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「家に帰るな?あ?どうゆうコトだよ、それは」
「そう、顔を顰めるな、志路(シロウ)」
路流(ミチル)が軽く息を吐いて、続ける。
「帰るな。とは言ってない。ただ、星路(セイジ)も、色々忙しんだ、放って置いてやれ」
すっかり帰っていなかった実家には、今は弟が一人で住んでいる。
にも拘らず、兄の路流は、シロウにわざわざ帰るなと釘を差した。
一体、それにどんな意味があるのかと訝しんでいると、路流は短い溜め息を吐いた。
「何も心配はない」
そう一言、付け足したが、シロウの瞳は明らかに不審な色を乗せ、昏く鈍くオレを見つめてくる。
鋭い眼光だ。
一体いつから、シロウは、こんな目をするようになったのか。
この目に見つめられると、路流は自分の何もかもをシロウに見透かされているような気分になった。
「オンナを囲ってる部屋があるだろう。どうせ、月に何度も帰らないんだ、疲れてるセージを少し思いやってやれよ。もう、一人が寂しい歳でも無い。そう言われた。・・・シロウ」
わかるな?
最後のセリフを舌で転がし、路流は飲み込んだ。
目だけは真っ直ぐに据えて。
その目で悟ったのか、シロウが、わかった、とだけ言った。
苦々しい思いで、席を立つ路流より先に立ち、扉を開けた。
「悪いな」
苦笑する路流に、軽くコウベを垂れ、その後姿を見送る。
路流は若頭候補の一人だ。
そして、たぶんその地位は固い。
まだ24歳だが、自分と2つしか変わらないとは思えない程、路流の功績は大きい。
この3年程で、路流が育てた金融会社の支店は二桁。
大きな駅前じゃ必ず、一つ、二つ見る看板だ。
だが、その裏。
消費者金融という気軽さに被せ、その実は法人団体をターゲットに絞ったスポンサー業・・・いわゆる詐欺まがいの金貸しをやっている。
日本には腐る程の新興宗教団体が存在する。
それに頼る者もシカリ。
中に這入るのは簡単。
だが、抜けるのが難しいのがその実態だ。
身包み剥がされた人間が、どうやって再出発出来るだろうか?事に気づく者の方が不幸だろう。そのまま死ぬまで信じられれば、平和に終わる。
その実態が何か知らなければ。
ノドを肥やした、教祖。
言いなりになるモノとならせるモノ。
路流が、その裏に立つのはそう難しい事ではなかった。
路流は笑顔で近づき、その背中へ立つ。
手札を見せて、その間からナイフをチラつかせるだけ。
それで、お布施の90%が入ってくるシステム。
もちろん飼うからには首輪をつける。
黒く無機質で薄っぺらい、小さなチップ。
アメリカで使われているペット用のIDチップだ。
裸に剥かれた教祖の股間。
麻酔を使わずにそのチップを埋め込む。
正気の沙汰じゃあ、ない。
その修羅場に必ず路流は立ち会う。
目の前で薄ら笑いを浮かべて、この顔を忘れるなと、自分を恐怖の対象と覚えこませる。
目を剥き出す教祖達を見て面白ろおかしく笑う路流。
それが、ヤツらにとってどれだけ悪魔的か知る由も無いが。
そうした子飼いを幾つも増やすと、思いがけない拾いモノもある。
元アイドルだった少女や、官僚の妾腹、アル中の議員。
人間の悩みは尽きない。
そこがどんな神かも知らず。
その後ろに立つヒトがどんな悪かも知らず。
「まったく」
思わず呟くと、車を運転するキリサカが、少しだけ視線を寄越す。
「何です?」
「何でもねえよ」
濃紺のブランド物のスーツ。
キリサカは苦笑いして、ハンドルを切る。
「グレたガキだね」
「聞こえてっぞ、テメー」
「失礼シマシタ」
キリサカは最近入った新入りだ。
歳はオレより3つ上だった。
ニヤけたツラ。
舐めくさった奴。
この世界に似合わないエリート面だ。
ホストのバイトだって言った方が納得するだろう。
着ているスーツもオレよりも派手だ。
シャレてる気なんだろう、イチイチ、オレのネクタイにまでケチをつけてきたっけ。
「アンタには、その色は似合いません。」
堂々と言い放って、自分のタイを抜くとそれをオレの首へ巻きつけた。
オレのマンションへ迎えに来たキリサカを部屋へ上げて、スーツに袖を通していたところだった。
簡単な幹部会があるその日。
ミチルの下足番として付いて行くオレの格好にコイツは眉を寄せた。
黙ってそのバカな行動を見てると、コイツはこう言った。
「アンタの・・・値が下がる。もっと自覚してクダサイよ。」
「へえー」
そのセリフに思わず笑っちまった。
だが、バカバカしくてだ。
オレの顔を見たキリサカが一瞬同じように口を緩めた。
「で、いくらだ?」
キリサカの顔が強張る。
「テメーはオレをいくらだって値踏みした?」
キリサカの顔がサッと青醒めた。
「ス、スミマセンッ・・!!」
土下座せんばかりに、キリサカが頭を下げた。
その髪を掴んで顔を上げさせる。
「オイ。オレは聞いてんだよ・・いくらだ?答えろ」
キリサカの顔から益す々血が引いていく。
それもそうだ。オレが髪を掴んでいる逆の手には”チャカ”。
黒光りするその銃身を持ち上げる。
いつもは、腰の後ろへ差してるチャカを握り、その指をゆっくり見せ付けるように、握っては、放しを繰り返した。
「言えよ」
「す、すみませんッシロウさん、オレ・・!」
「誰が謝れって言った・・?オレはいくらか聞いてる、答えな」
意を決したキリサカが口にしたのは。
「だ、いや」
「あぁ?」
「ダイヤ、です・・!ダイヤモンド・・・ッ」
その答えがあんまりにもバカバカしくて、オレはキリサカから手を放した。
だいや。
ダイヤ・・・。
いくらかって聞いたんだぜ・・?
それを、ダイヤって・・・・。
コイツは頭がワリィのか・・・?
オレはサッサとタイを替えるとキリサカのタイを投げ返してやった。
「すみませんッしたッ」
バカバカしい。
「行くぞ」
それから、暫くは静かにしていたキリサカだったが、深夜に二人切りで寄ったバーで、口が軽くなったキリサカが再びケチをつける。
「アンタは、本当にわかってないんですね・・・。ナンデスカそのカッコは・・・。ヒットマンだってそんなカッコしませんよ。全身黒尽くめなんて・・・。」
「うるせえなぁ」
一睨みしても酒の力を借りたキリサカは引き下がらない。
「そんな、ナリ、ワザワザしなくたって、アンタがどんなやばそうな人種かなんて判り切ってるんですよ・・?せっかくの原石が・・宝の持ち腐れだ・・」
「お前はバカか?オレは影だ、目立ってどうする」
途端にキリサカの顔がキッとなる。
「路流さんの、ですか!?」
キリサカの眉間が険しく寄る。
オレはその顔を横目に見て、視線をグラスに移した。
「オレはあの人に、守られて生きてきた。なら、その恩を返すのはオレの役目だろう。いくらこんなアブネエ世界に入らなくちゃならねえ事情だったとはいえ、あの人にオレはおぶさって来たんだ。血の繋がった兄貴とはいえ、この恩は量り切れるモンじゃねえだろ。オレは路流のために死ぬ。そのために生きてる」
「なら!」
キリサカがテーブルに手をついてオレの方へ顔を寄せた。
「オレはアンタのために死んでやるよ!誰にも、アンタを殺らせや
しねえ・・!!それが、オレの”生”だ」
低く吠えるような囁きだった。
「バカかテメーは・・」
肩が揺れる。笑いを堪えきれず、オレは肩を揺らしていた。
「酔ったかな・・」
オレは酔うと必ずマンションへ戻ってた。
なぜって?
そこには似ても似つかない弟がいるからだ。
ネコ目のクソ生意気で。
路流とそっくりの顔した弟。
その日もやっぱり足はマンションへ向いてた。
キリサカを連れて帰ると、中は真っ暗だった。
時計は4時近く。
キリサカをソファに寝かせて、オレはセイジの部屋へ入る。
そこには、無邪気な顔の弟。
薄く開いた口からスースーと単調な寝息が漏れていた。
そのベッドへ潜り込む。
片肘をついて、その寝顔をジッと見てた。
17歳だった。
アンタは。
母さんが寝たきりになって、母さんが頼ってた男がいきなり家へ来た。
暑い夏の日だった。
イレズミのある男だった。
半そでのシャツから覗く濃紺の腕。
その腕が、ミチルを掴んで。
面倒を見てやるってソイツは言った。
四十を超えたオッサンだった。
浮かんでくる路流の顔に思わず目を覆った。
『ミチル』
『大丈夫だよ』
『ミチル』
『平気だから』
『ミチル』
『シロウ、セイジにご飯食べさせてやって』
アンタは、アイツに、抱かれてたんだろう?
ヤクザのイロになって。
どんなに、アンタは悔しかっただろうな・・。
オレ達さえ居なければ、アンタならしっかり歩いていける人だったはずだ。
腐った道なんか選ばないで、立てる人間だ。
悔しくて涙が出る。
アンタはオレが知ってるって知ったらきっと嫌がるだろうな。
だけど、オレはここでアンタを守りたい。
アンタも泣いてるんだろうか?
たった、一人で・・?
『ミチル』
『ちゃんと学校行けよシロウ』
だけど。
オレはガッコなんかよりアンタのソバにいたかった。
雨が降っていた。
車の中から雨水がフロントを流れる様をぼんやり見ていた。
「シロウさん、補佐(ミチル)が出ます」
キリサカに窓越しに呼ばれる。
「ああ」
呟くように返事をして、オレはドアを開けた。
ドアの外でキリサカが傘を傾ける。
本家で幹部会がある夜は必ずオレは路流に付いて行った。
幹部会でしかあのオッサンを見る事が出来ないからだ。
この辺りを仕切ってる品川会傘下じゃ有名な話だった。
品川会品川組の組長のイロ。
気構えた通り。
路流はそのオッサンに腰に手を廻されて抱き寄せられるように二人で傘に入って出てきた。
オレに気づいて、路流がオッサンの方へ向き直り、傘から出ると濡れるのも構わないで深く一礼してこっちへ歩いて来た。
二歩でオレは傘を差し出し路流を車へ乗せる。
それからオレは助手席へ乗る。
「出せ、キリサカ」
「ハイ」
バックミラー越し、ミチルは目を閉じた顔を窓の方へ向けていた。
見つめていると、パチッと目が開き、ミラー越しに目が合った。
「忘れていた、マンションへ行ってくれ」
「久我のですか?」
オレが答えると、路流はヤメロよって笑った。
「セイジに偶には灸を据えてやらないとな」
「・・・アンタは、そんな事言っていつも小遣いやってばかりじゃねえか」
「小遣いは関係ないだろう。金はいつだって要る。今回は本当に叱りに行くんだよ」
「・・何やった?」
「個人情報の流用」
「・・そんなインテリじゃねえだろアイツは」
「それがヤッたんだよアイツが。まぁ、罪にはならない程度だ。ウチに損失は無いしな。まぁたっぷりかわいがってやらないとな」
クスクスと笑う路流。そこ意地の悪い笑みにはオレも肩を竦めるしかなかった。
「そう、顔を顰めるな、志路(シロウ)」
路流(ミチル)が軽く息を吐いて、続ける。
「帰るな。とは言ってない。ただ、星路(セイジ)も、色々忙しんだ、放って置いてやれ」
すっかり帰っていなかった実家には、今は弟が一人で住んでいる。
にも拘らず、兄の路流は、シロウにわざわざ帰るなと釘を差した。
一体、それにどんな意味があるのかと訝しんでいると、路流は短い溜め息を吐いた。
「何も心配はない」
そう一言、付け足したが、シロウの瞳は明らかに不審な色を乗せ、昏く鈍くオレを見つめてくる。
鋭い眼光だ。
一体いつから、シロウは、こんな目をするようになったのか。
この目に見つめられると、路流は自分の何もかもをシロウに見透かされているような気分になった。
「オンナを囲ってる部屋があるだろう。どうせ、月に何度も帰らないんだ、疲れてるセージを少し思いやってやれよ。もう、一人が寂しい歳でも無い。そう言われた。・・・シロウ」
わかるな?
最後のセリフを舌で転がし、路流は飲み込んだ。
目だけは真っ直ぐに据えて。
その目で悟ったのか、シロウが、わかった、とだけ言った。
苦々しい思いで、席を立つ路流より先に立ち、扉を開けた。
「悪いな」
苦笑する路流に、軽くコウベを垂れ、その後姿を見送る。
路流は若頭候補の一人だ。
そして、たぶんその地位は固い。
まだ24歳だが、自分と2つしか変わらないとは思えない程、路流の功績は大きい。
この3年程で、路流が育てた金融会社の支店は二桁。
大きな駅前じゃ必ず、一つ、二つ見る看板だ。
だが、その裏。
消費者金融という気軽さに被せ、その実は法人団体をターゲットに絞ったスポンサー業・・・いわゆる詐欺まがいの金貸しをやっている。
日本には腐る程の新興宗教団体が存在する。
それに頼る者もシカリ。
中に這入るのは簡単。
だが、抜けるのが難しいのがその実態だ。
身包み剥がされた人間が、どうやって再出発出来るだろうか?事に気づく者の方が不幸だろう。そのまま死ぬまで信じられれば、平和に終わる。
その実態が何か知らなければ。
ノドを肥やした、教祖。
言いなりになるモノとならせるモノ。
路流が、その裏に立つのはそう難しい事ではなかった。
路流は笑顔で近づき、その背中へ立つ。
手札を見せて、その間からナイフをチラつかせるだけ。
それで、お布施の90%が入ってくるシステム。
もちろん飼うからには首輪をつける。
黒く無機質で薄っぺらい、小さなチップ。
アメリカで使われているペット用のIDチップだ。
裸に剥かれた教祖の股間。
麻酔を使わずにそのチップを埋め込む。
正気の沙汰じゃあ、ない。
その修羅場に必ず路流は立ち会う。
目の前で薄ら笑いを浮かべて、この顔を忘れるなと、自分を恐怖の対象と覚えこませる。
目を剥き出す教祖達を見て面白ろおかしく笑う路流。
それが、ヤツらにとってどれだけ悪魔的か知る由も無いが。
そうした子飼いを幾つも増やすと、思いがけない拾いモノもある。
元アイドルだった少女や、官僚の妾腹、アル中の議員。
人間の悩みは尽きない。
そこがどんな神かも知らず。
その後ろに立つヒトがどんな悪かも知らず。
「まったく」
思わず呟くと、車を運転するキリサカが、少しだけ視線を寄越す。
「何です?」
「何でもねえよ」
濃紺のブランド物のスーツ。
キリサカは苦笑いして、ハンドルを切る。
「グレたガキだね」
「聞こえてっぞ、テメー」
「失礼シマシタ」
キリサカは最近入った新入りだ。
歳はオレより3つ上だった。
ニヤけたツラ。
舐めくさった奴。
この世界に似合わないエリート面だ。
ホストのバイトだって言った方が納得するだろう。
着ているスーツもオレよりも派手だ。
シャレてる気なんだろう、イチイチ、オレのネクタイにまでケチをつけてきたっけ。
「アンタには、その色は似合いません。」
堂々と言い放って、自分のタイを抜くとそれをオレの首へ巻きつけた。
オレのマンションへ迎えに来たキリサカを部屋へ上げて、スーツに袖を通していたところだった。
簡単な幹部会があるその日。
ミチルの下足番として付いて行くオレの格好にコイツは眉を寄せた。
黙ってそのバカな行動を見てると、コイツはこう言った。
「アンタの・・・値が下がる。もっと自覚してクダサイよ。」
「へえー」
そのセリフに思わず笑っちまった。
だが、バカバカしくてだ。
オレの顔を見たキリサカが一瞬同じように口を緩めた。
「で、いくらだ?」
キリサカの顔が強張る。
「テメーはオレをいくらだって値踏みした?」
キリサカの顔がサッと青醒めた。
「ス、スミマセンッ・・!!」
土下座せんばかりに、キリサカが頭を下げた。
その髪を掴んで顔を上げさせる。
「オイ。オレは聞いてんだよ・・いくらだ?答えろ」
キリサカの顔から益す々血が引いていく。
それもそうだ。オレが髪を掴んでいる逆の手には”チャカ”。
黒光りするその銃身を持ち上げる。
いつもは、腰の後ろへ差してるチャカを握り、その指をゆっくり見せ付けるように、握っては、放しを繰り返した。
「言えよ」
「す、すみませんッシロウさん、オレ・・!」
「誰が謝れって言った・・?オレはいくらか聞いてる、答えな」
意を決したキリサカが口にしたのは。
「だ、いや」
「あぁ?」
「ダイヤ、です・・!ダイヤモンド・・・ッ」
その答えがあんまりにもバカバカしくて、オレはキリサカから手を放した。
だいや。
ダイヤ・・・。
いくらかって聞いたんだぜ・・?
それを、ダイヤって・・・・。
コイツは頭がワリィのか・・・?
オレはサッサとタイを替えるとキリサカのタイを投げ返してやった。
「すみませんッしたッ」
バカバカしい。
「行くぞ」
それから、暫くは静かにしていたキリサカだったが、深夜に二人切りで寄ったバーで、口が軽くなったキリサカが再びケチをつける。
「アンタは、本当にわかってないんですね・・・。ナンデスカそのカッコは・・・。ヒットマンだってそんなカッコしませんよ。全身黒尽くめなんて・・・。」
「うるせえなぁ」
一睨みしても酒の力を借りたキリサカは引き下がらない。
「そんな、ナリ、ワザワザしなくたって、アンタがどんなやばそうな人種かなんて判り切ってるんですよ・・?せっかくの原石が・・宝の持ち腐れだ・・」
「お前はバカか?オレは影だ、目立ってどうする」
途端にキリサカの顔がキッとなる。
「路流さんの、ですか!?」
キリサカの眉間が険しく寄る。
オレはその顔を横目に見て、視線をグラスに移した。
「オレはあの人に、守られて生きてきた。なら、その恩を返すのはオレの役目だろう。いくらこんなアブネエ世界に入らなくちゃならねえ事情だったとはいえ、あの人にオレはおぶさって来たんだ。血の繋がった兄貴とはいえ、この恩は量り切れるモンじゃねえだろ。オレは路流のために死ぬ。そのために生きてる」
「なら!」
キリサカがテーブルに手をついてオレの方へ顔を寄せた。
「オレはアンタのために死んでやるよ!誰にも、アンタを殺らせや
しねえ・・!!それが、オレの”生”だ」
低く吠えるような囁きだった。
「バカかテメーは・・」
肩が揺れる。笑いを堪えきれず、オレは肩を揺らしていた。
「酔ったかな・・」
オレは酔うと必ずマンションへ戻ってた。
なぜって?
そこには似ても似つかない弟がいるからだ。
ネコ目のクソ生意気で。
路流とそっくりの顔した弟。
その日もやっぱり足はマンションへ向いてた。
キリサカを連れて帰ると、中は真っ暗だった。
時計は4時近く。
キリサカをソファに寝かせて、オレはセイジの部屋へ入る。
そこには、無邪気な顔の弟。
薄く開いた口からスースーと単調な寝息が漏れていた。
そのベッドへ潜り込む。
片肘をついて、その寝顔をジッと見てた。
17歳だった。
アンタは。
母さんが寝たきりになって、母さんが頼ってた男がいきなり家へ来た。
暑い夏の日だった。
イレズミのある男だった。
半そでのシャツから覗く濃紺の腕。
その腕が、ミチルを掴んで。
面倒を見てやるってソイツは言った。
四十を超えたオッサンだった。
浮かんでくる路流の顔に思わず目を覆った。
『ミチル』
『大丈夫だよ』
『ミチル』
『平気だから』
『ミチル』
『シロウ、セイジにご飯食べさせてやって』
アンタは、アイツに、抱かれてたんだろう?
ヤクザのイロになって。
どんなに、アンタは悔しかっただろうな・・。
オレ達さえ居なければ、アンタならしっかり歩いていける人だったはずだ。
腐った道なんか選ばないで、立てる人間だ。
悔しくて涙が出る。
アンタはオレが知ってるって知ったらきっと嫌がるだろうな。
だけど、オレはここでアンタを守りたい。
アンタも泣いてるんだろうか?
たった、一人で・・?
『ミチル』
『ちゃんと学校行けよシロウ』
だけど。
オレはガッコなんかよりアンタのソバにいたかった。
雨が降っていた。
車の中から雨水がフロントを流れる様をぼんやり見ていた。
「シロウさん、補佐(ミチル)が出ます」
キリサカに窓越しに呼ばれる。
「ああ」
呟くように返事をして、オレはドアを開けた。
ドアの外でキリサカが傘を傾ける。
本家で幹部会がある夜は必ずオレは路流に付いて行った。
幹部会でしかあのオッサンを見る事が出来ないからだ。
この辺りを仕切ってる品川会傘下じゃ有名な話だった。
品川会品川組の組長のイロ。
気構えた通り。
路流はそのオッサンに腰に手を廻されて抱き寄せられるように二人で傘に入って出てきた。
オレに気づいて、路流がオッサンの方へ向き直り、傘から出ると濡れるのも構わないで深く一礼してこっちへ歩いて来た。
二歩でオレは傘を差し出し路流を車へ乗せる。
それからオレは助手席へ乗る。
「出せ、キリサカ」
「ハイ」
バックミラー越し、ミチルは目を閉じた顔を窓の方へ向けていた。
見つめていると、パチッと目が開き、ミラー越しに目が合った。
「忘れていた、マンションへ行ってくれ」
「久我のですか?」
オレが答えると、路流はヤメロよって笑った。
「セイジに偶には灸を据えてやらないとな」
「・・・アンタは、そんな事言っていつも小遣いやってばかりじゃねえか」
「小遣いは関係ないだろう。金はいつだって要る。今回は本当に叱りに行くんだよ」
「・・何やった?」
「個人情報の流用」
「・・そんなインテリじゃねえだろアイツは」
「それがヤッたんだよアイツが。まぁ、罪にはならない程度だ。ウチに損失は無いしな。まぁたっぷりかわいがってやらないとな」
クスクスと笑う路流。そこ意地の悪い笑みにはオレも肩を竦めるしかなかった。
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