自衛官×変身ヒーロー×呪われた姫=スキル制約

鹿

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36 伝説のドラゴン

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痛む胸を押さえつつも、背中にもたれかかる大楯を体で押し返した。

「くっ。ハァハァハァハァ」

ゼンジは立ち上がる事が出来なかった。

「サハギンは!ハァハァ、どうなった!?」

ゼンジの隙間から、ポーラが後ろを確認した。

「す、全て倒れておるのじゃ」

ウォーターボールを飛ばしてきたサハギンは、その場で力尽きていた。

「良かった…うっ」

「ゼンジ!動くでない!ポーションはもうないのか?」

「ああ、山の麓で使ったのが、ハァハァ、最後だ」

「どうしよう。妾は精霊の声も聞こえぬし、回復薬も尽きてしもうた…妾のせいで、妾のせいで」

「喋り方」

「……取り敢えず、休める場所まで移動しましょう。話はその後です」

(安定の二重人格だな…そうだ!)

「ド、ドラゴンは無事か?」

「そうでした!」

ポーラが慌てて振り向くと、木の根元で頭を抱えてうずくまる、小さな小さなドラゴンがいた。

「無事のようです」

「はは……そうか、良かった」

「ゼンジ、立てますか?木の下で雨宿りをしましょう」

「ああ。痛テテ……ハァハァ。大丈夫だ」

ゼンジは胸を抑えながら大楯を一つ拾い、杖の代わりにしてゆっくり立ち上がった。

「捕まってください」

ポーラは、ゼンジの反対の腕を取り、肩に回して歩き始めた。

木の下まで行くと小さなドラゴンが、頭を両手で押さえながらブルブル震えて、うずくまっていた。

2人は、警戒するドラゴンを見ないように、そっぽを向いて声をかけた。

「怪我はありませんか?」

「ハァハァ、大丈夫か?」

声をかけられて、ビクッと跳ねたドラゴンは、そのままの体勢で唸り声を上げた。

『グルルル!』

威嚇を始めたドラゴンを他所に、二人は隣りに座り込んだ。

「ふぅ~。ここ空いてるか?ちょっと休ませてくれ」

そう言うと、大きな木に小銃と大楯を立て掛けてその場に座った。

「何もしませんよ、そんなに怯えなくても平気です」

そしてポーラはゼンジを覗き込んだ。

「ごめんなさい。私のせいで……」

「気にするな。ハァハァ、何とかなるもんだな」

『感謝する』

「もう良いよ。何度も言われると照れるだろ」

『我の為にご苦労であった』

「喋り方!」

ゼンジはポーラを見るが、ポーラは驚きの表情であった。

「わ、私は喋ってませんが」

「まさか!?」

そう言って二人はドラゴンを見た。

『何?』

「「お前(お主)喋れるのか!?」なのじゃ!?」

『ぎゃ~~~~!!』

ドラゴンは二人の大声に驚き、叫び声を上げて両手で頭を抱えた。

「凄いな!お前喋れるのか?」

「ドラゴンとは、皆そうなのか?」

ドラゴンは恐る恐るといった感じで、両手を下ろし、怯えつつも二人を見上げた。

その顔は、遠くから双眼鏡で見たものとは若干違っていた。

間近で見るドラゴンはとても可愛らしく、目はクリンクリンと飴玉のように丸く、牙も爪も二本の角も尖ってはいなかった。
そして、全身の鱗もフワフワとしており、腹の部分はマシュマロのように柔らかそうだ。

腹と鱗の境目には縫い目があり、よく見ると至る所に縫い付けてある痕がある。
その姿はまるで、ぬいぐるみであった。

「は!?お前、ぬいぐるみなのか!?」

『ぎゃ~~~~!!』

再び大声を出したゼンジに驚き、頭を抱えてうずくまった。

「ぐあっ!」

ゼンジは突然胸を押さえて、前屈みになった。

「平気か?少し横になるのじゃ…」

『大丈夫?怪我してるの?』

「喋っておる…のじゃ…」

『エルフの小娘そこを退いてよ。我に任せて』

「……」

ポーラは驚きの余り、固まってしまった。
ドラゴンは幼児が履く、音の鳴るスリッパでも履いているかの如く、ピッピッピッと歩く度に可愛らしい音を鳴らした。
そしてゼンジの前に立つと、短い両手を前に出した。

『マスターヒール』

ゼンジが一瞬輝いたかと思うと、辛そうな表情が徐々に和らいでいく。

「うっ……ん?痛くない…治ったのか!?」

ゼンジは立ち上がり、体を左右に捻ったが、今までの痛みが嘘のように消えていた。

『我を助けた褒美だよ』

「お前凄いなぁ!レッドドラゴンなのに傷も癒せるのか!」

『違うわっ!我をあの下等な暴れん坊と一緒にするな』

「違うのか?レッドドラゴンの赤ちゃんだろ?」

『馬鹿タレィ!その喧嘩、我の為に戦う前だったら、間違いなく買ってたよ!』

ドラゴンは体を斜に構え、腕組みをして、顎を少し上げながら話し始めた。

『いーか!耳の穴かっぽじってよ~く聞けぃ!
そして聞いて驚け!そしておののけ!そして泣き叫べ!そして……あれだ……後悔せぃ!我はドラゴンの中のドラゴン!そしてドラゴンの頂点に君臨する、マスタードラゴンだぞ!そして、貴様ら頭が高いぞ!』

「は?マスタードラゴン?ぬいぐるみがか?笑いのセンスは15点ってところだな」

『なんだと、きさん!馬鹿にするのも大概にしとけよ!そして、ぬいぐるみではない!そして、点数低すぎだ!』

「そしてが多すぎて話が入って来ないぞ!ぬいぐるみだろ?それとも、その話し方はまさか!きさんは、三流の田舎者か!」

『きさんは、なんば良いよっとか!怪我ば治してもろうとって、そがんこつば言うとか!』

「乗りは超一流だな!」

『ちょっとばかし木の多か山ん中から…って、なんば言わすとか!!』

「おいおい!だったらなぁ、こっちも黙ってないぞ!聞いて平伏せ!オッホン……
静まれ!静まれぇ~い!ここにおわすお方をどなたと心得る!恐れ多くも先の第二王女!ポーラ・ハイエルフ・ムスタカリファ様であらせられるぞ!第二王女の御膳である!頭が高い!控えおろぉ~!!!」

『はは~!』

ぬいぐるみのドラゴンは、咄嗟に美しい土下座をした。

『っておい!我はマスタードラゴンだぞ!エルフの小娘なんかより、偉いんだよ!』

ぬいぐるみのドラゴンは、小さな翼をパタパタ羽ばたかせ、ゼンジの顔の高さまで飛び上がった。

「それはそれは申し訳ない」

ゼンジは深々と頭を下げた。

『あっ。いや、こちらこそ言い過ぎました。ごめんなさい』

ピッと足の裏から音を鳴らし、地面に着地したぬいぐるみのドラゴンもまた、深々と頭を下げた。

「それはそうと、ありがとうな!助かった。お前凄いな!レッドドラゴンなのに回復魔法使えるなんて」

『やめれ~。褒めすぎだぞ~って騙されんぞ!マスタードラゴンだからね!』

「ははは。お前面白いな、名は何と申す?」

『あまり言いたくないんだけど、我の名は~~ロン』

ドラゴンのぬいぐるみは、恥ずかしそうに顔を逸らし、ゴニョゴニョと小声で名乗った。

「え?聞こえなかったぞ」

『~~ロン!』

「何ぃ!?まさか!…まさかあの願いを叶える龍と同じ名前なのか!?ロンの前にはシェンが付くのか?そうだろ!?伝説の名前だ!!…本当にマスタードラゴンなんだな!」

『…名前を褒められたのは、貴様が初めてだよ』

「馬鹿にして悪かったな。俺の名前はカガミゼンジだ。ゼンジと呼んでくれ」

『おうさ!我の事は気兼ねなく、メロンと呼んで良いよ!』

「ん?」

『ん?我はゼンジを気に入った!我にもマスターを付けなくても良いよ。許す!メロンと呼ばせてやる!』

「あれ?…シェンじゃなくて…メなの?」

『ん?何が?』

「か、か、可愛い~のじゃぁ~~!動いたのじゃ!ドラゴンのぬいぐるみが喋っておるのじゃ!!」

ポーラは目を輝かせ、頬をピンクに染めて喜んでいる。

「さ、触ってもよいか?抱っこしたいのじゃ!妾たちと共に行こう!な?良いじゃろ?よし!おいで」

固まっているゼンジを他所に、ポーラは大興奮である。

『き、貴様も我の名を馬鹿にしないの?』

「きゃ~!早うせい!メロンちゃん!」

ポーラはしゃがみ両手を広げ、『ほれほれ』と手首を動かしている。

『貴様も気に入った!』

メロンは翼をパタパタ動かして、ポーラの元へフワフワと近づいたところを、両手でキャッチされた。

「ふぁ~ポフポフしとるのじゃ。妾のメロンちゃんなのじゃ」

ポーラはメロンを抱きしめて離さなかった。

「なあ。ゼンジ良いじゃろ?この子の面倒は妾が見るから。お願いじゃ!」

「拾ってきた子犬か!…まあ、自分もメロンに命を助けられたからな。このまま放っておくことも出来ないし…ちゃんとポーラが面倒見るんだぞ!」

「はい!なのじゃ!良かったなメロンちゃん!」

『……何か違くない?』


(女神様、こちら自衛官、
ドラゴンだと思ったのは子供で、子供だと思ってたのはぬいぐるみでした。何でもありなんですね。どうぞ)
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