鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

文字の大きさ
7 / 38

第七話

しおりを挟む

 家に帰ったユーゴはミリエルにもらったカードを見る。

 一見何も書いてないように見えるが、魔力をほんの少し流すと淡く光り輝き、文字が浮かび上がってくる。



 店名:ミリエール工房

 店主:ミリエル

 営業時間:7:00~17:00



「これはすごいな。とんでもない技術を使った名刺みたいなものか……」

 過去にも今でも見たことのないカード。

 便利なものだが、それだけに作るのにもきっと技術と金がかかるだろうとユーゴは予想する。


「それにしても……」

 自分が作ったポーションが思った以上に高評価であるため、もっと効率よく数を作れる方法はないかと思案していく。

 道具の見直し、手順の見直し、素材の組み合わせの見直しなどやれること考えていたため、ユーゴが眠りにつくのは深夜になっていた。




 翌朝は朝からポーション作成を行う。

 昨日の作業の余計な部分を列挙してそれをなくしていく。更には道具の置き場所を見直して動きを最小限にできるようにしてから、作成にとりかかる。


 小屋の中には作業音だけが響き渡っていく。

 午前中の間黙々と作り続けたポーションの総数は三十本ほど。

 もちろん全てを納品するつもりはなかったが、集中していたらいつのまにかこれだけの数ができあがっていた。


「出して二十本だな。効果が高いならバランスを崩すことになるから、それくらいで抑えておいたほうがいいな」

 あの店以外にもポーションを提供している店があるかもしれないと考えると、一人で市場を独占するのはまだ早いとユーゴは判断する。彼は今回の人生はのんびり暮らしたいと思っていたからだ。


 そのあとは、ポーションをカバンに詰め込んで再びミリエール工房へと向かう。

 店が見えてくると、何人かががっかりした表情で店を出ていくのが見えた。


「……なんだ? 何かあるのか?」

 その様子を気にしながらユーゴは店の中に入っていく。すると、ミリエルがとびきりの笑顔でユーゴを迎え入れた。


「いらっしゃい! よかったぁ、今日は来ないのかなって思ってたのよね。表の札を閉店に変えてっと。さあ、中に入って!」

 ユーゴはぐいぐいと背中を押されて、店のカウンターの更に奥にあるリビングスペースへと案内される。


「それで、わざわざこんなところまで呼び込んだ理由はなんなんだ?」

 ユーゴはソファに座るなり質問を投げかける。

 あまりにも急なことであったため、状況が理解できないでいたからだ。


「ごめんなさい、何も言ってなかったわね」

 ミリエルはいそいそと飲み物を用意しながら、ユーゴに謝罪をする。


 飲み物を二人分用意し終えると、ミリエルは説明を始める。


「あのね、昨日のポーションなんだけど、あれは昨日のうちに全部売れたの。それは説明したと思うんだけど……問題は今日の話なの……」

 頬を抑えながらため息を吐くミリエルの表情が曇る。


「昨日、ポーションを使って腕がくっついた人がいるって話したと思うんだけど、その人のパーティメンバー……どうやらお喋りな人だったみたいなのよねえ」

 そこまで聞いてユーゴは察しがつく。それと同時に嫌な予感を覚えた。


「噂が広まったか……」

 がっくりとしながらのユーゴの言葉に、困ったような申し訳なさそうな表情でミリエルが頷く。


「どうやら昨日の夜に、一気にその噂が広まったみたいで、今朝からさっきまでずっと冒険者が殺到しているのよ……」

 ミリエルは思わず痛む頭を押さえながら眉間に皺を寄せていた。


「つまり……」

 そう口にするミリエルに、次に出る言葉は迷惑だ、なのか? とユーゴは予想する。


「――大繁盛なのよ」

 ぼそりと呟くミリエル。

「……えっ?」

 予想外の返事にユーゴは間抜けな声を出してしまう。


「だーかーらー、昨日は全部売れたし今日もたくさんの問い合わせがあったから、ユーゴがたくさん納品してくれれば大繁盛になるってことなのよ!」

 豊満な胸を揺らしながらミリエルは身を乗り出してユーゴに語る。その目はキラキラと輝いていた。


「あ、あぁ、それは大変良いことなんだけど……その、本数がそれほど」

 今回用意できたのは三十本。そのうちニ十本を納品するつもりでいるユーゴ。

 大繁盛ほどに期待されても困るというのが本音だった。


「それは大丈夫よ 本数はそんなに多くなくてもいいの。もちろん、多いにこしたことはないけどね」

 ミリエルには何か考えがあるらしく、ニヤリと笑う。


「ほう、聞かせてもらおうか」

 彼女のその言葉にユーゴも乗っかることにする。


「あのね、正直なところユーゴが持ち込んだポーションはとんでもないものなのよ。普通のポーションの何倍……ううん、何十何百倍の効果があるの。だから、昨日の値段は全然適正じゃなかったわ。それこそ伝説の《エリクシール》っていう秘薬と同等と言ってもいいくらいだわ」

 そう言いながら、もしかしてユーゴのこれは伝説とまで言われている秘薬エリクシールなのではないか? とミリエルはふと疑問を持ち始める。


「――ミリエル。俺のはポーションだ。そのエリクシールってやつじゃない、それだけは確実だ」

 変に勘繰られても困るので、ユーゴはこれだけは譲れないと断言しておく。


「……なるほどね。了解しました。それで、ユーゴのポーションはもっと高い値段でお店に並べるべきなの。そして、数が限定されることでレアリティが高まるからきっと飛ぶように売れるはずよ!」

 更に熱く語るミリエル。


「な、なるほど。確かにそれなら少なくても売れるはずだし、店も繁盛する。加えて、他の商品にも目がいけばより儲かるわけだ」

「ふふっ、その通りよ。ユーゴのポーションが売れて、ユーゴが儲かる。それを目玉商品にしてお客さんがくれば、うちも儲かるっていうわけなのよ」

 ユーゴの予想を肯定し、ミリエルは笑顔になっていた。


「それはいいな! そうだなあ、今日は三十本納品しよう。それで、朝半分出して、午後半分出すのはどうかな? 一度に全部出してしまうと、一気になくなって人もさーっといなくなってしまうけど、分割すれば……」

 そこまで聞いてミリエルの目がさらに輝く。


「お客さんの滞在時間が長引く――ってわけね! それいいわね! 採用! 早速だけどポーションは今あるのかしら?」

 話が決まれば即行動。ミリエルはユーゴにポーションの在庫を確認する。


「あぁ、さっき言った本数は用意してきてる。ほいほいほいっと」

 ユーゴはテーブルの上に三十本全て並べていく。


「すごいわね。昨日の今日でこんなに用意できるなんて……うん! 今日はどうやっていくか検討して、明日からスタートしましょう! それじゃあ、ユーゴが可能な納品ペースとか教えてくれるかしら?」

 目の前に並べられたそれらを目を輝かせながら見たミリエルは嬉しそうに一つ手に取って機嫌よく微笑んだ。


 そこから、明日からのポーション販売に向けての話し合いが始まっていく。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...