲が月を僅かに隠す。月光がほのかに赤を照らしている。
「あー、アダムさんさ」
戦況は理解している。
だからこそ、東海岸にいたミカエルは通信を入れて一つの提案をした。
「こちら敵影なしだそうで、西海岸の方に援助に向かった方がいいかな?」
リーゼを乗せた巨大な戦艦など、ステルス機能を積んでいたとしても発見されるだろう。何より、戦略的に集中させた方が攻める側としては成功率の高い方法だ。
『…………』
「迷う時間は無いと思うけど?」
『そう、だな』
「そもそも、こっちの防衛に関しては完全に俺一人ってわけでも無いんだし」
先の戦いで彼は一人で迎撃を行ったわけだが、別にアスタゴ東海岸の防衛基地に無防備に彼一人だけを設置しているわけではなかった。
ただ、単純な話、彼一人で戦力が事足りると言うだけの話だったのだ。
「街の方にも入ったみたいだからね」
なら、出来る限り早く撃退した方が良いに決まっている。
『ーーっ、分かった。ミカエル、シャドウへの対処にあたってくれ』
「了解」
直ぐにズシンと地面を揺らす音が響いた。
『おい、ミカエル! さては最初からそのつもりだったな!』
タイタンが動いた事で起きた地響きの音で、通信機の向こうにいるアダムも気がついたのか、少しばかり声を荒げた。慌てている様に感じるが、仕方がないというような感覚もある。
アダムの推測通り、ミカエルは既に乗り込んでおり、タイタンを起動させていた。
「というか、あの戦いから全然こっち側から攻められてないんだよね」
三機のリーゼを逃すこととなったあの戦い以来、東海岸からの攻撃は無くなり、ミカエルは退屈に耐えかねていたのだ。
戦争において、ミカエルというアスタゴ合衆国最強の戦力を使わないのは勿体ないとも思える。
「それに、ちょっとは楽しめそうだ」
敵国のリーゼの上げた戦果。それが今まで以上の高揚感を覚えさせる。
もしかしたら、自分を楽しませてくれる好敵手がいるやもしれない。そんな理想が彼の頭の中に湧き上がる。
『はあ……、全く最強は頼りになるな。それで勝率はどうなんだ?』
楽しませてくれるかもしれない。
だが、その果てでも自分には及ばない。彼の思考に変化などない。その未来は揺るがない。そうであることを彼は信じている。
「百パーセント。俺が負けるビジョンなんて一切見えないよ」
傲慢とも取れるミカエルの発言に、人は何を思うのだろうか。
ただ、彼の言葉を聞くアダムは、ミカエルに全幅の信頼を置いている。彼が言うのだから間違いはない。アダムはミカエルの強さを知る人間の一人であるから。
『そうか、頼んだぞ』
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