賢者? 勇者? いいえ今度は世界一の大商人(予定)!

かたなかじ

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第二十話

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 屋敷に戻ってきた二人は、ただ一つあるベットに腰掛け、談笑しながら借金取りがやってくるのを待っていた。

「おっと、そろそろ来たみたいだね」
 そう言うと、テオドールは立ち上がる。

 彼は来客がわかるように、屋敷の周囲に風の魔力を流しており、家に近づく人物を感じ取っていた。

「行きましょう……」
 ごくりと息をのんだリザベルトは緊張した面持ちで立ち上がる。

 その背中をテオドールがバシッと叩く。

「痛ったい! な、なにするんですか!?」
「ほらほら、硬いよ! 肩の力を抜いて、大丈夫だから。……ねっ?」
 ふふっとわらったテオドールはあえて緊張を解くために衝撃を与え、その思惑どおりにリザベルトは表情も身体も気持ちも落ち着きを取り戻していた。

「さあさあ、笑顔で借金取りさんたちを迎えようか!」
 楽しそうな足取りでテオドールは玄関へと向かって行き、リザベルトはその背中を頼もしく思って笑顔でついて行く。

 扉を内側から開くと、そこには借金取りの姿があった。

「いやあ、みなさんようこそ」
 テオドールが扉のすぐ手前までやってきていた借金取りとその取り巻きに声をかける。

「あ、お、おう」
 近づいたタイミングで、なんの気配もなく扉が開かれたことに借金取りは驚いており、予想外の出来事のせいで変わった返事になってしまった。

「お待ちしていましたよ。ささ、中に入って下さい」
「あ、あぁ……」
 イメージの良くない借金取りに対して、テオドールがあまりに好意的な反応を示しているため、借金取りは困惑しながら家のなかへと入って行く。

 中はテオドールが帰ってきた時よりはきれいになっているものの、何もない。

「それじゃ、今日の分の支払いを早速――えっと……そういえば、借金取りさんはなんていう名前なんですか?」
 金の支払いのためにバッグに手を突っ込んだテオドールだったが、これからもやりとりをすると思われる相手の名前を知らないことに気づいて、質問する。

「あぁ、そう言えば前の時も名前は言わなかったな。俺の名前はフーだ」
 借金取りはフーと名乗り、髭面を崩して笑顔を見せた。

「ははっ、そんな顔もするんですね。笑っていたほうがきっと人気出ますよ! っと、早速お金を出しますね……」
 テオドールはバッグの中に手を突っ込んで、闇魔法の空間から金を取り出していく。

「それじゃあ、これをっと。はい、お願いします」
「おう、やっぱり重いな……」
 袋に入った金をフーの隣にいた巨体の熊の獣人が受け取る。

「四百万あると思うので、確認お願いします」
「「「よ、よんひゃくまんんん!?」」」
 フーと熊の獣人、そして反対隣に立っていた犬の獣人は金額に驚いて大きな声をだし、袋とテオドールを何度も見比べていた。

 前回、あっさりと五百万を支払って、今回も四百万を支払うというテオドールに、三人は信じられないものを見るような視線を向けている。
 払ってもらえるならいくらでも構わないとは思っていたが、予想外の額に三人そろって愕然としていた。

「はい、中身の確認までしていないので、チェックしてもらってもいいですか?」
「あ、あぁ、ちょ、ちょっとどこか袋を置ける場所があるか?」
 動揺しながらもフーはとりまき二人に目で合図をしながら、テオに質問する。

「もちろんです、そういえばずっと立ち話でした……いや、うちには椅子なんてないのですが、何か台を用意します」
 そう言うと、テオドールは家の中に戻り放置された古いテーブルをエントランスの中央へと移動していく。

 フーたちは、再び信じられないものを見るように目を丸くしてその様子を眺めており、リザベルトはテオドールのすごさに驚いている彼らを見て笑顔になっていた。

「みなさんが確認している間に、何かお菓子……はないから果物を」
 森でついでに集めて置いた果物を、取り出すとリザベルトが皿を用意する。

「あぁ、気にしなくていいぞ。用事が終わったらすぐに帰るからな」
 あくまで自分は借金の回収に来ただけで、客ではないと自負している。気遣いをされる関係にもないと遠慮した。

「そう、ですか……そうだ、一つ聞いておきたかったんですけど毎週取り立てにこられるとして、僕たちが他の街に出かけたり、引っ越したりしたらどうなるんですか?」
 テオドールは今後商売の幅を広げていくつもりであり、この街に留まるとは限らない。

「――どこかに行く予定でもあるのか?」
 探るような視線を向けながらフーは当然の質問をぶつけてくる。

「今すぐにその予定があるわけじゃありませんが、商売をしていく都合でそうなることはあると思います」
 実際にはテオドールとしても、この街よりも大きい場所で商売をしたいという思いがある。

「なるほどな、それは確かにそのとおりだ。だが安心、というのはおかしな話だが大丈夫だ。お前の親父が書いた借用書、それにこの間お前が署名したもの。あれには特別な機能がついていて、離れた場所にいっても場所がわかるようになっている」
 署名した時点で契約が発動するものになっている。そういった魔道具であり、居場所もわかるようになっていた。
 彼らは基本的に乱暴者に見られがちだが、逃げ出したりしない限り、暴力をふるうことはない。

「なるほど、それは便利ですね」
「あー、ただ、もしどこかに行く場合は念のために教えてくれ。逃げられたのか、外出なのか、引っ越しなのか区別がつかないからな」
 これまたもっともなことであり、フーとしてもテオドールが借金を放棄して逃げたなどと思いたくない。
 借金取りとしては逃げられることはないとはいえ、どんな理由で出かけたのかによって追いかける時の心持ちが違うため、不必要な取り立てを防ぎたいという気持ちがあった。

「わかりました。もし支払日に家にいられなそうだったら、事務所に連絡に行きますね」
「あぁ、頼む。おい、そろそろ数え終わったか?」
 フーの部下二人はその問いかけに頷く。

「……よし、それじゃ戻るぞ。金を金庫に入れないとだ……そうそう、これが今回の分の受領証明書だ。なくすなよ」
 いつの間に書いたのか、用紙にはきちんと四百万ゴルと記載されていた。

「はい、ありがとうございます。早く返せるように頑張って稼ぎますね!」
「あ、あぁ。頑張れよ」
 前向きすぎるキラキラした目のテオドールに対して、フーはやや引き気味で返事をして家を出ていった。

「……ふう、これで一回目の返済完了。それじゃ、予定どおりジャーノさんの店に武器を見に行こうか」
「はい! 自分の武器を探すの楽しみです!」
 気持ちを切り替えたテオドールとリザベルトは、一路ジャーノの武器屋へと向かっていく。

借金:3600万
所持金:約30万
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