僕の体で神様を送ります。

ジャム

文字の大きさ
9 / 27

豪雨

しおりを挟む
同日、水橋家の朝の一場面。

玄関で紐靴を結んでいると、のんきな声で母親が自分を呼んだ。


「ちょっとリュウト!傘、傘、持って行きなさいよ~!」
「え~」
「え~じゃない。あとで、雨降っても知らないわよ!」


母親の声から『自分の忠告を無視したら只では済まない』雰囲気を感じ、リュウトは渋々傘を手にした。


「あなたのことが心配なんですよ」


にっこり笑って、リュウトに手を差し出す超絶美形の青年。

彼は、神の使命を負ったリュウトの守護者(ガーディアン)、水の精、睡蓮だ。


革製の長いコートを纏い、膝上まであるブーツに、コートの下は所々が擦り切れた黒いノースリーブのシャツに革ベルトが何本も交差している。
そう、まるでゲームの中の美形キャラそのものなのだ。

その睡蓮に差し出された手を握って思う。


睡蓮・・カッコ良すぎる~~っ


睡蓮の容姿が、自分の好みが具現化されたものだと思うと、リュウトは尚更恥ずかしくなってしまう。

こんな普通の日本の住宅地に、ゲームのFFのキャラが舞い降りてしまったようで、その違和感はハンパ無い。

手を繋いだまま歩き出す睡蓮に、リュウトはドキドキしてしまい周りを見渡した。

やっぱり誰もこっちを振り向かない。
自分以外には睡蓮の姿は、誰にも見えないらしい事を確認し、肩の力を抜いた。

だって、いくら美形だって男同士が手を繋いで登校って・・アリエナイもん。



でも、と思考は続く。

だったら、いつでもどこでも睡蓮とキスしたり抱き合ったり出来るってこと・・!?

そう想像して、リュウトの顔がみるみる赤くなっていく。



何想像してんだよっオレは!
睡蓮にオレの考えてることは全部バレるんだって言われたのに!
ナシナシ!!こんなの無し!!

だいたい・・・

睡蓮は『神送り』っていう使命のために・・オレの側にいるんだ。




「なぜ悲しむんです?」

リュウトの思考を読んだ睡蓮が問いかける。


「だって・・・あんなことを・・好きでも何でもないヤツとヤらなきゃいけないなんて・・」
「嫌なんですね?」
「うん。・・嫌だよ」
「リュウト」


睡蓮は立ち止まり、リュウトを自分の方へ振り向かせると、その体をギュッと抱き締めた。


「私も辛いです。あなたが泣く姿を想像するだけで辛い」

「ねえ・・睡蓮。オレ・・もしかして、死ぬまで、この『神送り』って・・やんなきゃいけないの?」

「それも『神の思し召し』・・。私にはわかりません。ただ、前任者だったものは、病に臥せった後も、寿命の数年前まで続けたそうですが、その数は年にほんの数回だったと聞いています」


「ほんと!?」

途端にリュウトの顔が明るくなる。

「ええ、本当です」

ニッコリと笑う睡蓮だが、実はそれには、神々の方が病人を慮って自重し『神送り』をしないでいただけという事実を知っていた。

そのため、しわ寄せが来ている事もわかっている。

何年も神の国側へ帰れずにいた神々が、リュウトの前へ順番に現れるだろう事も予想出来た。

なんといっても神大国日本。

八百万(ヤオヨロズ)の神が住まう国なのだ。

頭を悩ませながらも、睡蓮はリュウトを宥めると、その手を引いて歩き出した。



しかし、リュウトの期待は外れ、試練はその日の夜に訪れた。


リュウトはシャワーを浴びた後、冷蔵庫から出したオレンジジュースをリビングで飲んでいた。

家族には見えないが、傍には勿論、睡蓮がいる。

学校でも殆どの時間、リュウトのすぐ傍に睡蓮がいた。

睡蓮はリュウトが何を好み、何を思い、どう行動するのかを、出来るだけ理解しようとしていた。

そうすれば、この先、彼に与えられるだろう試練に、彼が打ち勝てるように励ます事や慰める事が出来る。

守護者としての役目とは少しずれてしまうが、それもリュウトと出会った自分の役割だろう、と睡蓮は決心していた。






神は無情だ。


人間の、どんな時もどんな事情も、神は厭わない。



それは、つまり、死神も一緒だった。


水橋家の住人が皆眠りにつく頃、シトシトと雨が降り出して来ていた。

その雨に濡れながら、二つの影が黒塗りの車から降り立つ。


「チッまた雨かよっ」

舌打ちする憂火を「まあ、まあ」と、宥め、暮は自分の傘の中に憂火を入れる。

「梅雨なんだから仕方ないでしょ。それにここには水の精霊がいる。歓迎されない我々がここに来れば、雨が降りやすくなるのも頷けるでしょう」

「チッ面倒くせーのが憑いてる訳だ」

憂火は眉間に皺を寄せて、ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、ブツブツ言いながら塀の上へとジャンプした。

そこから庇の上へと大股で飛び移り、またその上へ飛ぶと2階のベランダへと着地した。


それに続いて暮も追って来る。

そして、リュウトがいるだろう部屋のガラスを、コツコツと手の甲で軽くノックした。

「・・誰だ」

カーテンの隙間から、不機嫌そうな睡蓮が顔を出した。

それに、憂火が口を開きかけた瞬間、憂火を突き飛ばさん勢いで、暮が睡蓮の前へ「初めまして、こんばんはー!」と、しゃしゃり出て来た。


「どうも~!私共は『神』の破天荒ぶりを管理をしている者です。はい、これ名刺!ここに名前と支店、電話番号とメールアドレスも載ってます。ご用命は是非こちらに!って、・・そんな場合じゃあ、ありませんっけね?」


暮が睡蓮を睨みつけ、ニヤリと口元を引き上げる。


「死神か・・」

「ついに、神門が開かれたと聞きましてねえ。もうかれこれ、4年ぶりでしょ~?こちらとしても、強制送還・・もとい!神の国へ戻るに戻れないでいる神達を、やっと送ってあげられる!と、こちらへ伺った次第であります」

一気に捲し立て、妙に引き攣った笑顔を顔に貼付けた暮に、睡蓮は顔を曇らせた。


「さあ、さっさとリュウト君を起こして下さい。守護者、睡蓮!我々も暇では無い。それに、もう一人目を送ったそうじゃないですか・・大丈夫なんですか?むやみやたらに門を開けば、次から次へと『客』が来ないとも限りませんよ?」


そう言って暮は両手を開いて見せたが、ガラスの向こうから見つめるだけの睡蓮に、暮は笑うのをやめ、両手をズボンのポケットへ突っ込んだ。

「・・テメエから逝かすぞコラ!」


と、暮が家の壁をガンッと蹴った。

それを憂火が諫める。

「バカヤロー!脅してどうすんだ!!」


暮の頭を鷲掴みにして、自分の後ろへ引っ張ると、憂火は睡蓮の正面に立って帽子を脱いだ。


「オレ達は仕事で来てるだけだ。仕事が済めば、とっととここから消える」


睡蓮はガラス戸をすり抜け、憂火の前へ出た。

鮮やか水色の瞳で、至近距離から憂火の目を覗き込む。

「あんたがあっち側へ戻りたい訳じゃないんだな?」

「ああ。オレじゃない」

憂火は胸ポケットに仕舞ってあった小瓶を取り出し、その中身を振って見せた。

「齢300年の桜の木、いわゆる御神木ってヤツだ。あんまり根が張り過ぎて・・人の魂にまで手をつけるようになっちまった。いつもなら一刀両断、抹消処分だが、殺意は無く、初犯で偶発事故だったという見解で、一旦あっち側へ戻すことに決まった」



「だから?」



睡蓮は無表情に答え、憂火に次の言葉を促した。

憂火は睡蓮の態度に舌打ちし、言葉を選ぶことを止めた。


「リュウトを出せ。門を開いて、コイツを向こうへ送る」


その瞬間、憂火と暮の背後に、滝のような雨が落ちてくる。

どんな声も音も掻き消すような、土砂降りの雨が打ち付ける中、暮は寒気を覚えながらも視線は睡蓮から外さずにいた。

睡蓮は淡々と静かに、しかし怒りに満ちた声で二人に警告する。



「冗談じゃない。逝くヤツ以外の神にヤらせるなんて問題外だ。陸上で溺れたくなかったらとっとと消え失せろ」



その台詞に暮が背中からドスを抜く。

睨み合った憂火と睡蓮、そして暮の後ろでは更に勢いを増した大粒の雨粒が屋根を叩き付ける。

睨み合いは数秒続いた。

直立不動のまま指1本動かせないような緊張の中、先に動いたのは憂火だった。


帽子を持った右手で暮を制し、ドスを下げさせる。


「今日はお前の度胸に免じて一旦引くが・・次は刈る。いいな?」

「・・お気をつけて、お帰りを」


憂火が帽子を被り、チラリと睡蓮へ視線を投げた後、土砂降りの雨の中も構わず、下へと飛び降りる。

暮も数秒、睡蓮を睨みつけてから手に握り締めていたドスを背中へ仕舞い、憂火の後を追った。



「憂火さん!」

暮が大声で呼ぶと、車の横でザンザン降りの雨の中佇む憂火が振り返った。


「本当に、いいんですか!?このまま帰っちまって!」

大声で暮が憂火に声を掛ける。土砂降りの雨の音がうるさいせいで、声も聞こえない。

「しょうがねえだろ!番犬が、死ぬ気で吠えてんだ!一回くらい顔立ててやれ!」

「もう・・そういうとこで優しいんだから・・」

暮が頭を軽く振り、車のロックを解除して、二人はずぶ濡れの格好のまま車に乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が結婚すると聞いて祝いに行ったら、なぜか俺が抱かれていた。

夏八木アオ
BL
金髪碧眼の優男魔法使いx気が強くてお人好しな元騎士の幼馴染の二人です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...