五百年後に再召喚された勇者 ~一度世界を救ったから今度は俺の好きにさせてくれ~

かたなかじ

文字の大きさ
36 / 49

第三十六話

しおりを挟む
 相手への威圧を兼ねてしばらくセシリアの遠距離攻撃をさせていたリツだったが、しばらくするとそれを背にしつつ、剣を手にして城に向かって再びゆっくりと歩いていく。
  リツのかなり後方からセシリアによる遠距離攻撃で次々に魔物たちは倒されていた。

 何が起きているのか理解できない魔王軍側は、既に恐怖に支配されつつある。
 これはリツが狙っていた結果であり、想定以上のセシリアの腕前があればこそなりたっている結果だった。

(セシリアの攻撃、百発百中だな。あの弓を使いこなせているみたいでよかった)
 セシリアと風の属性を持つ世界樹の弓との相性はかなり良いようで、ただ矢を当てているだけでなく、確実に魔物や兵士の頭部を撃ち抜くことによって、次々と仲間が倒れている。
 その様子は、歴戦の戦士であっても恐怖と緊張を感じさせるもので、彼らは怯えたように冷や汗を流し始めている。

(さて、さすがにもうそろそろネタがばれるかもしれないから俺も動くとするか)
 そう考えたリツは、足を止めて剣を大きく振りかぶる。

「はああああああっ!」
 剣に魔力をこめ、見据える先は魔物がひしめく先、城の正門。
 リツと正門の間には、多くの魔王軍の兵士たちがいる。
 しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりにリツは魔力を高めていく。

「ふっ――はあああっ!」
 気合一閃、振り下ろされた剣は魔力を伴った衝撃波を放ち、それは真っすぐ城へと向かって行く。

 リツが城に到着するまで、まだしばらく距離はあった。
 だから、この攻撃はきっと城まで届かないだろうと、兵士たちはあざ笑ってすらいた。

「っ……馬鹿者、避けろ!!」
 だが、ただ一人必死の形相で声をかけたのは兵士長だった。
 恐怖にこわばる兵士長の脳裏に浮かんだのは、つい先日城に襲いかかった謎の剣戟。
 あれは、姿が見えないほどの超遠距離から飛んできたものであったが、その時に感じたプレッシャーと同様のものを兵士長は感じ取っていた。

(へえ、気づくやつもいるのか)
 兵士長の反応を見たリツは嬉しそうにニヤリと笑う。
 前回と今回を結び付けられるだけの感覚の持ち主がいるのは、戦いにおいて楽しみに繋がる。

「どけ……」
 もうすぐ魔物たちにぶつかる、というところで、陰からぬらりと操魔の魔王が姿を現して衝撃波に立ち向かう。

「ふん!」
 突如姿を現した操魔の魔王は武器を持っておらず、ただただ手に魔力を込めてリツの攻撃を受け止めようとする。

「ぬおおおおお!」
 数秒の拮抗ののち、少し力んだ表情の魔王の力によって衝撃波は霧散した。

「……おおおおおっ!」
「さすが魔王様だ!」
「すごい!!」
 恐怖が去ったことでほっとしたように兵士たちは歓声をあげる。
 ここまでリツの存在に気圧されていたからこそ、魔王が力を示してくれたことは彼らに希望を与えていた。

「ふん……少しは戦う力を持っているようだが、魔王である私の敵ではないな」
 操魔の魔王は表情を変えずに、リツへと視線を向ける。
 その目は、先ほどの攻撃は一度見た。同じことをしても無駄だ。とでも言いたげである。

「いやあ、さすが魔王を名乗るだけのことはあるね。あれを素手で止めるのは悪くない」
(だけど、ちょっと物足りなさはあるかな……)
 そこらへんの雑魚を相手にするよりもよほど骨のある魔王本人が目の前に現れたことで、リツは嬉しそうにふっと笑う。だが内心どこかがっかりしている気持ちもあった。

 リツが五百年前に戦った魔王は、当時最強の力を持っておりリツだけでは決して勝つことができない、仲間の協力があったからこそ倒すことのできた相手である。

「ふっ、なかなか強がりを言う。私が貴様の攻撃を止めたのを見て恐れをなしているのであろう?」
 鼻で笑って一蹴した操魔の魔王はリツの攻撃を渾身の一撃だと判断して、リツの言葉が内心の動揺を隠すためのものだと考えていた。

「――恐れ? 自分より弱い相手に何を恐れるっていうんだ?」
 きょとんと一瞬言葉を繰り返したリツは真顔で首を傾げて質問する。
 リツが放った衝撃波はあくまで多くの攻撃方法の中の一つであり、防がれたところで痛くも痒くもない。

「ふん、その強気な態度がいつまで続くかな?」
「俺に本気を出させてくれよ。そうしたら、認めてやってもいいからさ」
 冷静に見定めようとする操魔の魔王に対して、つまらないものを見るように剣先を向けたリツは煽って苛立たせようとしている。

「よく吠える、死ねええええ!」
 操魔の魔王にはこれ以上、冷静に聞けるだけの忍耐力はなく、視線だけで殺す勢いでリツを睨みつけて走り出した。
 さすがは魔王と名乗るだけあり、怒りとともにあふれ出た魔力が彼の身体からオーラのように溢れている。

(さて、操魔という二つ名を冠しているということは力技が主体じゃないんだろ? 本当の力を見せてくれよな!)
 どんな攻撃が来るのか楽しみにしながら、それに合わせてリツも地面を蹴って、走りだす。

 黒豹の獣人である魔王の足は速い。
 しかし、リツも身体強化の魔法を使っているため、負けないほどの俊足で距離を詰めていた。

 一気に二人の距離は縮まり、ついに二人が接触する。

「せやあああ!」
 剣を振り下ろすリツに対して操魔の魔王は武器すら構えていない。
 獣人であるがゆえに肉体を武器にするのかとも思われるが、それにしても無防備過ぎた。

「いでよ、グランドタートル!」
 リツが剣を振り下ろした先に強固な甲羅を持つ亀が何もなかったところから突然登場する。

「うおっ!?」
 突如目の前に巨大な魔物が現れたことにリツは驚き、バランスが崩れてしまった一撃はその硬い甲羅によって弾かれてしまう。

「ふっ、どうした? 先ほどまでの余裕が消えたぞ?」
 対して、攻撃を防いだ操魔の魔王はリツの反応を楽しんでいる。

「いやあ、まさかそういう戦い方をするとは思わなかったからさ。さすがに驚いた……少しは楽しめそうだ」
 驚いたのは一瞬で、からくりが分かったリツには再び余裕が戻っている。

「ふん、まだそんな口をたたくか。いいだろう、私の本気を見せてやる! いでよ、フレイムバード! カトブレパス! キマイラ! ヒュドラ!」
 操魔の魔王を名乗るだけあって、彼はいともたやすく強力な魔物を次々と召喚する。

 炎でできた身体を持つ大きな鳥の魔物であるフレイムバード。
 強力な邪眼を持つ牛の怪物カトブレパス。
 獅子にヤギの頭と蛇の尻尾を持つキマイラ。
 九つの首を持つ闇の力を持つ蛇ヒュドラ。

 それらが操魔の魔王の周囲に現れる。
 どの魔物もこの時代において伝説級の魔物であり、見たことがある者はほとんどおらず、戦ったことのある者は当然のごとくいない。

 そう、唯一、ここにいるリツという元勇者を除いて……。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...