センパイ2

ジャム

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50、夜な?

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50、夜な?


ゆらゆら、ゆらゆら。
ここどこだ?
頭がボーっとして、まとまらない。
オレ何してたんだっけ?
なんか心臓が痛い。
なんでだろ・・?
オレ、そんなダッシュしたっけ?
「ナギ」
ワタヌキの声に呼ばれて、ハッと目が覚めた。
と、同時に、息が一瞬止まってたみたいに、激しい動悸が襲ってくる。
目に入る光の眩しさに、目を細める、と、ワタヌキが少し笑った顔でこっちを見下ろしてきた。
「目覚めたか?」
ホッと笑うワタヌキが、オレの頭をわしゃわしゃと撫で回す。
混乱した頭で、ワタヌキの言葉を反芻する。
「オレ・・落ちた?んだ?」
ワタヌキが顔を背けて、え、いや・・とかなんとかブツブツ言ってる。
「センパイ・・っ」
「そんな良かったか?」
やたらニッコリと笑ったワタヌキを蹴ってやろうと足を上げようとしたのに、ずっしりと伸し掛かられてビクともしない。
「あのな?ホラ?オレまだイッテねーの」
な?と腰を動かすワタヌキ、強烈な快感にオレの身体が痙攣を起こす。
「アッ・・アッアッ・・・!!!」
ワタヌキの動きを止めさせようとその足を掴もうとして、その手を逆に捕まえられ、ベッドに縫い付けられてしまう。
真上から見下ろしてくるワタヌキの顔の残酷さ。
真っすぐにオレを見る目は、貪欲に、オレの反応を細かく記憶しようとしている。
何もかも、身体の自由も権利も主張も、全てを奪われて、オレには自分を攻めるワタヌキ本人に助けを求めるしかなかった。
「センパイッ・・ヤメてくれっ・・ああぁッ・・暴れんな!・・もうムリ!ああぁッ」
揺さぶられながら、顔を左右に振って、止めてくれと懇願した。
「お願いっ・・何でもするからっ・・ヤメてくれッもう!もう!ああぁぁ!!」
ドクドクとゆっくりと精液が奥から這い上がってくる感覚と、腹筋が痙攣しているような感覚。
「何でも・・?じゃ、『もっとして』って言ってみ」
「『もっとして』・・」
「わかった」
答えると同時にワタヌキが大きく動き出す。
「ちがっ!!センパイっああぁ!!」
「『タツト』だろ・・?」
ゆっくり大きな動きで突き上げられて、自分の中のワタヌキに合わせて腹が起伏を繰り返していく。
弾けるような快感はとっくに終わっていた。
熱に浮かされて、身体の中心に全ての感覚が集まる。その醒めない熱がいつまでも飢えたようにこびりつき、目頭が熱くなる。
「苦しいっセンパイ・・!熱いよ・・やだってもう・・ああぁ・・!!」
「『タツト』」
「タ、ツト!・・っ」
両手を顔の横に押さえつけられ、身体がビクビクと無意識の痙攣を起こす。
「あたま・・おかしくな・・るぅ・・あぁっ!!」
何度となく襲う痙攣にのたうち回りながら、ワタヌキの打ち付けに耐えるしかなかった。
「泣くかよ・・?」
益々やめられねえ、と、ワタヌキがオレの膝を深く折る。
身体を窮屈に曲げられて、自分の白濁が数滴、胸元に降ってきた。
それをワタヌキが舌に絡めて、オレにわかるように飲み込んだ。
顔が熱くなる。
「あ~~っ・・・イキたくねえ・・」
ワタヌキが吐息と共に吐く。
「ずっと・・ずっと、ナギんなかにいてえよ・・好きだナギ・・ナギ」
イキそうなのか、ワタヌキの荒い息継ぎが胸の上に響く。
「ナギ」
ワタヌキが胸の突起きに口付けて、軽く吸いつく。
「ンーっ」
その刺激で密着した接合部がヒクヒクと痙攣し、自分自身にワタヌキがそこにいることを認識させた。
「ヤバぃ・・ナギ。オレ、もう何しても出そうだ」
乳首に口を付けたままワタヌキが喋るせいで、過敏な刺激がリンクする。
「そこで喋るな!あぁっもうヤダっ・・」
「すげえ締まる・・。あ~ダメだ・・まだイキタくねえのに・・」
ワタヌキが舌打ちしながら、オレの胸から顔を上げ、唇を合わせ、煽られるまま舌を絡ませた。
そのまま。
一気に激しい突き上げが始まって、涙が零れていく。
ああ・・落ちる・・!
何回目かわからない快感に溺れて、頭の中が真っ白になった。
ワタヌキの姿を見失って、熱い鼓動だけが身体の奥で響くのを微かに感じていた。
「で、ヘロヘロな訳だ」
サッカー部の部室でソックスを履き替えていると、ワタヌキとアキタさんが入って来て、オレの横に二人が立つ。
『で』って、オレは何も説明してないのに、アキタさんがベンチに座るオレを見下ろしてくる。
オレは、まさかこの人知ってんじゃ・・!?と焦りながら、チラリと見返してみると、「言わんでもわかるワ」と頭を撫でられた。
「オマエさ・・どんだけなの?」
淡々と着替えるワタヌキに、目を細めたアキタさんがオレの頭を撫でながら問いかける。
と、上半身裸になったワタヌキが、アキタさんの手を掴んで、オレの頭から下ろす。
無言でまたアキタさんがオレの頭を撫でる。
ワタヌキが止める。
また撫でる。
止める。
撫でる。
止める。
「テメ」
口を開いたワタヌキの足をアキタさんが無言で踏みつけた。
それが思った以上にヒットしたのか、ワタヌキはベンチに手をついて、踏まれた足を持ち上げて痛みを堪えている。
「なんかあったんだろ?」
アキタさんがまっすぐオレの目を見る。
ワタヌキとはまた違った眼力を持った瞳に捉えられて、思わず頷いてしまった。
「ったく。なんか変だと思ったワ」
そう言って、アキタさんがワタヌキの首に腕を回してブツブツと呟いている。
ただ黙ってそれを聞いていたワタヌキがアキタさんの腕を押し返して、アンダーシャツを被る。
トレーニングシャツをバッグから出してそれも素早く着ると、オレの横にドカっと座って、靴を履き替える。
「走れるか?」
ワタヌキが小声で聞いてくる。
この状態でダッシュ30本とかスクワット100回とか絶対無謀なんだけど・・やるしかねえ。
「走れる」と、ワタヌキの方は見ないで、短く答えた。
ワタヌキが少しだけオレを見つめてから、立ち上がり、アキタさんに「行ってる」と声を掛けて、グラウンドへ出て行った。
今度はアキタさんがオレの横に座り、ソックスを履き替えて、スパイクを履いて靴ひもを結ぶ。
何か言われると思ってただけに、黙々と着替えるアキタさんに少し拍子抜けしながら、オレも靴を替えて立ち上がった。
先にドアを開けて出ると、アキタさんも追いついてくる。
そのままドアに手を掛けたままアキタさんが出るのを待つ。と、すれ違い様に。
「オマエそのうち妊娠するからな」
と囁かれて、身体が固まった。
精神的な打撃に違う意味で落ち込む!
ワタヌキが言う訳ないってわかってる。
アイツは細かい話をする人間じゃない筈だ。
でも!
なんかわかんないけど!
アキタさんは全部知ってる気がしてくる!!
思わず、壁に手をついて項垂れるオレの腕を、アキタさんが引き返して来て、引っ張る。
「悪い悪い。大丈夫だ。オマエは何も悪くない。な?だからいつもみたいにムスーとしとけよ?」
アキタさんがオレの背中をバシバシと叩いてから軽く走って離れて行った。
・・・そんなにオレって普段ムスーっとしてんのかな・・。
とりあえず、芝のあるところに座って、オレはストレッチを始めた。
そうそう、こうやって体を動かしてけば・・無心で動かしていけば・・・・。
と思っても、足を開く度に、腰(尻)に違和感が生じる。 
そこでなんか一々顔が熱くなって落ち込む自分がいた。
「オマエは加減を知らねえのか」
ビブスを振り回しながら、ワタヌキの横にアキタが立つ。
「オマエに言われたくねえ」
ワタヌキはフラッグを手の空いてる2年に渡し、チーム分けをしていく。
2、3年はハーフコートの6対6を延々続け、1年は基礎練中心に、外周。
「いいのかよ?あんなモロ、昨日ヤりました。みたいな顔」
「言うなっつーの」
ワタヌキが横目でアキタを睨む。
「100パー(%)庇えよ?」
とアキタが赤のビブスを被る。
笛を咥えたワタヌキが、
「(誰にも)当たらせるかよ」
と呟いた直後、笛を吹き、2、3年を集合させた。
アキタさんに、ムスーとしてろって言われたけど・・ムリだった。
なぜなら・・・ワタヌキが同じチームだからだ。
しかも!殆どやったことないだろうバックにいる!(多分オレがバックにいるから)
すげえ精神的な負担が・・違う意味でのストレスに、オレは恥ずかしくてゲームどころじゃなかった。
「なんで、キャプテン、バックなんすか・・?」
皆がすげえ不振がってる・・!
「オマエらが、点取る練習しろ」
その発言は、意外とまともで、皆も、『あ、そういう事?』って一応納得なんだけど、オレにとっては完全にオカシイ事になってるから、恥ずかしくてしょうがなかった。
しかも!
相手チームがアキタさんの時は、全くと言っていいほどオレのいるサイドを攻めない!
のに!「マーク!」ってワタヌキが指示出してくるから、全然動く気無いアキタさんのマークについてなきゃいけなくて・・。
それ絶対変だし、恥ずかしい!!
余計に顔が赤くなる。
「オマエ・・・やっぱ熱あんだろ!?」
恥ずかしくて俯いてばっかいるオレの腕を、アキタさんが引いて、ワタヌキを呼んでついには退場。
「終わったら迎え行く」
ボソっと言うワタヌキに、思わずドキドキしたのに、去り際にケツを軽く叩かれて、飛び上がりそうになって振り返ると、ワタヌキが『しまった!』という顔で振り返った。
完全に・・無意識デスよね・・!
だから、なんで・・男ってケツ叩いたりする挨拶なんだよ!?
これだから体育会系って・・!
肉体的にも、精神的にも、ヨロヨロになりながらなんとか保健室まで辿り着き、勝手にベッドへとへたり込んだ。
「まぢで・・今日の部活・・辛かった・・」
ベッドに倒れ込んだうつ伏せのままで、あっという間にオレは意識を手放していた。
考えなきゃいけない事があるハズだったんだけどな・・。
ユラユラユラユラ。
なんかキモチいい。
「こいつ、こんな軽かったかな・・」
ワタヌキだ。
いつの間にか暗くなってて、オレはワタヌキの背中におぶさってた。
「誰かさんのストレスで痩せたんじゃねえの?」
アキタさんがワタヌキをからかう。
「・・オマエさ?エッチしてるとこ覗かれたらどうする?」
この発言にはオレも目を見開いた。
ワタヌキがアキタさんに相談してる!しかもオレのことを・・!
なんか恥ずかしいけど、嬉しい・・かも・・
と、思ったまでは良かった。
「覗き?関係ねえかな。オレは誰に見られてても別に構わねえし・・逆に曝したくなる時のがあるかもな」
超ドライなアキタさんの台詞に、ワタヌキも、
「だよな・・」
で、終了。
終了。
この会話を聞いて、この2人って・・本当に親友なんだな・・と、しみじみ実感してしまう。
そこでもう一度目を閉じる。
諦めよう・・。
その一言に尽きた。
絶対ワタヌキは外でヤラナイなんて約束してくんねえし・・かと言って、チヅカに覗くなって言ってどうなるわけでもねえし・・・。ただオレがイヤなだけで・・。
あんな声出してイカされてる姿見られるなんて恥ずかしいだけで・・。
恥ずかしいだけ・・だけどさ!
だけどさ!!
諦めのつかない気持ちを抱え、オレはワタヌキの背中で小さく溜め息を吐いたのだった。


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