賢者? 勇者? いいえ今度は世界一の大商人(予定)!

かたなかじ

文字の大きさ
5 / 26

第五話

しおりを挟む

「こんにちはー、また来ました!」
「あ、テオドールさん。いらっしゃいませ!」
 テオドールが錬金術師ギルドへと足を踏み入れて声をかけると、受付にいたリザベルトが笑顔で迎え入れてくれる。

「何か買い忘れでもありましたか? まだギルドは開いてますので、大丈夫ですよ」
 作業をするにあたって、足らない何かがあったと予想したリザベルトが販売コーナーへ案内しようとする。

「いえ、今回は買い取ってもらいたいものがあって来ました」
「えっ? またですか?」
 また前のように大量の薬草類が持ち込まれるのかと、彼女は目を丸くする。

「えっと、今回は薬草じゃなくてポーションなんですけど、買い取ってもらえますか?」
「え、ええっと、大丈夫なのですが、品質の確認のために一つサンプルとして提供して頂かないとなので……」
 想定のものと違ったため、リザベルトは動揺しながら対応していく。

「ちょっとお待ち、リザ。奥に行くよ。レイク、今日はもう店じまいだ。閉店の札を出しておきな!」
 そこに口をはさんできたのは、薬草の時にも顔をだしたギルドマスターだった。

 どこからか現れたレイクは言われるとおり、のそのそと無言で入り口の戸締りに向かった。
 ギルド内に職員以外の人はおらず、それだけで作業は済んでしまう。

「えっと、はい。すみません、テオドールさん。ギルドマスターが言ってますので、ご足労ですがおつき合い下さい」
「もちろんです。きっとギルドマスターにもお考えがあるのでしょう」
 テオドールは穏やかに返事をするが、その笑顔の裏で目は鋭さを持っている。
 ギルドマスターは前回チラリと顔を出すだけだったが、今回は少し多めに会話をすることになると彼は予想していた。

 そして、ここから繋がることができれば商売が広がるとも考えていた。

 案内されたのは先の時と同じ倉庫。端にあるテーブルの前にギルドマスターが立つ。

「それじゃ、ポーションをここにお出し。とりあえず一本でいいよ」
 そう言われてテオドールは一つだけ小瓶を取り出して置く。

「ふむ、それじゃあリザ、やりなさい」
「はいっ!?」
 急に話を振られたため、驚いてしまったリザベルトはテオドール、ギルドマスター、ポーションへ順番に視線を送る。

「ちゃんとおし! ポーションの品質を確認する方法はわかっているだろ? 忘れたのかい?」
「わ、わかりました」
 その言葉にテオドールとリザベルトが頷いて、小刀を取り出そうとする。
 これは実際に傷をつけてポーションで治療することで確認する方法である。

「待ちな。あんたの場合は別のやり方があるだろ? あんたの能力を使いな」
「――っ!?」
 普段は隠している能力について、しかもテオドールという他人の前で指摘されたことで言葉を失ってしまった。

「はあ……あんた、名前はなんていうんだったっけ?」
「テオドールです」
 ここでギルドマスターは急にテオドールへと質問し、それに素直に答える。

「テオドールね。いいかい、リザ。テオドールはとんでもない子なんだよ。あれだけの薬草を一人で持ってくるのはありえない。それにこのポーションだって、普通のものよりも澄んでいて輝いている……ただの確認じゃ足らないんだよ。だから、あんたの【鑑定】を使いな!」
「……はい」
 テオドールは二人のやりとりを聞いて感心している。

 普通のポーションではないことをギルドマスターは一見して見抜くだけの目を持っている。
 しかもリザベルトは、特別な魔眼を持っている者のみが使える鑑定能力を持っているという。

(へえ……すごいな)
 これは商人として成功していきたいと願うテオドールにとって、とても良い出会いだと思っていた。

「それでは失礼して……」
 リザベルトはポーションの小瓶を手に持つと、目に魔力を込めて鑑定を始める。彼女の瞳が優しく光を纏った。

「……えっ!? いや、まさか……でも、ええええええっ!?」
 最初は目に映る結果が信じられないのか何度も鑑定を繰り返している彼女だったが、結果、リザベルトはギルド中に聞こえるかというほどの大声をあげてしまうこととなった。

「ちょ、ちょっとリザ! 一体、何を見たっていうんだい!」
「ふ、ふふふふ」
 ギルドマスターの質問にリザベルトは笑っているかのような声を出している。

「な、何が可笑しいんだい?」
 動揺するギルドマスターの質問に対して、リザベルトは顔を驚愕の色に染めて大きく首を横に振っている。

「フフフ、フルヒールポーションですよ、これ!」
「…………」
 フルヒールポーション――それを聞いたギルドマスターの時が止まる。

 そして数秒後。

「フルヒールポーションンンンン!!?」
 今度はギルドマスターの大声がギルド中に響き渡った。

 通常、ポーション類は怪我を治す効力を持つ。
 ポーションは軽い傷を治す。ハイポーションは大きな傷を治す。
 これらが一般に流通しているものであり、品質の悪いものであれば回復量は小さい。

 それがフルヒールポーションとなると腕が千切れていても、足がもげていても、目が見えなくなっていても治すことができる。

 青の奇跡と呼ばれ、なんにでも効く万能薬とまで言われるものだった。
 こちらは一般的には流通していない。流通していないどころか、現存しているものがどれだけあるのかもわからない。

 競争相手がいない――だからこそテオドールはそこに目を付けたのだ。

「そ、そそそ、そんなもの、今は作れる者もいない。失われた技術でしか作れないと言われている。伝説の薬ではないか!?」
「そうなんですよ!」
 そう言いあった二人の視線は当然のごとくテオドールに集まっていた。


借金:3000万
所持金:約30万(調合道具購入後)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

処理中です...