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58、わかる・・!

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全く余計な世話を焼いちまった。


少し早く授業が終った昼休み、校舎裏に続く渡り廊下を、中庭の方へ歩いてたら、ばったり、チヅカと鉢合わせた。
「モリヤ先輩、ちょっと待って」

待つ訳ねえだろ。
オレは怒ってるんだ。

一週間前、有り得ない事に、ワタヌキが、コイツと抱き合ってた。
正確には、抱き合ってたんじゃなくて、詰め寄られて、泣かれて、慰めてただけだったらしいけど。
それに妬き持ち灼いたせいで、オレはあの後、大変な目にあった。
「絶対、外じゃヤだ」って言ったオレを、ワタヌキは射精寸前まで追詰めておいて、「今日はここまでな」と、放り出した。
「ヤなんだろ?だから、挿れない。その方がいいんだよな?」
意地の悪い顔でニヤリと笑ったワタヌキを、オレは渾身の力で睨みつけ、その場に膝から崩れ落ちた。
コイツ、悪魔だ。
ここまでヤっといて、放り出すなんて、ヒド過ぎる。
体の奥がドクドクと疼いて、堪らないのに、目の前の男はオレを見て笑ってる。

こんな体にしたコイツを、オレは許さない。
オレの体を、こんな風にしたコイツを、殺してやりたい・・!

「タツト、挿れて・・もう、ここでいいから・・っ」
涙を浮かべて、強請るオレに、ワタヌキは蕩けそうに目を細めた。
「声、出すなよ?」
コクリと頷いたのを確認したワタヌキが、オレの短パンを掻き上げて、オレの中へ挿ってくる。
「あ・・ア・・」
「シッ声、抑えてろ」
熱い楔に貫かれ、一気に射精感が高まった。
「だめ・・っすぐ、イッチャ・・」
「バカ、イケよ。部活終ったら、ちゃんとシてやるから、今はこれで我慢な・・?」
と、言った本人が我慢出来ず、結局オレ達は校舎裏の影で2回もイタした訳だ。
ハッキリ言って、危機感ゼロ。
今までで一番、オープンマインド(危険)なセックスだった。





「あ?オレに何も言うな」
「いや、違うんッス・・あの、ちょっと、ダルくて・・ダルいっつーか・・痛いっつーか・・」
そう言って校舎の壁に手をついて、少し前屈みになるチヅカが苦笑いする。
「ちょっとだけ、そばにいてくれると・・助かるんスけど・・」
そう弱り切った顔で笑われたら、置いていける訳ない。
「ったく・・座れよ」
舌打ちしつつ、その場に腰を下ろすと、チヅカがホッとしたように自分の隣にしゃがみこんだ。
「すいません、マジで・・。ちょっと時間おけば、すぐ良くなると思うんスけど・・」
そう青褪めた顔で俯くチヅカのうなじに赤い痕。
生々しい赤みが、チヅカの身体はそいつの物だと主張している。
膝を抱えて座りながら、自分にも覚えのある同じ痛みを思い出した。
「いいのかよ」
「え?」
「お前、それで、いいのかよ?」
オレの質問にチヅカは、一瞬シラを切ろうかどうしようか迷った顔をした。
が、そんな気力はすぐに失われ、自然、チヅカの目が赤く潤んでいく。
「わかんない・・ッス」

いいのか、悪いのかもわかんない状況ーーー

そんな状態で、自分の身体を好きにさせてる。
それが、いい事だとは、オレには思えなかった。

倒れそうになるまで、ヤルなんて、マジ鬼畜・・

その瞬間、ワタヌキの顔が頭の中に思い浮かび、思わず噴き出しそうになって、口を手で抑えた。

あれは・・・、でも・・、オレが悪いんだ。

アイツがすることを、結局、最後には、オレが全部許しちゃってるから。
だから、止められなかったし(止めようもなかった気もするけど)、求められれば、やっぱり嬉しかったから・・。
自分に欲情するアイツ見たら、同じようにオレもアイツが欲しくなった。
だから、何されても、最後には許しちゃうんだ。
そのせいで、次の日とか散々な目に合う訳だけど・・・。


「イヤなら、やめとけよ」
ポツリと口から出た言葉に、チヅカが顔を上げた。
「イヤじゃ・・ないんスけど・・」
顔を真っ赤にしたチヅカが、髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜてからオレに向き直る。
「あ~・・もう、ぶっちゃけていいっすか!?」
オレが逃げ出さないよう、チヅカの手がオレの肩を掴まえる。
「なんか・・『初めて』が、好きとか言わないで、エッチしちゃって・・そんで、それが一回ぽっきりじゃなくって、もう週に何回かとかで・・正直、身体キツいのに・・あっちは何か気軽にヤれるオンナみたいなノリで口説いてきて・・それが、なんか本気に思えなくて・・でも、嫌いじゃないから、断れなくって・・さっきも」

オイ、さっきかよ!

呆れつつ、「ちょっとお前、落ち着け」と、チヅカの背中を、撫でてやる。
「週に何回って・・学校のやつなの?」
「週に3回か4回、メールで呼び出されて・・生徒じゃないんスけど・・あ、先生でもないッスよ?出入りしてる業者っていうのか・・」
「週4!?」

そんなに・・・ヤって・・・っていうか、そんなに頻繁に校内に出入りする業者っているのか・・?

そこで、オレは迷子になったが、そこは敢えて問いつめず、話を進める。
「お前、よく走れるな・・」
「走れないっすよ!だから、この前・・キャプテンが助けてくれて・・あの、あの時は、マジでありがとうございましたっ」
チヅカはそう言って、オレにペコリと頭を下げた。
「オレに言うなっつーの」
思わず顔が熱くなり、アホッとチヅカの頭を叩いてやる。
「だって・・、きっとモリヤ先輩の事、いつも見てたから、オレの具合悪いの気づいたんだと思うんスよ・・。それってなんかすげえなって・・きっと、何処に居ても、いつも見てるんだな~って」

そこは、素で、本気でストーカーかってくらい見られてる自覚あるから、正直、否定出来なかった。

「オレの相手は普段、オレからは会えなくて・・、ただ呼び出されて・・そんでエッチするだけなんスよ・・それって、ただの性欲の解消のためだけなんじゃないかって、思えて・・不毛なんスよ」

会えば、すぐエッチ・・
なんか、その台詞、すげえ身に覚えある。
オレも相当、アイツの好き勝手に身体されてる気がする。

隙あらば、襲って来る超野獣男の満面の笑みが目に浮かんだ。

でも、アイツの凄まじさに押されたんだよな。
抗っても抗っても、絶対自分のものにする、みたいな。
オレに、他の選択肢とかなかったもんな。

しみじみしていると、チヅカに「聞いてます!?」と、肩を揺すられた。
「聞いてる、聞いてる」
「この間なんか、試合終った後、ホテルに連れてかれて・・試合の後ですよ?ヘロヘロのとこに2時間ぶっ通しッスよ・・オレ抜かれ過ぎて、死ぬかと思った」
「2時間・・?・・バッカ、お前、そんなもんで死ぬかよ。オレなんか一晩中ヤられてた事あるぞ」
「一晩中・・!?オレ・・失神するかも・・」
「失神なんか普通だよ・・。その度に、起こされて、アイツがイクまで付き合わされんだぞ・・」
「それって・・毎週ですか?」
「毎週は無理だから、やめて貰った」
そこで、少しホッとした顔のチヅカに、言ってやる。
「失神しないように、一晩中ヤってくれるようになっただけだけどな。失神しない代わり、ずっと突っ込まれてるままなの、わかってるから、それも辛いぞ」

イキたくても、イかしてくんない。
こっちが、泣いて強請って、好きだって言わないと終りにしてくれない。

「きっと、お前の彼氏みたいに週に何回かに分けられたら、週末もう少し余裕出来るんだろうけど・・オレの身体じゃ、練習に耐えられなくなっちゃうから無理だし・・」
「でも、そうやって、キャプテンは加減してくれてんスよね・・それに比べたら大八木さんなんて」
「え!?お前、大八木さんと付き合ってんの!?」
「あっ・・・」
思わず出してしまった名前に、チヅカは慌てて口を抑えた。
「な、内緒ッスよ・・?」
「誰にだよ」
「いや、わかんないっすけど・・。誰にも、誰にも言わないで下さい!」
「うわー・・、そうだったんだ・・。顔見れねえよ、オレ」
「あ、大丈夫です。もう、あんまし来ないみたいなんで・・」
「あ、そっか。あっちも照れんのかな」
「そんな可愛い訳ないじゃないッスか・・時間あったらエッチしたいだけッスよ」
「まあ、そりゃそうか。仕事忙しいんだろうし・・時間割いてまでサッカー部なんか、普通、来ないよな」
そこで、チヅカが目を見開いた。
「それって・・オレと会う方が大事って事・・」
「そりゃそうだろ。ワタヌキなんて練習中だってサカってくるのに、何が悲しくて仕事の合間にサッカーしに来るんだよ」
「いや、やっぱ違います・・あの人、エッチが目的だから・・」
「週に4日もか?突っ込みたいだけだったら、普通に、女の子と付き合うんじゃねえの・・?」
「うぅ・・、モリヤ先輩~~~っっ」
「わっ」
いきなり泣き出したチヅカに、ガバリと抱きつかれた。
「お前、離せ!こんなとこワタヌキに見られたら、それこそオレ殺され・・っ」
「自信が無いんですっあの人、本当は始め、モリヤ先輩の事、見てたんです・・!だから、オレ、あの人が、オレ、好きって言っても、全然信じらんなくて・・!どうしよ・・オレ、どうしよお・・っ好きなのに・・大八木さん、好きなのに・・っ」

わんわん泣き出したチヅカに、掛ける言葉が見つからなかった。

「お前も、やっぱ最後には許してきたんだな・・」
それが、答えなんだ。
「オレの事見てたとか・・そんなん関係ないだろ。週に4日、抱かれてんの誰だよ。好きな相手疑いながらヤるなよ・・。よくわかんねえけど・・相手、信じてやれば?」

泣き続けるチヅカの頭を撫でて慰めてたら、不意に頭上に影が差した。
嫌な予感に、顔を上げると。
「オイ。なんだそりゃ」
銀縁眼鏡のブリッジを中指で押上げ、眉間に深い皺を刻むツヅキ!の姿。
「なんで、こんなチンチクリンに抱きつかれてんだよ、テメーは!」
ツヅキが力任せにチヅカの腕を掴んで、オレから引き剥がした。
一度立ち上がらせてから、泣きべそをかいてるチヅカの体を、ツヅキが中庭の土の上へ突き飛ばした。
「ツヅキ!やめろ!!」
「お前はな!いつから、そんな男コロコロ代えるビッチな体になりさがった!?ワタヌキの代わりが必要なら・・オレが、いつだって代わってやるっつってんだろ!」
「ふざけんな!誰がビッチだ・・っ」
立ち上がる勢いそのまま、右足でツヅキの脇を狙った。
その足を両手でガードされ、そのまま足首を掴まれる。
「離せ!」
「離すか!ウッ・・っ」
ツヅキが妙な悲鳴を上げた。見ると、チヅカが仰向けに寝そべったままツヅキの膝の裏を蹴っていた。
「このガキ・・!」
オレの足をポイッと投げたツヅキが、今度は反転、チヅカに向き直った。
「チヅカ、逃げろ!!そいつ空手の有段者・・!」
が、一息遅かった。
チヅカは逃げを打とうと四つん這いになって立ち上がろうとしたが、ツヅキに肩を掴まれて体をひっくり返され、マウントを取られてしまう。
「ツヅキ!テメーいい加減に・・!」
その時だった。
「何やってる!」
濃紺のツナギを着た眼鏡のポニーテールの男が、チヅカの上からツヅキを羽交い締めに引き剥がした。
「テメー・・人のモンに手、出してんじゃねえよ!」
そして、ツヅキの肩を両手で掴むと、その腹を思い切り膝で蹴り上げた。
「ウおッ」

瞬殺ーーー
見ただけでも痛そうな膝蹴りを食らったツヅキは、息が出来ずに地面の上でのたうち回った。

「チヅカ・・体、大丈夫か?」
「大八木さん・・帰ったんじゃないの?」
「さっき、お前、辛そうだったから、なんか気になって、戻って来た」
その一言で、チヅカの目に涙が浮かんだ。
「オレ、好きだよ・・大八木さん好き・・」
「本当か?本当じゃなかったら、お前もシめ上げるぞ・・?」(と、やっぱりどこか脅迫めいた言い回しをする大八木)



わーお。なんてロマンチックな展開だ。

思わず、大八木とチヅカのディープキスに見入っていると、ツヅキが腹を抑えて、オレの所まで這いずって来る。
オレはツヅキに向けて親指を立てた。
「グッジョブ!ツヅキ」
「はあ?なんなんだよ、あのオッサ・・」
いいから黙ってろ。
オレは人差し指を口の前に立てて見せた。

目の前には、愛しい恋人を腕に抱き、狂おしい程愛しいキスに夢中になる二人。

「いいなあ・・らぶらぶ」
オレの短い溜め息に、ツヅキが舌打ちした。
「・・お前らに敵う奴がいるかよ」

特に、ワタヌキは確信犯だ。
人前でキスどころか・・・セックスを見せつけようとするような奴だ。

コイツはオレのモンだと、万人に知らしめる。

そして、どれだけ自分がコイツを悦ばせる事が出来るか、自分に感じているか、自分以上にコイツを感じさせる事が出来る奴などいないーーーーと、笑うんだ。



「ツヅキもさー、もういい加減・・オレなんか忘れて、恋すれば?」
目の前の両想いカップルの、二人のしあわせそうな笑顔を見て、しあわせそうに笑うモリヤに、オレはバッサリと切られた。
だからオレは。
極上の微笑みを口元に浮かべ、モリヤの胸ぐらを掴んでやる。
「お前以外の奴に恋に落ちるくらいなら、相手なんか誰だっていい。犬でも猫でも、クソデブのオヤジでも、誰でも構わねえよ」

お前じゃなかったら、なんだって関係ねえ。

心臓が破裂しそうにミシミシ言ってる。
あと数センチで触れられる(キス出来る)距離に、モリヤがいる。
それだけで、全身から汗が噴き出す。
頭の中がオカシクなる。

スベテガ、ドウデモヨクナッテクル・・

「ツヅキ、待て!よせ!お前、オレがどうなってもいいのか!?」
そう言われて、ハッとする。
至近距離で目に入ったのは、悲しそうな子犬みたいなモリヤの顔。
「お前に、なんかされたってわかったら、オレ・・酷くされる」

わかってる。
わかってんだよ。
だから、オレは手を退いたんだ。
お前が辛そうなの、耐えらんない。

「何にもしねえよ・・」
ただ、もう少しだけ、このままで。
「ただ、好きなだけだ・・何もしない」
疑心暗鬼な顔で見つめてくるモリヤの目を見つめ、オレは胸ぐらを掴んでいた手から力を抜こうとした、その刹那。
後頭部にガンッと衝撃を受けて、オレはモリヤの上に倒れた。
「ワ!」
「イッテ・・!」
急いで振り返ると、20m以上離れた所に、鬼の形相のワタヌキがいる。そして、オレの後ろに転がる球。

あの野郎・・!人の頭に!!

だが、そんな事、どうでも良かった。
「ごちそうさん!!」
オレは猛ダッシュで、呆然とするモリヤから離れた。

今、オレ・・モリヤとキスした・・!!

思わぬご褒美に、オレの血流は逆流寸前ーーーー
ボールを頭に当てられた衝撃で、一瞬、モリヤの唇とぶつかった。
もう、それだけで、オレは天国にいける・・!(っていうか、これアイツに知られたら、マジでオレ天国に逝かされる)
嬉しくて、走らずにはいられなかった。

ああ・・チクショッ
オレって安いよな・・!
これで、当分、しあわせな気分でいれるなんて・・!
ああ、バカヤロー!
好きだよ!
大好きだよ!
モリヤ!!

チクショーーー!!!


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