自衛官×変身ヒーロー×呪われた姫=スキル制約

鹿

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20 はったり【Side.ビニール仮面】

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警報音が10回鳴った後、全身がピンク色に輝いた。

そして光が収まると、強制的に変身が解除されたアスカが立っていた。

「どうした?まさか!?」

『ワオォォォォン』

すでにウインドウルフに囲まれていた。

「ピンチワーン!」

しかしその中の、茶色と、茶色に白斑の二匹が、お座りをして尻尾を振っている。

「あいつら二匹を誘惑してヒーローポイントがなくなったんだな!?しかし、残り二十はいるぞ!キュウ、ミミお前らだけでこの数行けるか?」

ピンク(キュウ)とピンク(ミミ)は、可愛らしく鳴き、打ち合わせでもしたかのようにポーズを決めた。

「おお!頼むぜ!」

しかしキュウは『どろん』という音と共に、煙を上げ元の九尾の姿に戻り、ミミはグニャグニャと体が波打ち始め、元のミミックスライムに戻ってしまった。

「何ぃ~!どうしてだ?」

『説明しよう
MPが切れたのである』

「ピンチツー!」

変化と擬態が解けた二匹は、とても辛そうにその場にへたり込んだ。

「そうか、お前らはMPでスキルを使うんだよな。すまんな無理させて」

その時、突如アスカの背中に悪寒が走った。

「何だ?何かヤバイ!」

異様な気配を感じ取り、その方向を見据えると、他のウインドウルフとは明らかに違うモンスターがいた。

「!?」

闇のように黒いウインドウルフが、牙を剥き出しアスカを睨んでいる。足元からは、黒いモヤのような物が立ち昇っていた。

『ワオォォォォォォン』

黒いウインドウルフが遠吠えすると、周囲のウインドウルフが更に増えた。

「倍に増えた!あいつがボスだな?アナライズ」

ーーーーーーーーーーーー
名前 : ー 
種族 : ウインドウルフ
分類 : 魔獣
属性 : 風属性 (アビスサイド)
年齢 : 24
性別 : 雄
Lv : 25
HP : 289/289
MP : 156/175
攻撃力:311
防御力:277
素早さ:426
知 能:170
器用さ:149
幸運値:15
装備:なし
スキル  : ウイングバイトLv6、ウイングクロウLv7、バインドボイスLv5、統率Lv5、風魔法中級Lv4、アビスの鎖
ーーーーーーーーーーーー

「ぶーーーーーーっ!な、な、な、何だこいつ!け、桁が違うぞ!ヤバイ!逃げるか?」

アスカは周囲を見渡した。しかし無数のウインドウルフに囲まれて、逃げ場など無かった。

「む、無理だ!囲まれてる!!どこかに魔石は無いか!?」

アスカは再び周囲を見回したが、それらしい物は何も見つからなかった。

「ピンチスリー!やばす~」

『グルルル』

ウインドウルフたちはアスカたちへ、ジリジリと、にじり寄り始めた。

(誘惑した奴らの魔石を奪うか……)

魅了状態となったウインドウルフの四匹は、腹に食い込みそうなほど尻尾を隠し、伏せの状態でガタガタ震えている。

「馬鹿か俺は!そんなクソみたいなヒーローにはならん!」

『キュ~!キュウ!』

『ミィ~!ミィ!』

キュウとミミはアスカの前に立ち塞がり、ウインドウルフのボスに向かって吠え続けている。

(こいつらは俺が守る!)

「ありがとな!後は俺に任せて、お前たちは下がってくれ」

アスカはボスに向き直ると左手を腰に当て、右手はシャキンと音が鳴りそうなほど天に向けて指をさした。

「お前らこんなに少ない数で、俺に勝てると思っているのか!!」

(どうする?何か手はないか。一対一に持ち込んでも勝算はゼロだ!否!俺はヒーローだ!こいつらを守るんだ!ビビるな俺!)

「お前らの勝算はジェロだ!」

(か、噛んだ……)

「噛んだと思っただろ!決して噛んではいない!勝算はジェロニモだと言いたかったんだ!略したんだよ!それ程の余裕があるんだ!俺には!」

(何だよジェロニモって!しかし言葉はどれだけ通じてるんだ?)

「聞こえてるのか!周りの奴らは逃してやろう!しかし貴様だけは許さんぞ!許して欲しけりゃ魔石を置いて、尻尾巻いて逃げ出しな!」

(俺が逃げたいわ!くそっ!魔石さえあれば)

『グロロロロォォォ』

ボスは唸り声を上げ始めた。

(この威圧感半端ないな。何とかして魔石を手に入れないと、詰むぞ)

「これが最後だ!それ以上近付くのなら命は無いと思え!」

(来るなよ~!来るな!来るな!)

ボスの両サイドに、二匹のウインドウルフがゆっくりと近付いてきた。

(アホゥ!増えてるし!)

「何だ!お前らも死にたいのか?」

二匹のウインドウルフは、低い唸り声を上げ、アスカを睨みつけている。

「俺は今機嫌が悪いんだ!手加減なんか出来ないからな!」

アスカは全身から汗を噴き出しているが、雨に流されそれを知る者はいなかった。

(何か、何か打開策はないか?)

『グロロォォォォ』

ボスが低く唸ると、両サイドのウインドウルフはゆっくりと前に歩き始めた。

「止まれ!動くな!それ以上動いたらどうなるんだ!?」

パニックに陥入っているアスカは、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。

(こうなったらヤケ糞だ!全く準備が整ってないけど)

アスカは天を指していた指をボスに向けた。
それと同時に雨が止んだ。

(シャキーン!雨が止んだ!痺れるぅ~。さすがヒーロー、ナイスタイミング!俺以外準備良し!だが…)

「I'm lady!忠告はしたぞ!魔石は頂く!貴様らの魔石は何色だ?」

『ワオォォォン!』

ボスが叫び声を上げた。大気が震える。

「くっ、か、体の自由が効かない!これはスキルにあったバインドボイスか?マジで痺れる!」

アスカはボスのバインドボイスを受け、状態異常の麻痺となってしまった。
それが合図となり、ボスの両サイドに控えている二匹は、飛びかかろうと深く体を沈めた。

(ヤバイ!待て!何か手はないのか?体が動かないからイヤーカフにも触れない!万事休すか!)

その瞬間『ズドーーーーン』と爆音をたてて、目の前のボスに何かが降ってきた。

「んなっ!?」

辺り一面泥水が巻き上がった。

立て続けに、その左隣で飛びかかろうとしていたウインドウルフに、そして反対側のウインドウルフにも何かが命中した。

さらに、その近くの誰も居ない地面と、少し離れた木に何かが降り注いだ。木は粉々に砕け散った。

それは一瞬の出来事であった。

合計五回の爆音と、泥水の水飛沫が、その場の時間を止めた。

(な、何だ?隕石?)

アスカとその仲間たち、更には周りのウインドウルフたちまでも動揺している。

徐々に泥水のしぶきが引いていき、視界が戻り始めた。

そこにあったのは、黄金の箱がウインドウルフごと地面にめり込んだ、何とも不思議な光景だった。

「……き、きん?」

(な、なぜ?なぜゆえ?ゆえなぜ?ゆえ?)

軽いパニックになっているアスカと同じく、周りに残ったウインドウルフたちもザワつき始めた。

ボスに黄金がめり込み、息の根を止めた事により、アスカの麻痺は解かれた。

(体が動く!チャンス!何だか分からねぇが、これに乗っかるしかない!)

アスカは再び天を指さし大声で叫んだ。

「うぉらぁ~!お前らも同じ目に会いたいのかぁ」

『ワオ~~~ン』

ボスを一瞬にして失ったウインドウルフたちは、アスカの大声を聞き、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

「ハァ~~。た、助かった……」

アスカは大量の息を吐き出し、その場に座り込んだ。

顔を覆う液体が、もはや汗か雨か泥水なのかも分からない。
それを左手で拭った。

「雨が止んだな。天空の城でもあるのかな?」

何気に、ふと空を見上げた。

「……な、何だぁあ……ありゃぁ…」

顔を拭った手がイヤーカフを触れていた。

『説明しよう!
ニアミスである』

雨雲の中をデカくて長い『何か』が進んでいた。

「ニアミス?何かの名前か?ド、ドラゴンか?いやどちらかと言えば龍だろうな…あんな奴がいるのか…この世界には……あいつの魔石は何色なんだ?」

異世界のスケールの大きさに圧倒された。

『何か』が上空を通過してしばらくすると、再び雨が降り始めた。
それが見えなくなっても、アスカはそのまま呆然と空を眺めていた。

空を見上げてどのくらい呆けていただろう。
痺れを切らしたワンちゃんたちが、アスカに声をかけた。

『ワォン!』

「おぉ!悪りぃな。勝手に誘惑しちまって。そうだなぁ。名前付けてもいいか?」

『ワォ!』

「よし!それじゃあシロ、クロ、ブチ、チャだな!」

『ワォ~ン!』

「うわっ」

四匹はアスカに飛びかかり、そのまま倒れたアスカに、甘噛みや舐めたりして戯れている。

「よしよし!みんな気に入ったか!それじゃあ、お前たちも一緒に行くか?」

『『『『ワォン』』』』

「くはは。やめてくれぇ~」


アスカたちの遥か上空を、ゼンジたちが通過したのは、また別のお話……


『天からの落下物と、アスカの機転で危機を回避した一行だった。
しかし実際のところ、アスカは何もしていないのである。
そして今回をもって、ひとまずも、ふたまずも置いていたアスカのネーミングセンスは、ジェロニモなのが証明された。
叫べアスカ!ウララ~!
次回予告
ブラックホール!』

「やっぱりイラッとするよ?HPが削られてる気がするけど、猛毒吐いてない?」 
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