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24 事の発端《Side.黒魔女天使》
しおりを挟む人は、目に見えないものに怯える。
人は、得体の知れないものを恐れる。
暗闇 幽霊 病原菌
様々なものに恐れおののき、忌み嫌ってきた。
『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる』フランスの作家、ジュール・ヴェルヌの名言である。
近年科学の発達により、次第にその原理が明らかとされてきた。
一方で、科学では未だ解明されていない、謎がある事も明らかである。
呪いも、その一つ。
黒魔術 言霊 祟り
様々な手段で災厄をもたらしている。
だがそれは、呪いによるものかも知れないし、単なる偶然なのかも知れない。
真実は闇の中である。
人は、目に見えないものに怯える。
人は、得体の知れないものを恐れる。
しかし、もし、それが見えたなら……
【私の名前は、北野 姫(きたの ひめ)
17歳。
身長155センチ。
髪型は、胸まであるロング。
好きな事は、ビー玉集め。
特徴は、呪われています。
幼い頃から私の周囲では、何かと良くないことが起こりました。
友達の鉛筆が無くなったり、私と歩いていた友達の目の前に、お店の看板が落ちてきて怪我をしそうになったり。
小さい事から大きな事まで、それこそ毎日起こりました。
そして、15歳の誕生日。
友達が次々と怪我をしたり、病気になりました。
一週間後、学校に行くと、クラスで出席したのは、私一人でした。
その日を境に、周囲の私を見る目が変わりました。
みんな私のことを、魔女と呼ぶようになりました。
そして、私自身にも変化が訪れました。
私の周りに何かが居るのが、分かるようになりました。
仄暗い何かが、ウゾウゾと、まとわり憑いているのが見えるのです。
それは触手のように伸びる仄暗いモノで、その輪郭は妖しい紫色に、ぼんやりと光っていました。
手を伸ばしても触れる事は出来ません。お風呂で洗い流そうとしても無理でした。
ある日、学校の階段で先生とすれ違った時、そのウゾウゾが先生の足に触れた途端、先生は足を滑らせ階段から転げ落ちました。
恐ろしくなった私は、その場から逃げ出しました。
人を傷つけてしまう自分のことが怖くなり、登校拒否になりました。
人と会わなければ誰も傷付けない。もう誰も傷つけたくないと思いました。
両親に連れられ、お祓いにも行きましたが、誰も取り除く事はできませんでした。
私は引き籠り、ネットでウゾウゾの事を調べました。ウゾウゾが何なのか、そしてその原因は?
何日も検索を続けましたが、一件もヒットしませんでした。
次第に私はネットゲームをしたり、ネット動画を見たり、ネット三昧になって行きました。
特に、ネット小説の異世界ものにハマりました。
「私もこんな世界に行けたらなぁ……人生やり直せるのに」
ベッドの上で体育座りをして、毎日妄想していました。
そんなある日、いつものようにパソコンを覗き込むと、ネットが騒ついていました。
隕石。流星群。宇宙人の地球侵略。世紀末。
様々な危険なワードで盛り上がっていました。
中でも興味を引かれたのが、
『一生に一度の流星群、貴方の願いが叶うかも』
「まさかね……でも流れ星がたくさん流れたら、どれかが願い事を聞いてくれるかも。家から見れるかな?やっぱり高い所が良いよね……よし!」
私は意を決して、外に出ることにしました】
19時25分
目立つ事が嫌なヒメは、父親の黒いコートを着た。
「ちょっと長いなぁ」
御守りとして、お気に入りのビー玉が数十個入ったショルダーバッグを、肩からかけて家を出た。
「ヒメはマジックバッグを装備した…なんちゃって…良し行こう!」
家の裏手にちょっとした山がある。
歩いて登れば20分で頂上に着く小さな山。
そこには、古い崩れかけた鳥居が四つあるだけ。
山の麓、階段の中腹、階段の頂上、そして少し先の何もない、草木の生えている原っぱの前に一つの計四箇所。
そしてそこは、必ず幽霊が出るという心霊スポットである。
以前は人気のスポットだったが、その場を訪れた人たちには、必ず良くない事が起こるという噂が一人歩きし、今では誰も近付かなくなった。
「私には丁度いい場所だなぁ」
目の前のコンビニを曲がれば山の麓の入り口なのだが、そこに座っていたガラの悪い男達が、ヒメを見るなり近寄ってきた。
「あれれ?こんな日にそんな格好して暑くない?」
「一緒に流星群見ない?」
「飯奢るから、コンビニおにぎり」
「可愛いね~。今日イチだよ」
(ダメ。近付かないで)
「そんなとこ突っ立ってないでさぁ~。こっちにおいでよ」
そうして一人の男がヒメに手を伸ばした時、ヒメの後ろから仄暗い何かがウゾウゾ動きだし男の手に触れた。
すると男は、弾かれる様に体を捻り尻餅を突いた。
「イッテェ~」
「えぇ!?そっちでいくの?仕方ねぇなぁ…今、ぶつかったよね?」
「こいつ倒れたよ~。ねぇ聞いてる?」
(それ以上近付いたらダメ)
ヒメはうつ向いた。
「人にぶつかっといて何だその態度は!?」
「シカトですか~?慰謝料払えよ」
仄暗い何かがウゾウゾと動き始めた。
ヒメは顔を上げると、真面目そうな男が近付いて来るのが見えた。
その真面目そうな男にも、ウゾウゾが伸びようとしていた。
「来ないで!」
ヒメは咄嗟に声を上げていた。
しかし彼はピタリと動きを止めて、正義感と書かれた瞳でヒメを見ていた。
「早く逃げて!」
(お願いします)
「何やってるんだ!」
案の定そう言うと、真面目そうな男が近付いてきた。
それを見たレスラーのような男が、金髪に支持を出した。
「あいつ邪魔だな。追い払え」
「はい」
金髪の男は、短く返事をしてナイフを取り出した。
「何だお前?怪我してぇのか?」
金髪は走り出し、真面目そうな男は傘を振りかぶった。しかし傘の重さで、フラついてるように見える。
(ダサい)
ヒメは不謹慎にもそう思ってしまった。
「しまった!」
真面目そうな男が声を上げた。
(危ない!)
「そこまでだ!」
ナイフで刺される。そう思った時、コンビニの自動ドアが開き、中からビニール袋を被った背の高い男が出てきた。
「え?」
時が凍りついた。
「悪は許さん!」
(ダッサ!)
ヒメは思わず口に出すところだった。
しかし、その後はとても格好よかった。
ビニール袋さえ被っていなければ…
瞬く間に、ビニール袋を被った変な男が、ガラの悪い連中をやっつけた。
「覚えてろ!」
その中の一人が、泣きそうな声を出した後、仲間を連れて尻尾を巻いて逃げて行った。
(忘れたくても忘れられない。ビニール袋を被って『アクは許さん』って…正義のヒーロー、ビニール仮面か)
「ダサい…」
「ビニールしか無かったんだから仕方ないだろ!」
ビニール仮面が、突然声を荒げた。
(ヤバっ!声に出てた!?)
「い、いや、あの、さっきの捨て台詞がダサいって言ったんですけど…何かすみません」
「あ~ね…はは…怪我してない?」
(ホッ、良かった。誤魔化せた)
安心したのも束の間、ヒメの肩越しに仄暗い何かが、ウゾウゾと動き始めた。
(いけない!この人たちにも触れてしまう)
「助けに来なくて良かったのに。早く何処か行って」
ヒメを助けた二人の男たちは、動きを止めてキョトンとしていた。
(……助けて貰ってこの言い方はダメだね。ちゃんと説明しないと)
「私は呪われてるんです…魔女なんです。私に関わると良くない事が起こるんです。だから早く離れて下さい。」
「「へ?」」
再び真面目そうな男は、驚愕の表情をしている。ビニール仮面については、覗き穴から見える目が、怒りで真っ赤に燃え上がっているようだった。
(そうだよね……魔女って言われても、普通信じないよね)
その時突然、ウゾウゾが、いつもより激しく動き出した。
(ダメ!早く離れないと)
「助けていただいて、ありがとうございました」
(何かおかしい!こんな動きは初めて!)
ウゾウゾがヒメを囲み始めた。
そして、慌てて周囲を見回しているヒメを、みるみるうちに包み込んで行く。
「どうぞ」
真面目そうな男が、突然傘を渡してきた。
ヒメは驚いた。
ウゾウゾが、彼に触っていたのだ。
(遅かった…)
彼も不幸にしてしまった。
(ごめんなさい)
受け取った傘はそっと傘立てに返した。
「だよね」
真面目そうな男は残念そうに呟いた。
ビニール仮面を見ると、彼にもウゾウゾが触っていた。
(彼も……ごめんなさい)
そしてウゾウゾは二人の体を登って行った。
二人の姿は真っ黒に包まれて見えなくなった。
ふと上を見ると大きな何かが、目の前に迫っていた。
(まさか!お願い!助けて!)
「こりゃ詰んだわ」
「隕石?」
二人の声を聞いた後、視界が真っ白になった。
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