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アキタ x イズミサワ
3、イズミサワケイタの傷
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朝。
すっかり朝練も始まっている時間。
ノロノロと重い腰を起こす。
オレの毎日は、一つ下のオトコ二人にヤラれまくる毎日。
イヤ、毎日シたがるのはアイツ、カネダだけだった。
オレのケツをサイコウだと言って掘る。
場所はどこにだってある。校庭でだってヤる。
ほんの少し体が隠せれば何処でだってヤられる。
本気の頭のイカレタ奴。
いつか、吊るしてやる。
階下からはいつもの朝の一場面が繰り広げられている。
「ケイ、まだ居たの?」
ダイニングテーブルには、仲の良さそうな三人親子
が朝食を囲んでいる。
オレの存在がそんなに驚くような事なのか、母親は唖然とした顔でオレを見つめた。
一つ下の弟は、オレを見るとうんざりした顔で牛乳に手を伸ばす。
「寝ボウ」
「ダメじゃない!朝練ちゃんと行かないと!何のために、あんな私立に行かせてると思うの?」
あんな私立。
はいはい。
どうせ、オレは球蹴りしか能が無いガキだよ。
「コウちゃんみたいに、推薦もいらないでいい大学に入れそうな頭がアンタにもあれば、こんな事、言わないわよ?でも、アンタはそうじゃないでしょ?
頑張ってサッカーの推薦とって大学行かないと、皆から取り残されちゃうのよ?ウチにはフリーターとか、プーなんて人いらないんだから。しっかりやって頂戴」
最後は顔も見たくないって感じに、フイとテレビへ視線を変えた。
父さんは何も聞こえないみたいにさっさと飯を食って、席を立つ。
うんざり。
コウキ、オマエもそう思ってるだろうけどな、オレの方がその何倍もこの家にうんざりしてるんだよ。
一歩家の外へ出ると開放された空気が余計に自分を惨めにさせた。
何処にもココロの置き場が無い。
オレにあるのは何処にでも行けばいい、自由。
”あんな私立”に通わせてもらってる自由。
あの家に、オレは「いらないヒト」。
盛大に溜息が零れる。
朝練に出れないなら、もう学校に行く気も失せてくる。
あー、面白くねー。
放課後までブラブラするか。
ゲーセン行って、本屋行って、スポーツショップ行って。
ガッコの最寄駅の改札を出た時だった。
「ねぇ」
オンナの声。
オレに掛けられた声とは思わず、通り過ぎると、声はしつこく追いかけて来た。
「ねぇ、ねぇ」
面倒くせぇからシカトして歩き続けると、
「ねぇってば!」
最後には制服の肘を引かれた。
ガクッと肩からエナメルバッグが落ちて、オレはソイツを睨みつけた。
「そんな睨まないでよ。ねぇ、ヒマなんでしょ?アタシもヒマなんだ。遊ばない?」
どう見ても、カツラ(金髪の)。
コスプレみたいな裾の短い制服。中に着ているポロシャツからは臍が見えてる。
「暇じゃねーから」
今の気分で知らないヤツとつるむ気になんてなれなかった。
しかもオンナ。
冗談じゃねーよ。
なんでオレが相手してやんなきゃなんねーんだよ。
オマエらワガママすぎて付き合ってらんねーんだよ。
並んで歩こうとするオンナを引き離すように歩幅を広げる。
「なんか、わかるんだもん。アタシも、皆死ねって気持ちだから」
思わず、振り返ってしまう。
ソイツはオレの顔を見て、嬉しそうに笑った。
「ちょっとでいいから一緒にいてよ」
スルっと腕を組んでくる。
柔らかな体が密着してきて、思わず体が強張った。
こんな、バカそうなオンナでもいい匂いがする。
傷舐めあうみたいで趣味じゃねーけど、こんなのもアリか。
「オマエ、本当に高校生?」
「マジ失礼だよ、ソレ」
カラリとした笑いが口から零れた。
サイアクな底辺からコンマ何cmか浮上した気分になれた、その時。
「センパイ、何してんの?」
胸を刺すあの声がオレの心臓を止める。
「なんで・・・」
目の前に歩いて来たのはサッカー部の後輩アキタセイジ。
オレを犯したもう一人のオトコ。
いや、輪わしたオトコか?
「今日、ワタヌキが来ないからオレもサボり、センパイは?」
アキタはオレと話しているのに、視線はオンナに向けたままイヤな笑みを浮かべて、オレに答えさせる暇も与えずに続けた。
「まさか、こんなブス相手にハメる気じゃねーよな?つーか高校生じゃねーだろ、オマエ」
「ヒド!!もういいよ、バイバイ!」
スルリと腕が抜けて、ソイツはまた駅の中へ入って行く。
「センパイ。行こ」
くるりと向けられた背中。
付いていく事に迷いはなかった。
少しだけ、体温が上がる。
それは、たった一人で、オレの前にいるアキタのせいだ。
着いて、入ったのはフロントにカーテンの掛かったラブホ。
小さな窓から鍵が滑り出てくる。
鍵を取ったアキタがオレの手を握ってくる。
たぶん、オレが逃げないように手を繋いでいるんだろう。
そんな事しなくたってオレは逃げたりしないのに。
「アキタ」
呼ぶと、アキタは答えずに笑みを浮かべる。
これから。
セックスをする。
たぶん。いや、絶対。
ここはそのための場所だ。
そう思うと急に緊張してくる。
オレ達は二人でシた事がない。
エレベーターに乗り、5階で降りる。
足音を吸収しそうな絨毯が引かれた廊下の先。
濃紺のドアを開く。
壁と天井一杯に流星系の絵が描かれている。
大きなベッドには真っ黒なシーツがかけられていた。
アキタは、上着をソファに放ると、ベッドに浅く座って後ろに手をつく格好でオレを見上げた。
本当に二人きりで?
オレはアキタがいつアイツに連絡を取るのかと、ハラハラしていた。
いや、実は既に、アイツを呼び出した後かも知れない。
きっと後からアイツが来るんだ。
もしかすると、また何か妖しいモノを持ってくるのかも知れない。
「アンタ、ドーテーだろ」
グサリとくる事を前フリも無くアキタは口にする。
ズボシとかそんな問題じゃない。呆れてモノも言えない。
「でなきゃ、あんなタカリ女、シカトするハズだもんな普通。 見る目、なさすぎ。センパイ」
タカリ?
「金なんてねーよ。見る目ねーのは向こうだろ」
じゃ、オレ、もしかして、奴の仲間のとこにでも引っ張られて、ボコにされるとこだったって事?
サイアクの底辺の世界はソコが深い。落ちても落ちてもまだ下が ある。
今オレは地下何階層にいるんだろう。
「センパイ、女なんて知らなくたって平気だよ。セックスならオレ達とすればイイ。女なんかフツウだよ。オレはセンパイとの方が何回もイケるしね」
”オレ達”
やっぱり、呼ぶんだ。いや、呼んであるんだ。
オレのいる階層は底も広いが横にも広そうだった。
這い上がるための壁も見つからない。
オレは制服のボタンを外した。シャツもタイも放り投げる。
ベルトもズボンも勢いで外し、下着も叩きつけるように脱ぐ。
アイツが来る前に、ヤればイイんだ。
アイツが来る前に、一回くらいはイケるかも知れない。
一回くらい。
ちゃんとオレで、オレの顔見て、オレだって認識してイケばいいんだ。
アキタは薄ら笑いを浮かべてオレを見上げてる。
オレはアキタの膝に跨って、アキタのタイを抜いた。
その時、アキタの手がサッと動いた。
耳元に、単調な電子音と発光。
表示はカネダ。
力が抜ける。
燃え上がった瞬間に消火された気分。
オレはアキタの上から退いて、ベッドへうつ伏せに倒れた。
「あ、オレ。うん。ああ、一人。じゃ、昼に戻るワ、ああ」
一人?
誰が?
「カネダは来ない」
思わず振り向くと、その顔に手が添えられて唇が付けられた。
キス。
キスだ。
オレは、アキタがカネダとキスをしてるのをサンザン見てきた。
アキタはオレに突っ込みながら、カネダにキスされてイク。
いつだって、アキタはオレを見ちゃいない。
オレはカネダの替わりにケツを掘られてるだけ。
アキタにとってオレはケツしか用がない。
ハズだ。
でも、今、アキタは、オレにキスしてる。
目を閉じてても涙が出そうだった。
慌てて体を捩って、俯いた。
「は、早くヤれよっ」
「何、センパイ・・・耳真っ赤」
その耳にアキタの舌が入れられる。
ゾクっと体の中を震えが上から下まで走る。
アキタの指がオレの背中を辿り、落ち、肉の狭間で食い込ませるように動いた。
ツプ、と肉は受け入れる。
もう指のように細いモノじゃ、ケツの締め付けで動きを止める事も出来ない。
同様に、中にモノが入ればオレは我慢が出来なくなる。
もっと欲しくなって、足が勝手に開いていく。
カネダが誉める調教済みのカラダ。
「アッ、・・アキ、タ」
アキタの唇が肩をねっとりと舐めつける。
こんなにまともにアキタに愛撫されるのは、初めてだった。
ジェルも何も使ってない。
だけど、濡れた音が聞こえる。
ダメな程感じてる。
心臓に血が廻らない程オレは勃起してた。
グッチャグッチャに中を掻きまわされて、チンポの先が口を開ける。
だめだ・・。イキそう!
「早く、アキタ! 早く挿れて!」
涙声になりそうで叫んだ。
アキタの指が引き抜かれる。
「センパイ、やばいって、・・何かいつもと違いすぎ・・。かわいく見えるよ?」
「ア!!アーーーーー!!」
アキタがオレの腰を強く掴むと、一気に押し込む。
一度もつっかえずに、奥まで届く。
チンポが堪えきれない涎を垂らして、真っ黒なシーツに染みを作った。
「アキ、タ。」
アキタは奥まで挿れるとすぐに、ピストンを開始する。
アキタのピストンは殆ど引き抜かないピストン。
腰をピッタリくっつけたままで、まるでアキタのチンポがどんどんくっついているのに、もっと奥を犯されていく。
「アッ・・アッアッンッンんんッ」
激しく突き上げられて、もう噴出す寸前だった。
「センパイ」
右肩を持ち上げられ、くるっと回転させられる。
「ンーーーー!!!」
「あアッ・・っつぅ。やべ、今のスゲー」
繋がったままひっくり返されて、目の前にアキタが見えた。
目尻が熱い。
雫が線を引いて流れた。
「何・・・泣いてんの・・」
アキタは訊いてるクセに、答えは知ってるって顔で笑う。
もう一度、唇が合う。
上も下もぐちゃぐちゃに繋がってる。
舌が絡み合わされてオレは射精した。熱い体液が二人の間に飛び散る。
キスがあるセックス。
このキスは、一生忘れられない。
人間にこんなに優しい接触方法があるって初めて知った。
アキタ。
アキタ。
アキタ。
「イク。イキそう・・・・ケイ、タ」
名前を呼ばれて、手を伸ばした。
その手を握り返されて、シーツに押さえつけられる。
アキタの腰が激しく突き上げてきた。
ビタビタと打ち付けられる音が響いてから、アキタが震えた。
熱い刺激を腹の中で感じて、はじめて。
ナマで出された事に、気づいた。
そのセックスは、愛し合ってするセックスに似てた。
昼前にホテルを出た。
アキタは誰の目も気にしないで、オレと手を繋いで歩いた。
オレももうどうでも良かった。
ヒトの事なんてどうでもいい。
今、アキタがオレを必要としてくれるなら、何でもしたかった。
「もう、やめよっか」
息が止まる。
いつだって、アキタの喋り口は唐突すぎる。
「釈放。もう、悪い子しちゃダメ。次はもっと怖いよ?」
シャクホウ。
どんな字だ?
アタマがまわらない。
でも、もうこれで、最後だって事だけはわかった。
「・・・ひでぇよ・・。こんなにしといてオレ放っぽり出すんだ・・」
また一つ階層を降りなければならない。
オレの足元は穴だらけだったんだ。
前を向いたまま、アキタが笑った。
「・・オレなんて球蹴りしてなきゃ碌でもないヤツだよ、センパイ」
球蹴り・・。
ハッと笑いが出た。
”だから、オレなんてやめとけ”って?
不審にアキタが覗き込んでくる。
「オレと、同じ事言ってる、オマエ」
見つめ返すと、アキタの眉が上がった。
溜息と一緒にオレは吐き出した。
「またか・・」
「何?」
「また、オレに残されたのはサッカーだけになったって事だよ」
オレはアキタの手を放して、立ち止まった。
「センパイ」
「行けよ。行っちまえ、アホ」
アキタは一瞬痛いような目をしたが、クルリと前を向いて歩き出した。
その背中が滲んでいく。
なんだったんだよ?さっきのセックスは!
なんであんなやさしくしたんだよ!
あれで、チャラにするつもりだったのかよ?
サイテーだよ、オマエ。
期待させやがって、誰が大人しくなんかしてやるかっ
また、イジメてやる。
オマエのモノ、全部盗んでやる。オマエのロッカーにペンキ塗ってやる!
シャツの袖で顔を拭った。再び、目を向けると、アキタが振り返って見ている。
そして、どんどん戻ってくる。
「泣くなよ・・・、センパイ」
アキタの手がまたオレの手を掴んで、引き寄せた。
「オレさ、・・シチュエーションに弱いんだよ・・。そんな風にされたら、置いてけねーよ」
「なら、始めから置いてくな!置いてくなよ!!」
オレは力一杯アキタの体にしがみついた。
「うん。置いてかない。・・でも、・・もうカネダには付いてっちゃダメ。
アイツは自分しか愛してない。オレも自分がそうだと思ってた。でも、さっきから」
アキタはオレの背中を摩りながら呟いた。
「アンタが・・・かわいく見えて、オカシイんだ・・オレ」
真昼間の裏道で抱き合ってオレ達は勃起した。
さっき、ヤれるだけヤった後だったけど。
そうして、オレの愛の無いセックスは終わった。
アキタの言う通り、カネダはオレを手放す事に拘りはなかった。
「ふーん。残念。センパイって、なんだかんだオレの事好きなんだと思ってたのに。だって、アレが疼くとオレんとこ来たじゃん。ああいう時のアンタすげーかわいかった」
「誰が!」
一歩出ようとした肩をアキタが止める。
「センパイ」
アキタの目が諌める。
ここで食いつくとカネダの思うツボ。
オレは舌打ちして、顔を背けた。
マジのSめ。一生ヘンタイやってろ!
「カネダ、オレも悪いコ卒業するから。拾った子猫は責任持つから安心しろ。じゃな」
背中を押されて、オレは歩き出した。
「チッ結局おとせなかったって訳かよ」
腕組したカネダの顔から笑みが消えたが、アキタはカラカラと笑って答えた。
「言ったろ、オレは突っ込み専門だって」
「テメーこそ、泥棒ネコっつーんだよ」
「ニャ~オ」
「アキタ!」
「バイ」
カネダはオレなんかより、よっぽどアキタが惜しかったみたいだった。
アキタが欲しかったカネダ。
快感が欲しかったアキタ。
意地張って、アキタに縋らなかったオレ。
(そのせいでカネダにサンザン掘られたオレ)
レイプ(セックス)してるうちにオレを好きになったアキタ。
レイプした相手を好きになったオレ。
誰が一番イカレてる?
「あ、オレ、ワタヌキがオレに球ぶつけてきた訳、わかった」
「へー、マジ?」
「マジ」
上履きのまま、校舎の裏手に出る。日の当たるサボりスポット。
「あちー」
「オマエだったら、蹴る?」
「蹴んないね。シカトしとく。つーかあんな意地悪したアンタが悪い」
「もう、しねーよ。なんか最近あんま、イライラしなくなったし」
「ふーん?弟の事とか?」
オレ達はいろんな話をした。家の事、サッカーの事、カネダの事・・。
「どうでも良くなった。あ、モリヤ・・」
「・・・・」
「・・・・」
校舎の窓にワタヌキに手を引かれて、笑うモリヤ。
「アイツ、・・サッカー上手いよな」
「センパイも上手いよ」
「それしか取りえ、ねーもん」
「あるよ。ちゃんとある。オレが知ってる。アンタは捨てていいもの持ちすぎてる。すっぱり捨てちまえ」
「フフッ・・アキタ、カッキーな」
オマエが居ればいいよ。
何階層に落ちたっていい。
這い上がれなくたって、ココロはここにあるから。
「サッカーしてぇなー」
「たぶん、レギュラー落ちだよ、センパイ。さぼってばっかだから」
「げ」
横で楽しそうにアキタが笑った。
すっかり朝練も始まっている時間。
ノロノロと重い腰を起こす。
オレの毎日は、一つ下のオトコ二人にヤラれまくる毎日。
イヤ、毎日シたがるのはアイツ、カネダだけだった。
オレのケツをサイコウだと言って掘る。
場所はどこにだってある。校庭でだってヤる。
ほんの少し体が隠せれば何処でだってヤられる。
本気の頭のイカレタ奴。
いつか、吊るしてやる。
階下からはいつもの朝の一場面が繰り広げられている。
「ケイ、まだ居たの?」
ダイニングテーブルには、仲の良さそうな三人親子
が朝食を囲んでいる。
オレの存在がそんなに驚くような事なのか、母親は唖然とした顔でオレを見つめた。
一つ下の弟は、オレを見るとうんざりした顔で牛乳に手を伸ばす。
「寝ボウ」
「ダメじゃない!朝練ちゃんと行かないと!何のために、あんな私立に行かせてると思うの?」
あんな私立。
はいはい。
どうせ、オレは球蹴りしか能が無いガキだよ。
「コウちゃんみたいに、推薦もいらないでいい大学に入れそうな頭がアンタにもあれば、こんな事、言わないわよ?でも、アンタはそうじゃないでしょ?
頑張ってサッカーの推薦とって大学行かないと、皆から取り残されちゃうのよ?ウチにはフリーターとか、プーなんて人いらないんだから。しっかりやって頂戴」
最後は顔も見たくないって感じに、フイとテレビへ視線を変えた。
父さんは何も聞こえないみたいにさっさと飯を食って、席を立つ。
うんざり。
コウキ、オマエもそう思ってるだろうけどな、オレの方がその何倍もこの家にうんざりしてるんだよ。
一歩家の外へ出ると開放された空気が余計に自分を惨めにさせた。
何処にもココロの置き場が無い。
オレにあるのは何処にでも行けばいい、自由。
”あんな私立”に通わせてもらってる自由。
あの家に、オレは「いらないヒト」。
盛大に溜息が零れる。
朝練に出れないなら、もう学校に行く気も失せてくる。
あー、面白くねー。
放課後までブラブラするか。
ゲーセン行って、本屋行って、スポーツショップ行って。
ガッコの最寄駅の改札を出た時だった。
「ねぇ」
オンナの声。
オレに掛けられた声とは思わず、通り過ぎると、声はしつこく追いかけて来た。
「ねぇ、ねぇ」
面倒くせぇからシカトして歩き続けると、
「ねぇってば!」
最後には制服の肘を引かれた。
ガクッと肩からエナメルバッグが落ちて、オレはソイツを睨みつけた。
「そんな睨まないでよ。ねぇ、ヒマなんでしょ?アタシもヒマなんだ。遊ばない?」
どう見ても、カツラ(金髪の)。
コスプレみたいな裾の短い制服。中に着ているポロシャツからは臍が見えてる。
「暇じゃねーから」
今の気分で知らないヤツとつるむ気になんてなれなかった。
しかもオンナ。
冗談じゃねーよ。
なんでオレが相手してやんなきゃなんねーんだよ。
オマエらワガママすぎて付き合ってらんねーんだよ。
並んで歩こうとするオンナを引き離すように歩幅を広げる。
「なんか、わかるんだもん。アタシも、皆死ねって気持ちだから」
思わず、振り返ってしまう。
ソイツはオレの顔を見て、嬉しそうに笑った。
「ちょっとでいいから一緒にいてよ」
スルっと腕を組んでくる。
柔らかな体が密着してきて、思わず体が強張った。
こんな、バカそうなオンナでもいい匂いがする。
傷舐めあうみたいで趣味じゃねーけど、こんなのもアリか。
「オマエ、本当に高校生?」
「マジ失礼だよ、ソレ」
カラリとした笑いが口から零れた。
サイアクな底辺からコンマ何cmか浮上した気分になれた、その時。
「センパイ、何してんの?」
胸を刺すあの声がオレの心臓を止める。
「なんで・・・」
目の前に歩いて来たのはサッカー部の後輩アキタセイジ。
オレを犯したもう一人のオトコ。
いや、輪わしたオトコか?
「今日、ワタヌキが来ないからオレもサボり、センパイは?」
アキタはオレと話しているのに、視線はオンナに向けたままイヤな笑みを浮かべて、オレに答えさせる暇も与えずに続けた。
「まさか、こんなブス相手にハメる気じゃねーよな?つーか高校生じゃねーだろ、オマエ」
「ヒド!!もういいよ、バイバイ!」
スルリと腕が抜けて、ソイツはまた駅の中へ入って行く。
「センパイ。行こ」
くるりと向けられた背中。
付いていく事に迷いはなかった。
少しだけ、体温が上がる。
それは、たった一人で、オレの前にいるアキタのせいだ。
着いて、入ったのはフロントにカーテンの掛かったラブホ。
小さな窓から鍵が滑り出てくる。
鍵を取ったアキタがオレの手を握ってくる。
たぶん、オレが逃げないように手を繋いでいるんだろう。
そんな事しなくたってオレは逃げたりしないのに。
「アキタ」
呼ぶと、アキタは答えずに笑みを浮かべる。
これから。
セックスをする。
たぶん。いや、絶対。
ここはそのための場所だ。
そう思うと急に緊張してくる。
オレ達は二人でシた事がない。
エレベーターに乗り、5階で降りる。
足音を吸収しそうな絨毯が引かれた廊下の先。
濃紺のドアを開く。
壁と天井一杯に流星系の絵が描かれている。
大きなベッドには真っ黒なシーツがかけられていた。
アキタは、上着をソファに放ると、ベッドに浅く座って後ろに手をつく格好でオレを見上げた。
本当に二人きりで?
オレはアキタがいつアイツに連絡を取るのかと、ハラハラしていた。
いや、実は既に、アイツを呼び出した後かも知れない。
きっと後からアイツが来るんだ。
もしかすると、また何か妖しいモノを持ってくるのかも知れない。
「アンタ、ドーテーだろ」
グサリとくる事を前フリも無くアキタは口にする。
ズボシとかそんな問題じゃない。呆れてモノも言えない。
「でなきゃ、あんなタカリ女、シカトするハズだもんな普通。 見る目、なさすぎ。センパイ」
タカリ?
「金なんてねーよ。見る目ねーのは向こうだろ」
じゃ、オレ、もしかして、奴の仲間のとこにでも引っ張られて、ボコにされるとこだったって事?
サイアクの底辺の世界はソコが深い。落ちても落ちてもまだ下が ある。
今オレは地下何階層にいるんだろう。
「センパイ、女なんて知らなくたって平気だよ。セックスならオレ達とすればイイ。女なんかフツウだよ。オレはセンパイとの方が何回もイケるしね」
”オレ達”
やっぱり、呼ぶんだ。いや、呼んであるんだ。
オレのいる階層は底も広いが横にも広そうだった。
這い上がるための壁も見つからない。
オレは制服のボタンを外した。シャツもタイも放り投げる。
ベルトもズボンも勢いで外し、下着も叩きつけるように脱ぐ。
アイツが来る前に、ヤればイイんだ。
アイツが来る前に、一回くらいはイケるかも知れない。
一回くらい。
ちゃんとオレで、オレの顔見て、オレだって認識してイケばいいんだ。
アキタは薄ら笑いを浮かべてオレを見上げてる。
オレはアキタの膝に跨って、アキタのタイを抜いた。
その時、アキタの手がサッと動いた。
耳元に、単調な電子音と発光。
表示はカネダ。
力が抜ける。
燃え上がった瞬間に消火された気分。
オレはアキタの上から退いて、ベッドへうつ伏せに倒れた。
「あ、オレ。うん。ああ、一人。じゃ、昼に戻るワ、ああ」
一人?
誰が?
「カネダは来ない」
思わず振り向くと、その顔に手が添えられて唇が付けられた。
キス。
キスだ。
オレは、アキタがカネダとキスをしてるのをサンザン見てきた。
アキタはオレに突っ込みながら、カネダにキスされてイク。
いつだって、アキタはオレを見ちゃいない。
オレはカネダの替わりにケツを掘られてるだけ。
アキタにとってオレはケツしか用がない。
ハズだ。
でも、今、アキタは、オレにキスしてる。
目を閉じてても涙が出そうだった。
慌てて体を捩って、俯いた。
「は、早くヤれよっ」
「何、センパイ・・・耳真っ赤」
その耳にアキタの舌が入れられる。
ゾクっと体の中を震えが上から下まで走る。
アキタの指がオレの背中を辿り、落ち、肉の狭間で食い込ませるように動いた。
ツプ、と肉は受け入れる。
もう指のように細いモノじゃ、ケツの締め付けで動きを止める事も出来ない。
同様に、中にモノが入ればオレは我慢が出来なくなる。
もっと欲しくなって、足が勝手に開いていく。
カネダが誉める調教済みのカラダ。
「アッ、・・アキ、タ」
アキタの唇が肩をねっとりと舐めつける。
こんなにまともにアキタに愛撫されるのは、初めてだった。
ジェルも何も使ってない。
だけど、濡れた音が聞こえる。
ダメな程感じてる。
心臓に血が廻らない程オレは勃起してた。
グッチャグッチャに中を掻きまわされて、チンポの先が口を開ける。
だめだ・・。イキそう!
「早く、アキタ! 早く挿れて!」
涙声になりそうで叫んだ。
アキタの指が引き抜かれる。
「センパイ、やばいって、・・何かいつもと違いすぎ・・。かわいく見えるよ?」
「ア!!アーーーーー!!」
アキタがオレの腰を強く掴むと、一気に押し込む。
一度もつっかえずに、奥まで届く。
チンポが堪えきれない涎を垂らして、真っ黒なシーツに染みを作った。
「アキ、タ。」
アキタは奥まで挿れるとすぐに、ピストンを開始する。
アキタのピストンは殆ど引き抜かないピストン。
腰をピッタリくっつけたままで、まるでアキタのチンポがどんどんくっついているのに、もっと奥を犯されていく。
「アッ・・アッアッンッンんんッ」
激しく突き上げられて、もう噴出す寸前だった。
「センパイ」
右肩を持ち上げられ、くるっと回転させられる。
「ンーーーー!!!」
「あアッ・・っつぅ。やべ、今のスゲー」
繋がったままひっくり返されて、目の前にアキタが見えた。
目尻が熱い。
雫が線を引いて流れた。
「何・・・泣いてんの・・」
アキタは訊いてるクセに、答えは知ってるって顔で笑う。
もう一度、唇が合う。
上も下もぐちゃぐちゃに繋がってる。
舌が絡み合わされてオレは射精した。熱い体液が二人の間に飛び散る。
キスがあるセックス。
このキスは、一生忘れられない。
人間にこんなに優しい接触方法があるって初めて知った。
アキタ。
アキタ。
アキタ。
「イク。イキそう・・・・ケイ、タ」
名前を呼ばれて、手を伸ばした。
その手を握り返されて、シーツに押さえつけられる。
アキタの腰が激しく突き上げてきた。
ビタビタと打ち付けられる音が響いてから、アキタが震えた。
熱い刺激を腹の中で感じて、はじめて。
ナマで出された事に、気づいた。
そのセックスは、愛し合ってするセックスに似てた。
昼前にホテルを出た。
アキタは誰の目も気にしないで、オレと手を繋いで歩いた。
オレももうどうでも良かった。
ヒトの事なんてどうでもいい。
今、アキタがオレを必要としてくれるなら、何でもしたかった。
「もう、やめよっか」
息が止まる。
いつだって、アキタの喋り口は唐突すぎる。
「釈放。もう、悪い子しちゃダメ。次はもっと怖いよ?」
シャクホウ。
どんな字だ?
アタマがまわらない。
でも、もうこれで、最後だって事だけはわかった。
「・・・ひでぇよ・・。こんなにしといてオレ放っぽり出すんだ・・」
また一つ階層を降りなければならない。
オレの足元は穴だらけだったんだ。
前を向いたまま、アキタが笑った。
「・・オレなんて球蹴りしてなきゃ碌でもないヤツだよ、センパイ」
球蹴り・・。
ハッと笑いが出た。
”だから、オレなんてやめとけ”って?
不審にアキタが覗き込んでくる。
「オレと、同じ事言ってる、オマエ」
見つめ返すと、アキタの眉が上がった。
溜息と一緒にオレは吐き出した。
「またか・・」
「何?」
「また、オレに残されたのはサッカーだけになったって事だよ」
オレはアキタの手を放して、立ち止まった。
「センパイ」
「行けよ。行っちまえ、アホ」
アキタは一瞬痛いような目をしたが、クルリと前を向いて歩き出した。
その背中が滲んでいく。
なんだったんだよ?さっきのセックスは!
なんであんなやさしくしたんだよ!
あれで、チャラにするつもりだったのかよ?
サイテーだよ、オマエ。
期待させやがって、誰が大人しくなんかしてやるかっ
また、イジメてやる。
オマエのモノ、全部盗んでやる。オマエのロッカーにペンキ塗ってやる!
シャツの袖で顔を拭った。再び、目を向けると、アキタが振り返って見ている。
そして、どんどん戻ってくる。
「泣くなよ・・・、センパイ」
アキタの手がまたオレの手を掴んで、引き寄せた。
「オレさ、・・シチュエーションに弱いんだよ・・。そんな風にされたら、置いてけねーよ」
「なら、始めから置いてくな!置いてくなよ!!」
オレは力一杯アキタの体にしがみついた。
「うん。置いてかない。・・でも、・・もうカネダには付いてっちゃダメ。
アイツは自分しか愛してない。オレも自分がそうだと思ってた。でも、さっきから」
アキタはオレの背中を摩りながら呟いた。
「アンタが・・・かわいく見えて、オカシイんだ・・オレ」
真昼間の裏道で抱き合ってオレ達は勃起した。
さっき、ヤれるだけヤった後だったけど。
そうして、オレの愛の無いセックスは終わった。
アキタの言う通り、カネダはオレを手放す事に拘りはなかった。
「ふーん。残念。センパイって、なんだかんだオレの事好きなんだと思ってたのに。だって、アレが疼くとオレんとこ来たじゃん。ああいう時のアンタすげーかわいかった」
「誰が!」
一歩出ようとした肩をアキタが止める。
「センパイ」
アキタの目が諌める。
ここで食いつくとカネダの思うツボ。
オレは舌打ちして、顔を背けた。
マジのSめ。一生ヘンタイやってろ!
「カネダ、オレも悪いコ卒業するから。拾った子猫は責任持つから安心しろ。じゃな」
背中を押されて、オレは歩き出した。
「チッ結局おとせなかったって訳かよ」
腕組したカネダの顔から笑みが消えたが、アキタはカラカラと笑って答えた。
「言ったろ、オレは突っ込み専門だって」
「テメーこそ、泥棒ネコっつーんだよ」
「ニャ~オ」
「アキタ!」
「バイ」
カネダはオレなんかより、よっぽどアキタが惜しかったみたいだった。
アキタが欲しかったカネダ。
快感が欲しかったアキタ。
意地張って、アキタに縋らなかったオレ。
(そのせいでカネダにサンザン掘られたオレ)
レイプ(セックス)してるうちにオレを好きになったアキタ。
レイプした相手を好きになったオレ。
誰が一番イカレてる?
「あ、オレ、ワタヌキがオレに球ぶつけてきた訳、わかった」
「へー、マジ?」
「マジ」
上履きのまま、校舎の裏手に出る。日の当たるサボりスポット。
「あちー」
「オマエだったら、蹴る?」
「蹴んないね。シカトしとく。つーかあんな意地悪したアンタが悪い」
「もう、しねーよ。なんか最近あんま、イライラしなくなったし」
「ふーん?弟の事とか?」
オレ達はいろんな話をした。家の事、サッカーの事、カネダの事・・。
「どうでも良くなった。あ、モリヤ・・」
「・・・・」
「・・・・」
校舎の窓にワタヌキに手を引かれて、笑うモリヤ。
「アイツ、・・サッカー上手いよな」
「センパイも上手いよ」
「それしか取りえ、ねーもん」
「あるよ。ちゃんとある。オレが知ってる。アンタは捨てていいもの持ちすぎてる。すっぱり捨てちまえ」
「フフッ・・アキタ、カッキーな」
オマエが居ればいいよ。
何階層に落ちたっていい。
這い上がれなくたって、ココロはここにあるから。
「サッカーしてぇなー」
「たぶん、レギュラー落ちだよ、センパイ。さぼってばっかだから」
「げ」
横で楽しそうにアキタが笑った。
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