自衛官×変身ヒーロー×呪われた姫=スキル制約

鹿

文字の大きさ
23 / 48

23 再会【Side.ビニール仮面】

しおりを挟む
四人の女性は口を閉ざした。

「どういうつもりだ!?」

その不気味さに、魔石を持つ手に自然と力が入る。

「正体を現せ!」

すると突然、堰を切ったように女性たちが涙を流し始めた。

「え?」

その涙にアスカは動揺した。

「お願いがあります。実は村がゴブリンに襲われました」

美人の女性が、綺麗なお辞儀をした。

「私たち村の女は、ほとんどがゴブリンに拐われました」

可愛い女性が、美しいお辞儀をした。

「私たちは幸運にも逃げ出せましたが、まだ上流にあるゴブリンの巣には、村の女たちが捕まったままです」

スタイルの良い女性が、節度あるお辞儀をした。

ここでアスカは状況を理解して顔を引き攣らせた。

「……」

「本当はテランタ村は、あの木よりも下流にあります。上流にあるのはゴブリンの巣です。騙してごめんなさい。でも…是非、他の女性たちも助けてください」

胸の大きな女性が、深々とお辞儀をした。

「(胸元が)ヤバい!」

(ヤバイどころの話じゃぁなかった。その反対だ、ヤバくない。というか全くヤバい話じゃぁなかった。いや、彼女たちにとってはヤバいんだけど。恥ずかしい……川に飛び込みたい。彼女たちはモンスターじゃないのに、お前たち何者だ!正体を現せってデカい声で叫んじまったし。そもそも愛の告白じゃなかったのか?テイマーがモテモテだと言ったのはどこのどいつだ!反対じゃぁないか!反対の反対だ!…ん?モテモテの反対の反対は一周回ってモテモテ?まだ可能性は残ってる?彼女たちに良い所を見せればあるいは…)

独り相撲をしていた事に気付いたアスカは、勝手に希望を見出して、魔石を圧縮し超亜空間に送った。そして戦闘態勢を解き女性たちに向き直った。

「騙すような事をしてごめんなさい。でも早く助けてあげないと。ゴブリンに何をされるか分かりません」

スタイルの良い女性が、顔を上げて笑顔で言った。

「お、おう。ゴブリンな!」

(ゴブリンって誰だ?プリンの仲間か?)

「もう直ぐゴブリンの巣に着きます。巣は川から離れた森にあります」

可愛い女性が、顔を上げて嬉しそうに言った。

「実は、私たち四人は捕まっていた所を助けられたのです」

胸の大きな女性が、顔を上げて微笑んで言った。

「そうなのです。優しくて強い方に」

美人の女性が、顔を上げて頬を赤らめ言った。

「丁度あそこに見えるお方と似ていました……え?あのお方は、まさか」

美人の女性が、アスカの背にある森を指さして言った。

(ダメだ!振り向いちゃぁダメな気がする!)

アスカはまるでスローモーションのように、ゆっくりと時間をかけて振り向いた。

(体が勝手に動いてしまう!しまった!視界の端に見えてきた!)

そこに立っていたのは、見たことのある顔だった。

「お、お、お前は!ま、まさか!!」

そこには異世界に来る前に出会った、出会ってしまった、あの地球人がいた。

「何故?何故なんだ!何故、俺の邪魔をする!」

アスカが振り向いたその先には、大勢の女性たちを引き連れた、いや大勢の女性たちに囲まれた、小太りのオッサン、そう、あの『おっ君』がいた。

「おっ君この野郎ぉ!!」

しかし、実際は『おっ君』に大変良く似た『オーク』である。それでもアスカの目には、その『オーク』は『おっ君』として認識されていた。

地球での最後の経験が、忘れる事が出来ないほどの衝撃と、周りが見えなくなる程の怒りを受けた為であろう。
彼の存在は、アスカにとって、決して許すことの出来ない、憎き存在にまで昇格していた。

「おっ君!!?き、貴様!貴様何故ここにいるぅ~!」

アスカはコンビニでの苦い思い出が、怒りとともに沸々と蘇ってきた。その叫び声を聞き、キュウたちも、只事ではないと頭を低く下げて戦闘態勢をとった。更にシロたちウインドウルフは、唸り声を上げながら、体に風を纏い始めた。

(異世界に転移したのは、俺たち三人だけじゃぁなかったって事か!女神は何のために、おっ君まで転移させたんだ!俺と戦わせる為か?あいつの伸びきった鼻っ柱をへし折れって事か?鼻は低いみたいだけど!)

「俺の邪魔をしやがって!ここで会ったが百年目!昔年の恨み晴らしてやる!豚っ鼻野郎!その女性たちを解放しろ!」

しかし、おっ君に似たオークは、アスカを見てゆっくり右腕を上げて、拳を見せてきた。

「やめろぉ~!それ以上は見たくない!その手を降ろせ!クッソ~!許さん!許さんぞぉ~!」

オークは、拳の親指をゆっくり上げた。

「グ~~ッド!じゃねぇわ!!デジャヴか!そこを動くなよ!」

怒りのボルテージがMAXまで達したアスカは、両手を合わせパチンと鳴らした。
そして、手を離した場所には小さなブラックホールが出来ていた。そこから出てきた緑の魔石を右手でキャッチして、そのまま何の躊躇もせずに胸元に添えた。

「変身!!!」

怒りを露わにした、アスカの怒鳴り声が響き渡る。

しかし変身する事は出来なかった。

「……どうした?これで変身出来るはずだろ?この魔石じゃぁダメなのか?おい!何故、変身しないんだ!?」

イヤーカフを触れて叫んだ。

『説明しよう!
イセカイザーの正体を、ナイナジーの知的生命体に知られてはならない!つまり、イセカイザーに変身するところを、知的生命体に見られていては変身出来ない』

(……イラッ!)

「は~~~っ?なんだその古い設定は!!モンスターも知的生命体だろ!」

『説明しよう!
ここで言う知的生命体とは、言葉を理解し、それを口にする者である』

「だったら人間って言えよ!紛らわしい!」

『説明しよう!
言葉を理解する者は人間だけではない。獣人、魔人、古龍その他にも言葉を交わす事が出来る者は多数存在する。それらを全て総称して、知的生命体なのである。イセカイザーの秘密を話す事が出来る者の前では、決して変身する事は出来ないのであ~る』

「なんだその縛り!どんだけ不便なんだよ!おっ君を倒せば、話す事が出来なくなるんじゃないのか!」

『説明しよう!
倒そうが倒すまいが、変身を見られてはいけないのである!周りの人間たちも見ているのであ~る!」

「ぐっ!そうだった。彼女たちに手を出す事は出来ない!考えたな!おっ君!」

アスカは両手を合わせた。

「圧縮!」

緑の魔石はブラックホールによって、超亜空間に収納された。

「ちなみに、イセカイザーの正体がバレたらどうなるんだ?」

『説明しよう!
正体がバレたら、消滅するのであ~る』

「何ぃ~!!!死ぬのか?消滅って死体も残らないのか!?」

アスカは顔面蒼白になり、女神を睨むように空を見上げた。

「お、おい!キュウ!ミミ!お前たちも、今後イセカイザーになるところを誰にも見られるなよ。解除するところもな!」

小声で肩に乗る二匹に伝えた。

『キュ~!」

『ミュ~!』

「こうなったら生身の姿でやってやらぁ!」

アスカは、いきり立って一歩前へと歩み出した。

「おっ君この野郎!よくも罪のない女性たちを!!!」

すると四人の女性が、アスカの前に立ちはだかり壁を作った。

「わ、私たちを逃してくれたのは、あのオーク様です」

可愛い女性が、狼狽て説明した。

「様っ?おっ君がか!?」

「そ、そうです。私たちも初めは驚きました。オークが人を助けるなんて!しかも女性を」

胸の大きな女性が、慌てて説明した。

「きっと下心だ!間違いない下心があるんだ!!」

「ち、違います!大勢のゴブリンと一人で戦い、傷を負いつつも逃してくれました」

美人の女性が、まごついて説明した。

「……マジでか?いや!騙されない!下心だ!君たちは騙されているんだ!」

「だ、騙されてなどいません!私たちに、お腹が空いてるだろうと、干し肉と水を分けて下さいました」

スタイルの良い女性が、面食らって説明した。

「う、嘘だ……格好良過ぎる」

(渋い真似しやがって!その肉は、うちの子たちが食べちゃいましたけども)

アスカはオークを睨みつけた。しかしその向こうでも大勢の女性たちが、オークを守るように前に出ていた。

(俺の美味しいところを全部かっさらいやがって!異世界に来てまでも俺の邪魔をするのか!)

「クソッ!そんな訳ないだろう何かの間違いだ!そうだ!これは夢だ!いつもの夢なんだ!夢から覚めるキーワードは何だ?『助けてくれ~』か?『のどかだねぇ』か?」

アスカは頬っぺたをつねった。

「痛い……ダメだ現実だ。夢じゃぁないのにどうして、何故おっ君は、いぶし銀なんだ!?」

アスカは恨めしそうにオークを見た。
オークは片方の口角を上げ、『後は任せた』と言わんばかりに牙を『キラリ』と光らせた。

「やめろぉ~~~!おっ君!それ以上はやめてくれぇ~!」

しかしオークは反対側の口角も上げて『グフッ』と笑った。そこには偶然にも、地球のおっ君と同じく、このオークの前歯も一本無かった。

「ガハッ!」

アスカは胸を抑えその場に片膝を着いてしまった。

(なんだあの破壊力!ハァハァ。胸が苦しい。またなのか……ハァハァ。俺はヒーローになっても、奴には勝てないのか?そもそも下心があるのは俺の方じゃぁないのか?)

オークはアスカを一瞥すると、満足気な顔付きで、雨の向こうに消えて行った。

「オーク様!ありがとうございました」

「この御恩は一生忘れません!」

救出された女性たちは、それぞれがオークに感謝の言葉を叫んでいた。
涙を流す者までいる。

「おっ君!待て!俺と闘え!」

アスカの視界がグニャグニャに歪んだ。

(俺は泣いているのか?)

頬を伝う熱いモノは涙か雨か。それはアスカにしか分からない事であった。

(今回も俺の負けだ……)

「これで勝ったと思うなよ!次に会う時が貴様の命日だ!必ず貴様に勝つ!覚えてろよぉ~(涙)」


『必然の出会いは果たされた。こうしてゴブリンに捕まった女性たちを、アスカは傷だらけになり、致命傷を受けつつも無事救出する事に成功した。
そして、子悪党のようなアスカの叫びがこだまする。
吠えろアスカ!遠吠えイセカイザー!
次回予告
水車』

「あぁ!どーせ負け犬の遠吠えでさぁね!救助したのは俺じゃぁないし!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

処理中です...