センパイ番外編 

ジャム

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ワタナギ

ワタxナギ なんちゃってオメガバース

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どんな命も皆、等しく尊い。

そんな言い回しが通用する平和な世界。
その裏側で、産まれたての赤ん坊が秘密裏に選別されている。

私達は、人類の中に特別な存在がいる事に気付いてしまった。
人の前に出る者、そうでない者、そして、前者に追従せざるを得ない者。

今まで、それらは単にそういった『能力』に長けた者達、そういう環境下に置かれることで鍛えられた者達、と認識されてきたが、『教祖』が現れた事で事態は一変する。
『教祖』は人類の中に隠れた亜型を見抜く事が出来る感受性豊かな、鋭敏な嗅覚を備えた特殊な人間のこと。

『この者は、儚く命を刈られる運命にある。より強き者に庇護されるべき者』
ーーーそれが、Ω『オメガ』

『何者をも退ける強き獅子の子。王者の道を突き進み、他者を狂わせる運命の者』
ーーーそれが、α『アルファ』

どちらも人口の中に0.01%といない、貴重な人間の亜種である。
この選別が行われている事は、巷ではまことしやかに噂されている国家最高機密だ。
アルファに生まれた子ども達は、成長すれば必ず国に利益をもたらす大事な体。
国家単位で彼らを守り、支援する機構が密かに構築されつつあった。




ーーー上陵高校サッカー部の部室。
「なあ、ニュース見たか?」
「ネットの?」
「そうそう。北川がアルファだって噂」
「マジかね~」
「だいたいさ~、アルファだから日本代表に選ばれたって思われたらヤじゃない?」
「確かに。スポーツの世界まで、階級で支配されたくないよな。だって、スポーツこそ下克上っていうか、一攫千金っていうか・・自分の体一つで世界に認めさせる、みたいな、すっげえわかりやすい仕事じゃん?」
「夢がねえよな・・。すごい人、全部人種で決めつけられちゃさ~」
だよな~・・そんな部員達の溜め息の中、1年の森谷 凪は、1人、緊張を強いられていた。
いつものように、自分のロッカーを開け、練習着に着替えるため上着を脱ぎ、Yシャツのボタンを外してそれも脱ぐと丸めてロッカーの中へと放ってから、手にした練習着が汚れている事に気付いた。
今朝の練習の時、泥のついたボールをトラップしたせいで派手に練習着の前を汚していたのを忘れていたのだ。
仕方無く別のシャツを後ろのベンチに置いたバッグから取り出そうと振り返った森谷はギョッとした。
自分のすぐ後ろに、190cmはありそうな長身の男が立っていたからだ。
いくら狭いロッカールームとは言え、この距離は無いーーー!
そのくらい不自然な近さに男は立っていた。
「綿貫センパイ・・」
思わず森谷の声が震える。
一つ上の綿貫は上陵高校の、いや、高校サッカー界のスター選手だ。
どの大会でも毎回ゴールを決めるこの男は、メディアの注目を一身に集め、ネットやサッカーのスポーツ誌に写真や名前が乗る事も珍しくない。
だからという訳ではないが、部内で綿貫と軽々しく口をきける者は多くない。
その上、百戦錬磨、彼からはある種のオーラが発せられていて、どうにも近付き難い雰囲気がある。
そう感じるのは森谷も一緒で、憧れはあるが、言わば、見る事は許されていても、決して触れてはいけない近づいてはいけない、美術館に飾られた巨大な壁画のような存在だった。
彼に向かって何かを言うのなんて、そんな恐れ多い事ーーー、そう思う部員が殆どだった。
が、森谷は実のところ、そこまで殊勝なタイプではない。
「何スか?センパイのロッカーここじゃないっすよね?」
そう堂々と聞き返す森谷の態度に、周囲の部員達は戦々恐々となる。
一応、自分のロッカーの下の段を確認する。
名前は入っていないが、確か、ここも同じ1年が使っている筈だ。
そうやって前屈みになった森谷の背後に、綿貫が上から覗き込んできた。
森谷の背中に密着するように綿貫が体を合わせてくる。
綿貫の体が触れた瞬間、森谷の体は、今まで感じた事のないプレッシャーに襲われた。
どうしてか、自分が綿貫に押し潰されている場面が脳裏に浮かび、森谷の背筋をゾクゾクと悪寒が這い上がった。
「なに・・?」
自分の耳のすぐ傍に綿貫の顔がある。
痛い程鋭利な視線が森谷の横顔にヒタと当てられ、少しでも振り返ったら、肌が触れてしまいそうな程近い。
「・・いや、違うロッカーだった」
そう一言呟くと、綿貫はゆっくりと体を起こし、森谷の体から離れた。
離れ際、綿貫がロッカーに突いていた手で森谷の背中に触れ、スッと滑るように撫でた。
「・・ゎ!!」
たったそれだけだったが、森谷の全身に鳥肌が立ち、つい綿貫の方を振り返ってしまった。
触るな!と怒鳴ってやるつもりで振り返った森谷は、その場で固まった。
綿貫は、森谷が振り返るのを待っていたかのようにその場に止まっていて、至近距離から森谷の目の奥を覗き込んでくる。
まるで振り返った自分の方が、罠にはまった動物みたいに驚いていた。
咄嗟に声が出せず、生唾を飲み込み、喉をゴクリと鳴らすと、綿貫はやや口角を引き上げ、「またな」と、森谷の髪をくしゃりと撫でてから離れた。
「・・骨太・・っ」
舌打ちしたいのを我慢して、それでも悪態を吐く。
自分だって小さい方ではない。
なのに、あの体格を前にしたら、敵う気がしなかった。

一回り違う。
中坊と高校生くらいの差がある。
そんなのアリかよ・・。

そんな風に、持ってる物か無い物かで打ちのめされてしまう。
資質も才能の内。
世の中には、努力して補えるものとそうで無いものがあるのだ。

抗い難き運命は、それだけではなかった。
森谷はさらなる運命に翻弄される事になる。

あれ以来、綿貫は何かと森谷を構うようになった。
部活の帰りに森谷を待ち伏せしたり、自分の自転車に乗せて帰ったり、休みに河原で球蹴りに行ったりと、すっかり森谷は皆から『綿貫のお気に入り』と認識されるようになっていた。



そんなある日の事。
「お前、『オメガ』だな」
わかってる?
そう外の水飲み場で聞かれ、森谷が顔を上げると、そこには。
生徒会の金田がいた。
ふんわりと優男風の男が腕組みをし、目を細めて森谷を上から見つめている。
着やせするタイプだが、金田は空手の有段者で、節の太い指や大きく硬い拳が彼を見た目で判断するなと物語っていた。
「おめが?」
一瞬、森谷は何を言われたのかわからず、ぽかんと金田の顔を見上げる。
「ヤバいぜ、お前。みんなまだ気付いてないだろうけど・・、イイニオイがしてる」
「オメガって・・ウソ、だろ?なんで、わかんだよ・・?」
「さあ?オレは何となく、わかるんだ。これ言っちゃうと、回りがうるせえから内緒な?でも、ここでオメガ見っけたのは初めてだぜ。なんせ1万人に1人の確率だからな」
そう愉快そうに口元を引き上げた金田の顔が嫌な感じに歪む。
「気をつけな。もし、いいアルファがいなけりゃ、オレが相手してやるよ」
そう言って、金田は森谷の肩を軽く叩いて通り過ぎて行った。
「相手って・・何だよ・・」
金田に叩かれた肩がゾワゾワする。
森谷は叩かれた自分の肩を抱いて、今、金田に言われた事を頭の中で反芻した。

オメガってなんだ?
大人のオメガ?
相手って?

アルファが優性遺伝子の塊だというくらいの情報は、森谷も知ってはいたが、オメガの事はその逆くらいにしか知らない。

アルファは国に利益を生む存在。
その他の者がベータ。
そしてベータでもアルファでもない者がオメガ。
そのオメガという存在がどういう者なのか。
ベータよりやや劣る存在だというくらいにしか知識はない。
つまり、別段、特徴がある訳ではないという認識だった。
人々はアルファに憧れを抱くと同時に、劣性であるオメガを心のどこかで嫌悪していた。
自分が人よりも劣っているかも知れないという事は、誰しもが受け入れ難い、認めたがらない性質だ。
それを知ることで、精神的な苦痛を受ける以外、何のメリットもない。
そういった人情論、倫理観から、敢えてオメガの存在が暴かれたり、明るみに出る事はなかったし、それは国の情報機関によって巧妙に隠されてきた。
なぜなら、オメガこそが、教祖によってその存在が明らかにされてきた亜種であり、真の利益を産む存在だったからだ。
彼らは、アルファと番いになる事で初めて、真の価値が見出される存在だった。
どんなに優秀なアルファ同士が結婚しても、その子どもがアルファになるとは限らず、その確率は20%と低い。
だが、アルファと交わったオメガは100%の確率でアルファを産む事が出来た。
この統計は上流階級にだけ周知されたが、そのオメガもアルファと同じくらい希少で、彼らが自然に出会える確率は天文学的数値だった。
企業の社長や政治家、代々続く華族や旧家、大地主などからは、オメガを求める声は大きい。
また、裏社会に囚われ、政界の伝手に使われたり、闇で人身売買のオークションに掛けられる事もあり、オメガは発見と同時に国の管理下に置かれるようになった。
オメガの使い道は腐る程ある。
オメガの特定こそ、この国家が精力を注いできた最高機密だった。

そんな裏事情など知りもしない森谷はーーー
「何言っちゃってんの、アイツ・・」
去り行く金田の後ろ姿に首を傾げるだけに終る。





「なんか、お前、イイニオイする」
教室でその台詞を聞いて、森谷は金田の顔を思い出してしまい、眉間に皺を寄せた。
「あっそ。こっち見んな都築」
森谷の席の前に横向きに座り、森谷が週刊誌を広げているのを眺めていた都築は口をへの字に曲げる。
「お前、それが友達に言う台詞か?」
「お前こそ、それ、友達に言う台詞かよ?キモ」
「キモッとか言うな。地味に傷つくワ。クサいとキモいは思春期の男子には禁句だぞ」
そう言いながら、ほのかに頬をピンクに染める都築に、森谷は戦慄を覚えた。
都築の台詞が、金田が言っていたのと同じなのが気になる。
『イイニオイ』
それが、もしかしたらオメガに?壓がるヒントなのだろうか。
イイニオイがして、それから、何が起きる?
嫌な予感しかしない。
弱いオメガなんかになりたくない。
いや、オレは弱くなんかない。
どこも悪くないし、力だって弱くない。綿貫に敵わなくたって、それなりに運動神経はいい。

ーーーなのに、何かが変わっていく。

綿貫に出会って、何かがおかしい。

ーーー体の中が、変になる。

これは、なんだろう?
どうして、綿貫といると、変になるんだろう?
オレは普通の筈なのにーーー
オメガなんて知らない。
なのにーーー







綿貫の体の下に捕らえられ、重ねた唇の隙間から綿貫の声に名前を呼ばれる。
「森谷」
どうして、抵抗出来ないんだろう。
(いや、してる。メッチャ抵抗してる。全力出してるけど綿貫の力が強いだけ)
なんで、嫌じゃないんだろう。
(単にオレがキスが好きで、ディープキスに弱いだけ?)
「森谷」
綿貫の声がすごい耳にクる。
(オレって声フェチだったのかな)
だから。
もう、このキスを受け入れよう。
もう綿貫の好きにすれば、いい・・
だって、すごい綿貫の体温が気持ち良くって、心地良くって、自分から綿貫の体に抱きついてしまいたいくらいで。
なのに、綿貫はオレが抵抗すると思って(いや、してたんだけど)、両手首を掴んだまま離さない。
だから、ひたすらにキス攻め。
まるで、悪いお仕置きを受けてるみたいで、目の中が潤む。
それ以上進む気がないのか、ひたすらに、ひたむきにキスを繰り返され、口の中も唇も蕩ける。
「センパイ・・」
「森谷、お前、イイニオイする」
その一言でオレは一気に夢から醒めた。
「ヤダ・・なんで、そんな事言うんだよ・・!?アンタも?アンタもなのか!?」
「森谷?」
訳がわからないという顔をする綿貫の下で、体を捩って全力で暴れる。
メチャクチャに足を動かして、綿貫の下から這い出そうと綿貫の足を蹴った。
「イイニオイって何だよっ」
「さあ・・なんだろうな。でも、お前からするんだ。オレの頭の中が溶けそうなくらいイイニオイが・・」
その台詞に蒼白になる。
「ヤダ・・ヤダ・・!触るな!オレに、触るな!!」
「森谷・・なんで?・・キスしたろうが・・オレの事イヤじゃねえだろ?」
どうしてだ?そんな風に眉根を顰めた男から身体を引き、膝を抱えて、綿貫を全身で拒絶した。

「いやだ・・触るな・・!」

『イイニオイ』がする。
そんな自分が恐い。
オメガが何かわからない。
でも、確かに、何かは変わっていた。
自分は、男を惹き寄せる何かを放っている。
それだけは、わかったーーーー




が、そう悲観している時間は森谷には無かった。
「ふざけんな・・絶対抱く・・!」
そう宣言した綿貫にあっさりとマウントを取られる。
「や、ヤダってば・・!!」
腕を突っ張って綿貫の体を押し返すが、どうにも対格差がある。
「何がヤダだ。キスしといて、オレの事好きじゃねえとは言わせねえぞ」
再び、両腕を拘束され、剥き出しになった首筋に噛み付かれて、心臓が飛び跳ねた。
「じゃあ、じゃあ、聞くけど、アンタはオレの事好きなのかよ!?」
「当たり前だろっ」
まさかの即答に、森谷は身体から力が抜けた。
「だって・・今まで、そんな事、一言も・・」
「好きじゃねえ奴に、オレが抱きついたり、キスしたりすると思うか?」
そう言われて、この傲慢でオレ様な男が、暇つぶしにでもそんな事をするような男ではない事に気付く。
ふるふると森谷が首を横に振ると、綿貫は初めて歯を見せて笑った。
そんな嬉しそうな綿貫の顔に、不覚にも、ときめいてしまったのは自分ーーー。
その上、自分の名を「森谷」と呼ぶ綿貫の声がとても甘くて、キスされる場所、一つずつから力が抜けて、指の先までシビレてくる。
「セン、パイ・・ッ」
?壓がる瞬間は、溜め息しか出なかった。
長い長い愛撫を経て、やっと身体を重ねる。
交わり合う熱が、お互いの全身を溶かしてしまいそうで、森谷は綿貫の背に腕を回して、汗だくで律動を繰り返す腰を抱き寄せた。
「凪・・」
唇を何度も食まれ、深く濃く舌を絡ませながら下の名前を呼ばれる。
身体の奥がビクビクと痙攣し、中を満たす綿貫の雄蕊を締め付けた。
「凪・・っ」
二度目は、苦しそうな声で名前を呼ばれ、その直後に、体内で熱い迸りを感じた。
ねっとりと熱い物が自分の中に注がれる。
「センパイ・・」
恍惚とした表情で、森谷は綿貫の腕の中でゆっくりと目を閉じた。






「お前、ヤバいって忠告しといてやったのに・・何だよソレ」
学校で再び、金田から声を掛けられて森谷は飛び上がった。
一応、人気のない所で声を掛けてくれた配慮には感謝しながらも、森谷は金田を睨みつける。
眉間に皺を刻んだ男は忌々し気に腕組みし、森谷を上から見下ろしていた。
「ソレって何・・?」
聞き返すと、ズイっと金田の人差し指が森谷の首を指差す。
「ヤったろ?ヤったんだろ?誰だ?誰とヤった?」
捲し立てる金田に押され、森谷は首を掌で押えて「ヤってないっヤってない」と首を振って否定する。
「言ってる事と顔が違うんだよ・・!ニヤけやがって、思い出し笑いしてんじゃねえよ・・」
ワナワナと怒りを抑えている金田は盛大に溜め息を吐くと、こっちに座れと森谷の腕を引いた。
渡り廊下から中庭に出て、花壇の横へ屈む。
異動教室がなければ、あまり人通りのない場所だ。
「前よりも匂いが強くなってる・・。お前、クラスのヤロー全員に喰われるぞ・・!」
衝撃の一言に、森谷の身体が固まる。
息も出来ない程に身体が強ばり、唇が震えた。
綿貫とシた事と同じ事を、違う人間と出来る筈がない。
「じょうだ・・」
「んじゃねえよ?お前、誰とヤった?そいつ、お前の事守れんのか?ったく・・こうなる前に(政府に)チクっときゃ良かった・・。ヤバい事になる前に警察行くか、それとも・・オレのモノにするか・・」
そう言って、チラリと自分を見た金田の目が昏く歪む。
小さな光りを放つどす黒い瞳孔の中に、森谷の顔が映っていた。
ゾッと森谷の背中を冷えた感覚が走る。
「オレが守ってやろうか?なあ?一度男を知った身体は、発情期の度、男を欲しがって啼く。怖いぞ。どんなヤローが相手だろうが、発情期に入れば、オメガなら喜んで受け入れる身体になる。自分を守る事が出来ない恐怖に、お前、勝てるか?」
「うそ、だ・・」
「ウソじゃねえ」
金田の腕が森谷の胸ぐらを掴む。
「オメガは男を狂わせる亜種だ。アルファと番いになり、その庇護下に入らない限り、お前は搾取され続ける存在なんだよ・・っ」
強い力で身体を揺さぶられ、森谷は唇を噛み締めた。
オメガになんかなりたくない・・!
そう叫びたいのを必死で堪えた。

「へー、そりゃいい事聞いたな」

金田の背後から聞こえた声に、二人は顔を上げた。
そこには、ズボンのポケットに両手を突っ込み、鋭い目をさらに細めた綿貫の顔がある。
「アルファ・・」
金田が掠れた声を振り絞った。
「え・・?」
「お前、なんかイイニオイするようになったな~って思ってたけど、オメガだったのか・・」
なーんだ、オレに恋してるからかと思った。
そんな事を呑気に言い連ねる男に、森谷は真っ赤になった。
「まさか・・コイツが相手か・・!?お前、知ってたのか?綿貫がアルファだって」
「知らない・・。アルファって、センパイが・・?」
「そうだって、子どもの時言われた事がある。でも、そんなもんで区別されるなんて冗談じゃねえから、人に言った事なんてない。アルファだからってモテても嬉しくねえしな」
けど。
「お前が手に入るなら、ウソでも自分がアルファだって公言するぞ」
綿貫から差し出された手に、森谷が掴まる。
しっかりと握り込まれた手を、強く引き上げられ、綿貫の腕の中に飛び込んだ。
「センパイ・・っ」
「コイツ、今日からオレのだから。絶対に、手出すなよ・・?あ、生徒会から全校に周知徹底させてくれるよな・・先輩?」
歯噛みする金田の表情を嘲笑うように見つめ、綿貫は森谷の肩を抱いてそこから離れた。
「お前・・とんでもねえのと関わってたな・・ちょっとアレは、オレでもビビったぞ」
そう言って、ホッと胸を撫で下ろす綿貫の顔を、森谷は慌てて見上げる。
「もしかして、本当にウソ!?」
焦り顔の森谷を見て、綿貫はニッと口元を引き上げた。
「それは、お前に発情期がくればわかる・・。アルファの匂いはオメガより強い。オレの匂いがすれば、他の雄は皆、逃げ出す」
だから、オレのでいっぱいにする。
そう言って、森谷のへその下を綿貫の手が撫でた。
「な、何言って・・」
森谷は真っ赤になって綿貫の手をどかそうとしたが、余計に身体を抱き込まれてしまう。
「センパイ・・!」
「大きい声出すな。ここでキスしてもいいのか」
そう脅し掛け、森谷の顔に首を伸ばしてくる。
「って、する気満々じゃんか・・っ」
森谷の抵抗虚しく、綿貫の腕の中に閉じ込められた森谷の唇は、あっさりと綿貫のものになった。
「誰にも渡さない。オレのだ・・オレの凪だ」
甘い声だった。
この声に支配されたいと思ってしまうのは、もしかしたら、自分がオメガだからなのか・・。
そんな風に、少しだけ、綿貫の前でだけなら自分がオメガでもいいような気になれた。のだが・・。
この3ヶ月後には、綿貫に中出しされ続けた結果、綿貫の子を妊娠してしまうだろう自分の事を、森谷は知らなかった・・。

『何者をも退ける強き獅子の子。王者の道を突き進み、他者を狂わせる運命の者』
ーーーそれが、α『アルファ』

end
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