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第九話
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「まず、うちは元々商人の家なんだけど、父が少し前に亡くなってね。それで父には借金があって、従業員に給料も払えなくて、家財道具やらなんやらのほとんどは持ちだされたんだ」
テオドールは肩を竦めながら部屋の中を見回している。
「なるほど、それでこんなにガランとしてるんですね……」
テオドールの言葉に返事をするリザベルトは、彼と同様に部屋の中を見回している。
「正解。僕が学院の寮にいた時に手紙で連絡をもらったんだけど、父が亡くなって葬儀もうちのものが終わらせて、借金が三千万あるって連絡をもらったんだ。急いで帰ってきたらこんなことに……まあ借金は今は四千万になったけどね!」
指を四本立てて笑顔で言うテオドールだったが、リザベルトは頬をひくつかせながら不格好な笑顔を返すだけで精一杯だった。
普通ならばこれほどの借金を背負っていたらこんなふうに明るく立ち振る舞う人はいない。人生に絶望し、寝る間も惜しんで働き倒すしかない。
「でまあ、例のポーションはまだ十本あるから同じ値段で売れれば当座で五百万は用意できるんだけど……多分、錬金術師ギルドにそんなお金はもうないよね」
この街の錬金術師ギルドは決して大手という規模ではなく、前回のポーション代ですら恐らくはギリギリ捻出できたのだとテオドールは予想している。
「はい……あのあとギルドマスターから聞きましたが、おっしゃるとおりで財政に余裕はないとのことでした」
彼の予想を、実際にギルド職員として話を聞いたリザベルトが確信に変える。
「そうそう、ちなみにだけどリザベルトさんに会ったのは、実家に帰ってきたその日だよ」
それを聞いた彼女は目を丸くしていた。
「えっと、お父様が亡くなられて、借金がたくさんあると聞いて実家に帰ってきた。その当日に薬草を集めて、ギルドが買い取って、ポーションを作って、それもギルドが買い取って、翌日に私の借金の肩代わりをしてくれた……ということですか?」
リザベルトは自分が理解するためにも、改めて時系列順に並べていく。
「そうなるかな。うん、そういうこと! で、リザベルトさんの所有権は僕にあるということなんだけど、そこは大丈夫かな?」
つまりは奴隷を保有しているような状況にある。奴隷のように首輪や印があるわけではないが、証書がある以上、似たようなものだった。
「そ、それは、はい、わかっています。元々は私たちの借金で、あの人たちに連れて行かれたらどうなっていたかわからないところをテオドールさんが買ってくれたのは、とてもありがたいと思っています」
しかし、このテオドールが何を言い出すか、どんな命令を下すかわからないため、リザベルトは一定の緊張を持っている。
「わかっているなら大丈夫。ちなみに、変なことはさせないから安心していいよ。リザベルトさんには僕の商売を色々と手伝ってもらえればと思っているだけだからね」
「……商売、ですか?」
リザベルトは思ってもいなかった言葉に首を傾げる。
「そう、僕が商人志望だという話はしたよね?」
「は、はい」
その会話は記憶に新しく、リザベルトも覚えていた。
「ただ、商人といっても普通の商人ではなく、父が生きていたら目が飛び出るくらい驚く、一流の大商人になることが夢なんだ!」
腕を広げて笑顔で言うテオドールの目は夢に満ち溢れ、澄んでおり、キラキラと輝いていた。
「……わかりました、それではテオドールさんのお力になれるよう、粉骨砕身で努力してまいります!」
気合を入れて力強い言葉を口にするリザベルトに対して、テオドールは苦笑しながら緩く首を横に振った。
「そんなにガチガチに力を入れなくて大丈夫。一緒にゆっくりやっていこう。あ、それと僕のことはテオでいいよ。たぶん年下だしね……ちなみに今は十四歳、そろそろ十五になるかな」
「私もリザと呼んでください。ちなみに年齢は十八になったばかりです。母が亡くなって途方にくれていたところ、鑑定の力を持っていることでギルドマスターが採用してくれたんです……」
エルフは見た目で年齢がわからないため、何歳なのか気になっていたが歳が近いことにテオドールは安心していた。
「それじゃ、今後ともよろしく。さしあたっての問題は……錬金術師ギルドをどうするかかなあ」
「ですねえ……」
今までのように勤めていては、テオドールと一緒に行動することが叶わない。かといって、辞めさせて下さいと言って許可がでるものかどうか。
「まあ、悩んでいても仕方ないから、ギルドに行ってみようか。事情を話してみないことにはわからないしね。それに、今日も稼いでいかないと借金が返せない!」
「は、はい!」
年下で、十四歳という若さで四千万ゴルドの借金を抱えているテオドールだったが、リザベルトは彼に言い知れない期待感を覚えていた。
「――というわけなんですが、いかがでしょうか?」
そんな二人は早速事情説明のため、錬金術師ギルドのギルドマスタールームに来ていた。
もちろんここに来た理由は、リザベルトの借金がどうなったのかという話、そして彼女についてテオドールに所有権があるためギルドを辞めさせてほしいというものだった。
「い、いかがでしょうか?」
説明をテオドールに任せていたが、リザベルトも確認の言葉を発する。
「うーむ……」
当たり前の反応だが、ギルドマスターは眉間に皺を寄せて険しい表情で何やら考え込んでいる。
昨日は休日だったが、昨日まではギルドの職員だったリザベルト。
そんな彼女が一夜明けてみれば、退職をするという。
あまりにも急すぎる展開であるため、ギルドマスターにも状況を整理する時間が必要だった。
考えるための沈黙がしばらく続く。
リザベルトにとってみれば数時間にも感じる長いものであり、考えているギルドマスターからすればあっという間に経過したように感じられていた。
実際には数十分の沈黙があり、そこでギルドマスターが口を開いた。
「……はあ、わかったよ。あんたが借金を肩代わりしてくれたおかげで、この子が酷い目に合わなくてすんだと考えれば良いことなんだろうしね。それに、この子の能力はうちのギルドだけで燻らせておくには惜しいさね。鑑定能力のことだけじゃなく、色々と仕事を覚えるのも早い優秀な子だよ」
ギルドマスターは彼女の幸せを願っており、そしてリザベルトの能力の高さも評価していた。
テオドールは先日の素材買取やフルヒールポーションの件を見る限り、きっとリザベルトの能力が活かせることは間違いない、そうギルドマスターは感じ取っていた。
「それはよかった……はあ、どうなるかと思ったけどよかった」
落ち着いているように見えたテオドールだったが、どんな答えが返ってくるのか不安に思っていたため、今は安堵して身体をソファの背もたれに預けている。
「はい、安心しました! ギルドマスターにはこれまでずっと、とても、お世話に、うぅ……」
安心したところで、リザベルトは一気にギルドマスターへの想いがこみあげてきて、涙を流している。
「馬鹿だねえ、泣くんじゃないよ! あんたは今日から新しい道に進む。そんな門出の日に涙なんて縁起が悪いじゃないか!」
そう叱咤するギルドマスターの目にも薄っすらと涙が浮かんでいたが、テオドールはあえてそこには触れずに、二人が別れを惜しみなく終えるまで待っていた。
借金:4000万
所持金:約30万
テオドールは肩を竦めながら部屋の中を見回している。
「なるほど、それでこんなにガランとしてるんですね……」
テオドールの言葉に返事をするリザベルトは、彼と同様に部屋の中を見回している。
「正解。僕が学院の寮にいた時に手紙で連絡をもらったんだけど、父が亡くなって葬儀もうちのものが終わらせて、借金が三千万あるって連絡をもらったんだ。急いで帰ってきたらこんなことに……まあ借金は今は四千万になったけどね!」
指を四本立てて笑顔で言うテオドールだったが、リザベルトは頬をひくつかせながら不格好な笑顔を返すだけで精一杯だった。
普通ならばこれほどの借金を背負っていたらこんなふうに明るく立ち振る舞う人はいない。人生に絶望し、寝る間も惜しんで働き倒すしかない。
「でまあ、例のポーションはまだ十本あるから同じ値段で売れれば当座で五百万は用意できるんだけど……多分、錬金術師ギルドにそんなお金はもうないよね」
この街の錬金術師ギルドは決して大手という規模ではなく、前回のポーション代ですら恐らくはギリギリ捻出できたのだとテオドールは予想している。
「はい……あのあとギルドマスターから聞きましたが、おっしゃるとおりで財政に余裕はないとのことでした」
彼の予想を、実際にギルド職員として話を聞いたリザベルトが確信に変える。
「そうそう、ちなみにだけどリザベルトさんに会ったのは、実家に帰ってきたその日だよ」
それを聞いた彼女は目を丸くしていた。
「えっと、お父様が亡くなられて、借金がたくさんあると聞いて実家に帰ってきた。その当日に薬草を集めて、ギルドが買い取って、ポーションを作って、それもギルドが買い取って、翌日に私の借金の肩代わりをしてくれた……ということですか?」
リザベルトは自分が理解するためにも、改めて時系列順に並べていく。
「そうなるかな。うん、そういうこと! で、リザベルトさんの所有権は僕にあるということなんだけど、そこは大丈夫かな?」
つまりは奴隷を保有しているような状況にある。奴隷のように首輪や印があるわけではないが、証書がある以上、似たようなものだった。
「そ、それは、はい、わかっています。元々は私たちの借金で、あの人たちに連れて行かれたらどうなっていたかわからないところをテオドールさんが買ってくれたのは、とてもありがたいと思っています」
しかし、このテオドールが何を言い出すか、どんな命令を下すかわからないため、リザベルトは一定の緊張を持っている。
「わかっているなら大丈夫。ちなみに、変なことはさせないから安心していいよ。リザベルトさんには僕の商売を色々と手伝ってもらえればと思っているだけだからね」
「……商売、ですか?」
リザベルトは思ってもいなかった言葉に首を傾げる。
「そう、僕が商人志望だという話はしたよね?」
「は、はい」
その会話は記憶に新しく、リザベルトも覚えていた。
「ただ、商人といっても普通の商人ではなく、父が生きていたら目が飛び出るくらい驚く、一流の大商人になることが夢なんだ!」
腕を広げて笑顔で言うテオドールの目は夢に満ち溢れ、澄んでおり、キラキラと輝いていた。
「……わかりました、それではテオドールさんのお力になれるよう、粉骨砕身で努力してまいります!」
気合を入れて力強い言葉を口にするリザベルトに対して、テオドールは苦笑しながら緩く首を横に振った。
「そんなにガチガチに力を入れなくて大丈夫。一緒にゆっくりやっていこう。あ、それと僕のことはテオでいいよ。たぶん年下だしね……ちなみに今は十四歳、そろそろ十五になるかな」
「私もリザと呼んでください。ちなみに年齢は十八になったばかりです。母が亡くなって途方にくれていたところ、鑑定の力を持っていることでギルドマスターが採用してくれたんです……」
エルフは見た目で年齢がわからないため、何歳なのか気になっていたが歳が近いことにテオドールは安心していた。
「それじゃ、今後ともよろしく。さしあたっての問題は……錬金術師ギルドをどうするかかなあ」
「ですねえ……」
今までのように勤めていては、テオドールと一緒に行動することが叶わない。かといって、辞めさせて下さいと言って許可がでるものかどうか。
「まあ、悩んでいても仕方ないから、ギルドに行ってみようか。事情を話してみないことにはわからないしね。それに、今日も稼いでいかないと借金が返せない!」
「は、はい!」
年下で、十四歳という若さで四千万ゴルドの借金を抱えているテオドールだったが、リザベルトは彼に言い知れない期待感を覚えていた。
「――というわけなんですが、いかがでしょうか?」
そんな二人は早速事情説明のため、錬金術師ギルドのギルドマスタールームに来ていた。
もちろんここに来た理由は、リザベルトの借金がどうなったのかという話、そして彼女についてテオドールに所有権があるためギルドを辞めさせてほしいというものだった。
「い、いかがでしょうか?」
説明をテオドールに任せていたが、リザベルトも確認の言葉を発する。
「うーむ……」
当たり前の反応だが、ギルドマスターは眉間に皺を寄せて険しい表情で何やら考え込んでいる。
昨日は休日だったが、昨日まではギルドの職員だったリザベルト。
そんな彼女が一夜明けてみれば、退職をするという。
あまりにも急すぎる展開であるため、ギルドマスターにも状況を整理する時間が必要だった。
考えるための沈黙がしばらく続く。
リザベルトにとってみれば数時間にも感じる長いものであり、考えているギルドマスターからすればあっという間に経過したように感じられていた。
実際には数十分の沈黙があり、そこでギルドマスターが口を開いた。
「……はあ、わかったよ。あんたが借金を肩代わりしてくれたおかげで、この子が酷い目に合わなくてすんだと考えれば良いことなんだろうしね。それに、この子の能力はうちのギルドだけで燻らせておくには惜しいさね。鑑定能力のことだけじゃなく、色々と仕事を覚えるのも早い優秀な子だよ」
ギルドマスターは彼女の幸せを願っており、そしてリザベルトの能力の高さも評価していた。
テオドールは先日の素材買取やフルヒールポーションの件を見る限り、きっとリザベルトの能力が活かせることは間違いない、そうギルドマスターは感じ取っていた。
「それはよかった……はあ、どうなるかと思ったけどよかった」
落ち着いているように見えたテオドールだったが、どんな答えが返ってくるのか不安に思っていたため、今は安堵して身体をソファの背もたれに預けている。
「はい、安心しました! ギルドマスターにはこれまでずっと、とても、お世話に、うぅ……」
安心したところで、リザベルトは一気にギルドマスターへの想いがこみあげてきて、涙を流している。
「馬鹿だねえ、泣くんじゃないよ! あんたは今日から新しい道に進む。そんな門出の日に涙なんて縁起が悪いじゃないか!」
そう叱咤するギルドマスターの目にも薄っすらと涙が浮かんでいたが、テオドールはあえてそこには触れずに、二人が別れを惜しみなく終えるまで待っていた。
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