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第十一話
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「……お前たち、本当にこれを買うのか?」
持ってきた全てが呪いの武器であるあため、店主は胡散臭いものを見るかのような視線をテオドールに向けている。
「えぇ、もちろんです!」
それに対して、テオドールは全く気にしていないように、ニコニコと返答する。
「……そっちの姉さんも納得してるのか?」
主導権が年若いテオドールにあると思っていない店主は、年齢が上と思われるリザベルトに確認をとる。
「もちろんです。テオさんがいいとおっしゃるので、間違いはありません!」
最初は呪われた装備ということで不安に思っていたが、迷いのないテオドールの判断とこれまでの彼の持ちこんだ品物から考えて信頼していた。
「そ、そうなのか。まあ買うのは問題ない、ないんだが……その、こういうとなんだが、持ってきたもの全部見事に呪わている武器だぞ?」
どうやら店主はテオドールたちが知らずに買ってしまっていると心配して、わざわざそのことを教えてくれる。
店主としても、ほとんど売り物にならない呪われた装備は売れるにこしたことはない。
しかし、何も知らなさそうな女、子どもにそれを売りつけることは良心が咎めていた。
「あー、大丈夫です。わかって買っているんですよ。今日持ってきた呪われた武器なら安く手に入るのに強い――もし呪いをなんとかできたら……高く売れますよね?」
最後の一言を口にしたテオドールはニヤリと笑っていた。
呪われた装備は基本的に性能が高いものが多い。
だから悪い影響を受けたとしても装備しようとする者が後を絶たない。
「な、なんとかできるのか?」
そんな呪いの装備を解呪するには高位の神官が長年かけて祈りをささげるしかない、と店主は聞いていた。
それを行うのは非常に効率が悪く、神官に依頼するのにもかなりの費用と手間がかかってしまう。
「もちろん方法はあるんですけど……さすがにやり方までは、ねえ?」
店主が食いついてきたことを感じ取ったテオドールは手の内は明かさないが、方法があるということだけを伝える。
「……ほ、方法を教えてもらえないか?」
しばしの沈黙の後、意を決した様子で店主が懇願する。
「理由はなんでしょうか?」
必死な様子の店主に対して、テオドールは理由を尋ねる。
金儲けが目的であればライバルであり、そうでなければ……。
「その、俺は若い頃に冒険者をやっていたんだ。その時に、友達が死んでしまってな、その友達の形見のナイフが最後の戦いで呪われてしまったんだ……遺体は魔物に食い荒らされちまってどうしようもなくてな……なんとか、ナイフだけでも元に戻して家族に届けてやりたいんだ」
少し悩みながらもそう口にした店主のその目は真剣そのものであり、嘘を言っているように見えない。
「テオさん……」
リザベルトはテオドールの服をつまみながらすがるような視線を送ってくる。なんとかしてあげられないか? と。
「ふう……わかりました。それじゃ、そのナイフを見せてもらえますか? あと、なんとかするにしてもいくつか条件をのんでもらいますよ?」
ただでは何とかするつもりはない、と念を押す。
「も、もちろんだ! 現物を見てもらえるだけでもありがたい。なにせ、なんの手掛かりもなかったもんだから……ちょっと待っていてくれ。店を閉めてくる!」
小さいながらもわずかに光明が見えたことで、店主はパアッと明るい顔になり、テオドールの気が変わらないうちにと、素早く動いていく。
「ははっ、思ってもみない方向に進んだなあ」
「ご、ごめんなさい……」
ドタドタと慌てたように駆け出して行った店主の背を見送ったテオドールは苦笑し、リザベルトは我がままを言ってしまったと頭を下げる。
「あー、別に気にしなくて大丈夫だよ。ここからどんな話になるのかは、あの店主さん次第だし、折り合いがつかなければなかったことになるからね。いい話になるかもしれないし」
「そう言って頂けると……」
そんな話をしていると、店じまいをした店主が戻ってくる。
「奥に俺が住んでる部屋があるからそっちで話をしよう。茶も出す。ささ、入ってくれ」
店主の先導に続いて二人も店の奥に入っていく。
少し物が散らかるリビングに案内され、ソファに座って話を聞くことになる。
テオドールとリザベルトの前にはお茶と茶菓子が用意されていた。無骨ながらももてなそうとする気持ちが表れている。
「それで、さっきの話なんだが……これがその呪われたナイフだ」
店主は嫌な気配のする黒い木の箱をテーブルの上に置くと、ゆっくりと蓋を開けていく。
そこには、ひと目で呪われているとわかる禍々しい魔力を纏ったナイフが入っていた。
「こ、これは!?」
鑑定を使おうと構えていたリザベルトは、想定以上の禍々しさに身体をのけぞらせてしまう。
「なるほどね……」
テオドールはなんのためらいもなく、ナイフに手を伸ばして持ちあげる。
勇者時代の呪い耐性のおかげもあって触れるだけでは何の影響もない。
「これは確かに、今日買ったどれよりも呪いが強いですね。さすがにこのままじゃ、ご家族に渡してあげられないですね」
ナイフに対する感想を口にしながら、全容を確認したのち、ゆっくりと箱にナイフを戻す。
呪われた装備は最初見つけた時にリザベルトが言ったように、呪いの程度によってはあまり長い間触れたり近くにあるだけでも悪影響を及ぼしてしまうことがある。
耐性のないテオドール以外の二人はどこか苦い表情なのはそのせいだろう。
「それで、これをなんとかすることができるのか?」
「うーん、できると思いますけど……そちらの条件次第ですかね」
テオドールは確信を持っているが、相手の出方次第であるというと、再度口にする。
「条件、さっきも言っていたがその条件というのはどんなものなんだ? あいつの家族にこれを渡せるなら、できることはなんでもするつもりだぞ!」
店主は立ち上がって、拳を作って熱い思いをテオドールにぶつける。
「それじゃあ条件を言いますね。まず一つ目……」
テオドールの口からどんな条件が出てくるのか、店主だけでなくリザベルトも緊張している。
「――自己紹介をしましょう」
ニコリとそんなことを言うテオドール。彼はこれも一つの商売だと思っているため、まずは互いのことを知るのが大事だと考えていた。
借金:4000万
所持金:約30万
持ってきた全てが呪いの武器であるあため、店主は胡散臭いものを見るかのような視線をテオドールに向けている。
「えぇ、もちろんです!」
それに対して、テオドールは全く気にしていないように、ニコニコと返答する。
「……そっちの姉さんも納得してるのか?」
主導権が年若いテオドールにあると思っていない店主は、年齢が上と思われるリザベルトに確認をとる。
「もちろんです。テオさんがいいとおっしゃるので、間違いはありません!」
最初は呪われた装備ということで不安に思っていたが、迷いのないテオドールの判断とこれまでの彼の持ちこんだ品物から考えて信頼していた。
「そ、そうなのか。まあ買うのは問題ない、ないんだが……その、こういうとなんだが、持ってきたもの全部見事に呪わている武器だぞ?」
どうやら店主はテオドールたちが知らずに買ってしまっていると心配して、わざわざそのことを教えてくれる。
店主としても、ほとんど売り物にならない呪われた装備は売れるにこしたことはない。
しかし、何も知らなさそうな女、子どもにそれを売りつけることは良心が咎めていた。
「あー、大丈夫です。わかって買っているんですよ。今日持ってきた呪われた武器なら安く手に入るのに強い――もし呪いをなんとかできたら……高く売れますよね?」
最後の一言を口にしたテオドールはニヤリと笑っていた。
呪われた装備は基本的に性能が高いものが多い。
だから悪い影響を受けたとしても装備しようとする者が後を絶たない。
「な、なんとかできるのか?」
そんな呪いの装備を解呪するには高位の神官が長年かけて祈りをささげるしかない、と店主は聞いていた。
それを行うのは非常に効率が悪く、神官に依頼するのにもかなりの費用と手間がかかってしまう。
「もちろん方法はあるんですけど……さすがにやり方までは、ねえ?」
店主が食いついてきたことを感じ取ったテオドールは手の内は明かさないが、方法があるということだけを伝える。
「……ほ、方法を教えてもらえないか?」
しばしの沈黙の後、意を決した様子で店主が懇願する。
「理由はなんでしょうか?」
必死な様子の店主に対して、テオドールは理由を尋ねる。
金儲けが目的であればライバルであり、そうでなければ……。
「その、俺は若い頃に冒険者をやっていたんだ。その時に、友達が死んでしまってな、その友達の形見のナイフが最後の戦いで呪われてしまったんだ……遺体は魔物に食い荒らされちまってどうしようもなくてな……なんとか、ナイフだけでも元に戻して家族に届けてやりたいんだ」
少し悩みながらもそう口にした店主のその目は真剣そのものであり、嘘を言っているように見えない。
「テオさん……」
リザベルトはテオドールの服をつまみながらすがるような視線を送ってくる。なんとかしてあげられないか? と。
「ふう……わかりました。それじゃ、そのナイフを見せてもらえますか? あと、なんとかするにしてもいくつか条件をのんでもらいますよ?」
ただでは何とかするつもりはない、と念を押す。
「も、もちろんだ! 現物を見てもらえるだけでもありがたい。なにせ、なんの手掛かりもなかったもんだから……ちょっと待っていてくれ。店を閉めてくる!」
小さいながらもわずかに光明が見えたことで、店主はパアッと明るい顔になり、テオドールの気が変わらないうちにと、素早く動いていく。
「ははっ、思ってもみない方向に進んだなあ」
「ご、ごめんなさい……」
ドタドタと慌てたように駆け出して行った店主の背を見送ったテオドールは苦笑し、リザベルトは我がままを言ってしまったと頭を下げる。
「あー、別に気にしなくて大丈夫だよ。ここからどんな話になるのかは、あの店主さん次第だし、折り合いがつかなければなかったことになるからね。いい話になるかもしれないし」
「そう言って頂けると……」
そんな話をしていると、店じまいをした店主が戻ってくる。
「奥に俺が住んでる部屋があるからそっちで話をしよう。茶も出す。ささ、入ってくれ」
店主の先導に続いて二人も店の奥に入っていく。
少し物が散らかるリビングに案内され、ソファに座って話を聞くことになる。
テオドールとリザベルトの前にはお茶と茶菓子が用意されていた。無骨ながらももてなそうとする気持ちが表れている。
「それで、さっきの話なんだが……これがその呪われたナイフだ」
店主は嫌な気配のする黒い木の箱をテーブルの上に置くと、ゆっくりと蓋を開けていく。
そこには、ひと目で呪われているとわかる禍々しい魔力を纏ったナイフが入っていた。
「こ、これは!?」
鑑定を使おうと構えていたリザベルトは、想定以上の禍々しさに身体をのけぞらせてしまう。
「なるほどね……」
テオドールはなんのためらいもなく、ナイフに手を伸ばして持ちあげる。
勇者時代の呪い耐性のおかげもあって触れるだけでは何の影響もない。
「これは確かに、今日買ったどれよりも呪いが強いですね。さすがにこのままじゃ、ご家族に渡してあげられないですね」
ナイフに対する感想を口にしながら、全容を確認したのち、ゆっくりと箱にナイフを戻す。
呪われた装備は最初見つけた時にリザベルトが言ったように、呪いの程度によってはあまり長い間触れたり近くにあるだけでも悪影響を及ぼしてしまうことがある。
耐性のないテオドール以外の二人はどこか苦い表情なのはそのせいだろう。
「それで、これをなんとかすることができるのか?」
「うーん、できると思いますけど……そちらの条件次第ですかね」
テオドールは確信を持っているが、相手の出方次第であるというと、再度口にする。
「条件、さっきも言っていたがその条件というのはどんなものなんだ? あいつの家族にこれを渡せるなら、できることはなんでもするつもりだぞ!」
店主は立ち上がって、拳を作って熱い思いをテオドールにぶつける。
「それじゃあ条件を言いますね。まず一つ目……」
テオドールの口からどんな条件が出てくるのか、店主だけでなくリザベルトも緊張している。
「――自己紹介をしましょう」
ニコリとそんなことを言うテオドール。彼はこれも一つの商売だと思っているため、まずは互いのことを知るのが大事だと考えていた。
借金:4000万
所持金:約30万
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