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四人の女性は口を閉ざした。
「どういうつもりだ!?」
その不気味さに、魔石を持つ手に自然と力が入る。
「正体を現せ!」
すると突然、堰を切ったように女性たちが涙を流し始めた。
「え?」
その涙にアスカは動揺した。
「お願いがあります。実は村がゴブリンに襲われました」
美人の女性が、綺麗なお辞儀をした。
「私たち村の女は、ほとんどがゴブリンに拐われました」
可愛い女性が、美しいお辞儀をした。
「私たちは幸運にも逃げ出せましたが、まだ上流にあるゴブリンの巣には、村の女たちが捕まったままです」
スタイルの良い女性が、節度あるお辞儀をした。
ここでアスカは状況を理解して顔を引き攣らせた。
「……」
「本当はテランタ村は、あの木よりも下流にあります。上流にあるのはゴブリンの巣です。騙してごめんなさい。でも…是非、他の女性たちも助けてください」
胸の大きな女性が、深々とお辞儀をした。
「(胸元が)ヤバい!」
(ヤバイどころの話じゃぁなかった。その反対だ、ヤバくない。というか全くヤバい話じゃぁなかった。いや、彼女たちにとってはヤバいんだけど。恥ずかしい……川に飛び込みたい。彼女たちはモンスターじゃないのに、お前たち何者だ!正体を現せってデカい声で叫んじまったし。そもそも愛の告白じゃなかったのか?テイマーがモテモテだと言ったのはどこのどいつだ!反対じゃぁないか!反対の反対だ!…ん?モテモテの反対の反対は一周回ってモテモテ?まだ可能性は残ってる?彼女たちに良い所を見せればあるいは…)
独り相撲をしていた事に気付いたアスカは、勝手に希望を見出して、魔石を圧縮し超亜空間に送った。そして戦闘態勢を解き女性たちに向き直った。
「騙すような事をしてごめんなさい。でも早く助けてあげないと。ゴブリンに何をされるか分かりません」
スタイルの良い女性が、顔を上げて笑顔で言った。
「お、おう。ゴブリンな!」
(ゴブリンって誰だ?プリンの仲間か?)
「もう直ぐゴブリンの巣に着きます。巣は川から離れた森にあります」
可愛い女性が、顔を上げて嬉しそうに言った。
「実は、私たち四人は捕まっていた所を助けられたのです」
胸の大きな女性が、顔を上げて微笑んで言った。
「そうなのです。優しくて強い方に」
美人の女性が、顔を上げて頬を赤らめ言った。
「丁度あそこに見えるお方と似ていました……え?あのお方は、まさか」
美人の女性が、アスカの背にある森を指さして言った。
(ダメだ!振り向いちゃぁダメな気がする!)
アスカはまるでスローモーションのように、ゆっくりと時間をかけて振り向いた。
(体が勝手に動いてしまう!しまった!視界の端に見えてきた!)
そこに立っていたのは、見たことのある顔だった。
「お、お、お前は!ま、まさか!!」
そこには異世界に来る前に出会った、出会ってしまった、あの地球人がいた。
「何故?何故なんだ!何故、俺の邪魔をする!」
アスカが振り向いたその先には、大勢の女性たちを引き連れた、いや大勢の女性たちに囲まれた、小太りのオッサン、そう、あの『おっ君』がいた。
「おっ君この野郎ぉ!!」
しかし、実際は『おっ君』に大変良く似た『オーク』である。それでもアスカの目には、その『オーク』は『おっ君』として認識されていた。
地球での最後の経験が、忘れる事が出来ないほどの衝撃と、周りが見えなくなる程の怒りを受けた為であろう。
彼の存在は、アスカにとって、決して許すことの出来ない、憎き存在にまで昇格していた。
「おっ君!!?き、貴様!貴様何故ここにいるぅ~!」
アスカはコンビニでの苦い思い出が、怒りとともに沸々と蘇ってきた。その叫び声を聞き、キュウたちも、只事ではないと頭を低く下げて戦闘態勢をとった。更にシロたちウインドウルフは、唸り声を上げながら、体に風を纏い始めた。
(異世界に転移したのは、俺たち三人だけじゃぁなかったって事か!女神は何のために、おっ君まで転移させたんだ!俺と戦わせる為か?あいつの伸びきった鼻っ柱をへし折れって事か?鼻は低いみたいだけど!)
「俺の邪魔をしやがって!ここで会ったが百年目!昔年の恨み晴らしてやる!豚っ鼻野郎!その女性たちを解放しろ!」
しかし、おっ君に似たオークは、アスカを見てゆっくり右腕を上げて、拳を見せてきた。
「やめろぉ~!それ以上は見たくない!その手を降ろせ!クッソ~!許さん!許さんぞぉ~!」
オークは、拳の親指をゆっくり上げた。
「グ~~ッド!じゃねぇわ!!デジャヴか!そこを動くなよ!」
怒りのボルテージがMAXまで達したアスカは、両手を合わせパチンと鳴らした。
そして、手を離した場所には小さなブラックホールが出来ていた。そこから出てきた緑の魔石を右手でキャッチして、そのまま何の躊躇もせずに胸元に添えた。
「変身!!!」
怒りを露わにした、アスカの怒鳴り声が響き渡る。
しかし変身する事は出来なかった。
「……どうした?これで変身出来るはずだろ?この魔石じゃぁダメなのか?おい!何故、変身しないんだ!?」
イヤーカフを触れて叫んだ。
『説明しよう!
イセカイザーの正体を、ナイナジーの知的生命体に知られてはならない!つまり、イセカイザーに変身するところを、知的生命体に見られていては変身出来ない』
(……イラッ!)
「は~~~っ?なんだその古い設定は!!モンスターも知的生命体だろ!」
『説明しよう!
ここで言う知的生命体とは、言葉を理解し、それを口にする者である』
「だったら人間って言えよ!紛らわしい!」
『説明しよう!
言葉を理解する者は人間だけではない。獣人、魔人、古龍その他にも言葉を交わす事が出来る者は多数存在する。それらを全て総称して、知的生命体なのである。イセカイザーの秘密を話す事が出来る者の前では、決して変身する事は出来ないのであ~る』
「なんだその縛り!どんだけ不便なんだよ!おっ君を倒せば、話す事が出来なくなるんじゃないのか!」
『説明しよう!
倒そうが倒すまいが、変身を見られてはいけないのである!周りの人間たちも見ているのであ~る!」
「ぐっ!そうだった。彼女たちに手を出す事は出来ない!考えたな!おっ君!」
アスカは両手を合わせた。
「圧縮!」
緑の魔石はブラックホールによって、超亜空間に収納された。
「ちなみに、イセカイザーの正体がバレたらどうなるんだ?」
『説明しよう!
正体がバレたら、消滅するのであ~る』
「何ぃ~!!!死ぬのか?消滅って死体も残らないのか!?」
アスカは顔面蒼白になり、女神を睨むように空を見上げた。
「お、おい!キュウ!ミミ!お前たちも、今後イセカイザーになるところを誰にも見られるなよ。解除するところもな!」
小声で肩に乗る二匹に伝えた。
『キュ~!」
『ミュ~!』
「こうなったら生身の姿でやってやらぁ!」
アスカは、いきり立って一歩前へと歩み出した。
「おっ君この野郎!よくも罪のない女性たちを!!!」
すると四人の女性が、アスカの前に立ちはだかり壁を作った。
「わ、私たちを逃してくれたのは、あのオーク様です」
可愛い女性が、狼狽て説明した。
「様っ?おっ君がか!?」
「そ、そうです。私たちも初めは驚きました。オークが人を助けるなんて!しかも女性を」
胸の大きな女性が、慌てて説明した。
「きっと下心だ!間違いない下心があるんだ!!」
「ち、違います!大勢のゴブリンと一人で戦い、傷を負いつつも逃してくれました」
美人の女性が、まごついて説明した。
「……マジでか?いや!騙されない!下心だ!君たちは騙されているんだ!」
「だ、騙されてなどいません!私たちに、お腹が空いてるだろうと、干し肉と水を分けて下さいました」
スタイルの良い女性が、面食らって説明した。
「う、嘘だ……格好良過ぎる」
(渋い真似しやがって!その肉は、うちの子たちが食べちゃいましたけども)
アスカはオークを睨みつけた。しかしその向こうでも大勢の女性たちが、オークを守るように前に出ていた。
(俺の美味しいところを全部かっさらいやがって!異世界に来てまでも俺の邪魔をするのか!)
「クソッ!そんな訳ないだろう何かの間違いだ!そうだ!これは夢だ!いつもの夢なんだ!夢から覚めるキーワードは何だ?『助けてくれ~』か?『のどかだねぇ』か?」
アスカは頬っぺたをつねった。
「痛い……ダメだ現実だ。夢じゃぁないのにどうして、何故おっ君は、いぶし銀なんだ!?」
アスカは恨めしそうにオークを見た。
オークは片方の口角を上げ、『後は任せた』と言わんばかりに牙を『キラリ』と光らせた。
「やめろぉ~~~!おっ君!それ以上はやめてくれぇ~!」
しかしオークは反対側の口角も上げて『グフッ』と笑った。そこには偶然にも、地球のおっ君と同じく、このオークの前歯も一本無かった。
「ガハッ!」
アスカは胸を抑えその場に片膝を着いてしまった。
(なんだあの破壊力!ハァハァ。胸が苦しい。またなのか……ハァハァ。俺はヒーローになっても、奴には勝てないのか?そもそも下心があるのは俺の方じゃぁないのか?)
オークはアスカを一瞥すると、満足気な顔付きで、雨の向こうに消えて行った。
「オーク様!ありがとうございました」
「この御恩は一生忘れません!」
救出された女性たちは、それぞれがオークに感謝の言葉を叫んでいた。
涙を流す者までいる。
「おっ君!待て!俺と闘え!」
アスカの視界がグニャグニャに歪んだ。
(俺は泣いているのか?)
頬を伝う熱いモノは涙か雨か。それはアスカにしか分からない事であった。
(今回も俺の負けだ……)
「これで勝ったと思うなよ!次に会う時が貴様の命日だ!必ず貴様に勝つ!覚えてろよぉ~(涙)」
『必然の出会いは果たされた。こうしてゴブリンに捕まった女性たちを、アスカは傷だらけになり、致命傷を受けつつも無事救出する事に成功した。
そして、子悪党のようなアスカの叫びがこだまする。
吠えろアスカ!遠吠えイセカイザー!
次回予告
水車』
「あぁ!どーせ負け犬の遠吠えでさぁね!救助したのは俺じゃぁないし!」
「どういうつもりだ!?」
その不気味さに、魔石を持つ手に自然と力が入る。
「正体を現せ!」
すると突然、堰を切ったように女性たちが涙を流し始めた。
「え?」
その涙にアスカは動揺した。
「お願いがあります。実は村がゴブリンに襲われました」
美人の女性が、綺麗なお辞儀をした。
「私たち村の女は、ほとんどがゴブリンに拐われました」
可愛い女性が、美しいお辞儀をした。
「私たちは幸運にも逃げ出せましたが、まだ上流にあるゴブリンの巣には、村の女たちが捕まったままです」
スタイルの良い女性が、節度あるお辞儀をした。
ここでアスカは状況を理解して顔を引き攣らせた。
「……」
「本当はテランタ村は、あの木よりも下流にあります。上流にあるのはゴブリンの巣です。騙してごめんなさい。でも…是非、他の女性たちも助けてください」
胸の大きな女性が、深々とお辞儀をした。
「(胸元が)ヤバい!」
(ヤバイどころの話じゃぁなかった。その反対だ、ヤバくない。というか全くヤバい話じゃぁなかった。いや、彼女たちにとってはヤバいんだけど。恥ずかしい……川に飛び込みたい。彼女たちはモンスターじゃないのに、お前たち何者だ!正体を現せってデカい声で叫んじまったし。そもそも愛の告白じゃなかったのか?テイマーがモテモテだと言ったのはどこのどいつだ!反対じゃぁないか!反対の反対だ!…ん?モテモテの反対の反対は一周回ってモテモテ?まだ可能性は残ってる?彼女たちに良い所を見せればあるいは…)
独り相撲をしていた事に気付いたアスカは、勝手に希望を見出して、魔石を圧縮し超亜空間に送った。そして戦闘態勢を解き女性たちに向き直った。
「騙すような事をしてごめんなさい。でも早く助けてあげないと。ゴブリンに何をされるか分かりません」
スタイルの良い女性が、顔を上げて笑顔で言った。
「お、おう。ゴブリンな!」
(ゴブリンって誰だ?プリンの仲間か?)
「もう直ぐゴブリンの巣に着きます。巣は川から離れた森にあります」
可愛い女性が、顔を上げて嬉しそうに言った。
「実は、私たち四人は捕まっていた所を助けられたのです」
胸の大きな女性が、顔を上げて微笑んで言った。
「そうなのです。優しくて強い方に」
美人の女性が、顔を上げて頬を赤らめ言った。
「丁度あそこに見えるお方と似ていました……え?あのお方は、まさか」
美人の女性が、アスカの背にある森を指さして言った。
(ダメだ!振り向いちゃぁダメな気がする!)
アスカはまるでスローモーションのように、ゆっくりと時間をかけて振り向いた。
(体が勝手に動いてしまう!しまった!視界の端に見えてきた!)
そこに立っていたのは、見たことのある顔だった。
「お、お、お前は!ま、まさか!!」
そこには異世界に来る前に出会った、出会ってしまった、あの地球人がいた。
「何故?何故なんだ!何故、俺の邪魔をする!」
アスカが振り向いたその先には、大勢の女性たちを引き連れた、いや大勢の女性たちに囲まれた、小太りのオッサン、そう、あの『おっ君』がいた。
「おっ君この野郎ぉ!!」
しかし、実際は『おっ君』に大変良く似た『オーク』である。それでもアスカの目には、その『オーク』は『おっ君』として認識されていた。
地球での最後の経験が、忘れる事が出来ないほどの衝撃と、周りが見えなくなる程の怒りを受けた為であろう。
彼の存在は、アスカにとって、決して許すことの出来ない、憎き存在にまで昇格していた。
「おっ君!!?き、貴様!貴様何故ここにいるぅ~!」
アスカはコンビニでの苦い思い出が、怒りとともに沸々と蘇ってきた。その叫び声を聞き、キュウたちも、只事ではないと頭を低く下げて戦闘態勢をとった。更にシロたちウインドウルフは、唸り声を上げながら、体に風を纏い始めた。
(異世界に転移したのは、俺たち三人だけじゃぁなかったって事か!女神は何のために、おっ君まで転移させたんだ!俺と戦わせる為か?あいつの伸びきった鼻っ柱をへし折れって事か?鼻は低いみたいだけど!)
「俺の邪魔をしやがって!ここで会ったが百年目!昔年の恨み晴らしてやる!豚っ鼻野郎!その女性たちを解放しろ!」
しかし、おっ君に似たオークは、アスカを見てゆっくり右腕を上げて、拳を見せてきた。
「やめろぉ~!それ以上は見たくない!その手を降ろせ!クッソ~!許さん!許さんぞぉ~!」
オークは、拳の親指をゆっくり上げた。
「グ~~ッド!じゃねぇわ!!デジャヴか!そこを動くなよ!」
怒りのボルテージがMAXまで達したアスカは、両手を合わせパチンと鳴らした。
そして、手を離した場所には小さなブラックホールが出来ていた。そこから出てきた緑の魔石を右手でキャッチして、そのまま何の躊躇もせずに胸元に添えた。
「変身!!!」
怒りを露わにした、アスカの怒鳴り声が響き渡る。
しかし変身する事は出来なかった。
「……どうした?これで変身出来るはずだろ?この魔石じゃぁダメなのか?おい!何故、変身しないんだ!?」
イヤーカフを触れて叫んだ。
『説明しよう!
イセカイザーの正体を、ナイナジーの知的生命体に知られてはならない!つまり、イセカイザーに変身するところを、知的生命体に見られていては変身出来ない』
(……イラッ!)
「は~~~っ?なんだその古い設定は!!モンスターも知的生命体だろ!」
『説明しよう!
ここで言う知的生命体とは、言葉を理解し、それを口にする者である』
「だったら人間って言えよ!紛らわしい!」
『説明しよう!
言葉を理解する者は人間だけではない。獣人、魔人、古龍その他にも言葉を交わす事が出来る者は多数存在する。それらを全て総称して、知的生命体なのである。イセカイザーの秘密を話す事が出来る者の前では、決して変身する事は出来ないのであ~る』
「なんだその縛り!どんだけ不便なんだよ!おっ君を倒せば、話す事が出来なくなるんじゃないのか!」
『説明しよう!
倒そうが倒すまいが、変身を見られてはいけないのである!周りの人間たちも見ているのであ~る!」
「ぐっ!そうだった。彼女たちに手を出す事は出来ない!考えたな!おっ君!」
アスカは両手を合わせた。
「圧縮!」
緑の魔石はブラックホールによって、超亜空間に収納された。
「ちなみに、イセカイザーの正体がバレたらどうなるんだ?」
『説明しよう!
正体がバレたら、消滅するのであ~る』
「何ぃ~!!!死ぬのか?消滅って死体も残らないのか!?」
アスカは顔面蒼白になり、女神を睨むように空を見上げた。
「お、おい!キュウ!ミミ!お前たちも、今後イセカイザーになるところを誰にも見られるなよ。解除するところもな!」
小声で肩に乗る二匹に伝えた。
『キュ~!」
『ミュ~!』
「こうなったら生身の姿でやってやらぁ!」
アスカは、いきり立って一歩前へと歩み出した。
「おっ君この野郎!よくも罪のない女性たちを!!!」
すると四人の女性が、アスカの前に立ちはだかり壁を作った。
「わ、私たちを逃してくれたのは、あのオーク様です」
可愛い女性が、狼狽て説明した。
「様っ?おっ君がか!?」
「そ、そうです。私たちも初めは驚きました。オークが人を助けるなんて!しかも女性を」
胸の大きな女性が、慌てて説明した。
「きっと下心だ!間違いない下心があるんだ!!」
「ち、違います!大勢のゴブリンと一人で戦い、傷を負いつつも逃してくれました」
美人の女性が、まごついて説明した。
「……マジでか?いや!騙されない!下心だ!君たちは騙されているんだ!」
「だ、騙されてなどいません!私たちに、お腹が空いてるだろうと、干し肉と水を分けて下さいました」
スタイルの良い女性が、面食らって説明した。
「う、嘘だ……格好良過ぎる」
(渋い真似しやがって!その肉は、うちの子たちが食べちゃいましたけども)
アスカはオークを睨みつけた。しかしその向こうでも大勢の女性たちが、オークを守るように前に出ていた。
(俺の美味しいところを全部かっさらいやがって!異世界に来てまでも俺の邪魔をするのか!)
「クソッ!そんな訳ないだろう何かの間違いだ!そうだ!これは夢だ!いつもの夢なんだ!夢から覚めるキーワードは何だ?『助けてくれ~』か?『のどかだねぇ』か?」
アスカは頬っぺたをつねった。
「痛い……ダメだ現実だ。夢じゃぁないのにどうして、何故おっ君は、いぶし銀なんだ!?」
アスカは恨めしそうにオークを見た。
オークは片方の口角を上げ、『後は任せた』と言わんばかりに牙を『キラリ』と光らせた。
「やめろぉ~~~!おっ君!それ以上はやめてくれぇ~!」
しかしオークは反対側の口角も上げて『グフッ』と笑った。そこには偶然にも、地球のおっ君と同じく、このオークの前歯も一本無かった。
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オークはアスカを一瞥すると、満足気な顔付きで、雨の向こうに消えて行った。
「オーク様!ありがとうございました」
「この御恩は一生忘れません!」
救出された女性たちは、それぞれがオークに感謝の言葉を叫んでいた。
涙を流す者までいる。
「おっ君!待て!俺と闘え!」
アスカの視界がグニャグニャに歪んだ。
(俺は泣いているのか?)
頬を伝う熱いモノは涙か雨か。それはアスカにしか分からない事であった。
(今回も俺の負けだ……)
「これで勝ったと思うなよ!次に会う時が貴様の命日だ!必ず貴様に勝つ!覚えてろよぉ~(涙)」
『必然の出会いは果たされた。こうしてゴブリンに捕まった女性たちを、アスカは傷だらけになり、致命傷を受けつつも無事救出する事に成功した。
そして、子悪党のようなアスカの叫びがこだまする。
吠えろアスカ!遠吠えイセカイザー!
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