センパイ番外編 

ジャム

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アキタ x イズミサワ

4、アキタセイジの事情

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4、アキタセイジの事情

「セージじゃん」

思わず、振り向かなきゃ良かったと後悔した。
紺のブレザーの一群が一段高い通路から汗ダクのオレを呆気に取られて見下ろしていた。

「ウッソ、マジ?」
「セージ?」
「あ、待てって」

踵を返そうとして、一人がフェンスを越えて飛び降りた。
「テメ、関係者立ち入り禁止だぞ」
ソイツはオレの肩を掴んで振り向かせてきた。
「マジ、セージじゃん!」
ケタケタとソイツは体を折って笑った。



関東大会予選決勝。

運というのは不思議なモノで、聞いた事も無い無名も無名の学校が上り詰めて来た。
それは、初戦での常連校の潰しあいが利いていた。
早くに有力校が敗退。
だが、それでも、ラッキーだけでは這い上がれないのがスポーツの世界だ。
何処かの学校の出場辞退による繰上げ校。
スタンドにいる奴らの雰囲気でどんな学校かは簡単に予想がついた。
ゴンゾーさん(監督)は、荒れるとみて、一点入ったところで、レギュラーを半分早々に引っ込めた。
何のデータも無いために、オレ達二年を使って様子を伺う。
その判断は正しかった。
ヤツらのサッカーはスポーツじゃなかった。
どんな練習すりゃそんなラフプレーが上手くなるのか教えて欲しくなった。
オマエら、球よりニンゲン蹴る練習してんじゃねーのか?と疑いたくなる。


そのハーフタイム中。


トイレ帰りに一般通路から呼び止められた。
オレは心底、こいツらがイヤになった。

「セージってスポーツマンだったんじゃん。カッキーーー!」
ギャハハハ。
「テメ、殺すぞ」
「あ、ウソ。ウソ。わりぃわりぃ」
ソイツは謝りながら、口の端を震わせている。
今にも噴出しそうな顔。弧になった目がさらにムカつかせる。
「誰にも言わねぇし。ゴメン。スゲー意外だったから、ビックリしてサ。今日、店行く?」
ソイツはまだ肩を揺らして、笑いを堪えながらオレの肩へ腕を廻した。
「シガ・・・てめ、いい加減・・」
オレはシガの首をホールドして押さえつけてやる。
「あ~~っゴメンって、オレが悪かった!悪かったから!許して!あ、いい事教えてやるよ」
「イイ事?バカな事言いやがったら、オトすぞ」
「マジマジ、サッカー部の奴らに、ゲンの知り合いだって、言ってやって。アレ、やめると思うから」
「誰だよ。ゲンって」
「は~い。オレ、ゲン~、よろしく、セージ」
その上からノーテンキな声が上がる。
シガの首を放してしてやって、ゲンを下から見上げた。
ゲンはフェンスに頬杖ついて片手を振ってニコニコとオレの視線を受ける。
「・・・何だそりゃ。オマエ影の裏番かよ」
「ウワ~、なりて~!影のウラバン!」
「ゲン、やめろ。オレがシメられんだろ~。ゲンはうちのガッコの理事長の孫だよ。だから効果ゼツダイだぜ?」
「・・・で、奴らの足癖が良くなるのかよ?」
オレは胡散臭そうにシガを見た。
「そ。影のウラバンだから」
嬉しそうに笑ってゲンが言った。
「マジで、ヤツらショーモネーから。潰されるぜ?」
「ゲンの名前出せば、一発だから」
シガはタバコを一本咥えて火を付けた。
「吸うなボケ!・・・コネとかスゲー、気が進まねぇ。」
「ま、ま、ケンカ屋相手に意地張るイミないっしょ。
ホラ、そろそろ行った方がいいんじゃん?また、店で、会おうぜ~」
シガは、オレに手を振ると咥えタバコで壁を蹴ってフェンスを登り、ゲンに引き上げられていく。
身軽なヤツ。
「バイバ~イ」
「セージ、ガンバレ~!応援するからな~!!」

あのアホ共め・・・!

オレは舌打ちしてから、控え室へ戻った。
控え室では既にエジキになった3人が、流血。
他のメンバーもチョコチョコやられている。
掠り傷も負っていないのは、ワタヌキくらいだろう。
ゴンゾーさん(監督)は、チラとオレを見てから、頭を掻いて、モリヤ、と呼んだ。
「ハイ!」
オイオイ、マサカだろ。
こんな試合で、デビューさせようってのかよ、オッサン。
代替品にさせるようなヤツじゃねーってのに。
思わず、舌打ちしたくなった。

「戸川と替われ」
シャガレタ声で交代が告げられる。
モリヤがパッと返事をして、足首を冷やしていた3年の戸川が一瞬顔を歪めてから、モリヤを見て、任せるって感じに手を上げた。

こりゃ、変な意地なんて張ってらんねーぞ。

もし、モリヤがケガでもさせられてみろ。
アイツ(ワタヌキ)がキレねーわけがねぇ。
それこそ、没収試合の大乱闘になりかねない。

オレはコネってのがダイキライなんだよ!チキショ!
なのに、どうしても使わなけりゃならないシーンが巡ってきやがる!

「ヨシ!行こか!」
腕時計を見てからゴンゾーさん(監督)が手を打った。
ワタヌキがモリヤを待って、歩き出す。
並んだモリヤの背中をワタヌキが叩いた。
その二人を待って、オレも並ぶ。
「オイ、笛鳴ったら、すぐオレに廻せ」
「・・・OK。ケガすんなよ」
思わず、顔がニヤけた。
まさかオレの心配までしてくれるなんてな。
「ペナルティーエリアでファウル貰ってやるよ」
そのセリフにモリヤが瞬きした。
「あ、その顔。オレに惚れたろ、今」
モリヤを指差すと、それをワタヌキに掴まれて逆に曲
げられる。

イテッ!!

穴だらけの芝生に三人並んで入る。
「りらっくす」
「ハイ」
ワタヌキのセリフにはウケたが、モリヤの返事には、
笑えなかった。

ハイ。って。ハイって返事してるよ・・ワタヌキに。
ガッチガチだよ、コイツ。

オレも何か考えたが、とても今すぐ解れるようなセリ
フは思いつかなかった。

ま、始まってみなけりゃわからねーし。
とにかく、ヤってみますかネ。
流血だけはカンベンだぜ。

軽くその場でステップを踏み、体を揺らす。
空は薄曇り。
運動するには、こんなもんがもってこいの天気。

どこのオッサンだか知らねーけど、主審のオヤジが手を上げた。
空高く逃げていく笛のオト。
スタート!
左サイドから突っ込んで、ワタヌキが右に一度向いてから、パス。
宙を飛んで、膝でトラップ。
球目掛けて、イヤ、オレの足目掛けて、一人がスライディング。
それをギリで避けてから転ぶ。
ピピーーーーー!(笛)
ファウル一丁。
起き上がろうと膝をついた時に、二人がオレを囲んで睨みつけてくる。
「テメ、潰してやっからな」
コッワー。呆れるぜ、マジで。
「ゲン」
奴らの顔がエ?と変わる。
「ゲンっているよな。茶髪の目クリクリしたヤツ」
「ゲ、ゲン?」

どもってる。オマエら動揺しまくり。
アイツってそんな怖いヤツなのかネ。

「ウゼーってよ、オマエら」
言ってオレは背を向けた。
これで40分間は安全を確保できたろう。

「セージ!」
数人のオトコの声でオレの名前がコールされた。
見ると、シガ達。もちろん、ゲンもいる。
ダメ押しに、オレは手を軽く上げた。
雄たけびを上げるシガ。
オマエら騒げりゃなんでもイイんだよな。
全く、世の中暇人が多い。
イヤ、何も見つけられないヤツが多いんだ。
持ってても気づかなかったり、やる気が始めからなかったり、やりたくてもやる事がわからなかったり、毎日オレ達は奔走している。
どうしたらいいのか、どうしたいのか。
それを決めるにはオレ達には力がなさ過ぎたり、決められる環境になんか置かれていなかったりするんだ。
所詮、ヒヨッコの扱いなんだよ。
ま、否定はできねーけど。

その後、ロスタイム込み45分は真面目なサッカーの試合を満喫できた。
広いグラウンド。2千人近い応援。
もしプロにでもならなかったら、こんな環境でサッカーをする事は、この先、ないだろう。

45分を乗り切り、勝ちを得る喜び。
歓声を浴びて走り回る快感。
モリヤ、病み付きだろ?
皆、そうだ。
オレも、ここから離れたくない。
オレがそう思ってもそうはいかないって事も、オレはわかってるけど。

ああ、チキショ!自由になりてぇーー!!


空をジっと見上げてるオレの背中が、叩かれた。
「セージ」
「先輩・・」
イズミサワ先輩。
「オレも、セージって呼びたいなー」
「あ~、・・・聞こえた?」
「あんだけ騒いでりゃ。何ツナガリ?」
「・・・同中、・・ドーキューセー」
「ふーん」
イズミサワ先輩はそれきり聞き返して来ない。
この辺が微妙だ。
信じたのか、信じてないのか。
気にしてないだけなのか、それ以上聞き返さないようにしてるのか、よくわからない。
そんな風に見つめていると、フと振り向いて笑う。
「アキタってたまに子犬みたいな顔してる」
「オレは猫系って言われるけど」
「目は猫。でも子猫ってスゲー鳴くじゃん。子犬って鳴いても、クークー言うくらいだけど。オマエって言いたいけど、我慢してるって感じ。それが、子犬っぽい」
「・・・・へー。そうなんだ」
思わず足が止まりそうだった。
『言いたいけど、我慢してる』
衝動。
今、なんかギュッって抱きしめたい。

「今日、空いてる?」
「空いてない。月曜なら、何もない」
「なんだよ。月曜って来週じゃん。今抱きしめてもいいわけ?今日、会えないなら、今我慢しねーぞ、オレ」
先輩が笑って、オレの髪をくしゃくしゃ撫でて、一瞬引き寄せられた。
「月曜な」
頭をくっつけて囁かれて、すぐ離れる。

コイツ!
なんか、オレ、余裕であしらわれて無いか?

あ、ともう一度先輩はオレを見て提案した。
「12時とか、行ってもいいならいいよ。家。」
「夜はダメ。うち、セコム来ちゃうから」
「ナニソレ」
「・・・・」
それきり、オレ達は無言で控え室へ歩いた。


確かに、セコム来る、なんてどうしようもねぇ答えだったなぁ。
反省。
ゼンゼン、イケてなかった。
「セージ。ご飯出来たよ」
真っ赤なカウンターの向こうから、清潔感のある白いワイシャツの袖を捲くったお兄ちゃんが、パパッとフライパンから、見事な色合いの野菜を皿に盛る。
「肉より野菜が多く見えるのは気のせい?」
カウンターの向こうに手を伸ばして、フォークを一本拝借。
「肉は鳥。野菜は13品。これが一番栄養つく。今日勝ったんだろ?」
「勝ったけど、相手がサイテーだった。賭けサッカーやるような奴らだった」
茶碗にたっぷりとメシが盛られて、オレの前へ出された。
ついでに水も置かれる。
「それ、いいな。店ン中でやるってどうよ?」
彼は、楽しそうに顔を歪め、オレがメシを喰うのを頬杖着いて見ている。
「シオさん。瓶、置いてる店でヤル事じゃねーと思うけど」
「バーカ、カナアミ張るんだよ、カナアミ」
「地下駐車場でも買い取んなきゃ、ムリだろ」
「おお、いいね~、そしたら、ウチの専属になれよ、セージ」
「ジョウダン」
オレは眉を顰めた。

ラスタ。
真っ暗なこの店が後二時間後には、名の通ったクラブの看板を点灯させてガキ共の踊り場になる。
その前にここでメシを喰うのがオレの日課。
いや、バイト?
メシを喰う事がオレの仕事で、金を貰える。
だけど、シオさんや、この店の従業員には、オレがオーナーって事になってる。
そのワケは。
ドカドカとフロアへ降りてくるいくつかの足音。
シオさんがパッと顔を上げ、オレも振り返る。
「あ、アキタさん!お久しぶりです!」
「ああ、いつも悪いな。世話かけて。セージ、元気か?」
濃いグレーのスーツ。
ゆったりと後ろへ流された黒髪。
「路流(ミチル)」
目だけはソックリな7つ上のオレの長兄。
ミチルはオレの肩を叩いて隣のスツゥールに座った。
すぐに、シオさんがグラスを出す。
「セージ、今日はどことヤったって?」
「ナミキリ商ってとこ」
「ナミキリ?そんなとこが上がってきたのか?碌でもないな。本家に就職に来るような連中だぞ」
「へー・・。」
静かに返したが、内心はかなりムカついた。

本家!?
そんな連中だったのかよ!?

別にオレの実家ってわけじゃない。
ミチルにとっての『本家』だ。
そう。ミチルは、金融業を建前にしたヤクザ屋だ。
病弱な水商売の母親が、身請けられたのが、オレが10歳の時。
ついでに、ミチルも引っ張られ、宛がわれたマンションに三人兄弟で暮らす事になって、ハヤ7年。
母親の店を改装してクラヴにしたのが4年前だった。
家を空けがちのミチルがオレの食生活を危惧しての計らい。

その利子。
今じゃ、5つ上の次兄、志路(シロウ)もその筋へ吸収されている。

それ以来。
オレの家はマンションよりもこのクラヴになった。
マンションは寝室みたいなもん。
ただ、誰がいつそこへ帰っているかは不明。
そんな家。
だから、オレは先輩を一度も上げた事が無い。
いや、上げられない。
兄貴達だけなら誤魔化しもきくだろう。だけど、そのツレまでは隠せやしない。

怖がらせないとか、そんな事じゃないんだよ。
兄貴達は、どっぷり、浸かってるから気づかないのかも知れないけど、本当に見せられたもんじゃねーんだよ。
平気で人の部屋入るし、どこででもシケこむし(これが一
番困る)時々、知らないヤツがリヴィングで寝てる事も、シバシバ。
ぷらいばしーって知ってるか?
と、何度言いそうになったか。
っていうか、ウチの鍵って意味あるのか?
誰かしら他人が家にいるって異常だぞ。
養われてるオレに言う権利が、これっぽっちだって無いって事はよ~~~く、わかっているけどな。
それでも、オレにだって意地はあるんだ。
ここでメシを喰うバイトは、一ヶ月で10万。
それは、小遣い込み、昼飯代込み、サッカー用品込みのオレの手取り。この辺、金融やってるだけにシビアに計算されてる。
それでもチビチビ削り、オレは計画を立てた。
もう少し。
もう少し貯めて。
オレは自立する。
自分でアパートを借りる。
そしたら、先輩も呼べるし、コイツらから少しは離れられる。

ミチルは、その後、シオさんと金の話をして、オレに小遣いをくれて席を立った。
「今日は、早く帰って、寝ろ。座ってばかりいると足が浮腫む」
「うん。そうする」
ミチルは行くぞ、と声を掛けて、あとの2人と出て行った。

ミチルは優しい兄貴だ。
いつも、オレの面倒を見てくれてたミチル。
オレ達のために変な道に進まなきゃならなかったミチル。
あんたを裏切るつもりなんて無いんだぜ?
でも、オレ、夜の街にいるより好きな事が出来たんだ。

「今日は、マジ早く帰る。シオさん、ご馳走様」
「オウ、明日は肉多めにしてやるよ」
笑って、手を振る。
オレは9時前に店を出た。
コンビニに寄って水を買う。水だけは欠かせない。
今日は大量に汗を掻いたせいで体の水分が不足している。
人体の70%は水分だ。車のガソリンと一緒。

自動ドアが開いて一歩出た横。
その店頭で、コンビニの店員が絡まれている。
チラと見て、オレはギョッと驚いた。
「先輩!?」
一斉に視線がオレに集中する。
「アキタ・・」
「何やってんのアンタ、バイト・・(禁止だろ、うち)?」
「ゴミ、ポイ捨てしてんの注意してんだよ」
注意してるって・・。
どう見ても、アンタが詰め寄られてるようにしか見えないけど。
「放せよ」
オレが一歩踏み出すと、ガキ共がビクリと引く。
「・・・・」
ガキ共はたぶん中学生だろう。
それでも、夜の街で遊ぶ心得は得ているらしく、耳打ちが聞こえた。
「セージだ」
金髪が逃げるが勝ちで走り出す。残りも釣られて走り去った。
名前が知られてるのは難だが、無駄にケンカする必要が無いってのは利点だな。
「『セージだ』だって」
先輩は落ちてるゴミを拾って、ゴミ箱へ放る。
「なんかの先生でもやってんのか?」
頭を掻いて聞き流し、質問返しする。
「アンタ、小遣い貰ってるんじゃなかったっけ?」
「貰ってるよ」
「何か欲しいの?」
「・・・部屋借りるんだ」
オレは目を見開いて先輩を見た。
「どうせ、来年家を出るんだ。それが少し早くなったっていいと思うし。アイツらが金出さないのは、世間体があるからだけで、オレが自分で出して、勝手に出てく分にはOKかな、と」
「・・・・それで、最近予定空いてねーって言ってたのか・・」
「でも、まだ20くらいしか貯まってねーから、夏にドカっと金が入るまでは辛抱だよ」

20?
20万あるって言ったか?

オレは名案を思いつく。
「先輩」
「ん?」
「オレと同棲しよっか」
先輩は目を見開いてから、大笑いした。


先輩がバイトが終わるのを待って、オレ達は夜の公園で賃貸の情報誌を捲る。
「1ルームでいいだろ」
「バストイレ別なら」
「ほーほー、そういうランクがあるわけネ」
「ユニットバスなら、たぶん安い。でも二人で棲むんだったら、別の方がいい。家賃は半分ですむし。なんとかなるんじゃん」
「ふーん」
先輩は、きっと前から、こういうの見て探してたんだろうな。
オレにはこの四角い絵がどこがどうなってる絵なのかもわからなかった。

なんか切ない。

先輩はペラペラとその薄い紙を捲り、唇を指で撫でる。
その唇が寂しそうで、横から舐めてみた。
「アキタって、やっぱ犬みたいだよ」
にっこり笑って、今度は先輩からオレにキスしてくる。
先輩は、割りと周りを気にしない。
今だって、周りを見てからとかじゃない。
キスしたいからしただけ。

こっちが好きだって言うと、先輩はもっと好きだと言ってくる。
いつだって1.5倍返し。
もっとだよ。って笑う。
オレだけだよって手を握る。
そんなアンタを、オレが抱きしめたくなったって仕方無いハズだ。

「なぁ、シようか」

やばい、先輩がモードチェンジしてる。
「ダメ。」
ピシリと、ここは拒否しなければいけない。
今じゃ後悔しまくりだが、先輩はクソカネダの調教を受けたせいで、何処ででもシたくなったらスる。
例えば、こんな広い夜の公園でだってだ。
遠目にもヤってりゃバレるような所でもだ。
平気で脱いだり、オレのをしゃぶろうとする。
何度かオレも流されてシたが、今は、オレが逆調教(矯正)中。
なぜなら、オレが先輩のあの姿を誰かに見られたくないからだ。
明らかに、先輩はセックスで変わってしまった。
妙に熱っぽい視線をしたり、欲情を露わにする。
色気ってヤツかも知れない。
わかるヤツにはわかるんだよ、そういうの。
また、カネダみたいなのに引っ付かれたら冗談じゃない。
だから。
「ゼンゼン、シてないじゃん」
「なら、どっか入ろ」
「ヤダ。勿体無い」
・・・!!
先輩は言いながらオレの耳を噛んだ。
「先輩、オレは公衆トイレでなんかヤル趣味ねーぞ」
「いいよ。ここで」
「先輩!!」
オレだって、ギリなんだぜ?
シてって言ってるのを、シないわけねーだろ、オレが!
ここじゃなかったら、喰い付いてるよ。
「いいよ。見られたって」
「良くねーーーよ!!オレが良くない!行こ、どっか」
とにかく手を引いてオレは歩いた。
街ン中を歩きながら考えて考えて、結局ホテルに向かう事に決めた時。
「アキタ。もう歩けない。シて、もう何処でもいいから」
涙目で先輩が言った。
「出ちゃうよ」
先輩はたぶん公園から勃起してたんだと思う。
オレは結局、そこから近くだったラスタへ引き返して、挨拶もそこそこにトイレの個室へ籠った。
「アキタ・・早く、すぐ挿れて・・・。もう、出そうだよ」
先輩がジーンズから片足を抜いて、自分でアソコを指で解す。
「ヤメロって、オレがするからっ」
その手を押さえ込んで、まだキツイそこをぐりぐり指で広げる。
「アゥッ」
「先輩・・・マジで、トロトロ・・・」
入り口だけがキツくて、中はぐちゅぐちゅと粘膜が柔らかく濡れていた。
指をすぐ抜いて、パンパンに張ったカリをそこに押し当てた。
「んんん~~~!!!」
口を押さえて先輩がよがる。
先端さえ挿れば後は一気だ。
入り口が一度オレを咥え込んで大きく開いてから、オレの動きに合わせるように収縮してくる。
小刻みに揺すりながら、根元まで埋め込んで息を吐いた。
「先輩」
「あ、あ、あ、・・アキタぁ・・出ちゃった、よぉ」
先輩が泣きながらビクビクと腰を揺らした。
先輩の内股へソレが伝って落ちていく。
「いいじゃん。挿れた後なんだから、ホラ足開けって」
「んーーーーーーーーー!!!」
立ったまま突き上げまくって、一発放った後、座って先輩を上にして、もう一発。
先輩の腰が動かなくなるまで突いて、満足した頃には、オレも先輩も精液まみれだった。
やっぱ、服着たままヤルもんじゃ無い。
呼吸の落ち着いてきた頃、先輩を引き摺るように裏手からそっと店を出た。
先輩はだるそうにオレに寄りかかった。

非常事態と言えど、ラスタでヤっちまった事に、オレは盛大に後悔していた。
たぶんシオさんにバレバレだろう。
チキショ・・・・、ミチルにもバレる。チクられる。

「ゴメンな。ワガママ言って」
先輩が目を真っ赤にして言う。
「アンタが謝るな」
アンタのせいじゃない。
オレのせいなんだよ。
オレがアンタをカネダなんかに提供したせいで・・・!
オレらが、アンタを好きにヤリまくったせいで・・・!
堪らなくなって、オレは先輩を抱きしめた。
先輩は、そんなオレに好きだ、ってキスしてくる。
好きだって、何回も、何回も。

オレ、絶対、アンタを幸せにしたい。



それから半月後。
先輩の給料日を待って、オレの金と合わせて55万。
これだけありゃあ、と、不動産屋へ部屋を見に行く事にした。
前から目をつけていたコジンマリとした不動産屋。
大学生って事にして入り、チマチマと住所やら名前やらと書かされる。
やっと終わったかと思ったその背後。
「未成年には部屋は借りれないって知らなかったのか?」
振り向いた先には、今日に限ってなんでそんな格好なんだと、目を瞑りたくなる相手が立っていた。
真っ赤なシャツに真っ黒なスーツはシルバーのストライプ入りでノータイ。もちろんボタンは三つ外れている。
「ミチル・・!」
「部屋を借りたいんだったら、金がいるだろう。貸してやろうか?特別金利で貸すぞ。セージ」
こんな小さな、個人のじいさんがやってるような店までが、シマだったとは思わなかった・・!
そのジジイを見るとペコペコとお世話になってますと笑っている。
そしてオレ達は不動産屋のジジイとではなく、ミチルとテーブルを挟んで向き合い面談する。
「ふーん。そういう事か。オレがイヤになったわけじゃないんだな?そうか。オマエが寂しいだろうと思って、いつも誰か人を家にやってたんだが、それが裏目だったってわけか」
「え?」
オレのためだったワケ?いつも、部屋に誰か居たのは。
仮眠室になってんのかと思ってたぜ、こっちは。
「なるほどな。確かにお前もお年頃だもんな。親が鬱陶しい歳だ。ヨシ。あのマンションはオマエにやろう。オレもシロウも、実は、他に部屋を持ってるんだ。お前が寂しがるだろうと、今までは行ったり来たりしてたが、そうならそうで、メシはラスタで食えばいいしな。あのマンションはお前にやる。ただし、ハメを外しすぎるなよ。時々、様子見に行くからな」
「うっそ・・・。マジで?」
信じられない上に、ミチルはもっと信じられない事を言った。
「イズミサワ君。セージにヤリ殺されないようにな」
「テメ、なんて事言っ・・・!!」
「聞いたぞ。シオに。個室で1時間ヤってたんだってな」
「わーーーーー!!!信じらんねえ!!なんでそんな事言うかな」
オレは椅子を立ったり座ったり叫んだり頭を抱えたり、とんでもなかった。
ミチルは楽しそうに意地の悪い笑みを浮かべている。
コイツってスゲー性格悪いのかも!

その袖を先輩が引っ張った。
「いいじゃん。これで隠さなくていいんだから」
ゾッ。
ゾッとした。
カクサナクテイイ?
冗談じゃねーよっこれ以上見られて堪るか!!
「ミチル・・・、頼むから来る前には、電話して」
ミチルと先輩が楽しそうに笑った。



オレ達はそれから毎日サッカーとセックスをした。
先輩が卒業してもきっと変わらない、と思えた。
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