Dead or Alive

ジャム

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久しぶりの実家。
ドアの前で路流がオレを振り返った。
「びっくりするなよ」
笑って、路流が鍵を開ける。



「セイジ。覚悟は、出来てるんだろうなぁ?」
堂々と入ってく路流の後ろで、オレはビックリした。
ビックリして、声も出ない。
口を開けたまま立ち尽くしてしまう。

セイジが・・・セイジが、・・オトコと・・・!!

当のセイジはバツが悪そうな顔でソファにふんぞり返っている。
その隣には、歳も変わらなそうな、見た目のいい少年が、今、服を着ている最中だ。
セイジの方はパンツを履いただけの格好でむくれている。
「ケイタ、嫌な時はきちんと嫌だと言わないと、このバカのやりたい放題ヤラれるぞ」
路流は、まるで金利の相談でもするように話した。

・・・アンタ、な、なんて事を、ペラペラと・・!!

「・・・オレ、嫌じゃないから・・」
ケイタがきょとんと答える。
それにセイジが被せるように喋り出した。
「あのな、来るなら来るで時間言ってから来てくれよ!ったく・・・シロウにまで見られた・・。で、何?」
舌打ちしてセイジは立ち上がるとキッチンへ消える。
冷蔵庫の、開いて閉まる音がして、すぐセイジは戻ってくると、清涼飲料水をケイタに渡して、また座った。
それから、また偉そうに。
「ビール飲みたいなら、入ってる」
「ビール・・?いつからそんなモンを仕入れるようになった?太るぞ。脂肪がつくぞ」
溜息を吐きながら路流が立ち上がる。
「あ、オレが取ってきます」
自然に出た口調に、セイジが噴出した。

この、クソガキ・・!!

「だから、普通にしてろってば・・。ま、あれ見たら驚くなって方が悪いか」
笑いながら路流が後からキッチンへ入って来た。
「知ってたんだな・・・。そうか、だから帰るなって言ったのか」
「かわいい弟のお願いだからな」
「かわいがりすぎだろ。オレのお願いには肋骨にヒビ入れたクセによ」
「お願いの大きさが違うだろ。こんなモンならかわいいお願いだ。お前のは無茶なお願いだった」
路流はガチャガチャ戸棚を開けて、奥からワインを出した。
「お、これには手をつけなかったのか・・飲むか?」
「ああ。飲まなきゃ落ちつけねえよ」
言うと路流が噴出した。
「今の、お前をキリサカが見たら、きっとバカにする
だろうなっ」
「アイツは生意気すぎなんだよ」
「でも買ってるだろ」
路流がグラスを4つ出してテーブルに向った。
「お前達はコレ」
「は!?なにこれお猪口じゃねえの?」
「お子様には十分だろ」
路流はオレと自分の前にはワイングラスを。
セイジとケイタの前にはお猪口を。
それに並々とワインを注ぐ。

なんてチグハグな・・・。
こういうとこがガキっぽいんだよな・・。

「で、なんなの?」
お猪口のワインには手をつけずセイジが聞く。
「あ、おいしいー」
ケイタはそれに反してグビッとこれもまたワインを飲む作法を無視してお猪口を空にした。
「飲むなよセンパイ!」
「ケイタは飲める口だな。成人したら楽しみにしてなね?」
「ほっとけよテメーっオレに話なんだろ!」
まるで毛を逆立てた猫だ。
「ああ、・・・ケイタの顔を見たらどうも怒る気もなくなってきた。まぁいいさ。事情があったんだろう。だがな、セイジ。賄賂まがいの事はヤメロ」
「・・悪かったよ・・」
「いったい何の話なんだ?」
身を乗り出すとミチルがオレを見た。
「笑うぞ。セイジはウチの組に電話してきて、オレの名前で、ある人物について足がついてるか調べさせた。その人物が、セイジには幸運にもウチのシマで遊んだ跡が残ってた。それを知って、セイジはその店の割り引き券を引っ張らせた。・・・30枚もな」
「・・・風俗か?」
路流が頷く。
「悪かったってば・・もう、しねえよ」
セイジがソファの上で膝を抱えた。
一応の反省のポーズ。
「で、その人物ってのは誰なんだ?」
「先生だ。学校のな」

閉口。

「呆れたな」
「問題は、その見返りだな。何を要求したんだ?先生に」
セイジが唇を噛んでオレ達を交互に見た。
「・・たぶんオレのためだろ、それ」
ケイタが言った。その視線をコッチへ向けて。
「あの・・・オレ、親と上手くいってなくて、この間家に連れて行かれそうになって・・。3年だし受験勉強しろって・・。でも大学なら、このままでもサッカーの推薦で入れるんです・・だから・・その説得に先生に協力して貰おうと・・・」
「・・・ナルホド。最近の教師は怠慢だって事だ」
オレは嫌なムカつきを覚えて、ワインを一気に飲み干した。
「・・・お前、先生になりたかったんだろ、ホントは」
路流が腕組したまま考えるようにオレを見た。
「はあ?」
「生徒から、んなモン貰っても平気な教師。ご褒美がなきゃ率先して動くことも無しか。いいなぁ固定給は。お前、本当先生やれば良かったんだ。オレは結構期待してたぞ。オレの担任だってオレが退学する時引き留めてくれやしなかった。・・・ま、あの『保護者』が付き添ってたんじゃ声も出なかっただろうがな」
皮肉めいた笑み。
堪らずオレは口走ってしまった。
「冗談じゃない。オレは路流のためにしか動かない。どこのクソガキのためになんか働くか」
言って顔を上げると、一瞬、三人がオレを見つめてた。
「な、なんだ・・?」
「いや・・?」
路流が笑って、オレのグラスにワインを注いだ。







「うちに来るか?」
ここから近い、と、路流がタクシーを拾った。
「・・ああ、そうだな」
ワインのせいで、少し体が火照ってた。
後部座席に並んで座ると、心無しか路流が寄りかかってくる。
路流の頭がオレの肩で車の振動に揺れてた。
「・・知ってるんだろう?」
呟くような声に、それを見つめてるのが一瞬バレたのかと思った。
それきり。
路流は何も言わない。

『知ってるんだろう?』

何を・・?
何をオレが知ってるんだって、言いたいんだ?
オレが・・?
オレに知られて・・・困るような事・・?


胸が締め付けられた。
思い当たって、ますますオレは路流の頭を見つめた。
路流は黙ったまま。
オレも黙ったまま。

車は10分も走って止まった。
煌々と明かりのついた豪奢なマンションの前だった。




「もっと飲むか・・?」
「いや・・」
手持ち無沙汰だった。
広々としたリビング。まるで何処かの会社の応接室のようだった。
無機質で、生活感が無くて、寛ぎ辛い。
路流は窓際に立って、またワインを開ける。
水のように注ぎ、飲み干す。
二杯目を注ぎながら、振り向いた。
「オレが、ここへ連れてこられた時は最悪だった」
言って二杯目もグビグビと飲み干した。
「母さんの店の担保だとか、借金のカタだとか言って・・・・6人くらいに輪姦されて」

輪姦・・

血の気が引いた。

この世界でならよく聞く話だ。
金が無いなら身体。
あの時、路流は今とは全く逆の立場で。
いくら母さんを贔屓にしてくれていた相手とは言え、相手はヤクザだ。
獲物が変わればやり方も換わる。

「品川の組長は、そこからオレを引き上げてくれた、恩人だ。知らなかったろ?でも、別に愛されてるワケじゃない。足を開く相手が下っ端じゃなくなっただけだ。親程も歳が離れてる相手にはなかなかその気にはなれなかったがな」

オレは今度こそ顔を覆った。
「ミチル・・・」
そのオレの前へミチルが歩いてきた。
「ミチルッミチルッミチルッ」
手を伸ばしてその身体を抱き締めた。
「・・・こんな汚れたカラダで良かったらヤるか?」
目を瞠った。
驚いて、カラダを離して、その眼を見た。
「ミチル・・」
何も映さないような目だった。
「お前も、ヤリたいんだろ?シロウ。どうせ動物並みのカラダだ。好きにしろよ」
「ミチル・・・」
もう一度、路流を抱き締めた。
「早くヤれよ」
「ウルセエ!!この酔っ払い!!黙ってろ!!・・・・頼むから・・・もう、何も言うな・・っ」

この罪は償うから。
頼むから黙っててくれ。
頼むから・・・!!
兄貴・・・!!!

悔しくて悔しくて涙が止まらない。路流の肩を抱く両腕に血管が青々と浮いた。
「顔・・・覚えてるか・・?」
「だったら・・・どうする?殺す気か?」
ククッて路流がオレの肩に顔を埋めて笑った。
「だったらお前はウチの幹部を全員殺さなくちゃならない。『付き合い』で全員とオレは寝てるからな」
「殺してやるよ」
オレの台詞に、路流の笑いが、ピタリと止まった。
「殺してやる。全員」
路流が顔を上げる。
「じょう・・だん、だ・・。」
震えそうな声を出し、路流がオレから身体を離した。
「うそだ。全部・・。バァカ・・」
路流はまたワインをグラスに注いだ。
オレに背を向けて、ソファの肘掛に座って、それを飲む。
飲み干して、細く息を吐いた。
「なぁ・・・抱けよ」
「全員殺したら」
言うと、路流が振り返った。
「嘘だって、言ってるだろ・・。欲求不満から出た戯言だ。来いよ」
手招かれて、オレは路流の前へ立つ。
タイを引っ張られて、顔が寄る。
咄嗟に、その肩を押さえた。
「キスもさせない気か」
「命令、なら」
「バカバカしい・・。何様だ。舐めろって言えば舐めるのか?」
笑われて、オレは跪いた。
「・・おい・・。」
ベルトに手を掛けると、慌てて路流の手が制止する。
オレは無言でベルトを引き抜いて、路流の前を広げた。
「シロウッ!!」
髪を掴まれて引っ張られた。
髪の付け根がビリビリと痛んだが、構わずオレは口に路流を含んだ。
「・・・・ッッし、ろうっ」
「動物並みだって言ったのはアンタだろう。これ位でいきり立つな」
ムクムクと勃ち上がる路流自身を口の中へすっぽりと、咥えると、頭上から溜息が零れた。
裏筋へ舌を這わせると、ミチルがビクビクと震えた。
「こんな、事を・・させるつもりじゃ、ないっ」
「兄貴・・。絶対殺してやるからな。一人も残さない。アンタを辱めたヤツらをオレは許さない」
「・・・・っシロウっ」
ミチルがオレの頭を抱えるように前かがみになった。
追い込み。
根元を握ってた手も動かすと、路流は呆気無く果てた。
濡れた唇を指でなぞって、手の甲で拭う。
路流は大きく息を吐いてグッタリとソファへ凭れた。
髪を掻き上げたそこから、オレを見て。
「・・キリサカに、オレが、殺されるな・・」
「キリサカ・・?アンタ、何かしたのか?」
「・・・イヤ・・何でもない」
路流は笑って、身体を起こした。
「ワインが効き過ぎた・・。二度と、するな。今日の事は、忘れろ。悪乗りしすぎた・・シャワーを浴びる・・・。お前は、・・帰れ」
「・・・ああ。」
リビングのドアの前で、路流を振り返った。
項垂れた顔が上がる。
その顔を見ながら、キッチリ頭を下げた。
それからドアを開ける。

「兄貴、・・・愛してるよ」
路流の精気の無い目が、オレを見てた。
抜け殻みたいな路流の目。
それが、アンタの本当の姿なのかも知れない。
もう、何もやる気にもならない。きっともう何もかもがどうでもいいんだろう。
気力だけで、アンタは生きてる。
絶望の淵をもう見たアンタには何も面白いモノなんて、無い。

愛してるよ、兄貴。
オレが、殺してやる。
クソジジイ共を、オレが絶対殺してやる。
それまで。
それまで、待っててくれ。
もうこんな世界から助けてやるから。

マンションのエントランスを出た所で、携帯が鳴った。
まだ夜中の3時だった。
「なんだ?」
『キリサカです!』
切羽詰まったような声が耳元に響く。
「どうした、こんな時間に」
『補佐から今連絡貰ったんですよ。アナタを家へ送って行くようにって』
呆れる。
「ガキじゃねえ」
『・・・目を、・・離すなと、言われました。・・・何かあったんだろ・・?シロウ』

思わず噴出しそうになった。
そんなに、オレが無鉄砲に見えたのか?
今すぐにでも、オレが幹部連中にでも仕掛けそうだって・・?
あの心配性め・・。

「言葉遣いがなってねえぞ、テメエ」
『すぐ着くから、待っててくださいよ!』
そんな事に構ってられるかって怒鳴るような声が耳元で弾ける。
「・・・ああ。・・わかったよ・・ったくウルセエな」



マンションを見上げてみた。
そこから、アンタはオレを見てるのか・・?


いいぜ・・。


あんたが畜生の道に行くっていうなら、何処までだって、付き合ってやる。
どうせ同じ血だ。
汚れるなら一緒の方が都合がいいだろう。

それこそ願ったりだ、ミチル。

いつか、オレがミチルを自由にしてやる。

この腐った街から。
腐った世界から。





タバコを出し、目の前に吐き出す煙にネオンが曇る。
全てがクソに思えた。
煙と一緒に消えてなくなればいい。
誰も彼もが死んじまえばいい。
そう思って、気がつく。
なら、と。
今、引き返して。
部屋へ戻って。
路流をヤッて、二人で死ねばいいんじゃねえか・・?
オレが、殺してやれば・・。
自然と手が背中へ伸びていた。
カタイ感触に指を這わす。
と、けたたましいクラクションの音が鳴って、オレは咄嗟に手を引っ込めて振り返った。
見覚えのあるメルセデス。
そのドアを開けて、また見覚えのある男が降りて来た。
「話、聞かせてクダサイよ。シロウさん。オレは、あんたに、命張るって決めてんデスヨ・・!」

目の前に立つキリサカに自分が重なった。

オレは・・ミチルのために死ぬために、生きてる。

オレが路流を殺して・・どうする・・!?
「バカだな・・・」
「バカ・・?アンタもでしょう」
キリサカがオレの口からタバコを引っ手繰るとソレを咥えた。
オレはまた、ぼんやりと遠いネオンを眺めてから、呟いた。
「幹部を・・・殺す。」
「全員ですか?」
キリサカは驚きもせずに返した。
「・・ああ、全員だ。みんな地獄に落とす」
「・・・いつか、言うと思ってマシタヨ。あんたなら。さ、行きましょう」


オレ達は、動き出した。
もう、意味もわからず、この世界にいるんじゃない。
やっと、オレの道が開けた瞬間だった。
意味も無く生きるんじゃない。
路流のために、死に、路流のために、オレのために、殺す。
それが、オレの役目。

車に乗ると、キリサカがスタートさせる。
「補佐と・・・何があったんですか?」
「黙って運転しろ」
笑うと、キリサカは舌打ちして呟いた。
「かわいくねぇっ・・」
「聞こえてるぞテメエ」
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