センパイ番外編 

ジャム

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アキタ x イズミサワ

3、イズミサワケイタの傷

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朝。 
すっかり朝練も始まっている時間。 
ノロノロと重い腰を起こす。 

オレの毎日は、一つ下のオトコ二人にヤラれまくる毎日。 
イヤ、毎日シたがるのはアイツ、カネダだけだった。 
オレのケツをサイコウだと言って掘る。 
場所はどこにだってある。校庭でだってヤる。 
ほんの少し体が隠せれば何処でだってヤられる。 
本気の頭のイカレタ奴。 
いつか、吊るしてやる。 

階下からはいつもの朝の一場面が繰り広げられている。 

「ケイ、まだ居たの?」 

ダイニングテーブルには、仲の良さそうな三人親子 
が朝食を囲んでいる。 
オレの存在がそんなに驚くような事なのか、母親は唖然とした顔でオレを見つめた。 
一つ下の弟は、オレを見るとうんざりした顔で牛乳に手を伸ばす。 
「寝ボウ」 
「ダメじゃない!朝練ちゃんと行かないと!何のために、あんな私立に行かせてると思うの?」 

あんな私立。 
はいはい。 
どうせ、オレは球蹴りしか能が無いガキだよ。 

「コウちゃんみたいに、推薦もいらないでいい大学に入れそうな頭がアンタにもあれば、こんな事、言わないわよ?でも、アンタはそうじゃないでしょ? 
頑張ってサッカーの推薦とって大学行かないと、皆から取り残されちゃうのよ?ウチにはフリーターとか、プーなんて人いらないんだから。しっかりやって頂戴」 
最後は顔も見たくないって感じに、フイとテレビへ視線を変えた。 
父さんは何も聞こえないみたいにさっさと飯を食って、席を立つ。 

うんざり。 
コウキ、オマエもそう思ってるだろうけどな、オレの方がその何倍もこの家にうんざりしてるんだよ。 

一歩家の外へ出ると開放された空気が余計に自分を惨めにさせた。 
何処にもココロの置き場が無い。 
オレにあるのは何処にでも行けばいい、自由。 
”あんな私立”に通わせてもらってる自由。 
あの家に、オレは「いらないヒト」。 
盛大に溜息が零れる。 
朝練に出れないなら、もう学校に行く気も失せてくる。
あー、面白くねー。 
放課後までブラブラするか。 
ゲーセン行って、本屋行って、スポーツショップ行って。 

ガッコの最寄駅の改札を出た時だった。 
「ねぇ」 
オンナの声。 
オレに掛けられた声とは思わず、通り過ぎると、声はしつこく追いかけて来た。
「ねぇ、ねぇ」 
面倒くせぇからシカトして歩き続けると、 
「ねぇってば!」 
最後には制服の肘を引かれた。 
ガクッと肩からエナメルバッグが落ちて、オレはソイツを睨みつけた。 
「そんな睨まないでよ。ねぇ、ヒマなんでしょ?アタシもヒマなんだ。遊ばない?」 
どう見ても、カツラ(金髪の)。 
コスプレみたいな裾の短い制服。中に着ているポロシャツからは臍が見えてる。 
「暇じゃねーから」 
今の気分で知らないヤツとつるむ気になんてなれなかった。 
しかもオンナ。 

冗談じゃねーよ。 
なんでオレが相手してやんなきゃなんねーんだよ。 
オマエらワガママすぎて付き合ってらんねーんだよ。 

並んで歩こうとするオンナを引き離すように歩幅を広げる。 
「なんか、わかるんだもん。アタシも、皆死ねって気持ちだから」 
思わず、振り返ってしまう。 
ソイツはオレの顔を見て、嬉しそうに笑った。 
「ちょっとでいいから一緒にいてよ」 
スルっと腕を組んでくる。 
柔らかな体が密着してきて、思わず体が強張った。 

こんな、バカそうなオンナでもいい匂いがする。 
傷舐めあうみたいで趣味じゃねーけど、こんなのもアリか。 

「オマエ、本当に高校生?」 
「マジ失礼だよ、ソレ」 
カラリとした笑いが口から零れた。
サイアクな底辺からコンマ何cmか浮上した気分になれた、その時。 
「センパイ、何してんの?」 
胸を刺すあの声がオレの心臓を止める。 
「なんで・・・」 
目の前に歩いて来たのはサッカー部の後輩アキタセイジ。 

オレを犯したもう一人のオトコ。 
いや、輪わしたオトコか? 

「今日、ワタヌキが来ないからオレもサボり、センパイは?」 
アキタはオレと話しているのに、視線はオンナに向けたままイヤな笑みを浮かべて、オレに答えさせる暇も与えずに続けた。 
「まさか、こんなブス相手にハメる気じゃねーよな?つーか高校生じゃねーだろ、オマエ」 
「ヒド!!もういいよ、バイバイ!」 
スルリと腕が抜けて、ソイツはまた駅の中へ入って行く。 
「センパイ。行こ」 
くるりと向けられた背中。 
付いていく事に迷いはなかった。 
少しだけ、体温が上がる。 
それは、たった一人で、オレの前にいるアキタのせいだ。 

着いて、入ったのはフロントにカーテンの掛かったラブホ。 
小さな窓から鍵が滑り出てくる。 
鍵を取ったアキタがオレの手を握ってくる。 
たぶん、オレが逃げないように手を繋いでいるんだろう。 
そんな事しなくたってオレは逃げたりしないのに。 

「アキタ」 
呼ぶと、アキタは答えずに笑みを浮かべる。 
これから。 
セックスをする。 
たぶん。いや、絶対。 
ここはそのための場所だ。 
そう思うと急に緊張してくる。 
オレ達は二人でシた事がない。 


エレベーターに乗り、5階で降りる。 
足音を吸収しそうな絨毯が引かれた廊下の先。 
濃紺のドアを開く。 
壁と天井一杯に流星系の絵が描かれている。 
大きなベッドには真っ黒なシーツがかけられていた。 
アキタは、上着をソファに放ると、ベッドに浅く座って後ろに手をつく格好でオレを見上げた。 

本当に二人きりで? 

オレはアキタがいつアイツに連絡を取るのかと、ハラハラしていた。 
いや、実は既に、アイツを呼び出した後かも知れない。 
きっと後からアイツが来るんだ。 
もしかすると、また何か妖しいモノを持ってくるのかも知れない。 

「アンタ、ドーテーだろ」 
グサリとくる事を前フリも無くアキタは口にする。 
ズボシとかそんな問題じゃない。呆れてモノも言えない。 
「でなきゃ、あんなタカリ女、シカトするハズだもんな普通。 見る目、なさすぎ。センパイ」 

タカリ? 

「金なんてねーよ。見る目ねーのは向こうだろ」 

じゃ、オレ、もしかして、奴の仲間のとこにでも引っ張られて、ボコにされるとこだったって事? 

サイアクの底辺の世界はソコが深い。落ちても落ちてもまだ下が ある。
今オレは地下何階層にいるんだろう。
「センパイ、女なんて知らなくたって平気だよ。セックスならオレ達とすればイイ。女なんかフツウだよ。オレはセンパイとの方が何回もイケるしね」 

”オレ達” 

やっぱり、呼ぶんだ。いや、呼んであるんだ。 

オレのいる階層は底も広いが横にも広そうだった。 
這い上がるための壁も見つからない。 
オレは制服のボタンを外した。シャツもタイも放り投げる。 
ベルトもズボンも勢いで外し、下着も叩きつけるように脱ぐ。 

アイツが来る前に、ヤればイイんだ。 
アイツが来る前に、一回くらいはイケるかも知れない。 
一回くらい。 
ちゃんとオレで、オレの顔見て、オレだって認識してイケばいいんだ。 

アキタは薄ら笑いを浮かべてオレを見上げてる。 
オレはアキタの膝に跨って、アキタのタイを抜いた。 
その時、アキタの手がサッと動いた。 
耳元に、単調な電子音と発光。 
表示はカネダ。
力が抜ける。 
燃え上がった瞬間に消火された気分。 
オレはアキタの上から退いて、ベッドへうつ伏せに倒れた。 
「あ、オレ。うん。ああ、一人。じゃ、昼に戻るワ、ああ」 

一人? 
誰が? 

「カネダは来ない」 
思わず振り向くと、その顔に手が添えられて唇が付けられた。 
キス。 
キスだ。 
オレは、アキタがカネダとキスをしてるのをサンザン見てきた。 
アキタはオレに突っ込みながら、カネダにキスされてイク。 
いつだって、アキタはオレを見ちゃいない。 
オレはカネダの替わりにケツを掘られてるだけ。 
アキタにとってオレはケツしか用がない。 

ハズだ。 
でも、今、アキタは、オレにキスしてる。 

目を閉じてても涙が出そうだった。 
慌てて体を捩って、俯いた。 
「は、早くヤれよっ」 
「何、センパイ・・・耳真っ赤」 
その耳にアキタの舌が入れられる。 
ゾクっと体の中を震えが上から下まで走る。 
アキタの指がオレの背中を辿り、落ち、肉の狭間で食い込ませるように動いた。 
ツプ、と肉は受け入れる。 
もう指のように細いモノじゃ、ケツの締め付けで動きを止める事も出来ない。 
同様に、中にモノが入ればオレは我慢が出来なくなる。 
もっと欲しくなって、足が勝手に開いていく。 
カネダが誉める調教済みのカラダ。 
「アッ、・・アキ、タ」 
アキタの唇が肩をねっとりと舐めつける。 
こんなにまともにアキタに愛撫されるのは、初めてだった。 
ジェルも何も使ってない。 
だけど、濡れた音が聞こえる。 
ダメな程感じてる。 
心臓に血が廻らない程オレは勃起してた。 
グッチャグッチャに中を掻きまわされて、チンポの先が口を開ける。 

だめだ・・。イキそう! 

「早く、アキタ! 早く挿れて!」 
涙声になりそうで叫んだ。 
アキタの指が引き抜かれる。 
「センパイ、やばいって、・・何かいつもと違いすぎ・・。かわいく見えるよ?」 
「ア!!アーーーーー!!」 
アキタがオレの腰を強く掴むと、一気に押し込む。 
一度もつっかえずに、奥まで届く。 
チンポが堪えきれない涎を垂らして、真っ黒なシーツに染みを作った。 
「アキ、タ。」 
アキタは奥まで挿れるとすぐに、ピストンを開始する。 
アキタのピストンは殆ど引き抜かないピストン。 
腰をピッタリくっつけたままで、まるでアキタのチンポがどんどんくっついているのに、もっと奥を犯されていく。 
「アッ・・アッアッンッンんんッ」 
激しく突き上げられて、もう噴出す寸前だった。 
「センパイ」 
右肩を持ち上げられ、くるっと回転させられる。 
「ンーーーー!!!」 
「あアッ・・っつぅ。やべ、今のスゲー」 
繋がったままひっくり返されて、目の前にアキタが見えた。 
目尻が熱い。 
雫が線を引いて流れた。 
「何・・・泣いてんの・・」 
アキタは訊いてるクセに、答えは知ってるって顔で笑う。 
もう一度、唇が合う。 
上も下もぐちゃぐちゃに繋がってる。 
舌が絡み合わされてオレは射精した。熱い体液が二人の間に飛び散る。 
キスがあるセックス。 
このキスは、一生忘れられない。 
人間にこんなに優しい接触方法があるって初めて知った。 
アキタ。 
アキタ。 
アキタ。 

「イク。イキそう・・・・ケイ、タ」 
名前を呼ばれて、手を伸ばした。 
その手を握り返されて、シーツに押さえつけられる。 
アキタの腰が激しく突き上げてきた。 
ビタビタと打ち付けられる音が響いてから、アキタが震えた。 
熱い刺激を腹の中で感じて、はじめて。 
ナマで出された事に、気づいた。 

そのセックスは、愛し合ってするセックスに似てた。
昼前にホテルを出た。 
アキタは誰の目も気にしないで、オレと手を繋いで歩いた。 
オレももうどうでも良かった。 
ヒトの事なんてどうでもいい。 
今、アキタがオレを必要としてくれるなら、何でもしたかった。 
「もう、やめよっか」 
息が止まる。 
いつだって、アキタの喋り口は唐突すぎる。 
「釈放。もう、悪い子しちゃダメ。次はもっと怖いよ?」 

シャクホウ。 
どんな字だ? 
アタマがまわらない。 

でも、もうこれで、最後だって事だけはわかった。 

「・・・ひでぇよ・・。こんなにしといてオレ放っぽり出すんだ・・」 
また一つ階層を降りなければならない。 
オレの足元は穴だらけだったんだ。 
前を向いたまま、アキタが笑った。 
「・・オレなんて球蹴りしてなきゃ碌でもないヤツだよ、センパイ」 

球蹴り・・。 

ハッと笑いが出た。 

”だから、オレなんてやめとけ”って? 

不審にアキタが覗き込んでくる。 
「オレと、同じ事言ってる、オマエ」 
見つめ返すと、アキタの眉が上がった。 
溜息と一緒にオレは吐き出した。 
「またか・・」 
「何?」 
「また、オレに残されたのはサッカーだけになったって事だよ」 
オレはアキタの手を放して、立ち止まった。 
「センパイ」 
「行けよ。行っちまえ、アホ」 
アキタは一瞬痛いような目をしたが、クルリと前を向いて歩き出した。 
その背中が滲んでいく。 

なんだったんだよ?さっきのセックスは! 
なんであんなやさしくしたんだよ! 
あれで、チャラにするつもりだったのかよ? 
サイテーだよ、オマエ。 
期待させやがって、誰が大人しくなんかしてやるかっ 
また、イジメてやる。 
オマエのモノ、全部盗んでやる。オマエのロッカーにペンキ塗ってやる! 

シャツの袖で顔を拭った。再び、目を向けると、アキタが振り返って見ている。 
そして、どんどん戻ってくる。 
「泣くなよ・・・、センパイ」 
アキタの手がまたオレの手を掴んで、引き寄せた。 
「オレさ、・・シチュエーションに弱いんだよ・・。そんな風にされたら、置いてけねーよ」 
「なら、始めから置いてくな!置いてくなよ!!」 
オレは力一杯アキタの体にしがみついた。 
「うん。置いてかない。・・でも、・・もうカネダには付いてっちゃダメ。 
アイツは自分しか愛してない。オレも自分がそうだと思ってた。でも、さっきから」 
アキタはオレの背中を摩りながら呟いた。 
「アンタが・・・かわいく見えて、オカシイんだ・・オレ」 
真昼間の裏道で抱き合ってオレ達は勃起した。 
さっき、ヤれるだけヤった後だったけど。

そうして、オレの愛の無いセックスは終わった。 

アキタの言う通り、カネダはオレを手放す事に拘りはなかった。 
「ふーん。残念。センパイって、なんだかんだオレの事好きなんだと思ってたのに。だって、アレが疼くとオレんとこ来たじゃん。ああいう時のアンタすげーかわいかった」 
「誰が!」 
一歩出ようとした肩をアキタが止める。 
「センパイ」 
アキタの目が諌める。 
ここで食いつくとカネダの思うツボ。 
オレは舌打ちして、顔を背けた。 

マジのSめ。一生ヘンタイやってろ! 

「カネダ、オレも悪いコ卒業するから。拾った子猫は責任持つから安心しろ。じゃな」 
背中を押されて、オレは歩き出した。 
「チッ結局おとせなかったって訳かよ」 
腕組したカネダの顔から笑みが消えたが、アキタはカラカラと笑って答えた。 
「言ったろ、オレは突っ込み専門だって」 
「テメーこそ、泥棒ネコっつーんだよ」 
「ニャ~オ」 
「アキタ!」 
「バイ」 
カネダはオレなんかより、よっぽどアキタが惜しかったみたいだった。 

アキタが欲しかったカネダ。 
快感が欲しかったアキタ。 
意地張って、アキタに縋らなかったオレ。 
(そのせいでカネダにサンザン掘られたオレ) 
レイプ(セックス)してるうちにオレを好きになったアキタ。 
レイプした相手を好きになったオレ。 

誰が一番イカレてる? 

「あ、オレ、ワタヌキがオレに球ぶつけてきた訳、わかった」 
「へー、マジ?」 
「マジ」 
上履きのまま、校舎の裏手に出る。日の当たるサボりスポット。 
「あちー」 
「オマエだったら、蹴る?」 
「蹴んないね。シカトしとく。つーかあんな意地悪したアンタが悪い」 
「もう、しねーよ。なんか最近あんま、イライラしなくなったし」 
「ふーん?弟の事とか?」 
オレ達はいろんな話をした。家の事、サッカーの事、カネダの事・・。 
「どうでも良くなった。あ、モリヤ・・」 
「・・・・」 
「・・・・」 
校舎の窓にワタヌキに手を引かれて、笑うモリヤ。 
「アイツ、・・サッカー上手いよな」 
「センパイも上手いよ」 
「それしか取りえ、ねーもん」 
「あるよ。ちゃんとある。オレが知ってる。アンタは捨てていいもの持ちすぎてる。すっぱり捨てちまえ」 
「フフッ・・アキタ、カッキーな」 

オマエが居ればいいよ。 
何階層に落ちたっていい。 
這い上がれなくたって、ココロはここにあるから。 

「サッカーしてぇなー」 
「たぶん、レギュラー落ちだよ、センパイ。さぼってばっかだから」 
「げ」 
横で楽しそうにアキタが笑った。


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